危険物の規制に関する政令第23条の基準の特例は、基準に合わない施設を救う条文です。
ただし何でも通るわけではありません。
戦時中の防空ごうを利用してトンネルの中に油庫を作れるのか。
化学消防車を3台常備していれば固定の消火設備の代わりになるのか。
屋外貯蔵タンクの保有空地に水幕装置を付ければ建物を建てられるのか。
昭和40年から昭和44年にかけての5つの質疑のうち、特例が認められたのは1件だけでした。分かれ目がどこにあったのかを解説します。
敷地がのうて、屋外貯蔵タンクの保有空地の中に建物置きたいねん。
延焼防止の設備付けたら政令第23条で通らへんかな?
そこは2度たずねられて2度とも否定されています。
昭和44年には水幕装置まで示して照会されましたが、そのような措置を講じても許可することはできないという回答でした。
ほな政令第23条で通ったやつは何なん?
旧防空ごうのトンネルに油庫作る話が通ったって聞いたんやけど。
そのとおりです。
出入口に防火シヤッター等を設けることにより災害による被害を最少限度に止めることができると認められる場合は認めて差し支えないとされました。通った1件と通らなかった4件を並べて解説します!
- ビルの地階のタンク専用室は一の出入口を供用しているから別個のタンク専用室とは認められず計画を変更して出入口を個別に設けなければならない
- 化学消防車や消防詰所などの自衛消防装備について政令第23条を適用することは適当でない
- ただし消火設備は既設の屋外消火栓設備に泡を放射できる器具を設置した設備をもって第3種消火設備に代えるのが適当とされた
- 旧防空ごうを利用した屋内貯蔵所は出入口に防火シヤッター等を設けることにより災害による被害を最少限度に止めることができると認められる場合は認めて差し支えない
- 屋外貯蔵タンクの保有空地内への一般取扱所の設置は政令第23条の規定を適用すべきでない
- 水幕装置を設けて延焼防止の措置を図っても設問のような措置を講じても許可することはできない
- 認められたのは区画と出入口で被害を止められることを構造で示した1件だけ
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目次
ビルの地階のタンク専用室は出入口を個別に設けなければならない

静岡県の総務部長から、静岡市消防長を経由して、ビルの地階に危険物貯蔵所および取扱所を設置する計画についての照会がありました。
設置場所は新静岡ターミナルビル地階の一部で、ボイラーおよび発電用エンジンの燃料油貯蔵タンクです。危険物品名は第四類第三石油類の重油、最大数量19,500リットル、同規模の貯蔵所を2箇所設ける計画でした。
疑義があったのは屋内タンク貯蔵所の数え方です。タンク専用室間の間仕切壁は耐火構造とし、その一部に出入口として甲種防火戸を設けるのですが、一のタンク専用室を経なければ次のタンク専用室に出入りすることができない構造になっていました。照会側は3つの読み方を並べて判断を求めています。
- 間仕切壁により区画されているから、それぞれ別個のタンク専用室(二つの屋内タンク貯蔵所)と解する
- 一の出入口を供用しているから別個のタンク専用室とは認められず、計画を変更して出入口を個別に設けなければならない
- 危険物の危険度および構造上から考慮して、政令第23条を適用してよい
耐火構造の壁と甲種防火戸だけでは足りませんでした。奥の部屋に入るために手前の部屋を通らなければならない以上、2つの室は出入口を共用していることになります。
3番目の政令第23条を適用してよいという選択肢は取られていません。計画を変更して出入口を個別に設けるという、構造そのものを直す答えが返っています。
区画とは壁だけの話ではなく、出入りの経路まで含めて独立しているかどうかで見るという整理です。
化学消防車などの自衛消防装備は固定消防用設備の代わりにならない

