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古いビルの改修を数年に分けると最初の工事で建物全体を今の基準に直さなくてよいのはなぜか|建築基準法第86条の8が定める全体計画認定を解説

足場が片側に組まれた古い事務所ビルの改修の外観写真

建物を営業しながら、何年かに分けて少しずつ改修していく計画は珍しくありません。
古い建物は、増築や大規模な改修に着手した途端に、今の基準への適合を求められる仕組みになっています。
工事を分けたからといって、最初の工事から建物全体を一気に直さなければならないのでしょうか。
今回は建築基準法第86条の8が定める全体計画認定の仕組みと、防火管理者が押さえておきたい点を解説します。

古いビルを営業しながら、フロアごとに数年かけて改修する予定なんです。
最初の工事で建物全体を今の基準に直さないといけないのか心配で。

工事を分けて行う場合には、建築基準法第86条の8に全体計画認定という制度があります。
特定行政庁の認定を受けると、途中の工事の扱いが変わります。

認定を受ければ、最初から全部を直さなくてもよくなるんですか。
どんな条件があるのか、順番に教えてください。

条件があるので、条文に沿って順に見ていきましょう。
防火管理の面で気をつける点もお伝えします。

この記事の結論
  • 古い建物の増築や大規模修繕を2以上の工事に分けるときは、特定行政庁の認定で扱いを変える制度があります。
  • 認定を受けるには、工事を分けることが利用状況などからやむを得ないことなど、3つの基準に適合する必要があります。
  • 認定を受けると、既存不適格の扱いは最後の工事に着手するまで続きます。
  • 全工事の完了後には、建物全体が建築基準法令の規定に適合していなければなりません。
  • 認定後に計画を変えるときは軽微な変更を除いて変更認定が必要で、計画に従わないと改善命令や認定の取消しの対象になります。

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工事を分ける改修は全体計画の認定を受けることを示す図解

古い建物の改修はなぜ着手した時点で現行基準への適合が問われるのか

工事に着手する古い建物と現行の基準書のイラスト
古い建物には、建てた当時は適法でも今の基準には合っていないという部分がよくあります。
その建物を改修するとき、法律は着手の時点を境に扱いを分けています。
(建築基準法第三条第二項)この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
(同条第三項第三号 抜粋)前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、適用しない。(略)三 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地
既存不適格の扱いが続くのは、工事に着手するまでです。
法律の改正や都市計画の変更で基準に合わなくなった建物は、第3条第2項によって、その規定が適用されないとされています。
この扱いは一般に既存不適格と呼ばれています。
ところが同条第3項第3号は、工事の着手が基準の施行や適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替については、この扱いを及ぼさないと定めています。
つまり大規模な改修に着手すると、その建物は現行の基準に適合させる対象になります。ただし増築時の緩和など別の特例がある場合は、その内容に従います。
数年に分けて改修する計画では、最初の工事に着手した時点でこの問題に直面することになります。

古い建物は今の基準に合っていなくても、そのまま使えると聞いたことがあります。
改修を始めると話が変わるんですね。

はい、既存の建物に基準を適用しない扱いは、大規模な工事に着手すると外れてしまいます。
そこで工事を分ける計画の扱いが問題になります。

どんな改修なら全体計画認定を受けられるのか

三つの区画に分けて改修する建物と申請書類のイラスト
全体計画認定は、どんな古い建物でも工事を分ければ使えるという制度ではありません。
条文には、対象と基準がはっきり書かれています。
(建築基準法第八十六条の八第一項 抜粋)第三条第二項の規定によりこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けない一の建築物について二以上の工事に分けて増築等を含む工事を行う場合において、特定行政庁が当該二以上の工事の全体計画が次に掲げる基準に適合すると認めたとき(略)
一 一の建築物の増築等を含む工事を二以上の工事に分けて行うことが当該建築物の利用状況その他の事情によりやむを得ないものであること。
二 全体計画に係る全ての工事の完了後において、当該全体計画に係る建築物及び建築物の敷地が建築基準法令の規定に適合することとなること。
三 全体計画に係るいずれの工事の完了後においても、当該全体計画に係る建築物及び建築物の敷地について、交通上の支障、安全上、防火上及び避難上の危険性並びに衛生上及び市街地の環境の保全上の有害性が増大しないものであること。
対象は、既存不適格の一の建築物を2以上の工事に分けて改修する場合です。
増築等という言葉は、第86条の7で増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替と定義されています。
認定をするのは特定行政庁で、建築主事を置く市町村ではその市町村の長、それ以外の区域では都道府県知事が原則です。
基準は3つあり、やむを得ない事情、全工事の完了後の適合、各工事の完了後にも危険性が増大しないことです。
条文は「利用状況その他の事情によりやむを得ない」と書いており、営業を続けながらの工事がこれに当たるかどうかは特定行政庁が判断します。

