大雨のとき、ビルの地下や地下街に水が流れ込む危険は、意外と知られていません。
では、地下空間の浸水対策は、国のどんな通知でどのように求められたのでしょうか。
平成11年8月30日に消防庁が都道府県へ出した通知は、周知・情報伝達・避難体制・流入防止の4つを緊急的な対策として掲げています。
この記事では、通知の内容と、事業所が今の法令とあわせて確認したい点を整理します。
うちのビルには地下階がありますが、大雨のときの備えは決まっていません。
消防庁は、平成11年に地下空間の浸水対策の通知を出しています。
まずは通知の中身から見ていきましょう。
その通知は、ビルの地下室にも関係のある話なのですか。
通知は、地下鉄や地下街と並べてビルの地下施設も挙げています。
くわしく見ていきます。
この記事の結論
- 平成11年8月30日の消防災第66号は、国土庁・運輸省・消防庁・建設省の4省庁がまとめた地下空間の緊急的な浸水対策を都道府県へ知らせた通知です。
- 平成11年6月の福岡と7月の東京で地下空間の浸水による死者が出たことが、通知の背景として書かれています。
- 緊急的な対策は、危険性の周知・啓発、洪水情報の伝達、避難体制の確立、流入防止等の促進の4つです。
- 通知は、浸水防止施設の設置だけでは限界があり、洪水時には避難することが重要だと書いています。
- 通知に事業所への義務を課す文言はありませんが、現行の水防法は、市町村の計画に名称が定められた地下街等の管理者に避難確保・浸水防止の計画作成を求めています。
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地下空間の浸水対策はなぜ四省庁の通知で示されたのか
この通知は、平成11年8月30日に消防庁防災課長から各都道府県の消防防災主管部長へ出されました。
まず通知本文の書き出しを原文で確認します。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について 平成11年8月30日消防災第66号 消防庁防災課長)地下空間の浸水に対する危険性はかねてより指摘されているところでありますが、本年6月には福岡、7月には東京において地下空間の浸水による死者が出る事態となりました。このため、今般、国土庁、運輸省、消防庁、建設省の4省庁が連携し、別紙のとおり、「地下空間における緊急的な浸水対策の実施について」を取りまとめましたので、お知らせします。つきましては、この内容について、適切な対応をよろしくお願いします。なお、上記について、関係部局及び市町村等に対しても周知されるようお願いします。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)本年6月29日、梅雨前線豪雨により、福岡市においてビル地下室や地下鉄、地下街などの地下施設が浸水し、都市機能が停止するとともに死者がでるという災害が発生し、また、7月21日には集中豪雨により東京都においてもビルの地下が浸水し死者がでるという傷ましい事態が発生したところである。
通知は、福岡と東京で地下空間の浸水による死者が出たことを受け、4省庁が連携してまとめた対策を知らせるために出されました。
別紙によると、平成10年8月の河川審議会危機管理小委員会報告が地下鉄、地下街等の新たな危険への対応を課題として挙げ、平成10年11月に4省庁合同で
地下空間洪水対策研究会が発足しました。
研究会は平成11年6月末に福岡市で地下街等の浸水被害が発生したため、すぐに現地調査を行い、別紙の対策を取りまとめたと書かれています。
国土庁・運輸省・建設省は、現在は国土交通省に再編されています。
通知を受け取るのは都道府県で、関係部局と
市町村等への周知も求められています。
(消防組織法 第三十七条)消防庁長官は、必要に応じ、消防に関する事項について都道府県又は市町村に対して助言を与え、勧告し、又は指導を行うことができる。
消防庁が都道府県や市町村へ助言や指導を行う根拠は、消防組織法第37条にあります。
この通知も、対応を「お願いします」と呼びかける書き方です。
どうして消防庁の通知に、他の省庁の名前が並んでいるのですか。
地下空間の浸水は、河川・鉄道・消防・建設にまたがる問題でした。
そこで4省庁が連携してまとめています。
通知は地下空間の浸水のどこが危険だと述べているのか
通知の別紙は、地下空間の浸水が地上の水害と何が違うのかを説明しています。
その部分を原文で確認します。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)地下空間は、特に大都市の中心市街地等における貴重な都市空間として、都市機能の増進を図るためにその有効活用が進められているところであり、近年、我が国においては、地下鉄、地下街、ビルの地下施設等様々な地下空間利用が発達してきている。このような地下空間に豪雨や洪水が短時間で浸水した場合には、通常の地上での水害の実態と大きく異なり、電気設備の浸水による停電や地下空間の天井までの冠水など大きな被害を受ける恐れがあり、こうした観点を踏まえた対策が必要である。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)地下空間における浸水対策については、地下空間の浸水防止施設の設置も必要であるが、それだけでは限界があり、洪水時には避難することが重要である。従って、常日頃から地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性を周知するとともに、洪水時においては、情報が的確かつ迅速に伝わる必要がある。
