旅館やホテルの夜間は、フロントや宿直の担当者が極めて少ない人数で火災に対応しなければなりません。
「本当に間に合うのか」を確かめる方法が無ければ、防火管理は机上の計画のままになってしまいます。
消防庁は熱川温泉のホテル火災を受けた昭和61年の通知で夜間の防火管理体制の指針づくりを約束し、限界時間という考え方で検証する指導マニュアルを昭和62年にまとめました。
この記事では、限界時間の考え方、対応行動の流れ、検証と改善の進め方を解説します。
うちのホテルも夜間はフロント担当が1人だけです。
訓練をすれば十分と言えるのでしょうか。
回数だけでなく、対応にかかる時間が限界時間に収まるかを確かめることが大切です。
限界時間というのは、誰が決めるものなのですか。
建物の構造や設備の状況に応じて、消防機関が個々の旅館・ホテルごとに設定します。
- 消防庁は熱川温泉のホテル火災を受けた昭和61年6月の消防予第85号で夜間の防火管理体制の指針づくりを約束し、昭和62年8月1日の消防予第131号で指導マニュアルを示しました
- 対象は消防法施行令別表第一(5)項イに掲げる旅館・ホテル・宿泊所のうち、階数が3以上で消防法第8条の適用があるものです
- 建物の内装制限や竪穴区画の状況に応じて火災階・非火災階それぞれの限界時間を設定し、対応行動が時間内に終わるかを検証します
- 対応行動は出火場所の確認から現場確認、通報、初期消火、情報伝達、避難誘導までの一連の流れです
- 限界時間を超えた場合は訓練方法や設備、建物構造を見直し、再度検証するところまでが指導の仕組みです
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目次
旅館やホテルの夜間防火管理はなぜ限界時間で検証されるようになったのか

この課題に、消防庁はどのように向き合ってきたのでしょうか。
昭和61年の通知では、夜間の防火管理体制について「おって指導マニュアルを作成し、通知する」と予告されるだけでした。
その約1年後の昭和62年8月に、実際の指導マニュアルとして示されたのが本通知(消防予第131号)です。
対象は宿泊客が就寝している夜間の旅館・ホテルです。
具体的な対応行動と、それを検証する限界時間という仕組みが、このときはじめて示されました。
うちの旅館はもう何年も同じ訓練を繰り返しています。
それで十分と言えるのでしょうか。
回数を重ねることと、時間内に収まることは別の話です。
次の章で対象と仕組みを確認しましょう。
どの旅館・ホテルがこの指導マニュアルの対象になるのか

まずは自分の施設が対象になるかどうかを確認します。
複合用途の建物のうち旅館・ホテル部分(別表第一(16)項イにある該当部分)も対象に含まれます。
通知が出た昭和62年当時から、この対象の考え方は現在まで変わっていません。
検証や指導の実施期間は、消防機関ごとに3年を超えない範囲で計画的に設定されます。
うちは古い旅館で建て替えもしていません。
それでも対象になるのでしょうか。
はい。
階数が3以上で消防法第8条の対象であれば、建物の新旧を問わず対象になります。
限界時間はどうやって決まり、対応行動はどんな流れになるのか

どのように決まり、対応行動がどんな順序で進むのかを見ていきます。
客室や廊下の内装制限の有無によって火災階の基準時間は6分・5分・3分のいずれかになり、寝具類への防炎製品の使用や初期消火で屋内消火栓を使う場合には1分の延長が認められます。
非火災階は、避難経路となる階段等が竪穴区画されているかどうかで3分または4分(防火対象物が竪穴区画されていない場合は火災階の限界時間を用います)に設定されます。
対応行動は、①出火場所の確認、②現場の確認、③消防機関への通報、④初期消火、⑤情報伝達、⑥避難誘導という順で進み、自火報発報から火災階の対応が終わるまでの時間(Rtf)と非火災階の対応が終わるまでの時間(Rtn)を計測して検証します。
限界時間はどの旅館・ホテルでも同じ数字になるのですか。
いいえ、内装制限やスプリンクラーの有無で数分単位で変わります。
自分の施設の条件を確かめることが出発点です。
検証のどこが見落としやすいのか

通知が特に注意を促している点を確認します。
通知自身が「一般的な構造、営業形態」を想定した基準であると述べており、施設独自の事情に応じた創意工夫も積極的に評価してよいとされています。
また、事前訓練や検証は、通知が出た当時の条文でいう規則第3条第5項に当たる避難訓練とみなしてよいとされていましたが、その後の改正で避難訓練の規定は現行の規則第3条第10項に移っています。
訓練のたびに、消防計画に定めた消火・通報・避難訓練(規則第3条第10項、(5)項イは年2回以上)の実施として位置付けておくと、記録の整理もしやすくなります。
限界時間(Rtf・Rtn)を超えた場合も、それ自体を失敗と捉えず、訓練方法や設備、建物構造を見直す材料として使うことが通知の狙いです。
限界時間を超えてしまったら、うちの施設の責任を問われるのでしょうか。
いいえ。
超過は改善のきっかけとして扱われます。
明日からなにを確認すればよいのか

特別な設備が無くても、今日から始められることがあります。
まず、自分の旅館・ホテルが消防法施行令別表第一(5)項イに当たり、階数3以上で消防法第8条の対象かどうかを確かめます。
次に、夜間の勤務体制のまま出火場所の確認から通報、初期消火、情報伝達、避難誘導までを実際に行い、かかった時間(Rtf・Rtn)を計測します。
最後に、その時間が建物の内装や竪穴区画、スプリンクラー設備の有無に応じた限界時間に収まっているかを確認し、収まらない場合はまず訓練方法の見直しから、必要に応じて設備や建物構造の強化を消防本部と相談します。
この一連の流れを、次の消防計画に基づく訓練から取り入れてみてください。
特別な工事をしないと対応できない話だと思っていました。
そうとは限りません。
まずは時間を計測して現状を知ることが第一歩です。
よくある質問
まとめ
つまり、うちのホテルでも今の訓練を見直す価値がありそうですね。
はい。
限界時間という尺度を知れば、訓練の目的がはっきりします。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 旅館・ホテル等における夜間の防火管理体制指導マニュアルについて(通知)(昭和62年8月1日 消防予第131号 消防庁予防課長)
- 旅館・ホテル等における防火安全対策の推進について(通知)(昭和61年6月25日 消防予第85号 消防庁予防救急課長)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第一(5)項イ
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第10項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