うちは営業を止められないので、どうしても工事を分けるしかありません。
それでも認定はもらえますか。

営業を続ける事情は利用状況として考えられますが、認めるかどうかは特定行政庁が判断します。
まず窓口へ相談してみましょう。

認定を受けると途中の工事の扱いはどう変わるのか

工事を段階的に進め最後に全体が完成する三つの建物のイラスト
認定の効果は、条文の読み替えという形で書かれています。
読み方が少し難しいので、要点だけを取り出して見ていきます。
(建築基準法第八十六条の八第一項 読み替え部分 抜粋)(略)同条第二項中「建築、修繕若しくは模様替の工事中の」とあるのは「第八十六条の八第一項の認定を受けた全体計画に係る二以上の工事の工事中若しくはこれらの工事の間の」と、同条第三項中「適用しない」とあるのは「適用しない。ただし、第三号又は第四号に該当するものにあつては、第八十六条の八第一項の認定を受けた全体計画に係る二以上の工事のうち最後の工事に着手するまでは、この限りでない」と、(略)
途中の工事の間は、既存不適格の扱いが続きます。
第3条第2項の対象が、認定を受けた全体計画に係る2以上の工事の工事中と、工事と工事の間にまで広がるように読み替えられます。
第3項第3号や第4号に当たる部分でも、最後の工事に着手するまでは既存不適格の扱いが続くことになります。
したがって最初の工事の段階で、建物全体の適合までは求められません。ただし認定の基準にある危険性を増大させないことは守る必要があります。
最後の工事に着手した後は特例が及ばなくなり、全工事の完了後に建物全体が適合することが認定の基準そのものです。

つまり最初の工事で全部を直さなくてもよくて、最後の工事までに全体を合わせればいいんですね。
安心しました。

考え方はそのとおりですが、各工事の完了後にも防火や避難の危険性を増やさないことが条件です。
途中の段階の安全も見られます。

認定を受けたあとに計画を変えたり守らなかったりするとどうなるのか

認定書類と警告標識のイラスト
認定は一度もらえば終わりというものではありません。
工事が計画どおりに進んでいるかどうかも、特定行政庁に見られます。
(建築基準法第八十六条の八第三項 抜粋)第一項の認定を受けた全体計画に係る工事の建築主(以下この条において「認定建築主」という。)は、当該認定を受けた全体計画の変更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは、特定行政庁の認定を受けなければならない。
(同条第五項)特定行政庁は、認定建築主が第一項の認定を受けた全体計画に従つて工事を行つていないと認めるときは、当該認定建築主に対し、相当の猶予期限を付けて、その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(同条第六項)特定行政庁は、認定建築主が前項の命令に違反したときは、第一項又は第三項の認定を取り消すことができる。
計画を変えるときは、軽微な変更を除いて再び認定を受けます。
認定を受けた建築主は条文で認定建築主と呼ばれ、全体計画を変更するときは特定行政庁の変更認定が必要です。
軽微な変更は施行規則第10条の25に定められ、工事の着手や完了の予定年月日の3か月以内の変更などが含まれます。
特定行政庁は工事の状況の報告を求めることができ、計画に従っていないと認めるときは相当の猶予期限を付けて改善命令を出せます。
命令に違反すると認定が取り消されることがあり、そうなると特例の根拠が無くなる点に注意が必要です。

