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旅館やホテルの避難器具はなぜ収容人員だけで決まらないのか|直通階段の数が独立した基準になる仕組みを解説

旅館やホテルの外階段を見下ろす作業服姿の担当者

旅館やホテルの避難器具は、収容人数が多い建物だけに必要な設備だと思われがちです。
しかし実際の基準は、人数だけでなく建物の直通階段の数によっても左右されます。
消防法施行令には、収容人員の基準とは別に、避難経路そのものの弱さを直接見る基準が用意されています。
条文をたどると、旅館・ホテルだけに働く二重の判定の仕組みが見えてきます

うちのホテルは三十人も泊まっていないので、避難器具は関係ないですよね。

人数だけでは判断できません。
もう一つ、別の基準が働くことがあります。

人数以外の基準というと、何を見ればいいんでしょうか。

階段の数です。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 旅館・ホテル((5)項イ)の避難器具は、収容人員が一定数以上になると必要になるのが原則です
  • ただし下階に劇場や飲食店等の特定用途がある場合は、必要になる人数の基準が下がります
  • これとは別に、三階以上で直通階段が二つに満たない階は、下階の用途と関係なく収容人員わずか十人以上で義務が生じます
  • 二つの基準はそれぞれ独立して働くため、片方だけ確認して安心してはいけません
  • まずは各階の直通階段の数を実際に数えることが、判断の出発点になります

避難器具の設置義務を決める二重の基準(収容人員・直通階段の数・下階の用途・設置義務の有無)をまとめた図解

旅館やホテルに避難器具は必ず必要なのか

疑問符の浮かぶ旅館の建物を見上げる作業服の人物のイメージ
旅館やホテルの避難器具というと、部屋数の多い大きな建物だけの話だと考えがちです。
しかし実際の基準は、それほど単純ではありません。
消防法施行令第25条第1項 避難器具は、次に掲げる防火対象物の階(避難階及び十一階以上の階を除く。)に設置するものとする。
避難器具が要るかどうかは、条文が定める複数の号のどれかに当てはまるかで決まります
号ごとに対象になる用途や階数、収容人員の条件が細かく分かれており、旅館・ホテル(別表第一(5)項イ)にも専用の号があります。
除外されるのは避難階と十一階以上の階だけで、それ以外の階はどれも対象になり得ます。
つまり「大きなホテルだから」「小さな旅館だから」という規模の印象だけでは判断できません。
次の章から、旅館・ホテルに実際にかかる条件を具体的に見ていきます。

うちは小さい旅館なので、避難器具は関係ないと思っていました。

規模の大小だけでは決まりません。
条文の号に当てはまるかで判断します。

収容人員が何人からその義務は生じるのか

劇場のマークがある旅館の建物と無い旅館の建物で人数のアイコンの多さが違うイメージ
旅館・ホテルの避難器具には、収容人員を基準にした号があります。
ただしその人数は、いつも同じではありません。
消防法施行令第25条第1項第二号 別表第一(五)項に掲げる防火対象物の二階以上の階又は地階で、収容人員が三十人(下階に同表(一)項から(四)項まで、(九)項、(十二)項イ、(十三)項イ、(十四)項又は(十五)項に掲げる防火対象物が存するものにあつては、十人)以上のもの
原則は収容人員三十人以上で避難器具が必要になります
対象は二階以上の階または地階で、旅館・ホテル((5)項イ)だけでなく共同住宅等((5)項ロ)にも同じ号が及びます。
ただし下階に劇場や飲食店、工場など特定の用途があると、基準は一気に十人以上まで下がります。
これは、下の階で火災が起きたときに上の階への延焼や煙の回り込みが早いと考えられているためです。
自分の旅館・ホテルの下階に何が入っているかは、まず確認しておきたいポイントです。

下の階に飲食店が入っていると、基準が下がるということですね。

そのとおりです。
下階の用途は必ず確認してください。

直通階段の数だけで義務が生じることがあるのか

一本しかない外階段が強調された旅館の建物のイメージ
収容人員の基準とは別に、もう一つ独立した号があります。
それが建物の階段そのものを見る基準です。
消防法施行令第25条第1項第五号 前各号に掲げるもののほか、別表第一に掲げる防火対象物の三階(略)以上の階のうち、(略)避難階又は地上に直通する階段が二以上設けられていない階で、収容人員が十人以上のもの
三階以上の階で直通階段が一つしかなければ、それだけで避難器具の義務が生じます
この号は旅館・ホテルに限らず、別表第一に掲げるほぼすべての用途に共通して適用されます。
注目したいのは、下階の用途を一切問わないという点です。前の号と違い、収容人員はわずか十人以上で足ります。
つまり下階が住宅であっても事務所であっても、直通階段が一つしかない階には関係なくこの号がかかります。
階段の数という、人数とはまったく別の切り口の基準だと理解しておく必要があります。

