ハムやソーセージをつくる食肉加工の作業場や、協同組合が運営する小さな共同炊事場。
工場という響きとは縁遠いこれらの施設も、建築基準法の目には「工場」として映ることがあります。
判断の決め手は業種の名前ではなく、原動機の使用や作業場の床面積といった具体的な基準です。
今回は5つの実例から、この判定の仕組みを解説します。
うちは食肉加工の作業場なんですが、工場として規制されることなんてあるんですか。
業種の名前では決まりません。
原動機の使用と作業場の床面積で判断されます。
組合の炊事場や、屋根しかない車庫みたいな施設も当てはまるんですか。
まさにそのとおりです。
5つの実例を順番に見ていきましょう。
- 食肉加工(ハム・ソーセージの製造)は、たんぱく質の加水分解による製品の製造には当たらない
- 屑鉄の処理場でも、原動機を使用し作業場が基準の床面積を超えれば工場として規制される
- 組合員向けの共同炊事場も、原動機を使う調理施設なら工場として扱われる
- 床面積のない車庫でも建築基準法上の建築物に当たり、用途地域の制限を受ける
- 商業地域の肥料工場は特定行政庁の許可が無ければ建築できない
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目次
食肉加工はなぜたんぱく質の加水分解に当たらないのか

昭和28年、兵庫県からこんな照会がありました。
現在の建築基準法でも、別表第二(る)項一(十四)は準工業地域内に建築してはならない事業の一つとして「たんぱく質の加水分解による製品の製造」を挙げています。
これは味の素やカゼインのように、酵素などでたんぱく質を分解しアミノ酸の混合物を材料にする工業を指す規定です。
ハムやソーセージをつくる過程でも生肉に塩水を浸透させる際に似た作用が起きますが、これは製品そのものを作り出す本工程ではなく、加水分解に似ているだけの副次的な現象にとどまるとされました。
名前が似ている規制条文があっても、工程の中身まで確認しないと誤って自分の施設を重い規制対象だと思い込んでしまいます。
似たような言葉があるだけで、不安になっていました。
工程の中身まで確認すれば安心できます。
屑鉄の処理場はなぜ原動機と床面積だけで規制されるのか

昭和29年、静岡県からこんな照会がありました。
現在の建築基準法でも、別表第二(ぬ)項二号は商業地域内に建築してはならない建築物として「原動機を使用する工場で作業場の床面積の合計が150平方メートルを超えるもの」を挙げています。
屑鉄の処理は玩具煙火の製造やメッキのような列挙された個別の業種には入っていませんが、この号は業種名を問わない一般規定です。
マグネットクレーンやシャーリング盤のような原動機を使い、作業場が千六百平方メートルを超えていれば、商業地域はもちろん住居系の地域ではなおさら建てられません。
列挙リストに自分の業種が無いことは、規制対象外である証明にはならないということです。
一覧表に名前が無ければ大丈夫だと思っていました。
原動機の有無と床面積を必ず確認してください。
組合の共同炊事場はなぜ工場として扱われるのか

昭和38年、名古屋市からこんな照会がありました。
調理機器のような原動機を使用する作業場である以上、適用されるのは屑鉄処理場と同じ「原動機を使用する工場」の規定(第二種住居地域の別表第二(へ)項二号、準住居地域の(と)項二号、商業地域の(ぬ)項二号など)です。
給食を受け取るのが不特定多数の客ではなく組合員という限られた相手であっても、営利・非営利という目的は条文の判定要素に入っていません。
社内食堂や組合の炊事場を計画するときも、調理機器の原動機と作業場の床面積を一般の飲食店と同じ目で確認しておく必要があります。
組合員しか使わない施設なら、もっと緩いと思っていました。
誰が食べるかは関係なく判定されます。
床面積のない車庫もなぜ建築確認が必要なのか

昭和38年、長野県からこんな照会がありました。
建築基準法第2条第1号が定める「建築物」は、屋根及び柱若しくは壁を有する工作物を指しており、壁が無くても屋根と柱がそろえば該当します。
床面積ゼロと申告して確認を省くことはできず、第48条による用途地域内の建築物の制限をそのまま受けます。
床面積そのものは建築基準法施行令第2条第1項第三号により壁等の区画の中心線で囲まれた面積で算定しますが、壁の無い構造物では、自動車の格納という実際の使用状況から通常床として利用される面積を割り出して算入するという考え方が示されました。
屋根だけの簡易な工作物でも、確認申請を省略してよい理由にはならないということです。
壁が無ければ建築物じゃないと思っていました。
屋根と柱がそろえば建築物です。
注意してください。
商業地域の肥料工場はなぜ許可が要るのか

昭和32年、大分県からこんな照会がありました。
現在の建築基準法でも、別表第二(る)項一(十七)は準工業地域内でさえ建築してはならない事業として「肥料の製造」を挙げています。
商業地域の規定((ぬ)項一号)はこの準工業地域の禁止リストをそのまま引き継いでいるため、商業地域でも肥料工場は原則として建てられません。
それでも建築できたのは、第48条第10項ただし書きにもとづく特定行政庁の許可を受けたからで、延べ面積が五十平方メートルと小規模であることは許可の理由にはなっても、規制そのものを免れる理由にはなりません。
公共用地の一角を借りた計画でも、業種が列挙リストに載っていれば許可の手続きを飛ばすことはできないということです。
小さい工場だから大丈夫、とはいかないんですね。
業種が列挙されているかどうかが決め手です。
よくある質問
まとめ
うちの炊事場や車庫も、一度確認してみます!
図面と一緒に確認すれば迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第2条第1号、第48条第6項・第7項・第10項・第11項、別表第二(へ)項・(と)項・(ぬ)項・(る)項
- 建築基準法施行令第2条第1項第三号
- 食肉加工(ハム、ソーセージの製造)に関する照会(昭和28年3月24日 住指発第360号 建設省住宅局建築指導課長から兵庫県建築部長あて回答)
- 屑鉄の処理場に関する照会(昭和29年3月26日 住指発第496号 建設省住宅局建築指導課長から静岡県土木部長あて回答)
- 協同組合共同炊事場に関する照会(昭和38年12月18日 住指発第171号 建設省住宅局建築指導課長から名古屋市建築局長あて回答)
- 床面積のない自動車格納庫に関する照会(昭和38年5月30日 住指発第74号 建設省住宅局建築指導課長から長野県土木部長あて回答)
- 肥料製造工場に関する照会(昭和32年9月5日 住指受第878号 大分県土木部長あて回答)
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した照会・回答は昭和28年から38年当時のもので、別表の項・号の記号や機関の名称等は当時のものです。現行の別表第二における条文上の位置づけは編集部で現行条文に当てはめて解説しています。個別の事案についての適用は、所轄の特定行政庁または建築主事にご確認ください。





