病院や診療所の収容人員は、国の消防法施行規則では「従業者」「病床」「待合室」の3つを足すとしか書かれていません。
ところが、新生児の保育器を病床に数えるか、廊下に置いた長いすの部分をどこまで待合室とみるかは、消防本部の審査基準ごとに書き方が違います。
鴻巣市・桶川市・北本市を受け持つ埼玉県央広域消防本部の審査基準を軸に、鈴鹿市・四日市市・津市・堺市の基準と並べました。
保育器は埼玉県央広域・鈴鹿市が病床に含め、四日市市・堺市は病床から外していて、同じ建物でも人数が変わります。
鴻巣市で有床の産婦人科クリニックの防火管理を任されることになりました。
収容人員の数え方で、保育器や廊下の長いすをどうするのか迷っています。
埼玉県央広域の審査基準は、保育器も病床に含めると書いています。
廊下の待合は、建築基準法施行令の廊下の幅を引いて数えます。
市によって扱いが違うこともあるのですか。
保育器は四日市市と堺市が病床から外していて、逆の扱いです。
国の規則から順に、5つの消防本部の基準を見ていきましょう。
- 消防法施行規則第1条の3は(6)項イの収容人員を従業者・病床・待合室の3つの合算とだけ定めている
- 埼玉県央広域は診察室・治療室・手術室を病室に含めず、堺市は点滴室や透析室を病室に入れる表を置いている
- 未熟児の保育器は埼玉県央広域・鈴鹿市が病床に含め、津市は婦人科病院の場合に含めるとしている
- 四日市市と堺市は保育器を除いた乳幼児のベッドだけを病床に数える
- 廊下と兼用の待合は廊下の幅を引いた残りを数え、患者や見舞客が使う食堂も待合室の例で数える
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目次
病院や診療所の収容人員は何を足して数えるのか

収容人員の算定方法は、消防法施行令第1条の2第4項が総務省令に任せていて、消防法施行規則第1条の3の表が用途ごとに定めています。
令別表第一(六)項に掲げる防火対象物 イに掲げるもの
次に掲げる数を合算して算定する。
一 医師、歯科医師、助産師、薬剤師、看護師その他の従業者の数
二 病室内にある病床の数
三 待合室の床面積の合計を三平方メートルで除して得た数
「病室」とはどの部屋か、保育器は「病床」か、廊下に長いすを並べた部分は「待合室」か、といった中身は条文にありません。
この人数が、防火管理者を選ぶかどうか(施行令第1条の2第3項第1号ロの30人以上)、非常ベル等の設置(施行令第24条第2項第1号の20人以上)、避難器具の設置(施行令第25条第1項第1号の2階以上の階で20人以上)を決めます。
埼玉県央広域の算定例では、1階が従業者10人と待合室55平方メートルを3平方メートルで割った18人で28人、2階が従業者2人と病床18で20人、棟全体で48人になっています。
この例は割り算の小数点以下を切り捨てていて(18.3→18)、鈴鹿市は待合室が3平方メートルに満たないときは1人と数えるとしています。
数え方の小さな違いが20人や30人の境目をまたぐことがあるので、次の4つの論点を順に確かめていきます。
同じ診療所でも、数え方しだいで防火管理者が要るかどうかまで変わるのですね。
はい、まず病室に入る部屋から見ていきます。
診察室や手術室の扱いがポイントです。
病室に入るのはどの部屋なのか

