共同住宅の一室を借りている入居者にも、契約上の賃借権があります。
消防から使用禁止命令が出たとき、名宛人とされた側は「入居者の権利があるから、退去させる内容には従えない」と考えたくなるかもしれません。
けれども、この言い分がそのまま通用するとは限りません。
共同住宅をめぐる使用禁止命令の裁判で、この抗弁がどう扱われたのかを解説します。
うちのアパートは家具も置かず短期で住む人が多いんです。
使用禁止命令が出ても、入居者の賃借権があるから従えないと言えませんか。
残念ながら、それだけでは履行を拒む理由にはなりません。
実際にそう主張して退けられた裁判例があります。
命令は誰に届くんですか。
所有者だけですか、それとも入居者にも来るんですか。
実は両方に届きます。
今日はその判決の中身を見ていきましょう。
- 使用禁止命令の名宛人は所有者・管理者に限らず、共同住宅の入居者も含まれます
- 所有者・管理者・入居者はいずれも受命者適格を持ち、違うのは履行方法だけです
- 命令の名宛人は「入居者に賃借権があるから履行できない」と主張しましたが、この抗弁は退けられました
- 入居者の賃借権が一時使用目的の短期的なものにすぎないと認定されたことが決め手になりました
- 消防法の措置命令が持つ公益性・緊急性の前では、賃借権は履行に必要な限度で制限を受けます
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目次
どんな共同住宅が使用禁止命令の対象になったのか

命令の名宛人とされた側は、これに従わなかったとして罪に問われました。
- 建物は共同住宅で、入居者の多くは長期に居住するつもりがなく、出入りがかなり頻繁だった
- 家具や寝具さえ持たない入居者も少なくなかった
- 賃料は日払いか、10日ないし半月程度の短期間払いで、敷金・権利金は支払われていなかった
- 建物はその実質において簡易宿泊所に類似し、入居者のほとんどは借家法第8条にいう一時使用のための賃借権を有するにすぎないと認定された
出入りの多さや短期払いの賃料は、簡易宿泊所に近い使われ方をしていたことを示しています。
この実態が、のちに賃借権の性質を判断するときの重要な材料になりました。
だからこそ、命令が誰に届くのかという争点が生まれます。
短期の入居者が多い建物だったんですね。
うちのビルにも似たような部屋があります。
その使われ方が、あとの判断に影響してきます。
使用禁止命令はだれに届くのか

今回の事件では、この「関係者」の範囲そのものが争われました。
裁判所は、建物を実際に使用している入居者も「権原を有する関係者」に含まれると判断しました。
つまり、所有者・管理者・入居者が別々に存在する共同住宅では、命令が及ぶ範囲を一人だけに絞り込めないということです。
次に、この判断がどこまで広がるのかを見ていきます。
うちの建物は管理会社に任せていますが、入居者にも命令が届くことがあるんですか。
はい、届く可能性があります。
それで管理会社の責任が消えるわけではありません。
入居者にも受命者適格が認められたのはなぜか

この建物には、所有者・管理者・入居者という複数の立場の人が関わっていたからです。
所有者・管理者・入居者のいずれもが、それぞれの立場で受命者適格を持ち得ます。
違うのは、命令の内容をどう履行するかという方法だけです。
「自分は入居者ではないから関係ない」という主張は、これだけでは通らないということです。
複数の人に受命者適格があるなら、誰が履行を進めればいいんですか。
押し付け合いになりそうで心配です。
実務上は、建物を管理する立場の方が中心になります。
次は、実際に退けられた言い分を見てみましょう。
賃借権があるから従えないという言い分はなぜ通らなかったのか

この抗弁を、裁判所はどう判断したのでしょうか。
裁判所は、入居者の賃借権が長期の居住を前提としない一時的なものだったという実態に着目しました。
そのうえで、消防法の措置命令が持つ公益性・緊急性を踏まえれば、入居者の権利は命令の履行に必要な限度で制限を受けると判断しました。
「権利があるから従えない」という言い分は、そのままでは通らないということです。
入居者の権利を盾にして先延ばしにするのは、やっぱり危ないんですね。
うちも同じことを考えたかもしれません。
賃借権の性質や建物の実態次第では、同じように判断される可能性があります。
権利を理由にした先延ばしは、リスクだと考えてください。
命令を受けたら明日から何をすればよいのか

命令を受けてから慌てないために、平時からできることもあります。
- 使用禁止命令を受けたら、まず自分がどの立場(所有者・管理者・占有者)で受命者適格を持つのかを確認する
- 入居者がいる建物では、入居者の賃借権を理由に履行を拒めないことを前提に、退去や是正のスケジュールを組む
- 短期利用・簡易宿泊所的な運用をしている建物ほど、この判決の考え方が当てはまりやすいと考えて備える
- 命令の履行方法に迷ったら、所轄消防署に相談し、いつまでに何をするかを確認する
- 平時から消防計画に、命令を受けた場合の連絡体制と入居者への周知手順を盛り込んでおく
使用禁止命令は複数の立場の人に及ぶ可能性があることを前提に、平時から連絡体制を整えておくことが大切です。
入居者の権利を理由に先延ばしできるという誤解は、この判決を機に見直しておきましょう。
迷ったときは自己判断せず、所轄消防署に確認することが一番の近道です。
命令が来る前に確認しておくべきことが、よく分かりました。
まずは消防計画を見直してみます。
それが一番の近道です。
迷ったときはいつでもご相談ください。
よくある質問
まとめ
命令が来たときに誰が対象になるのか、イメージできました。
ありがとうございます。
受命者適格は複数の立場に及ぶことを覚えておいてください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 昭和48年4月10日 大阪地方裁判所判決
- 消防法第5条(当時)=現行の消防法第5条の2に相当
- 消防法第39条の2の2・第45条
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(所有者・管理者・入居者など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





