平成31年4月のフランスのノートルダム大聖堂の火災と、令和元年10月の沖縄県那覇市の首里城跡での火災は、文化財の防火対策を見直す大きな契機になりました。
令和元年12月23日、消防庁は文化庁が示した「世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画」を各消防機関へ通知しています。
通知には、国宝・重要文化財の防火対策ガイドラインが改訂されたことも、8項目にわたって整理されています。
この記事では、通知の背景と対象、ガイドラインの改訂の中身、そして実務で確認する点を整理します。
お寺や神社の建物を預かっていますが、文化財の防火対策で何か決まったと聞きました。
令和元年12月に、消防庁が5か年計画の通知を出しています。
まずは、その背景から見ていきましょう。
うちは国宝ではないのですが、関係があるのでしょうか。
通知は、国宝や重要文化財以外の史跡等の建造物にも触れています。
対象の範囲は、あとで整理します。
- これは、ノートルダム大聖堂と首里城跡の火災を受け、文化庁の5か年計画を各消防機関へ知らせた消防庁の通知(消防予第273号ほか)です。
- 計画期間は令和2年度から令和6年度までで、重点の対象は世界遺産または国宝(建造物)などです。
- 通知は、防火対策ガイドラインの改訂点8項目を示し、電気設備の点検表・防炎・自動消火設備・夜間の訓練などに触れています。
- ガイドラインは全事項を一律に求める趣旨ではありませんが、文化財保護法上の管理義務を果たす重要な措置と位置づけられています。
- 計画期間はすでに過ぎているため、現在の扱いは文化庁と所轄消防署に確かめ、まず火気と電気の点検表から始めます。
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目次
文化財の防火対策はなぜ5か年計画として示されたのか

まず、その原文を確認します。
通知によると、平成31年4月のノートルダム大聖堂の火災と、令和元年10月31日の首里城跡での火災が、きっかけでした。
同様の惨事を防ぐため、国、地方公共団体、所有者等が連携して防火対策を進める取組が書かれていると、通知は述べています。
文化庁の計画は、緊急状況調査の結果として、自動火災報知設備や消火設備の老朽化・不具合、夜間の管理体制の脆弱性が確認されたと書いています。
通知は、消防組織法第37条の規定に基づく助言として発出されたと、通知自身が述べています。
うちは文化財ではありませんが、この通知は関係するのでしょうか。
通知は、文化財等の所有者や地方公共団体に向けた内容が中心です。
対象の範囲を、次に確認します。
5か年計画とガイドラインはどの文化財を対象にしているのか

まず、重点整備の対象を定める原文を見ます。
計画が優先して整備を進めるのは、特に文化財的価値が高い世界遺産又は国宝(建造物)です。
ほかに、国宝・重要文化財(美術工芸品)を保管する博物館等のうち老朽化・不具合の懸念が確認されたところと、首里城跡の火災を踏まえた世界遺産となっている史跡等の建造物も、重点整備の対象です。
通知は、史跡等に所在する建造物や、地方公共団体の条例に基づいて指定した文化財にも、ガイドラインに準じた防火対策を講じることが望まれると述べています。
国宝・重要文化財の建物でも、消防法令に基づく対応に加え、文化財の特性に応じた個別の防火対策が必要だと、ガイドラインは述べています。
計画期間は、令和2年度から令和6年度までの5か年です。
国宝でなくても、条例で指定された建物なら参考になるのですね。
はい、通知はそう述べています。
次は、ガイドラインの改訂の中身を見ましょう。
ガイドラインの改訂ではどんな対策が加わったのか