埼玉県央広域消防本部の審査基準は、(6)項イの算定方法の表の下にイからキまでの取扱いを並べています。
イ 「病室」とは、患者を収容する部屋をいい、診察室、治療室又は手術室は含まれないものであること。
ウ 「病床」とは、収容患者の病床をいい、その数は、洋式の場合はベッドの数に対応する数であり、和式の場合は通常の使用状態における収容患者数によられたい。(昭和36年10月6日自消丙予発第25号)
埼玉県央広域は診察室・治療室・手術室を病室に含めず、鈴鹿市と津市は治療室と手術室を含めないと書いています。
堺市はさらに具体的で、医師等が患者に付き添って治療や検査を行う部屋は含まないとしたうえで、病室に当たる例(点滴室・人工血液透析室・回復室・重傷患者集中治療看護室・隔離室)と当たらない例(診察室・手術室・分娩室・心電室・レントゲン室・胃カメラ室)を表にしています。
堺市は「一般的な名称だけでは区分できない場合がある」とも書いていて、透析室のように治療に使う部屋でも、患者がベッドで過ごす部屋は病室側に入ります。
和室の病床は、埼玉県央広域と津市が通常の使用状態での収容患者数、鈴鹿市が旅館の和式の宿泊室の例、堺市が床面積の合計を3平方メートルで割った数で、ここも書き方が分かれます。
図面の各室に「病室」「病室でない」を書き込み、迷う部屋は名称ではなく患者がそこで過ごすかどうかで分けておくと、届出の数字を説明しやすくなります。
透析室は病室に入る、と表で示されると分かりやすいですね。
堺市の表は名称より使い方で見るための手がかりになります。
次は保育器です。
新生児の保育器は病床に数えるのか

ここは5つの消防本部で書き方がはっきり2つに分かれています。
エ 未熟児を収容する保育器及び乳幼児のベッドについても「病床」に含まれるものであること。
四日市市消防同意事務審査基準 第1章((6)項イの収容人員・抜粋)
2 病室内にある病床の数(産婦人科病院の場合にあっては、未熟児を収容する保育器を除いた乳幼児のベッドを病床数とする。)
| 消防本部 | 保育器 | 乳幼児のベッド |
|---|---|---|
| 埼玉県央広域(鴻巣市など) | 病床に含む | 病床に含む |
| 鈴鹿市 | 病床に含む | 病床に含む |
| 津市 | 婦人科病院の場合は病床に含む | 婦人科病院の場合は病床に含む |
| 四日市市 | 産婦人科病院の場合は病床から除く | 病床に数える |
| 堺市 | 病床から除く | 病床に数える |
埼玉県央広域と鈴鹿市は保育器も乳幼児のベッドも病床に含むとし、津市は婦人科病院の場合に含むと書いています。
四日市市は産婦人科病院の場合に、堺市は乳幼児の病床全般について、保育器を除いた乳幼児のベッドの数を病床数とするとしています。
仮に産婦人科の病院の2階に一般のベッド10床・保育器3台・新生児用ベッド6台・看護師等2人がいるとすると、埼玉県央広域と鈴鹿市の数え方では21人、四日市市と堺市の数え方では18人になり、施行令第25条第1項第1号の20人をはさんで結果が分かれます。
原本のページで確かめると、埼玉県央広域のエにも鈴鹿市のウにも行政指導を示す▲や●は付いておらず、四日市市のこの欄にも行政指導を示す下線はありません。
新生児室のある階は、保育器の台数とベッドの台数を分けて数えておき、建物のある市の基準でどちらを足すかを決めます。
保育器が3台あるかどうかで、避難器具の要否が変わることもあるのですね。
はい、境目に近い階は両方の台数を控えておくと安心です。
次は廊下の待合です。
廊下と兼用の待合はどこまで待合室に入るのか

この部分をまるごと待合室とみるのか、廊下の分を差し引くのかを、各市の基準が決めています。
オ 料金の精算、診療等のための待合の用に供する部分で廊下との間に明確な区画がない場合は、建基令第119条に規定する廊下の最小幅員以外の部分の床面積をもって、「待合室」の例により算定すること。(昭和48年10月23日消防予第140号消防安第42号)
廊下の幅は、それぞれ次の表に掲げる数値以上としなければならない。
病院における患者用のもの(略) 両側に居室がある廊下における場合 一・六メートル その他の廊下における場合 一・二メートル
埼玉県央広域と鈴鹿市は建築基準法施行令第119条の廊下の最小幅員を引くと書き、四日市市と堺市は両側に居室がある場合1.6メートル、その他の場合1.2メートルと数字で書いていて、中身は同じです。
たとえば両側に病室が並ぶ幅2.8メートル・長さ10メートルの廊下を待合に使っているなら、1.6メートルを引いた1.2メートル幅の12平方メートルが待合室になり、3平方メートルで割って4人です。
廊下に接続するロビーを待合に使う場合は、四日市市と堺市がそのロビー部分の床面積を待合室とすると書いています。
堺市は診療室の中を待合に使う部分も待合室の床面積に入れるとし、四日市市は待合室にいすがあっても3平方メートルで1人とすると書いています。
津市の基準には廊下と兼用の待合の書き方がないので、津市の物件は管轄の消防署に確かめます。
長いすの数ではなく、床面積で数えるのですね。
はい、いすの数は使わないと書いている市もあります。
最後に食堂と予約制の診療所を見ます。
食堂や予約制の診療所はどう数えるのか

