災害で行方不明者が出たとき、消防機関は捜索と救助を行います。
潜水夫を頼み、捜索船やレッカー車を借り上げ、ダムの放水による損害を補償することもあります。
これらの費用は誰が負担するのか。
分かれ目は消防の責務に基づく活動かどうかです。
うちの建物の近くで捜索や救出をしてもらったとき、かかった費用を後から請求されることはあるのでしょうか。
消防機関の責務に基づく活動なら他に求償すべきものではないとされています。
責務に基づかない部分は第一次的に市町村が負担し、求償することもできると解されました。
消火に使った消火薬剤の代金はどうなるのでしょうか。
船舶火災の例を耳にしたことがあります。
できないとされました。
消火は消防の本来的任務であり、消防に要する費用は原則として市町村が負担すべきものだからです。
- 消防機関はその責務に基づいて行方不明者の捜索救助を行う義務を有します
- 消防機関の責務に基づく活動の費用は、他に求償すべきものではないとされています
- 責務に基づかない捜索等に要した費用および特殊な捜索救出費用は、第一次的には市町村が負担します
- 船舶火災の消火に要した消火薬剤について、地方自治法第224条の分担金を徴収することはできません
- 防災上重要な施設を明確に定義することは困難であり、地域防災計画に入れて公表するなどの方法が考えられます
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目次
消防機関はどこまで捜索の義務を負うか

どこまでが義務で、どこからが協力なのかが問われました。
答2 市町村長は行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定に基づいて捜索、救出処理の義務を有する。なお、災害救助法の適用がある場合には、都道府県知事の責務であるが、所在市町村長は、都道府県知事の補助者として処理を行なうことが必要であろう。
答3 警察法の責務に基づき、捜索、救出の義務を有するが、……1と同様に解されたい。
消防機関について、答えは2段に分かれています。行方不明者の捜索救助は義務です。一方、あきらかに死亡したと認められる場合の捜索については、その責務に照らして協力する必要があると表現されました。
消防の責務は人命の救助にあります。救助の余地がなくなった段階では、消防の本来の責務からは外れ、協力という位置づけになるという整理です。
市町村長の側は、行旅病人及び行旅死亡人取扱法に基づく義務を負います。ただし災害救助法の適用がある場合は都道府県知事の責務となり、市町村長はその補助者になります。
同じ現場でも、災害救助法が適用されるかどうかで責任の主体が入れ替わります。
救助の見込みがあるかどうかで、義務と協力に分かれるということですね。
そのとおりです。
自衛消防の訓練でも、どこまでが自分たちの役割かを先に決めておくと現場で迷いません。
捜索救出の費用は誰が負担するか

照会では、出動手当のほか、潜水夫、捜索船、レッカー車等の借上、ダムの放水損害補償といった特殊な費用まで挙げられていました。
責務に基づかない捜索等に要した費用および特殊な捜索救出費用については、第一次的には市町村が負担するが、市町村は被救出者およびその家族等に求償することもできると解される。
なお、災害救助法の適用がある場合には都道府県が負担する。
基準は消防機関の責務に基づく活動かどうかです。責務に基づく活動なら、他に求償すべきものではありません。
責務に基づかない部分と特殊な費用は、まず市町村が負担します。そのうえで、被救出者およびその家族等に求償することもできると解されました。できると解されるという書き方で、必ず求償せよという趣旨ではありません。
災害救助法の適用があれば、負担するのは都道府県になります。
第一次的にはという言い方も重要です。市町村がいったん立て替える形になり、そのあとの精算は別の話として整理されています。
うちの敷地で救出をしてもらった場合、あとから費用の請求が来ることもあるのでしょうか。
責務に基づく活動なら求償されません。
特殊な費用がかかりそうな設備がある建物は、あらかじめ所轄消防署に相談しておくと話が早く進みます。
道路の管理に瑕疵があった場合の賠償

なお、被害者が救出費用等につき市町村等に求償されて弁償した場合には、その費用も併せて国に賠償請求できるものと解される。
ただし、被害者側に少しでも過失があれば、過失相殺の適用があるのは勿論である。
道路の管理に瑕疵があれば、被害者は国家賠償法に基づいて賠償を請求できます。
注目したいのは2文めです。前の項目で、市町村は被救出者やその家族に求償できるとされていました。求償を受けて支払った場合、その支払った費用も併せて国に賠償請求できると解されています。
つまり被害者から見れば、いったん市町村に払った救出費用も回収の対象になります。
ただし過失相殺は当然に適用されます。被害者側に少しでも過失があれば、そのぶんは差し引かれます。
いったん払った救出費用も、あとから請求できる場合があるということですね。
道路の管理に瑕疵があった場合はそうなります。
事故のあとは現場の写真と日時を必ず残しておいてください。
船舶火災の消火薬剤を請求できるか

