工場の一角に塗装や印刷、塗布の作業スペースを作るとき、そこで使う塗料や溶剤が消防法上の危険物にあたることは珍しくありません。
本来、危険物を扱う一般取扱所には周囲に保安距離や保有空地を確保する基準が課されます。
ところが吹付塗装作業等を専ら行う一般取扱所には、消防法施行規則が定める特例があります。
建物を無窓の耐火区画にすることで、保安距離や空地を確保しなくても設置できる仕組みを解説します。
うちの工場の塗装ブースを一般取扱所として届け出るとき、周りに広い空地が要るんじゃないかと心配していて。
専ら塗装や印刷、塗布のために使う一般取扱所なら、規則第28条の55の特例が使えるかもしれません。
まずは根拠条文から確認していきましょう。
特例を使うと保安距離や空地は要らなくなるということでしょうか。
はい、その代わりに建物自体を厳重な防火区画にする必要があります。
順番に見ていきましょう。
- 専ら塗装・印刷・塗布のために第二類または第四類(特殊引火物を除く)の危険物を扱い、指定数量の倍数が30未満の一般取扱所が対象です
- 令第9条が定める保安距離と保有空地の基準は、この特例を使うと適用されません
- 代わりに建物は地階を有しないことと、窓を設けない厚さ七十ミリメートル以上の鉄筋コンクリート区画とすることが求められます
- 出入口には特定防火設備を設け、延焼のおそれのある部分は自動閉鎖とする必要があります
- 特殊引火物を扱う場合や指定数量の倍数が30以上になる場合は、この特例を使えません
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目次
塗装専用の一般取扱所とはそもそも何を指すのか

まずは、この特例の対象になる一般取扱所がどう定義されているかを確認します。
次に掲げる一般取扱所のうち総務省令で定めるものについては、総務省令で、前項に掲げる基準の特例を定めることができる。
一 吹付塗装作業を専ら行う一般取扱所その他これに類する一般取扱所
政令は一般取扱所に一律の基準を課す一方で、用途を塗装・印刷・塗布に絞った施設には総務省令=危険物の規制に関する規則で特例を定められると書き分けています。
特例の具体的な中身は、次のセクションで確認する規則第28条の54・第28条の55が定めています。
まずは「そもそもどんな一般取扱所が対象になるのか」を押さえておきましょう。
塗装ブースなら何でもこの特例が使えるということですか。
いいえ、専ら塗装・印刷・塗布のためだけに使う設備という条件があります。
次で具体的な要件を見ていきましょう。
どの一般取扱所ならこの特例を使えるのか

条文を確認します。
令第十九条第二項第一号に掲げる一般取扱所 専ら塗装、印刷又は塗布のために危険物(第二類の危険物又は第四類の危険物(特殊引火物を除く。)に限る。)を取り扱う一般取扱所で指定数量の倍数が三十未満のもの(危険物を取り扱う設備を建築物に設けるものに限る。)
さらに指定数量の倍数が30未満で、かつ危険物を取り扱う設備を建築物の中に設ける一般取扱所であることが条件です。
用途は塗装だけでなく印刷や塗布の作業も条文上含まれます。
倍数が30以上になったり、対象外の危険物を扱ったりすると、この特例そのものが使えなくなります。
自社の設備がこの条件に当てはまるかどうかは、まず取り扱う危険物の品名と量から確認しましょう。
うちはシンナーを使った塗装なんですが、対象になりますか。
特殊引火物に該当しなければ対象になり得ます。
成分を確認してみましょう。
建物にはどんな防火措置が求められるのか

規則が定める基準を確認します。
一 建築物の一般取扱所の用に供する部分は、地階を有しないものであること。
二 建築物の一般取扱所の用に供する部分は、壁、柱、床、はり及び屋根を耐火構造とするとともに、出入口以外の開口部を有しない厚さ七十ミリメートル以上の鉄筋コンクリート造又はこれと同等以上の強度を有する構造の床又は壁で当該建築物の他の部分と区画されたものであること。
三 建築物の一般取扱所の用に供する部分には、窓を設けないこと。
四 建築物の一般取扱所の用に供する部分の出入口には、特定防火設備を設けるとともに、延焼のおそれのある外壁及び当該部分以外の部分との隔壁に設ける出入口には、随時開けることができる自動閉鎖の特定防火設備を設けること。(五号以下略)
地階を持たないことに加え、他の部分とは厚さ七十ミリメートル以上の鉄筋コンクリート(又は同等以上の強度)で区画し、窓は一切設けません。
出入口には特定防火設備を設け、延焼のおそれのある外壁側の出入口は随時開けることができる自動閉鎖のものとします。
このほか床の防液措置や採光・照明・換気の設備、可燃性蒸気を屋外の高所へ排出する設備とダンパーの設置も条文で定められています。
つまり「保安距離・空地を確保しなくてよい」という緩和は、建物側の厳しい仕様とセットになっています。
窓が一切ないと、中の明るさはどうするんですか。
採光ではなく照明設備でまかなうことになります。
次は見落としやすい点を見ていきましょう。
実務で見落としやすいのはどこか

とくに見落としやすい2点を確認します。
専ら塗装、印刷又は塗布のために危険物(第二類の危険物又は第四類の危険物(特殊引火物を除く。)に限る。)を取り扱う一般取扱所で指定数量の倍数が三十未満のもの(危険物を取り扱う設備を建築物に設けるものに限る。)
ジエチルエーテルや二硫化炭素などの特殊引火物は、たとえ塗装・印刷・塗布の用途であってもこの特例の対象から明確に除かれています。
また指定数量の倍数が30以上になった場合も対象外となり、令第9条が定める通常の一般取扱所の基準(保安距離・保有空地を含む)に戻ります。
生産量の増加で使用量が増え、気づかないうちに倍数30を超えているケースは実務でも起こりがちです。
建物を無窓の防火区画にしてしまったあとで対象外と分かると、改修は容易ではありません。
使う塗料の種類や量が変わったときも、確認し直したほうがいいですか。
品名や使用量が変わるたびに倍数を計算し直してください。
最後に日々の確認事項をまとめます。
明日から何を確認すればよいのか

順番に見ていきましょう。 まず、自社の塗装・印刷・塗布の設備が扱う危険物の品名と指定数量の倍数を洗い出してください。
第二類・第四類(特殊引火物を除く)に該当するか、指定数量の倍数が30未満に収まっているかを確認します。
建物側は地階の有無・区画の厚さ・窓の有無を図面と現地の両方で確認し、無窓の耐火区画への改修が必要かどうかを洗い出します。
使用量の変更や設備の増設を計画する際は、着工前に指定数量の倍数を計算し直す運用を社内に定めておくと安心です。
判断に迷う場合は、着工前に所轄消防署へ事前相談することをおすすめします。
何から手を付ければいいか整理できました。
倍数の再計算と建物の現地確認から始めてみてください。
次によくある質問をまとめます。
よくある質問
まとめ
分かりました、倍数の計算と建物の無窓区画を次の点検で確認します!
建物の改修や届出の要否は複雑なので、迷ったら早めにご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 危険物の規制に関する政令第十九条第二項
- 危険物の規制に関する規則第二十八条の五十四
- 危険物の規制に関する規則第二十八条の五十五
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





