危険物を扱う製造所や貯蔵所の屋内消火栓設備は、ポンプを電動機で動かすのがふつうです。
ところが、停電時の信頼性や設置環境の都合で、内燃機関(エンジン)を原動機にしたいという相談があります。
実はエンジン駆動のポンプ自体は以前から認められていましたが、その構造や性能を定めた基準が長らくありませんでした。
消防庁は機能維持を図るため、ポンプの構造から表示まで独自の基準を定めています。
うちの製造所、屋内消火栓のポンプを電動機からエンジン駆動に替えたいんですが、普通の消火設備と同じ扱いでいいですよね。
いいえ、危険物施設のエンジン駆動ポンプには専用の構造性能基準があります。
エンジンだと、自家発電設備みたいにまた別の基準が出てくるということですか。
そのとおりです。
ポンプ本体と内燃機関それぞれに基準があるので、まずは一緒に見ていきましょう。
この記事の結論
- 危険物施設の屋内消火栓設備・屋外消火栓設備・スプリンクラー設備・水蒸気消火設備・水噴霧消火設備・泡消火設備に使う加圧送水装置は、内燃機関(エンジン)を原動機にしてもよい
- ただしエンジン駆動のポンプには、専用の構造・材質・性能・耐圧・表示の基準が定められている
- ポンプの性能は、定格吐出量における全揚程が定格全揚程の100パーセント以上125パーセント以下であることなど、独自の数値で判定する
- 「定格全揚程」は、消防法施行規則が定める計算式で求める全揚程とは異なる場合がある
- 内燃機関そのものは、自家発電設備の基準等に適合するものを使う必要がある
▼
危険物施設のエンジン駆動ポンプはなぜ基準を定められたのか
内燃機関を原動機とする加圧送水装置は、実は基準が定められる前から使われていました。
消防庁が個別の照会に「差し支えない」と答えてきた運用が先にあったのです。
内燃機関を原動機とする加圧送水装置の構造及び性能の基準について(平成4年3月25日 消防危第26号 消防庁危険物規制課長) 危険物の規制に関する政令第20条の規定に基づき、製造所等に設ける消火設備のうち屋内消火栓設備等に用いる加圧送水装置の原動機として内燃機関を用いることについては、「危険物規制事務に関する執務資料(給油取扱所を除く)の送付について」(平成元年7月4日付け消防危第64号各都道府県消防主管部長あて消防庁危険物規制課長通知)において差し支えない旨回答しているところであるが、当該内燃機関を原動機とする加圧送水装置の機能維持を図るため、今般、加圧送水装置の構造、材質、性能等について別添のとおり基準を定めた。
この通知が出るまで、エンジン駆動ポンプの可否は答えられても、構造や性能の物差しがありませんでした。
発出元は
消防庁危険物規制課長で、宛先は都道府県の消防主管部長です。
平成13年にも一部が改正されており、告示の様式変更にあわせて内容が更新されています。
つまりこの基準は、現場の運用を後追いで整えた技術基準だといえます。
それまではエンジン駆動のポンプ、どうやって設置していたんですか。
個別の照会に差し支えないと回答する運用でした。
今はこの基準で統一されています。
どんな消火設備の加圧送水装置が対象になるのか
対象になるのは、
政令が定める第1種・第2種・第3種の消火設備に用いる加圧送水装置です。
消火剤ではなく、水や泡を送るポンプ側の基準だという点がポイントです。
(危険物の規制に関する政令第20条)消火設備の技術上の基準は、次のとおりとする。一 製造所、屋内貯蔵所、屋外タンク貯蔵所、屋内タンク貯蔵所、屋外貯蔵所、給油取扱所及び一般取扱所のうち、(略)火災が発生したとき著しく消火が困難と認められるもので総務省令で定めるもの並びに移送取扱所は、(略)別表第五に掲げる対象物について同表においてその消火に適応するものとされる消火設備のうち、第一種、第二種又は第三種の消火設備並びに第四種及び第五種の消火設備を設置すること。(略)
(別添「内燃機関駆動による加圧送水装置等の構造及び性能の基準」第1 趣旨)この基準は、危険物の規制に関する政令第20条の規定に基づく、第一種、第二種又は第三種の消火設備のうち、屋内消火栓設備、屋外消火栓設備、スプリンクラー設備、水蒸気消火設備、水噴霧消火設備及び泡消火設備に用いる加圧送水装置のうち、内燃機関を原動機とするポンプを用いる加圧送水装置等(以下「加圧送水装置等」という。)に関する基準を定めるものとする。