途中で工事の順番を入れ替えたくなったら、勝手に変えてもいいですか。
予定より少し遅れることもありそうで心配です。

全体計画の変更は原則として変更認定が必要です。
ただし着手や完了の予定日の3か月以内の変更は軽微な変更とされています。

防火管理者は工事の間になにを確かめておくとよいのか

確認項目のチェックリストと建物模型のイラスト
全体計画認定の申請は建築主が行い、防火管理者が書類を作るわけではありません。
それでも工事中の建物を管理する立場として、確かめておきたい点があります。
(建築基準法施行規則第十条の二十三第一項 抜粋)全体計画認定の申請をしようとする者は、次の各号に掲げる図書及び書類を特定行政庁に提出するものとする。(略)一 別記第六十七号の三様式による申請書(以下この条及び次条において単に「申請書」という。)の正本及び副本に、それぞれ、次に掲げる図書及び書類で、全体計画に係るそれぞれの工事ごとに作成したものを添えたもの(略)ハ 申請に係る建築物が法第三条第二項(法第八十六条の九第一項において準用する場合を含む。)の規定により法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものであることを示す書面 二 全体計画概要書
確認するのは、認定の有無と工事の順序です。
申請書には、工事ごとに作成した図書、既存不適格であることを示す書面、全体計画概要書が添えられます。
これらの内容を通じて、どの工事がどの範囲をいつ行うのかを把握しておくと、管理の見通しが立てやすくなります。
明日から次の点を確認してください。
  • 特定行政庁の認定を受けているかを、設計者や施工者に確認する。
  • 全体計画に含まれる工事の数、範囲、着手と完了の予定時期を確認する。
  • 各工事の完了後に、避難経路や消防用設備等の状況が悪くなっていないかを見る。
  • 計画の変更や遅れが出たときは、変更認定が必要になり得るので、早めに設計者へ相談する。
  • 工事中の消防計画の見直しは別の手続きなので、消防署や専門家に相談する。
全体計画認定は建築基準法の制度で、消防法の消防計画や届出とは別の話です。
両方の窓口で、工事の進み方を同じ内容で伝えられるようにしておきましょう。

認定を受けたかどうかは、どこで確認すればいいですか。
設計者や工事会社に聞くのが早いんでしょうか。

特定行政庁が申請者に渡す通知書と申請書の副本があるので、その写しを見せてもらう方法があります。
工事の順序も一緒に共有してもらいましょう。

よくある質問

Q全体計画認定は増築の工事だけが対象なのですか?
A対象は増築等を含む工事で、第86条の7では増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替が増築等と定義されています。この定義に移転は含まれていません。
Q用途を変える工事を分けて行う場合にも同じ制度があるのですか?
A第87条の2に用途の変更に伴う工事を2以上に分ける場合の制度があります。第86条の8第1項に当たる場合を除き、基準や認定後の扱いは同じように定められています。
Q認定を受ければ、最後の工事まで現行基準を気にしなくてよいのですか?
Aいいえ、各工事の完了後にも防火や避難の危険性が増大しないことが認定の基準です。また全工事の完了後には、建物全体が適合しなければなりません。
Q工事の完了予定が2か月ずれたときも変更認定が必要ですか?
A施行規則第10条の25は、工事の着手や完了の予定年月日の3か月以内の変更を軽微な変更としています。予定日だけのずれであれば変更認定は要しないとされています。

まとめ

✔第3条第2項で基準に適合しない既存の建物は、大規模な工事に着手すると第3項第3号により既存不適格の扱いが外れます。
✔工事を2以上に分ける場合は、第86条の8の全体計画認定を特定行政庁から受ける方法があります。
✔認定の基準は、やむを得ない事情、全工事の完了後の適合、各工事の完了後に危険性が増大しないことの3つです。
✔認定を受けると、最後の工事に着手するまで既存不適格の扱いが続きます。
✔全工事の完了後には、建物全体が建築基準法令の規定に適合しなければなりません。
✔計画の変更には変更認定が必要で、従わなければ改善命令や認定の取消しがあります。
✔用途の変更に伴う工事にも、第87条の2に同様の制度があります。

工事を分けるときの全体計画認定、うちのビルが当てはまるか設計者に聞いてみます!

認定の有無や工事の順序が分かれば、防火管理の準備も立てやすくなります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法第二条・第三条・第八十六条の七・第八十六条の八・第八十七条の二(e-Gov法令検索)
  • 建築基準法施行規則第十条の二十三・第十条の二十四・第十条の二十五(e-Gov法令検索)

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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