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広域避難はなぜ市町村長どうしの協議が必要になったのか|正当な理由がなければ拒めない受け入れの仕組みを解説

広域避難はなぜ市町村長どうしの協議が必要になったのか

市町村の地域防災計画や消防計画に、広域避難の受け入れ先は書いてありますか。
令和3年の災害対策基本法改正で、市町村単独では避難場所を確保できない場合に、他の市町村長へ協議する仕組みが新設されました。
きっかけは、令和元年東日本台風のような大規模災害で、被害が市町村の区域を越えて広がることでした。
実はこの協議、受け入れを求められた市町村長には正当な理由がない限り断れないという原則まであることは、意外と知られていません。

広域避難の受け入れ先まで、正直考えたことがありませんでした。

実は令和3年の法改正で協議の仕組みができたんです。

うちの市町村も、いつ受け入れ側になるか分かりません。

正当な理由の中身まで含めて、順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 令和3年の災害対策基本法改正で、市町村長どうしが広域避難について協議できる規定(法第61条の4関係)が新設されました。
  • 対象は、市町村単独では指定緊急避難場所を確保できず、居住者等を一定期間他の市町村の区域に滞在させる必要がある場合です。
  • 協議を受けた市町村長(協議先市町村長)は、正当な理由がある場合を除き要避難者を受け入れます。
  • 受け入れる場合は避難場所を決定し、避難場所を管理する者その他の関係者に直ちに通知しなければなりません。
  • 都道府県をまたぐ場合は別の協議ルートがあり、都道府県知事や内閣総理大臣による助言も受けられます。

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広域避難の協議はなぜ必要なのかを示す図解(大規模災害のおそれから避難場所の提供と通知までの4ステップ)

広域避難の協議はなぜ法律に定められるようになったのか

暴風雨の雲に覆われる沿岸の町並みのイラスト
広域避難の協議は、長らく法律の外にありました。
まずは規定が新設されるまでの経緯を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)昨今、令和元年東日本台風等、災害が大規模化・頻発化する中、気象予報技術の向上等により、大規模災害の事前予測が一定程度の確度で可能となっていることも踏まえ、想定される被害が広域にわたり自らの地方公共団体外への立退き避難が必要であると考えられる場合には、災害の発生後のみならず、災害の発生が予測される場合など、より早い段階から多くの住民の避難行動を促す必要性が高まっており、全国の市町村において広域避難の検討が進められている。(略)これらを踏まえ、平常時における地方公共団体間や地方公共団体と運送事業者間の協定締結の促進を図りつつも、災害が発生するおそれがある段階における広域避難等の円滑な実施を確保するため、広域避難の協議や居住者等の運送の要請ができるよう規定を整備することとした。
令和元年東日本台風のような大規模水害の経験が、この規定を後押ししました。
以前は協定などに基づく自主的な受け入れ調整に頼るしかなく、法律上の協議の仕組みはありませんでした。
災害の予測技術が向上したことで、災害が発生する前の段階から避難行動を早める必要性が高まりました。
そこで令和3年の法改正により、広域避難の協議等(法第61条の4から第61条の8まで関係)が新設されました。
次は、この協議がどんな場合に必要になるのかを見ていきます。

協定を結んでいれば、それで十分だと思っていました。

協定だけでは対応しきれない場合も想定されているんです。

どんな場合に市町村長どうしの協議が必要になるのか

隣接する2つの市役所の建物が書類でつながる様子のイラスト
協議が必要になる場面は、条文に具体的に書かれています。
第61条の4の条文を確認します。
(災害対策基本法第61条の4第1項)市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生するおそれがある場合において、予想される災害の事態に照らし、第60条第1項に規定する避難のための立退きを指示した場合におけるその立退き先を当該市町村内の指定緊急避難場所その他の避難場所とすることが困難であり、かつ、居住者等の生命又は身体を災害から保護するため当該居住者等を一定期間他の市町村の区域に滞在させる必要があると認めるときは、当該居住者等の受入れについて、同一都道府県内の他の市町村の市町村長に協議することができる。
協議が必要になるのは、市町村内の避難場所だけでは足りないと市町村長が判断したときです。
対象は、自分の市町村の区域内で避難のための立退き先を確保することが困難な居住者等です。
条文上の呼び方では、協議を持ちかける側が協議元市町村長、持ちかけられる側が協議先市町村長です。
同一都道府県内の市町村どうしがこの第61条の4にあたり、都道府県をまたぐ場合は第61条の5・第61条の6という別の条文が用意されています。
次は、協議を受けた側がどこまで断れるのかを見ていきます。