水系の消火設備であれば、幅広くこの基準の対象になります。
不活性ガス消火設備やハロゲン化物消火設備、粉末消火設備は
この基準の対象には含まれません。
移動式の消火設備であっても、内燃機関を原動機とするポンプを使う以上は対象になります。
まずは自分の施設のポンプが、この六種類のどれに使われているかを確認するのが最初の一歩です。
うちは屋外消火栓と泡消火設備、両方にエンジンポンプを使ってるんですが、それぞれ別の基準になるんですか。
いいえ、同じ一つの基準が両方に共通して適用されます。
基準はポンプの何を定めているのか
基準が定めているのは、構造・材質・性能・耐圧・表示の五つです。
どれも数値や規格で具体的に示されています。
(同基準第3 ポンプ)1 構造(略)確実に作動するもので、機械的に十分な耐久性を有し、取扱操作、点検及び部品の取替えが容易にできるものであること。(略)さびの発生するおそれのある部分は、有効な防錆措置を施し、また、地上に設置するポンプ及びベッドの外部には仕上塗装を施したものであること。(略)3 性能 (1)ポンプの吐出量及び全揚程は、別図に示す性能曲線上において、(略)当該ポンプに表示されている吐出量(以下「定格吐出量」という。)における性能曲線上の全揚程は、当該ポンプに表示されている全揚程(以下「定格全揚程」という。)の100パーセント以上、125パーセント以下であること。(略)ウ 締切全揚程は、定格吐出量における性能曲線上の全揚程の140パーセント以下であること。 4 耐圧 ポンプ本体は、最高吐出圧力(略)の1.5倍以上の圧力を3分間加えた場合、各部に漏れ等の異常が生じないものであること。
吐出量と全揚程は、ポンプに表示された数値そのものではなく、性能曲線とのバランスで確認します。
材質も、羽根車やケーシング、ポンプ軸ごとに
対応するJIS規格が細かく指定されています。
耐圧試験は、最高吐出圧力の1.5倍以上を3分間加えて漏れが生じないことを確かめる試験です。
これらは電動機駆動のポンプとほぼ同じ考え方ですが、内燃機関ならではの項目も別に加わります。
性能曲線って、カタログの数値をそのまま信じちゃだめなんですか。
表示だけでなく、曲線全体との整合を見る必要があります。
定格全揚程で見落としやすいのはどこか
いちばん見落としやすいのは、「全揚程」という同じ言葉の中身が違うことです。
点検票の数値をそのまま比べると、食い違って見えることがあります。
(同基準第3 ポンプ3(1)なお書)なお、この場合の定格全揚程とは、定格吐出量におけるポンプ固有の全揚程をいい、消防法施行規則第12条第1項第7号ハ(ロ)及び同条第2項第6号、第14条第1項第11号ハ(ロ)、第16条第3項第3号ハ(ロ)並びに第18条第4項第9号ハ(ロ)に定める式により求めるポンプの全揚程とは異なる場合がある。
(同基準第2 用語の定義 9)内燃機関 自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)及び「消火設備及び警報設備に係る危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令の運用について」(平成元年3月22日付け消防危第24号各都道府県消防主管部長あて消防庁危険物規制課長通知)別紙「消火設備及び警報設備に関する運用指針」(以下「運用指針」という。)第2・6に規定する内燃機関に適合するものをいう。
「定格全揚程」はポンプ固有の性能値であって、規則の計算式で求める全揚程とは別物だと理解しておくことが大切です。
両方の数値を混同すると、
点検結果が基準に適合しているかどうかを誤って判断しかねません。
さらに、内燃機関そのものは
自家発電設備の基準という、また別の基準に適合するものを使う決まりです。
ポンプ側と原動機側で参照する基準が分かれている、という構造を押さえておくと迷いません。
点検業者さんの報告書に書いてある全揚程が、うちの計算と合わなくて焦ったことがあります。
それは異なる二つの全揚程を比べていたのかもしれません。
どちらの数値か確認してみましょう。
明日から何を確認すればよいのか
