避難器具は、建物の形や階段の造りによって、設置が要らなくなったり逆に条件が増えたりします。
消防実務六法には、防火区画された階段や病院の避難はしご、マンホールに組み込まれた救助袋まで、当時の消防庁が答えた質疑応答が数多く収録されています。
この記事では、そのなかから五つを選び、現行の消防法施行令・施行規則と照らし合わせて読み直します。
防火区画された階段から病院のはしご、マンホールの救助袋まで、順に確かめていきましょう。
うちの建物、階段が防火区画になってるんですが、避難はしごは別に要るんでしょうか。
実は昔の質疑応答に、避難器具の設置要否を尋ねたものがあるんですよ。
比べてみると、今の基準でも同じ考え方が使えます。
病院の避難はしごや、マンホールの救助袋のような特殊な例も気になります。
では。
今日は五つの質疑応答を、現行の条文に当てはめて順番に見ていきましょう。
- 防火区画された階段がある階は、建物全体ではなくその階段についてだけ避難器具の設置を省略できます
- ストッパーで開け放した防火戸は、自動閉鎖の要件を満たさず避難器具の免除は使えません
- 直通階段が1つしかない建物でも、一定の条件を満たせば避難器具は不要になります
- 病院の避難はしごは、自力避難が可能な患者用として設置するものとされています
- マンホールに組み込まれた救助袋は、消防法施行令第32条の特例を適用して認められた例があります
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昭和48年の質疑は、建築基準法で階段の防火区画が義務づけられたことで、避難器具の設置がどこまで緩和されるのかを尋ねました。
(昭和48年10月23日 消防予第140号・消防安第42号 予防課長・安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
現行の消防法施行規則第26条第5項は、避難器具を設置しないことができる階の条件を列挙しており、その1つに「開口部に防火戸を設ける耐火構造の壁又は床で区画されていること」「区画された部分の収容人員が一定数未満であること」等の要件がそろって初めて、その区画された部分について避難器具を設けないことができる、という組み立てになっています。
建築基準法施行令第112条が求める階段の竪穴区画は、火災の拡大を防ぐための建築側の義務であって、それ自体が避難器具の設置義務を免除する規定ではありません。避難器具の要否は、区画の有無に加えて収容人員や階段の構造まで含めた消防法施行規則の要件で、あらためて確認する必要があります。
区画されてたら自動的に免除されるわけじゃないんですね。
はい。
収容人員や戸の構造まで、あわせて確認します。

続く質疑は、査察の現場でよく見かける「ストッパーで開け放した戸」の扱いを尋ねました。
(昭和48年10月23日 消防予第140号・消防安第42号 予防課長・安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
現行の消防法施行規則第26条第5項第3号ロは、避難器具を設けないことができる条件の1つとして、直通階段に面する開口部に「随時開くことができる自動閉鎖装置付きの特定防火設備である防火戸」を設けていることを求めており、さらにその構造として「随時閉鎖することができ、かつ、煙感知器の作動と連動して閉鎖すること」を挙げています。
ストッパーで戸を固定して常時開け放していると、煙感知器が作動しても自動で閉まらず、この要件を満たせません。設置現場では、ストッパーの有無を確認し、見つかった場合は避難器具を別途設置するか、ストッパーを外して常時閉鎖の状態に戻すことになります。
開けっぱなしの扉、うちにもあるかもしれません。
はい。
ストッパーを見つけたら、まず外してみてください。

続く質疑は、階段が1つしかない階について、免除規定を使えるかを尋ねました。
(昭和48年10月23日 消防予第140号・消防安第42号 予防課長・安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
現行の消防法施行規則第26条第5項第3号は、イ「特定主要構造部を耐火構造としたものであること」、ロ「直通階段に面する開口部に自動閉鎖装置付きの防火戸等を設けたものであること」、ハ「直通階段が建築基準法施行令第123条に定める構造のものであること」、ニ「収容人員は30人未満であること」の4つをすべて満たせば、避難器具を設置しないことができると定めています。
この4つの要件には「直通階段が2以上あること」という条件が入っていないため、階段が1つしかない建物の階でも、耐火構造・防火戸・階段の構造・収容人員の条件さえそろえば避難器具は不要になります。
階段が複数ないと免除されないと思っていました。
はい。
条件は構造と収容人員のほうです。

昭和50年の質疑は、病院に使える避難はしごの範囲を尋ねました。
(昭和50年6月16日 消防安第65号 安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
現行の消防法施行令第25条第2項の表でも、病院等にあたる(六)項イの2階では、避難はしご・救助袋・緩降機・避難橋が適応する避難器具として並び、滑り棒や避難ロープのように握力で体を支え続ける器具は対象から外れています。寝たきりの患者には、はしごを自力で使って降りることはできません。
病院の防火管理では、避難器具の種類をそろえるだけでなく、重症患者については階段や傾斜路を使った職員による搬送計画や、避難誘導体制のほうを整えておく必要があります。
はしごがあれば全員避難できると思っていました。
はい。
重症患者には搬送計画のほうが要になります。

昭和49年の質疑は、マンホールに組み込まれた救助袋という珍しい器具の扱いを尋ねました。
(昭和49年12月28日 消防安第137号 安全救急課長から福岡県あて回答)
現行の消防法施行令第25条第2項の表を見ると、2階に適応する器具として挙げられているのは避難はしご・避難用タラップ・滑り台の3種類で、救助袋は3階以上の階からしか対象になっていません。マンホールに組み込まれた救助袋のように表にない構造の器具は、消防法施行令第32条の特例規定を使い、消防長又は消防署長が個別に性能を審査したうえで認めるという手順を踏みます。
特殊な避難器具を導入するときは、カタログの性能表だけで判断せず、所轄消防署に事前相談して令第32条の審査を受けられるかを確認しておく必要があります。
表にない器具は、最初から使えないのかと思っていました。
はい。
導入前の事前相談が近道になります。
うちの建物も、防火戸や避難器具の要否を見直してみます。
避難器具の要否の判断は、構造や用途が特殊になるほど複雑になります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第25条・第32条
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第26条
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第112条・第123条
- 避難器具の設置個数の減免に関する質疑(昭和48年10月23日 消防予第140号・消防安第42号 予防課長・安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- 病院に適応する避難はしごに関する質疑(昭和50年6月16日 消防安第65号 安全救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- マンホールに組み込まれた避難用救助袋の取扱いに関する質疑(昭和49年12月28日 消防安第137号 安全救急課長から福岡県あて回答)
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や機関の名称、単位等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