船舶火災の消火には、大量の消火薬剤を使います。地方自治法第224条には分担金という仕組みがあり、特に利益を受ける者から徴収できるとされています。
(理由)
(1) 施設および人員を活用し、被害を最小限度にくいとめるべく消火するのは、消防の本来的任務である。
(2) 消防に要する費用は、原則として市町村が負担すべきである。
理由が2つ挙げられています。どちらも消防という制度の成り立ちに関わるものです。
1つめは、消火が消防の本来的任務であること。特定の誰かのための特別なサービスではなく、もともとやるべき仕事だという位置づけです。
2つめは、消防に要する費用は原則として市町村が負担すべきであること。分担金は特に利益を受ける者から徴収する仕組みですが、本来的任務の費用はその対象になりません。
前の項目で、責務に基づく活動の費用は他に求償すべきものではないとされたのと同じ考え方です。責務として行うことの費用は、その主体が持つという一本の筋が通っています。
消火に使った薬剤の代金は、建物側に回ってこないのですね。
分担金としては徴収されません。
ただし自分の建物の消火設備の再充填は自前の費用になるので、放出後は早めに点検を入れてください。
防災上重要な施設をどう定める

条文には言葉があるだけで、何が該当するのかは書かれていません。
(1) 災害発生の確率の高い施設
(2) 被害を拡大させる施設
(3) 被害の拡大を防止する施設
となるが、これも各々地域における重要度等により異なるので定義づける意義は少ない。指定を明確にする方法としては、地域防災計画に入れ公表するとか、別に公示をする方法等が考えられる。
定義することは困難であるとしたうえで、しいて挙げるならという形で3つの類型が示されました。
災害が起きやすい施設、被害を広げる施設、そして被害の拡大を防ぐ施設です。3つめが入っているところが特徴で、危険なものだけでなく、守る側の施設も重要な施設に含まれます。
ただし地域によって重要度が変わるので、全国共通の定義を置く意義は少ないとされました。
かわりに示された方法が、地域防災計画に入れて公表すること、または別に公示することです。何が重要な施設かは、地域ごとに決めて明らかにするという整理になっています。
自社の工場が防災上重要な施設に当たるのかは、どこで分かるのでしょうか。
地域防災計画と公示で確かめます。
市町村の防災担当に一度確認しておくと、訓練や資機材の備えの計画も立てやすくなります。
よくある質問
まとめ
- 消防機関はその責務に基づいて行方不明者の捜索救助を行う義務を有します
- あきらかに死亡したと認められる場合の捜索については、その責務に照らして協力する必要があるとされました
- 消防機関の責務に基づく活動の費用は、他に求償すべきものではありません
- 責務に基づかない捜索等の費用および特殊な捜索救出費用は第一次的には市町村が負担し、被救出者等に求償することもできると解されます
- 災害救助法の適用がある場合は、責務も費用の負担も都道府県に移ります
- 船舶火災の消火薬剤について地方自治法第224条の分担金を徴収することはできません
- 防災上重要な施設は地域防災計画に入れ公表するか別に公示する方法で明確にします
責務として行うことの費用は、その主体が持つという一本の筋なんですね。
すっきりしました。
地域防災計画にどう書かれているかで、自社の位置づけも変わります。
㈱防災屋でも確認からご相談を承っています。
参考・出典
- 災害対策基本法に関する質疑応答(住民等の責務・地方防災会議関係)
- 船舶火災の消火に要した消火薬剤についての分担金徴収について(昭和45年2月 横浜市あて回答)
- 防災上重要な施設の定義ならびに指定の方法について(昭和45年4月 大分県あて回答)
- 災害対策基本法第7条
- 地方自治法第224条
- 国家賠償法
- 行旅病人及び行旅死亡人取扱法
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答には昭和40年代のものが含まれます。個別の事案についての適用は、所轄の消防機関または自治体にご確認ください。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)