和歌山県の総務部長から、1日の精油量127,000バーレル、敷地面積227,000平方メートルという石油精製工場についての照会がありました。
申請されたのは、遠く離れたサービスタンクから鋼管で配管し、重力を利用して一度に8台の移動タンク貯蔵所へ積み込み出荷できる一般取扱所です。取り扱う危険物は第四類第一石油類1,150キロリットル、第二石油類900リットル、第三石油類1,150キロリットル。工作物は断面Y型の鉄骨造り亜鉛引き鉄板ぶきの上屋とコンクリート造りの作業台でした。
照会側が示した自衛消防装備は具体的です。設置場所から100メートル離れた見通し可能で直線に自動車の走行できる場所に、化学消防車3台と消火薬剤および保安要員を常備する消防詰所があります。さらに設置場所を中心とした半径100メートル内に地上式消火栓が4箇所あり、毎時144トンの送水が可能でした。
これらをもって固定消防用設備とみなし、政令第23条を適用して許可を与えてよいかという問いです。
車と人は設備の代わりにはなりません。化学消防車も消防詰所も、そこに置き続ける義務がなく動かせてしまいます。施設に固定された設備であることが求められる場面で、動かせるものを同等とは扱えないという線引きです。
ただし回答はここで終わっていません。既設の屋外消火栓設備に泡を放射できる器具を設置した設備をもって第3種消火設備に代えるのが適当という代替案が添えられました。
否定して終わりではなく、すでにある固定設備に手を加えて基準を満たす道が示されています。
旧防空ごうの屋内貯蔵所は防火シヤッター等で被害を止められるなら認められる

長崎県の総務部長から、三菱電機長崎製作所が旧防空ごうであるトンネルを利用して第二石油類および第三石油類を貯蔵する屋内貯蔵所を設置したいと申し出た件について照会がありました。
この照会は、添えられた資料の細かさが際立っています。
- トンネルの構造 工場北側の横穴式掘抜きの旧防空ごうで、天井と壁ともにセメントを吹き付け、さらに処々をコンクリートで補強した岩盤から成る。天井から地盤までの厚さは約3メートル、内部の高さは地盤上3.1メートル、幅は4メートル。コの字型に区画された横穴二つを連結する面積438平方メートルの部分を使用する
- 床と排水 床はコンクリートで舗装し、片側に幅20センチメートル深さ15センチメートルの排水溝を設け、油庫3箇所の出入口に油分離槽を設ける
- 湧水 ほとんどない。滞水や浸水についても特別の措置は必要ないと認められる
- 換気設備 東入口に吸入1基、他の2箇所に排気2基、それぞれ52立方メートル毎分の換気能力を有する4分の1馬力の換気扇。さらに南中央部に30馬力1,200立方メートル毎分の換気扇を設け、4基とも終日運転する
- 貯蔵する危険物 第二石油類の絶縁ワニス13キロリットル、第三石油類の潤滑油と重油20キロリットル。いずれも200リットルドラム缶に入れ、壁に沿うて1列に並べて貯蔵し段積みはしない。出し入れは東入口から手押車で行ない、詰替えや混合等の取扱いはしない
- 電気設備と消火設備 金属管配線防爆器具を使用し、開閉器は東入口トンネルの外に設ける。トンネル東側入口付近に泡100リットル入り大型消火器2個と泡10リットル入り4個、工場内には大型消火器15個、自衛消防隊員39名、消防ポンプ車1台
- 管理 トンネル内の巡回警備は1時間に1回程度、油庫内のガス測定は朝夕2回、保安係員によって確実に実施する
そのうえで、現状のままで政令第23条を適用し許可できるか、許可し難いとすれば貯蔵危険物の品名や数量を減ずること、固定消火設備および自動火災報知装置の設置をすること、その他の方法によれば適用できるかと質疑しています。
これだけの資料が添えられたなかで、回答が指定したのは出入口の防火シヤッター等の一点でした。
求められたのは被害を閉じ込める仕切りです。トンネルは煙も熱も逃げ場がなく、外へ出る口も限られます。換気扇の能力や巡回の頻度をどれだけ積み上げても、火が出たあとに広がりを止めるものがなければ足りないという判断です。
数量を減らすことや自動火災報知装置といった照会側の案には触れられていません。被害を最少限度に止めることができると認められるかという基準だけが示されています。
屋外貯蔵タンクの保有空地内に一般取扱所を置くことは認められない

同じ静岡県の総務部長から、今度は保有空地についての照会が出されました。
屋外貯蔵タンクに貯蔵中の危険物である第四類第三石油類のC重油を、移動貯蔵タンクに充てんする設備を設けたいという計画です。この設備は一般取扱所にあたります。
問題は場所でした。適当な敷地がないため、屋外貯蔵タンクの保有すべき空地内に設置したいという申し出があり、政令第23条を適用して空地の幅を緩和して許可してよいかという問いです。
理由は付されていません。ひとことで否定されています。
敷地がないことは理由になりませんでした。保有空地は屋外貯蔵タンクの周囲を何も置かない状態で保つための規定で、そこに施設を建てるということは空地をなくすことと同じです。
前の記事で見た隧道内やダム工事の河原での貯蔵は、基準を当てはめようがない場所だから特例が働きました。ここは基準を当てはめることはできるが敷地の都合で外したいという話で、性質が違います。
水幕装置で延焼防止の措置を図っても保有空地の軽減は許可できない

