国宝や重要文化財の美術工芸品は、木や紙、布などの脆弱な素材でできたものが多く、劣化や災害による被害を受けやすいと、文化庁のガイドラインは述べています。
令和元年12月23日の消防庁の通知(消防予第273号)には、国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等の防火対策ガイドラインも、改訂されたものとして挙げられています。
ガイドラインには、電気火災の予防から消火器の選び方、火災時の文化財の救出計画まで、点検事項が並んでいます。
この記事では、ガイドラインの背景と対象、日常管理と設備の考え方、消火設備で見落としやすい点、実務で確認する点を整理します。
博物館の防火管理を任されていますが、展示品を守る消火の考え方がよく分かりません。
文化庁のガイドラインに、美術工芸品を保管する博物館等向けの点検事項があります。
まず、その背景から見ていきましょう。
うちは国宝を預かっているわけではないのですが、参考になりますか。
ガイドラインは、国宝・重要文化財以外の美術工芸品を保管する博物館等にも参考になると述べています。
対象の範囲は、あとで整理します。
- これは、国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等に向けて、文化庁が消防庁・国土交通省と連携して示した防火対策ガイドラインです。
- 消防庁の消防予第273号は、このガイドラインが令和元年12月に改訂されたことを各消防機関へ知らせています。
- 内容は、火災の種類の把握・電気火災の予防・警報設備・消火設備・訓練・救出計画で、粉末消火器は文化財の表面に固着するため、初期消火には水消火器等の設置が望まれるとされています。
- ガイドラインは全事項を一律に求める趣旨ではありませんが、公開承認施設は防火対策が不十分だと承認の取消しも有り得るとされています。
- 令和元年12月に改訂された内容なので、現在の版と運用は文化庁と所轄消防署に確かめ、まず日常管理の点検事項から確認します。
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目次
美術工芸品を保管する博物館等の防火対策になぜ専用のガイドラインが作られたのか

まず、その原文を確認します。
ガイドラインは、我が国の美術工芸品の多くが木や紙、布など脆弱な素材で作られ、劣化や災害による被害を受けやすいと述べています。
そのため、それぞれの文化財の実情に応じた保存環境の整備と防火対策が重要だとしています。
文化庁の計画は、緊急状況調査等の結果として、防火設備の整備・改修後30年以上経過し老朽化・不具合の懸念があるものが確認されたと書いています。
整備・改修後30年未満の設備でも、少なくとも一部に毀損や不具合を申告するものがあったとされています。
展示品を守りたい気持ちはあるのですが、設備の古さは気になります。
老朽化が進んだ設備は、更新や改修を検討する対象だとガイドラインは述べています。
点検の中身は、あとで整理します。
このガイドラインはどんな博物館等に当てはまるのか

まず、公開承認施設についての原文を確認します。
ガイドラインは、国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等が、総合的な防火対策を検討・実施するために作られたと述べています。
特に公開承認施設は、規程等に基づき適切な防火対策を講じる必要があり、不十分な場合は承認の取消しも有り得るとされています。
文化財保護法第53条第1項ただし書は、国の機関や地方公共団体があらかじめ文化庁長官の承認を受けた博物館その他の施設を、公開承認施設と定めています。
国宝・重要文化財以外の美術工芸品を保管する博物館等や、条例で指定した文化財も、地域の実情に合わせて参考にできると述べています。
なお、博物館は消防法施行令別表第一の(8)項にあたり、収容人員が50人以上なら防火管理者を定める防火対象物です。
うちが公開承認施設かどうかも、まだ確かめていません。
承認を受けているかどうかは、設置者や所管部局に確認できます。
受けている場合は、防火対策の水準が特に問われます。
ガイドラインは日常管理と設備で何を求めているのか