患者や見舞客が使う食堂と、予約制の診療所の扱いは各市の基準がそろって書いています。
カ 患者、見舞客等が利用する食堂の部分は、「待合室」の例により算定すること。
キ 予約診療制度を実施している診療所等についても省令第1条の3の規定によって、算定すること。
| 論点 | 埼玉県央広域 | 鈴鹿市 | 四日市市 | 津市 | 堺市 |
|---|---|---|---|---|---|
| 病室の範囲 | 診察室・治療室・手術室を含まない | 治療室・手術室を含まない | 記載なし | 治療室・手術室を含まない | 付き添って治療や検査を行う部屋を含まない(例の表あり) |
| 和室の病床 | 通常の使用状態の収容患者数 | 和式の宿泊室の例 | 記載なし | 通常の使用状態の収容患者数 | 床面積を3㎡で割った数 |
| 保育器 | 病床に含む | 病床に含む | 産婦人科病院は除く | 婦人科病院は含む | 除く |
| 廊下と兼用の待合 | 建基令119条の最小幅員を引く | 建基令119条の最小幅員を引く | 1.6mか1.2mを引く | 記載なし | 1.6mか1.2mを引く |
| 食堂 | 待合室の例 | 待合室の例 | 記載なし | 待合室の例 | 待合室の例 |
| 予約制の診療所 | 規則第1条の3で算定 | 規則第1条の3で算定 | 記載なし | 記載なし | 規則第1条の3で算定 |
埼玉県央広域・鈴鹿市・津市・堺市が食堂を待合室の例で数えるとしていて、堺市は昭和52年1月6日消防予第3号を根拠に示す◆①の印を付けています。
予約制で待合が混まない診療所でも、埼玉県央広域・鈴鹿市・堺市は規則第1条の3のとおり待合室の床面積で数えるとしています。
四日市市はこの欄で、リハビリ室等は床面積を3平方メートルで割った数とすると書いています。
埼玉県央広域のイからキまでには、行政指導を示す▲や●は付いていません。
届出の前に、病室・保育器・待合・食堂の4つを図面の上で色分けし、表の自分の市の列で1つずつ数え直しておくと、消防署とのやり取りがすぐ終わります。
つまり部屋の名前ではなく、誰がどう使うかで数えるのですね。
そうです、自分の市の列で数え直してみてください。
迷う部屋は管轄の消防署に確かめましょう。
よくある質問
まとめ
まずは図面で病室と待合を色分けしてみます!
建物のある市の審査基準で人数を数え直しましょう。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行令 第1条の2・第24条・第25条(e-Gov法令検索)
- 消防法施行規則 第1条の3(e-Gov法令検索)
- 建築基準法施行令 第119条(e-Gov法令検索)
- 埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準 第2章 第2 収容人員の算定(埼玉県央広域消防本部)
- 鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準 第2章 第2 収容人員の算定(鈴鹿市消防本部)
- 四日市市消防同意事務審査基準 第1章(四日市市消防本部)
- 津市予防事務審査検査基準 1-2 収容人員の算定(津市消防本部)
- 堺市消防同意・消防用設備等審査基準 第7 収容人員の算定(堺市消防局)
※本記事は公表されている法令および各消防本部の審査基準に基づく一般的な解説です。運用基準・条例は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防本部でご確認ください。個別の判断は管轄の消防署にご相談ください。