通知は、地下空間では停電や天井までの冠水が起こりうるため、防水施設だけでなく避難が重要だと述べています。
対象は、地下鉄、地下街、
ビルの地下施設等の様々な地下空間です。
豪雨や洪水が短時間で浸水すると、通常の地上の水害とは大きく異なり、
電気設備の浸水による停電や天井までの冠水のおそれがあると書かれています。
そのため、浸水防止施設の設置には限界があり、
洪水時には避難することが重要だとしています。
この考え方が、次の項で見る4つの対策の土台になっています。
地下の浸水は、地上の水害とそんなに違うものなのですか。
通知は、電気設備の浸水による停電や、天井までの冠水を挙げています。
だから、避難の判断が重要になります。
通知が示す4つの緊急対策とは何か
通知は、緊急的な対策として4つの事項を推進するとしています。
まず4項目の見出しを原文で確認します。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)これらを踏まえ、緊急的な対策として以下の事項を推進する。1 地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性の事前の周知、啓発 2 洪水時の地下空間の管理者への洪水情報等の的確かつ迅速な伝達 3 避難体制の確立 4 地下施設への流入防止等浸水被害軽減対策の促進
4項目は、周知・啓発、洪水情報の伝達、避難体制の確立、流入防止等の促進です。
1つ目の周知・啓発では、豪雨時の建築物の地下階への水の急激な流入や、水圧によるドアの開閉障害等の危険を伝えます。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)豪雨時における建築物の地下階への水の急激な流入、水圧によるドアの開閉障害等、の危険性について、周知、啓発を図る。
2つ目の情報伝達は、洪水時に地下空間の管理者が適切に対応できるようにするための項目です。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)河川管理者は、洪水情報を地下鉄の管理者に対して直接伝達する。地下街等その他の地下空間の管理者に対しては、水防管理者(市町村長等)が河川管理者からの洪水情報や市民からの通報等に基づき必要と認められる時、避難のための立ち退きの指示を防災無線の活用や自治会などの協力等の方策により行うことを検討する。マスメディア等を通じた情報伝達についても充実させる。
3つ目の避難体制は、不特定多数の利用者がいる施設の管理者による避難誘導と、関係者との訓練を検討する項目です。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)地下街等の不特定多数の利用者がいる施設の管理者による、円滑な避難誘導等について検討する。なお、地下鉄、地下街、個別ビルが一体となった地下空間においては、各組織の連携方策について検討する。さらに、河川管理者や地方自治体と地下空間の管理者が共同して、浸水災害の発生を想定した訓練の実施内容について検討する。
4つ目の流入防止では、浸水防止施設の設置を推進するとしています。
(地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(別紙) 平成11年8月30日 国土庁・運輸省・消防庁・建設省)地下空間の浸水防止施設の設置を推進するため、施設の具体的事例等、必要な情報を提供するとともに、防水壁等、地下空間の浸水防止施設を設置する民間事業者等に対して、日本開発銀行の融資制度の活用を促進する。
通知が事業所に近い形で触れているのは、地下階への急激な流入の周知、避難誘導、訓練、防水壁等の設置の4点です。
情報伝達は、河川管理者から地下鉄の管理者へ直接、地下街等その他へは
水防管理者(市町村長等)が避難の指示を行う方向で検討するとされています。
避難体制は、管理者による
円滑な避難誘導と、共同での訓練の実施内容を検討する項目です。
流入防止は、防水壁等の設置に必要な情報の提供と、当時の
融資制度の活用促進が書かれています。
いずれも「検討する」「促進する」という書き方で、数値や設備の基準は通知に書かれていません。
「避難のための立ち退きの指示」は、誰が出すのですか。
通知は、地下街等その他の管理者に対して水防管理者(市町村長等)が行うことを検討するとしています。
河川管理者からの洪水情報が元になります。
通知だけを読んで見落としやすいのはどこか
通知は平成11年のもので、そのまま現在の義務とは読めません。
見落としやすい点を、順に整理します。
通知の対策の一部は、現在は水防法が地下街等の管理者に求める計画の作成に引き継がれています。
水防法は、市町村の地域防災計画に名称と所在地が定められた地下街等の所有者又は管理者に、避難の確保と浸水の防止の計画を作るよう定めています。
ここでいう「地下街等」は、次の条文のとおり、不特定かつ多数の者が利用する地下の施設で、避難の確保などを図る必要があると認められるものです。
