工場という言葉は、建築基準法ではずいぶん幅が広く使われています。
危険物を扱う施設から、製氷や陶磁器づくり、さらには住宅の一部を使った教室や敷地内の納骨堂まで、個々の実態ごとに線引きが争われてきました。
古い質疑応答が残した判断は、いまの別表第二でも形を変えて生きています。
5つの質疑応答が示したのは看板や名称ではなく実際の作業内容で用途が決まるという線引きです。
うちの敷地には油を扱う設備も、冷蔵庫も、小さな納骨堂もあります。
用途地域の規制はどこまで及ぶのでしょうか。
建物の名前では決まりません。
実際にそこで何をしているかで判定が変わります。
冷蔵庫や納骨堂まで工場と同じ扱いになるのは意外でした。
そこが建築基準法の難しさです。
危険物・製氷・陶磁器・教室・納骨堂の5つの質疑応答で順に見ていきます。
- 危険物の処理数量は、ポンプ室や上屋まで含む一体の施設でその瞬間に存在する最大の量で判定します
- 冷蔵倉庫は、製氷室や機械室だけが作業場で、貯氷室や準備室は作業場に含まれません
- 陶磁器の製造は、焼成や粉砕を行わない混和や成型だけでも製造にあたるとされています
- 住宅に併設する音楽教室は、学習塾その他これらに類する施設として兼用住宅の範囲に収まります
- 納骨堂は、神社や寺院に附属すると認められるかどうかで建築の可否が決まります
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目次
危険物の処理数量はどの時点の量で決まるのか

施設が貯蔵タンク・ポンプ室・上屋の3つに分かれている場合、どこを基準に危険物の数量を数えるのかが争われています。
配管でつながった貯蔵タンク・ポンプ室・上屋は、別棟であっても1つの施設として危険物の数量を合算します。
そのうえで、年間の取扱量や処理能力の合計ではなく、ある瞬間に敷地内に存在する最大の量で判定するという考え方は、現行の建築基準法施行令第130条の9・第116条が定める危険物の数量の限度でも変わっていません。
現行法では用途地域ごとに危険物の種類別の数量限度が表で定められており、準住居地域・商業地域・準工業地域で基準が段階的に緩くなります。
敷地に油送管や貯蔵タンクを増設する計画があるなら、配管でつながる範囲全体を1施設として、その瞬間の最大量で確認しておく必要があります。
棟を分ければ数量も分けられる、というわけではないんですね。
そうなんです。
配管でつながっているかどうかを、まず図面で確認してください。
製氷工場の冷蔵庫はなぜ作業場に含まれないのか

冷蔵庫には製氷室・機械室のほか、貯氷室や準備室もあります。
製氷室と機械室は原動機を使って氷を作る部屋なので作業場に数えますが、できた氷を置くだけの貯氷室や、材料を置く準備室は貯蔵のための部屋なので数えません。
現行の建築基準法別表第二(る)項第一号(十二)でも「圧縮ガス又は液化ガスの製造(製氷又は冷凍を目的とするものを除く。)」と、製氷・冷凍を目的とする設備はそもそも規制のカテゴリから外す形が今も続いています。
第二種住居地域では原動機を使う工場は作業場の床面積合計が50平方メートルを超えると規制対象になりますが、この合計に貯氷室や準備室の面積は入れずに計算してよいということです。
増築で冷蔵庫を広げるときは、どの部屋を作業場として数えるかを図面に書き分けておくと、床面積の計算で揉めません。
保管用の冷蔵庫を増やしても、作業場の面積は増えないんですね。
そのとおりです。
動力を使って氷を作る部屋かどうかで区別してください。
陶磁器の製造はどこから始まっているとみなされるのか

原料の粉砕や焼成を行わないなら、陶磁器の製造にあたらないと考えてよいかが照会されています。
陶磁器づくりは粉砕・混和・成型・乾燥・焼成という一連の工程からなりますが、そのうち混和や成型こそが主工程であり、窯を持たず粉砕もしない工場であっても陶磁器の製造として扱われます。
現行の建築基準法別表第二(ぬ)項第三号(十六)は、商業地域で建築が制限される事業として「瓦、れんが、土器、陶磁器、人造砥石、るつぼ又はほうろう鉄器の製造」を挙げており、成型だけの工場もこの号の対象になります。
「焼いていないから製造ではない」という理屈は通りません。混和・成型の設備を持つ時点で、商業地域より規制の緩い準工業地域以外では建築できない工場に当たるかどうかを確認する必要があります。
のちに本窯や粉砕機を増設する計画があるなら、増設前の既存不適格の扱いも含めて早めに確認しておくと計画が狂いません。
窯がない工房でも、もう陶磁器工場として数えられるんですね。
はい。
成型の設備を置いた時点で用途地域を確認してください。
住宅に併設する音楽教室はなぜ学習塾と同じ扱いになるのか

静かな住環境になじむのかという視点と、兼用住宅として認められる床面積の数え方の両方が問われています。
施行令が挙げる学習塾・華道教室・囲碁教室は、いずれも少人数で静かに通う教室という共通点があり、エレクトーン教室もこれに類する施設として扱われます。
現行の建築基準法施行令第130条の3でも、学習塾・華道教室・囲碁教室その他これらに類する施設は第一種低層住居専用地域内に建築できる兼用住宅の用途として第六号に引き続き挙げられています(当時の第5号は条文の整理により現行では第六号に移動しています)。
ただし兼用住宅として認められるのは、延べ面積の2分の1以上を居住に使い、兼用部分の床面積合計が50平方メートルを超えない場合に限られます。
長屋の一戸で教室を開く場合は、敷地全体ではなく各戸単位で床面積合計を数えるのが実務の扱いなので、増築や改装のたびにその戸だけの面積を確認してください。
ピアノ教室や習字教室も、同じように考えてよさそうですね。
考え方は同じです。
兼用部分が50平方メートルを超えないかだけ確認してください。
納骨堂はなぜ神社や寺院に附属するものとして建てられるのか

神社・寺院・教会に類する建築物に含まれるのか、それらに附属する建築物に含まれるのかが照会されています。
納骨堂そのものは宗教の教義を究め儀式行事を行う建築物ではないので、神社・寺院・教会そのものの号には入りません。
しかし、神社や寺院の敷地内にあって、その宗教施設に附属すると認められる納骨堂なら、附属建築物の号で建築が認められます。
この構造は現行法でも同じで、建築基準法別表第二(い)項では第五号に「神社、寺院、教会その他これらに類するもの」、第十号に「前各号の建築物に附属するもの」が引き続き分けて置かれています。
敷地が本堂と別であっても、同一の宗教法人が管理し儀式行事と結びついていれば「附属するもの」と認められる余地があるので、申請前に本堂との関係を図面と運用の両面で説明できるようにしておくと審査が早く進みます。
本堂から離れた場所に単独で建てると、話が変わってきますか。
変わります。
本堂との結びつきをどう説明するかが審査の分かれ目になります。
よくある質問
まとめ
名称ではなく実際の作業で見るんですね。
うちの敷地も一度見直してみます。
危険物の量、作業場の範囲、製造の始まり、教室の面積、附属の関係。
この5つを図面で確かめれば大きく外しません。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第48条・別表第二
- 建築基準法施行令第130条の3・第130条の9・第116条
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および行政実例に基づく一般的な解説です。質疑応答自体は過去のものですが、対応する現行の建築基準法・同施行令の条文を確認したうえで解説しています。個別の事案についての適用は、建築主事または所轄の特定行政庁にご確認ください。