階段が一つしかないだけで、下の階が何であっても関係ないんですか。

はい、無関係です。
階段の数そのものが基準になります。

ふたつの基準を見落とすとどうなるのか

階段が一つの建物に禁止マーク階段が二つの建物にチェックマークが付いたイメージ
この二つの号は、それぞれ独立して働きます。
だからこそ、片方だけ見て安心すると足元をすくわれます。
消防法施行令第25条第1項第五号 前各号に掲げるもののほか、別表第一に掲げる防火対象物の三階(略)以上の階のうち、(略)階段が二以上設けられていない階で、収容人員が十人以上のもの
「前各号に掲げるもののほか」という文言が、二つの基準が別物であることを示しています
収容人員三十人未満だから大丈夫だと思っていても、直通階段が一つしかない三階以上の階であれば、収容人員十人以上でこの号が独立して適用されます。
逆に直通階段を二つ確保できていれば、この号は働かず、判断は収容人員の基準だけで済みます。
実務で見落としやすいのは、増築や間仕切りの変更で結果的に使える階段が一つに減っているケースです。
図面上は階段が二つあっても、片方が物置化して実質使えない状態は「一つしかない」のと同じ扱いになり得ます。

うちは人数が少ないから安心だと思っていました。

階段の数を見落とすと危険です。
両方を確認しましょう。

明日から何を数えればよいのか

作業服の人物が旅館の階段を指さし虫眼鏡と人数のアイコンで確認しているイメージ
どちらの号も、確認すること自体はそれほど難しくありません。
まずは自分の建物で数えるところから始めます。
消防法施行令第25条第2項第二号 避難器具は、避難に際して容易に接近することができ、階段、避難口その他の避難施設から適当な距離にあり、かつ、当該器具を使用するについて安全な構造を有する開口部に設置すること。
まず数えるべきは、各階の直通階段の数と、その階の収容人員です
図面だけでなく現地で、避難階まで実際に歩いて通り抜けられる階段が何本あるかを確認してください。
次に下階にどんな用途が入っているかを見て、収容人員三十人か十人か、どちらの基準がかかるかを判断します。
避難器具の設置が必要になった場合は、避難に際して容易に接近できる場所かどうかも合わせて確認します。
自己判断が難しい場合は、この記事の内容を持って所轄消防署または㈱防災屋にご相談ください。

まずは階段の数と人数を数えるところから始めます!

その順番で大丈夫です。
迷ったら所轄消防署にも確認しましょう。

よくある質問

Q旅館やホテルなら必ず避難器具が必要になるのですか?
Aいいえ。収容人員が基準に達しておらず、かつ直通階段が二つ以上確保されている階であれば、避難器具の設置義務は生じません。ただし下階の用途によって人数の基準が下がる点には注意が必要です。
Q直通階段が二つあれば、人数に関係なく避難器具は不要ですか?
Aいいえ。直通階段が二つ以上あれば施行令第25条第1項第五号は働きませんが、同項第二号の収容人員三十人(または十人)以上の基準は別に適用されます。
Q図面上は階段が二つありますが、片方は物置になっています。この場合はどう判断されますか?
A実質的に使用できない階段は、避難のための直通階段として数えられない可能性があります。所轄消防署に現況を確認してもらうことをおすすめします。
Q避難器具の種類はどの建物でも同じですか?
Aいいえ。防火対象物の区分や階数によって、避難はしごや救助袋、緩降機など使用できる器具の種類が施行令第25条第2項の表で定められています。

まとめ

旅館・ホテル((5)項イ)の避難器具は、収容人員三十人以上(原則)で義務が生じます
下階に劇場や飲食店など特定の用途があると、その基準は十人以上に下がります
三階以上で直通階段が二つに満たない階は、下階の用途と無関係に収容人員十人以上で義務が生じます
二つの基準は「前各号に掲げるもののほか」という文言のとおり独立して働きます
実質的に使えない階段は直通階段として数えられない可能性があります
避難器具は避難に際して容易に接近できる開口部に設置する必要があります
まずは各階の直通階段の数と収容人員を実際に数えることから始めましょう

うちの建物の階段の数、あらためて数えてみます!

人数と階段、両方をあわせて確認してください。
㈱防災屋でもご相談を承っております

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行令第25条
  • 消防法施行令別表第一
  • e-Gov 法令検索

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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