エンジン駆動ポンプを設置している、あるいは導入を検討している場合は、次の点を確認してください。
どれも点検や更新のたびに見返しておきたい項目です。
(同基準第3 ポンプ5 表示)ポンプには、次に掲げる事項をその見やすい箇所に容易に消えないよう表示すること。(1)製造者名又は商標 (2)品名及び型式記号 (3)製造年 (4)製造番号 (5)定格吐出量、定格全揚程(範囲を有する場合は最小吐出量、最小吐出量における全揚程及び最大吐出量、最大吐出量における全揚程) (6)吸込口径、吐出口径(吸込及び吐出口径が同一の場合は一つの表示とすることができる。) (7)段数(ただし、多段ポンプの場合)
まず、ポンプ本体の銘板に7項目の表示がそろっているかを確認します。
次に、
定格吐出量と定格全揚程の表示を点検報告書の実測値と突き合わせます。
内燃機関については、自家発電設備の基準に適合する機関を使っているかを施工時の資料で確認します。
最後に、耐圧試験や性能試験の記録が
この基準の数値で判定されているかを点検業者に確認しておきます。
もう何年も前に設置したポンプなんですが、今からでも確認したほうがいいですか。
はい、銘板の表示と点検記録だけでも見比べてみましょう。
そこから確認を始められます。
よくある質問
Q内燃機関を原動機とする加圧送水装置はどんな消火設備に使えるのか?
A屋内消火栓設備・屋外消火栓設備・スプリンクラー設備・水蒸気消火設備・水噴霧消火設備・泡消火設備に用いる加圧送水装置で使うことができます。政令が定める第一種・第二種・第三種の消火設備が対象です。
Q内燃機関そのものにも基準はあるのか?
Aあります。内燃機関自体は自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)等に適合するものを使う必要があり、加圧送水装置の基準とは別の基準を参照します。
Qポンプの吐出量や全揚程はどうやって確認すればよいか?
Aポンプに表示された定格吐出量における性能曲線上の全揚程が、定格全揚程の100パーセント以上125パーセント以下であることなど、性能曲線を使って確認します。
Q定格全揚程は消防法施行規則の計算式で求めた全揚程と同じ数値になるのか?
A同じとは限りません。定格全揚程はポンプ固有の性能値であり、消防法施行規則が定める式で求める全揚程とは異なる場合があります。
まとめ
✔危険物施設の屋内消火栓設備等に用いる加圧送水装置は、内燃機関を原動機としてもよい。
✔内燃機関駆動のポンプには、専用の構造・材質・性能・耐圧・表示基準がある。
✔ポンプの性能は、定格吐出量における全揚程が定格全揚程の100パーセント以上125パーセント以下等の数値で判定する。
✔締切全揚程は、定格吐出量における全揚程の140パーセント以下であることが求められる。
✔ポンプ本体は、最高吐出圧力の1.5倍以上の圧力を3分間加える耐圧試験に耐える必要がある。
✔「定格全揚程」は、消防法施行規則が定める計算式による全揚程とは異なる場合がある。
✔内燃機関そのものは、自家発電設備の基準等に適合するものを使う。
銘板の表示と定格全揚程の考え方、点検の前にもう一度確認してみます。
それがいちばん確実な方法です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
防火管理はプロにお任せ下さい
まずはWebで無料お見積りを!
お問い合わせ
この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 内燃機関を原動機とする加圧送水装置の構造及び性能の基準について(平成4年3月25日 消防危第26号 消防庁危険物規制課長、改正 平成13年3月 消防予第103号・消防危第53号)
- 根拠条文 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第20条
- 危険物規制事務に関する執務資料(給油取扱所を除く)の送付について(平成元年7月4日付け消防危第64号 各都道府県消防主管部長あて消防庁危険物規制課長通知)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。