SPCや投資法人が建物を保有する不動産の証券化が広がり、登記簿を見ても実際の管理者が分かりにくい物件が増えています。
消防法は防火管理者を選ぶ義務を「管理について権原を有する者」に課していますが、証券化された建物ではその所有者自身が防火管理の実務を担えないことが少なくありません。
こうした建物には、消防法施行令と施行規則が定める要件を満たせば、不動産管理の受託者が防火管理者を選べる仕組みが用意されています。
この記事では、証券化された不動産で受託者が防火管理者になれる法律上の根拠と、選任までに確認すべき手続きを解説します。
うちのビルも去年、聞いたことのない会社が所有者になったんです。
それは不動産の証券化かもしれません。
所有者が変わっても防火管理者は必要ですよ。
でもその会社は実務をしていないみたいで、誰が選べばいいのか分かりません。
特定資産に該当する建物なら、管理を受託した会社が選べる仕組みがあります。
順番に確認しましょう。
- 不動産を証券化した建物の所有者はSPCや投資法人になり、消防法第8条第1項の「管理について権原を有する者」として防火管理者を選ぶ義務を負います
- SPCや投資法人は資産の流動化に関する法律と投資信託及び投資法人に関する法律にもとづき不動産の管理業務を受託者へ委託できます
- 消防法施行規則は「特定資産」に該当する防火対象物を委託選任の対象として定めています
- 委託選任には権限の付与・業務内容の文書交付・建物状況の説明という3つの要件を満たす必要があります
- 防火管理者選任届には受託の権限を確認できる契約書等の写しを添付することが求められます
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目次
不動産を証券化した建物はなぜ所有者が自分で防火管理者になれないのか

所有者の実体がSPCや投資法人という「器」になる点が、通常の所有形態と大きく違います。
証券化されていない建物では、この権原を有する者はふつう所有者本人か、そこから業務を任された管理会社です。
ところが証券化された建物では、登記簿上の所有者は投資家から集めた資金の器として機能するSPC(特定目的会社)や投資法人で、常駐する担当者がいないことがほとんどです。
所有者自身が防火管理上必要な業務を適切に遂行できない以上、誰が権原を有する者として扱われるのかを、法律の仕組みから確認する必要があります。
次の見出しでは、SPCや投資法人がどんな法律にもとづいて不動産を保有しているのかを見ていきます。
SPCというのは実体のない会社ということですか。
資産を保有するための器で、常駐の社員を置かないことも多いです。
だから業務は必ず外部に委託されます。
SPCや投資法人はどんな法律にもとづいて不動産を保有しているのか

どちらの法律も、資産の管理を自ら行わず外部へ委託することを前提にしています。
特定目的会社(SPC)は資産の流動化に関する法律にもとづいて設立され、保有する不動産の管理・処分業務を、原則として信託会社や適正な体制を持つ不動産会社等に委託することとされています。
投資法人も同様に、投資信託及び投資法人に関する法律第193条第1項第5号で「不動産の管理の委託」が資産運用の一環として認められています。
つまり証券化された建物では、所有者であるSPCや投資法人の外に、実際に建物を管理する受託者が必ず存在する構造になっています。
この受託者が、防火管理の面でも実務を担うことになります。
法律のうえでも、管理は外に委託する仕組みになっているんですね。
そのとおりです。
だから防火管理者も、実務を担う受託者側から選ぶ道が用意されています。
消防法はどんな建物を委託選任の対象と定めているのか

対象になる建物の範囲は、施行令と施行規則で具体的に定められています。
消防法施行令第3条第2項は、管理的または監督的な地位にある者が業務を適切に遂行できないと消防長等が認めた建物について、防火管理者の資格要件を読み替える特例を設けています。
消防法施行規則第2条の2第1項は、この特例の対象になる建物を列挙しており、その第3号に投資信託及び投資法人に関する法律または資産の流動化に関する法律に規定する「特定資産」に該当する防火対象物が挙げられています。
証券化された建物であれば自動的に対象になるのではなく、この号に当てはまることと、消防長または消防署長が業務を適切に遂行できないと認めることの両方が前提になります。
自分の建物が対象になるかどうかは、まず所轄の消防署へ事前に確認しておくと手続きがスムーズです。
証券化されていれば、それだけで対象になるわけではないんですね。
はい。特定資産に当たることと、消防署が業務を適切に遂行できないと認めることの両方が必要です。
受託者が防火管理者になるにはどんな要件を満たす必要があるのか

消防法施行規則は、選ばれる受託者が満たすべき要件を3つ定めています。
まず、SPCや投資法人から防火管理上必要な業務を行う権限を正式に付与されていることが必要です。
次に、業務の内容を明らかにした文書を交付されており、その中身を十分に理解していること、そして建物の位置・構造・設備の状況について説明を受け理解していることが求められます。
これらは口約束では確認できないため、実務では委託契約書にこの3つの内容を明記し、それを届出の添付書類として示す形が取られます。
契約書に業務範囲や権限の付与が書かれていなければ、いくら実質的に管理を担っていても、この要件を満たしていることを消防署に示せません。
契約書に書いてあるかどうかがポイントなんですね。
そうです。
委託契約を結ぶ段階で、この3つを盛り込んでおくことが大切です。
防火管理者選任の届出では何を確認しておけばよいのか

届出の場面でも、受託者であることを示す書類が欠かせません。
消防法第8条第2項は、防火管理者を定めたら遅滞なく届け出ることを求めており、これは証券化された建物でも変わりません。
このとき、受託者が防火管理者としての要件を満たしていることを示すため、届出書の「その他必要な事項」欄に業務を適切に遂行できない理由を明記し、権限の付与を確認できる契約書等の写しを添付することが求められます。
金額など防火管理と関係のない部分は黒塗りにしてよいとされているので、契約書全体を出せないという心配は不要です。
証券化のスキームが決まった段階で、早めに所轄の消防署へ事前相談しておくと、届出の準備がスムーズに進みます。
契約書の写しさえ用意しておけば安心なんですね。
事前に消防署へ相談しておけば、必要な書類も具体的に教えてもらえます。
まずは自分の建物が対象かどうか確認してみてください。
よくある質問
まとめ
委託契約書を確認してみます!
要件に迷ったら相談してください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条第1項・第2項
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第3条第2項
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第2条の2第1項第3号・第2項
- 資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)第2条第1項・第200条第1項・第2項第1号
- 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)第2条第1項・第193条第1項第5号
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物が委託選任の対象になるかどうかは所轄消防署の判断によります。契約や届出の具体的な内容については所轄消防署にご確認ください。