そのうち、出火防止と初期消火に関わる二つの原文を確認します。
| 項目 | 通知が示した内容 |
|---|---|
| 位置づけ | ガイドラインの対応策を措置することは、所有者等が負う文化財保護法上の管理義務を果たす重要な措置になる |
| 対象の広がり | 史跡等に所在する建造物や、条例で指定した文化財にも、ガイドラインに準じた防火対策が望まれる |
| 出火防止 | 電気設備の点検表を作って点検し、カーテンや障子紙などを防炎性能のあるものへ変更する |
| 初期消火 | 自動消火設備を設置し、難しければ屋内消火栓設備等での迅速な消火を訓練で確かめ、設備の強化や人的体制も見直す |
| 早期覚知 | 延焼拡大が早い木造建造物等の自動火災報知設備を、煙感知器、R型受信機、アナログ式感知器等へ更新することを検討する |
| 夜間の訓練 | 夜間等の対応者が少ない状況下でも確実に初期消火ができるよう、訓練を実施する |
| 利用者との共有 | 所有者等以外の者が通常と異なる方法で利用する場合は、出火防止対策と初期消火対策を確認し、所有者と利用者等で情報を共有する |
| 避難誘導 | 不特定多数が利用する建造物は、避難路の確認や非常用の放送設備の設置を検討する |
出火防止では、電気設備の点検表を作って点検し、カーテンや障子紙などを、文化財的価値に支障がない範囲で防炎性能のあるものへ変えることが挙げられています。
初期消火では、大規模な木造建造物等に自動消火設備を設置し、難しい場合は屋内消火栓設備等での迅速な消火が可能かを訓練で確かめる順番が示されています。
それも難しい場合は、設備の強化や人的体制の見直しで、初期消火対策を強化するとされています。
火災の早期覚知では、木造建造物等の自動火災報知設備について、煙感知器、R型受信機、アナログ式感知器等への更新を検討するとされています。
残る項目は、夜間の訓練、所有者以外の利用者との情報共有、避難誘導で、上の表のとおりです。
自動消火設備は、うちの建物にはすぐには置けそうにありません。
置けない場合の順番も、通知は示しています。
屋内消火栓などでの迅速な消火が可能か、訓練で確かめます。
ガイドラインの項目は全部そろえないと問題になるのか

通知の記載と原文をあわせて確認します。
ガイドラインは、全ての事項を一律に求める趣旨ではないと述べ、火災リスク、既設の防火設備、管理体制、専門的見地からの意見などを総合的に勘案して検討するよう求めています。
一方で、対応策を措置することは、所有者等が負う文化財保護法上の管理義務を果たす重要な措置と位置づけられています。
文化財保護法第31条第1項は、重要文化財の所有者に、法律や文化庁長官の指示に従って管理する義務を課しています。
ガイドラインは、消防法令に基づく対応に加えて、文化財の特性に応じた対策を検討する手引きとして示されています。
計画期間は令和6年度までで、すでに過ぎています。ガイドライン自体も必要に応じて内容の充実を図るとしていたため、現在の扱いは文化庁で確かめます。
項目を全部そろえるお金も人手もありません。
そろえる順番は、火災リスクと管理体制で考えてよいとされています。
まず、自分の建物の状況を書き出しましょう。
明日から何を確認すればよいのか

火気の点検表についての原文を確認します。
ガイドラインは、火気の管理と電気配線・器具について、それぞれ点検表を策定して点検を実施するよう求めています。
電気配線と器具では、コンセントの周りの清掃、配線の損傷の有無、テーブルタップの定格容量を超えた使用(タコ足配線)がないかなどが例示されています。
次に、夜間など対応者が少ない時間帯を想定した初期消火の訓練を組み込みます。
行事や貸し出しなどで所有者等以外の者が利用する場合は、出火防止対策と初期消火対策を利用者と共有します。
最後に、教育委員会等の文化財担当部局や所轄消防署に相談し、自分の建物に合った対応を決めます。
まず火気と電気の点検表を作ってみます。
点検表は、消防計画の日常の点検にもつなげられます。
訓練は、夜間の想定も入れておきましょう。
よくある質問
まとめ
まずは点検表から始めます!
文化財の建物の防火管理は、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画等について(通知)(令和元年12月23日 消防消第263号・消防予第273号 消防庁消防・救急課長・予防課長)
- 世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画(令和元年12月23日 文部科学大臣決定)
- 国宝・重要文化財(建造物)等の防火対策ガイドライン(令和元年12月23日改訂)
- 消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第10条第1項第1号・第21条第1項第1号イ
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第3条第1項第1号
- 文化財保護法(昭和25年法律第214号)第31条第1項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