日常管理と、警報設備についての原文を確認します。
| 区分 | ガイドラインが示す点検事項 |
|---|---|
| 2-1 防火管理の体制 | 防火管理者が消防計画を策定して業務を実施する。選任義務がなければ消防計画に準じた計画を定める。夜間など職員が少ない場合も有効に消火できるよう、地域や関係機関の協力を得る |
| 2-2 日常管理における火災予防等 | 火災の種類と出火原因の把握、火気と喫煙の管理、可燃物の管理、消火設備の使用を妨げる障害物の除去、警備、電気設備の点検と更新、企画展や工事中の管理 |
| 2-3 設備 | 警報設備・消火設備等・防犯設備を整備し、定期的に点検して正常に作動する状態を維持する |
| 2-4 設備等の点検・消防訓練 | 定期点検と定期調査、文化財防火デー等を利用した消防訓練、文化財の救出計画と救出訓練 |
| 2-5 その他 | 不明点は文化庁に問い合わせ、防火・防犯対策のチェックリストやハンドブックも参照する |
最初の区分は防火管理の体制で、防火管理者が消防計画を策定し、業務を実施することを挙げています。
日常管理では、劣化した蛍光灯や配電盤、電気コードの配線などからの電気火災や不審火も想定するよう述べています。
警報設備は、自動火災報知設備の設置が消防法令上の義務でなくても、国宝・重要文化財を保管する博物館等では保護の観点から設置が望まれるとされています。
消防機関へ通報する火災報知設備も、夜間など職員が少なく通報が遅れるおそれがある場合には、義務がなくても必要に応じて設置が望まれるとされています。
企画展や工事中など利用者が多いときも、防火設備の使用に支障がないかを事前に確認し、火気の管理を徹底するよう求めています。
うちは夜間は警備員だけなのですが、通報は間に合うでしょうか。
夜間に職員が少ない場合は、通報の遅れがないかを点検事項として確認します。
必要なら消防機関への通報設備を検討しましょう。
消火器や消火設備で見落としやすい点はどこか

粉末消火器と、ガス消火設備についての原文を確認します。
ガイドラインは、消火器に水や二酸化炭素、粉末、泡、ハロンなどがあるとして、文化財の特性や周辺の環境を踏まえた選択を求めています。
一般可燃用の粉末消火器を美術工芸品に使うと、粉末が吸湿して表面に固着し、乾式清掃が必要になると述べています。
そのうえで、初期消火には水消火器等の設置が望まれるとしつつ、施設等の火災には粉末消火器が有効だとも述べています。
収蔵庫や展示室では、スプリンクラー設備等による消火がかえって美術工芸品をき損するおそれがある場合に、ガス消火設備等の設置が望まれるとされています。
地震動でスプリンクラーヘッド、配管、消火ポンプ等が損傷しないよう耐震措置を講じることや、展覧区画では文化財と観覧者の両方の安全に配慮することも、点検事項に挙げられています。
うちの消火器は全部粉末なのですが、入れ替えるべきでしょうか。
入れ替えを求める記述はありません。
置き場所ごとに消火器の種類を見直しておきましょう。
明日から何を確認すればよいのか

訓練と救出計画についての原文を確認します。
消防法令に基づき設置した設備は定期点検を行い、建築基準法上の定期調査の対象なら定期調査も実施するよう述べています。
文化財防火デー等を利用して、設備の使い方と動作の確認を含む消防訓練を定期的に行います。
夜間や非常勤職員の不在時など、職員数が限られる状況を想定した訓練も有益とされています。
救出計画では、文化財周辺の消火方法、緊急時の一時移動先、救出の優先順位、必要人員、役割分担、救出方法、手順等を計画することが考えられるとされています。
救出訓練は現物を使わず模造品等で手順を確認でき、教育委員会や消防部局との協力体制の構築が望まれます。
救出計画は、まず何から決めればよいのでしょうか。
まず、救出の優先順位と役割分担から書き出しましょう。
訓練は模造品で手順を確かめるところから始められます。
よくある質問
まとめ
まずは点検事項から確認します!
博物館の防火管理は、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画等について(通知)(令和元年12月23日 消防消第263号・消防予第273号 消防庁消防・救急課長・予防課長)
- 世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画(令和元年12月23日 文部科学大臣決定)
- 国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等の防火対策ガイドライン(令和元年9月2日公表・12月23日改訂)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条第1項
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第1条の2第3項第1号ハ・別表第一(8)項
- 文化財保護法(昭和25年法律第214号)第31条第1項・第53条第1項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