(水防法 第十五条第一項第四号イ)地下街等(地下街その他地下に設けられた不特定かつ多数の者が利用する施設(地下に建設が予定されている施設又は地下に建設中の施設であつて、不特定かつ多数の者が利用すると見込まれるものを含む。)をいう。次条において同じ。)でその利用者の洪水時、雨水出水時又は高潮時(以下「洪水時等」という。)の円滑かつ迅速な避難の確保及び洪水時等の浸水の防止を図る必要があると認められるもの
(水防法 第十五条の二第一項)前条第一項の規定により市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた地下街等の所有者又は管理者は、単独で又は共同して、国土交通省令で定めるところにより、当該地下街等の利用者の洪水時等の円滑かつ迅速な避難の確保及び洪水時等の浸水の防止を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画を作成しなければならない。
現行の水防法では、名称が定められた地下街等の管理者に、避難確保・浸水防止の計画作成が義務になっています。
通知は「検討する」という書き方でしたが、
計画の作成義務は法律に書かれています。
ただし、対象になるのは、市町村地域防災計画に名称と所在地が定められた地下街等に限られます。
通知にある
日本開発銀行の融資制度は当時のもので、現在の制度は通知からは分かりません。
通知の書き方だけで、自分の建物の地下階が対象かどうかは判断できません。
通知は当時の対策の方向を示したものです。
いまの義務は、水防法と市町村の計画で確認しましょう。
事業所は明日から何を確認すればよいのか
通知は事業所に義務を課すものではありません。
事業所として備えるなら、次の3点を確認します。
確認したいのは、地下階の有無・市町村の計画への記載・避難と情報収集の手順の3点です。
1点目は、自分の建物に
地下階や地下の出入口があるか、豪雨のときに水が階段や換気口から流れ込む位置かどうかです。
2点目は、市町村の
地域防災計画に、その施設の名称が地下街等として定められているかどうかです。定められている場合は、水防法により計画の作成が必要になります。
3点目は、豪雨のときに
洪水情報をどこで受け取り、誰がいつ避難の判断をするのかを、消防計画などの中で決めておくことです。
通知が書く「ドアの開閉障害」のような危険は、建物ごとに違うため、現地で確認するのが基本です。
まず、建物の地下階と出入口を洗い出しましょう。
そのうえで、市町村の地域防災計画を確認します。
よくある質問
Qこの通知で、事業所に地下空間の浸水対策が義務づけられたのですか?
A通知は都道府県へ対応をお願いしますと知らせる文面で、事業所に義務を課す文言は書かれていません。ただし現行の水防法は、市町村の地域防災計画に名称が定められた地下街等の管理者に計画の作成を求めています。
Q通知の「地下空間」には、ビルの地下室も含まれますか?
A通知は「地下鉄、地下街、ビルの地下施設等様々な地下空間利用」と書いています。一方、水防法の「地下街等」は、不特定かつ多数の者が利用する地下の施設で、避難の確保などを図る必要があると認められるものです。
Q通知にある日本開発銀行の融資制度は、今も使えますか?
A通知に書かれた融資制度は平成11年当時のものです。現在の支援や融資の有無は通知からは分からないので、市町村や取引の金融機関にご確認ください。
Q洪水情報は、誰から地下空間の管理者へ伝わるのですか?
A通知は、河川管理者が洪水情報を地下鉄の管理者へ直接伝え、地下街等その他へは水防管理者(市町村長等)が避難のための立ち退きの指示を行うことを検討するとしています。
まとめ
✔平成11年8月30日の消防災第66号は、4省庁がまとめた地下空間の緊急的な浸水対策を都道府県へ知らせた通知である
✔背景には、平成11年6月の福岡と7月の東京で、地下空間の浸水による死者が出たことがある
✔通知は、浸水防止施設だけでは限界があり、洪水時には避難することが重要だとしている
✔緊急対策は、危険性の周知、洪水情報の伝達、避難体制の確立、流入防止等の促進の4つである
✔通知は「検討する」という書き方で、事業所に義務を課す文言はなく、融資制度も当時のものである
✔現行の水防法は、市町村の地域防災計画に名称が定められた地下街等の管理者に、避難確保・浸水防止の計画作成を求めている
✔事業所は、地下階と出入口の洗い出しと、市町村の地域防災計画の確認から始める
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
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学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 地下空間における緊急的な浸水対策の実施について(平成11年8月30日 消防災第66号 消防庁防災課長)
- 消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条
- 水防法(昭和24年法律第193号)第15条・第15条の2
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。