4年後、岡山県の総務部長から同じ論点でより踏み込んだ照会が出ています。
管下消防長からの照会として、一般取扱所の設置申請があったが、当該場所は隣接する既設屋外タンク貯蔵所の保有空地に抵触しているという事案です。原油タンク2基の保有空地にかかっていました。
今回は対策が具体的でした。一般取扱所が屋外貯蔵タンクに面する側に水幕装置を設け、延焼防止の措置を図った場合、取扱所における危険物の取扱方法ならびに周囲の状況等を考慮して政令第23条の特例を適用し許可することができますか、という問いです。
なお、この一般取扱所は製油所において石油類をドラム罐充填作業から出荷までの過程で容器入りのまま野積み状態で取り扱うもので、昭和36年5月10日付け自消甲予発第25号通達第2および第3号に該当する施設、取扱量は第一石油類2,400キロリットル、第二石油類1,200キロリットルと説明されています。
水幕装置という具体的な設備を示し、取扱方法や周囲の状況まで挙げても結論は変わりませんでした。
保有空地は代替措置を積んでも埋められません。
ここが旧防空ごうの事例との分かれ目です。トンネルの屋内貯蔵所は基準がそのまま当てはまらない場所で、防火シヤッター等が基準の目的を別の形で果たしました。保有空地は基準そのものを外す話で、空地を空地でなくしてしまえば代わりになるものがありません。
よくある質問
まとめ
- ビルの地階のタンク専用室は、一の出入口を供用していると別個のタンク専用室とは認められず、計画を変更して出入口を個別に設けなければならない
- 化学消防車や消防詰所などの自衛消防装備について、政令第23条を適用して固定消防用設備とみなすことは適当でない
- 消火設備は既設の屋外消火栓設備に泡を放射できる器具を設置した設備をもって、第3種消火設備に代えるのが適当とされた
- 旧防空ごうを利用した屋内貯蔵所は、出入口に防火シヤッター等を設けて災害による被害を最少限度に止めることができると認められる場合は認めて差し支えない
- 屋外貯蔵タンクの保有空地内への一般取扱所の設置には、政令第23条の規定を適用すべきでない
- 水幕装置を設けて延焼防止の措置を図っても、そのような措置を講じても許可することはできない
- 基準を当てはめようがない場所は特例が働くが、基準を当てはめられるのに敷地の都合で外したいという話は通らない
資料をどんだけ厚くしても、通らんもんは通らんねんな。
厚さよりも、その基準が何のためにあるかに答えているかどうかです。
旧防空ごうは被害を止める仕切りを足せましたが、保有空地は空地であること自体が目的なので足すものがありません。
参考・出典
- 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第11条・第12条・第19条・第23条 e-Gov法令検索
- ビルの地階に危険物貯蔵所および取扱所を設置することについて(昭和40年5月4日付け自消丙予発第83号 予防課長から静岡県総務部長あて回答)
- 一般取扱所設置に伴う自衛消防装備について(昭和40年6月9日付け自消丙予発第133号 予防課長から和歌山県総務部長あて回答)
- 旧防空ごうを利用して屋内貯蔵所を設置することについて(昭和40年7月9日付け自消丙予発第119号 予防課長から長崎県総務部長あて回答)
- 一般取扱所を屋外貯蔵タンクの保有空地内に設置することについて(昭和40年10月22日付け自消丙予発第167号 予防課長から静岡県総務部長あて回答)
- 屋外タンク貯蔵所の保有空地の軽減について(昭和44年7月17日付け消防予第194号 予防課長から岡山県総務部長あて回答)
- 「危険物の規制に関する政令第23条の特例基準について」(昭和36年5月10日付け自消甲予発第25号 各都道府県消防主管部長あて予防課長通達)記第2
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)基準の特例に関する質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事は2026年8月時点の法令解釈に基づく一般的な解説です。個別の運用については所轄消防署にご確認ください。