協議を受けたら、必ず受け入れないといけないんですか。

いいえ、正当な理由があれば断れます。

受け入れを断れる正当な理由とは何か

避難所の建物と満員を示す容量メーターのイラスト
協議を受けた市町村長にも、判断の余地があります。
条文と通知の両方を確認します。
(災害対策基本法第61条の4第3項)第1項の場合において、協議を受けた市町村長(以下この条において「協議先市町村長」という。)は、同項の居住者等(以下「要避難者」という。)を受け入れないことについて正当な理由がある場合を除き、要避難者を受け入れるものとする。この場合において、協議先市町村長は、同項の規定による滞在(以下「広域避難」という。)の用に供するため、受け入れた要避難者に対し指定緊急避難場所その他の避難場所を提供しなければならない。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)要避難者を受け入れない「正当な理由」については、例えば、避難先の地方公共団体も災害の発生が予想されること、広域避難時において他市町村の要避難者の受入れを予定していた施設に自市町村の居住者等が既に避難をしており当該施設の収容可能人数を上回っていること、地域の実情により避難行動要支援者等の特段の配慮が必要な要避難者の支援に必要な体制が十分に整っていないこと等が挙げられる。(略)「正当な理由」については、個別の災害における種々の状況を総合的に勘案して判断すべきものと考える。
正当な理由が無ければ、協議先市町村長は要避難者を受け入れる原則になっています。
正当な理由の例として、受け入れ先も被災が予想されることや、施設の収容可能人数を超えていることが挙げられています。
避難行動要支援者など特段の配慮が必要な人への支援体制が整っていないことも理由になり得ます。
ただしこれらに当てはまっても、災害の規模や各市町村の受入状況によっては受け入れなければならないこともあり、画一的な線引きではありません。
次は、受け入れを決めたあとに見落としやすい点を確認します。

うちが被災しそうなときは、断ってもいいんですね。

はい、ただし個別の状況で総合的に判断されます。

実務で見落としやすいのはどこか

個人所有の建物と鍵つきの同意書のイラスト
受け入れを決めたあとにも、確認すべき手続きがあります。
見落とされがちな点を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)広域避難の協議を受けた市町村長は、要避難者を受け入れるべき避難場所等を決定することとされているが、自己の管理下にない施設を提供しようとする場合においては、平常時からあらかじめ又は現に災害が発生するおそれがある場合に、当該施設の管理者の同意を得ることが必要となることに留意しなければならない。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)通知が必要な者の考え方について、協議元市町村長・協議先市町村長のいずれも、そのすべての関係機関に通知を行わなければならないものではなく、市町村長の判断で実際に避難の支援に関係している機関のみに通知を行えばよい。
自分の市町村が管理していない施設を避難場所にするときは、施設管理者の同意が必要です。
学校や公民館など、平常時から避難場所に指定している施設でも、広域避難の用途に使う同意まで得ているかは別問題です。
受け入れを決めたら、避難場所を管理する者その他の内閣府令で定める者に直ちに通知しなければなりません。
通知先はすべての関係機関である必要はなく、実際に避難支援に関係する機関だけで足ります。
次は、これらを踏まえて明日から確認すべきことを整理します。

避難所に指定してあるから、そのまま使えると思っていました。

施設管理者の同意は別に必要です。

明日から何を確認すればよいのか

チェックリストのクリップボードと目的地を示す地図のイラスト
最後に、地域防災計画で確認しておきたい手順を整理します。
平常時の備えが、協議の実効性を左右します。 まず、地域防災計画に広域避難の受け入れ先や協定の有無が記載されているかを確認します。
自分の市町村が受け入れ側になる場合は、避難場所として使う施設の管理者の同意が取れているかを確認しておきます。
水害時の広域避難の検討には、内閣府防災担当がまとめた「水害からの広域避難に関する基本的な考え方」が参考にされています。
都道府県をまたぐ広域避難や協議先が見つからない場合は、都道府県知事や内閣総理大臣による助言を求めることもできます。
制度は市町村どうしの協議が土台ですが、平常時の協定締結が円滑な受け入れの鍵になります。

うちの地域防災計画、受け入れ先まで書いてあるか確認します。

平常時の協定締結が鍵になります。
よくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q広域避難の協議は、すべての市町村が必ず行わなければならないものですか?
Aいいえ。市町村長が必要と認めるときに行うことができる規定であり、義務ではありません。ただし協議を受けた側には、正当な理由がない限り要避難者を受け入れる原則があります。
Q受け入れを断れる「正当な理由」には、具体的にどんなものがありますか?
A避難先の市町村自身にも被災が予想される場合や、施設の収容可能人数を既に超えている場合などが挙げられています。ただし個別の災害状況を総合的に勘案して判断されるため、画一的な基準ではありません。
Q受け入れを決めた市町村長は、誰に通知しなければなりませんか?
A避難場所を管理する者その他内閣府令で定める者に直ちに通知する必要があります。すべての関係機関に一律通知する必要はなく、市町村長が実際に避難支援に関係すると判断した機関に通知すればよいとされています。
Q同じ都道府県内でなく、他の都道府県の市町村と協議したい場合はどうすればよいですか?
A都道府県知事を通じた協議(法第61条の5)や、事態が急迫した場合に市町村長が直接他の都道府県内の市町村長へ協議する規定(法第61条の6)など、別のルートが用意されています。

まとめ

✔令和3年の災害対策基本法改正で、市町村長どうしが広域避難を協議できる規定(法第61条の4関係)が新設されました。
✔きっかけは、令和元年東日本台風のような大規模災害で被害が市町村の区域を越えて広がったことでした。
✔対象は、市町村単独では避難場所を確保できず、居住者等を他の市町村の区域に滞在させる必要がある場合です。
✔協議を受けた市町村長は、正当な理由がある場合を除き要避難者を受け入れます。
✔正当な理由の例として、受け入れ先の被災予想や施設の収容人数超過などが挙げられています。
✔受け入れを決めたら、施設管理者の同意と、避難場所を管理する者への通知が必要です。
✔都道府県をまたぐ場合は別ルートがあり、地域防災計画で受け入れ体制を確認しておくことが実務の第一歩です。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)
  • 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第61条の4第1項・第3項

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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