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硫化鉄はなぜタンク清掃中に自然発火するのか|酸化発熱のメカニズムと散水による防止策を解説

硫化鉄はタンク清掃で火を出すのか

製油所や油槽所などの危険物施設では、屋外貯蔵タンクの清掃や配管の点検をきっかけに、思いがけない火災事故が起きることがあります。
原因の多くは、タンクの底や配管内部にたまったスラッジやスケールに含まれる「硫化鉄」という物質です。
平成29年6月16日、消防庁はこの硫化鉄による火災事故防止対策を通知しました(消防危第135号)。
硫化鉄は乾燥した状態で大気に触れただけで発熱し、自然発火に至ることがあります。

タンクの清掃中に火が出たという話を聞いて、うちの施設は大丈夫か心配になりました。

その火元は硫化鉄という物質かもしれません。
まずは発生のしくみから確認しましょう。

硫化鉄なんて聞いたことがありませんでした。
スラッジの中にあるものなんですね。

はい、乾燥して空気に触れると発熱します。
対策は決して難しくありません。

この記事の結論
  • 硫化鉄は乾燥した状態で大気に触れると酸化発熱し、自然発火に至ることがあります。
  • 平成25年から29年までの5年間で、製油所や油槽所等で7件の火災事故が確認されています。
  • スラッジ清掃やマンホール開放など大気に触れる作業の前には、十分な散水による湿潤化が必要です。
  • 散水は量と範囲が不足すると効果がないため、ノズルの状態まで確認します。
  • 硫化鉄が発生しやすい箇所を把握し、協力会社員にも周知することが求められます。

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硫化鉄の火災は散水で防げることを示す図解

硫化鉄による火災事故はなぜ繰り返し起きるのか

屋外貯蔵タンクの底にたまったスラッジから発熱する様子を示すイラスト
消防庁は平成29年6月16日、消防危第135号「硫化鉄に係る火災事故防止対策の徹底について」を発出しました。
きっかけは、同年1月に和歌山県有田市の製油所で起きた火災でした。
(消防危第135号)今年1月、和歌山県有田市の製油所において、屋外貯蔵タンクの底板上に堆積したスラッジのクリーニング作業時に、スラッジ内の硫化鉄の酸化・発熱による自然発火が原因と考えられる火災事故が発生いたしました。近年、同様の硫化鉄の酸化・発熱が原因とされる火災事故が散見されており、憂慮される状況です。
硫化鉄は目に見えないところで少しずつたまっていきます。
製油所や油槽所では、原油やナフサなど硫黄分を含む危険物を長期間扱ううちに、タンクの底や熱交換器の内部に硫化鉄を含むスラッジやスケールが自然にできていきます。
平成25年から29年までの5年間だけでも7件の火災事故が確認されており、いずれも清掃や点検という通常の維持管理作業がきっかけでした。
事故の多くは、乾燥したスラッジやスケールが空気に触れた瞬間に発熱が始まり、周囲の可燃性蒸気に着火するという同じ経過をたどっています。
だからこそ、日頃の点検で「硫化鉄がどこにたまりやすいか」を把握しておくことが、事故を防ぐ第一歩になります。

スラッジの中に発火する物質があるなんて、これまで意識したことがありませんでした。

清掃や点検という日常の作業が事故のきっかけになります。
次はどの施設が対象になるかを見ましょう。

どの施設のどの作業が対象になるのか

製造所や屋外タンク貯蔵所など複数の危険物施設を並べたイラスト
硫化鉄は、どんな危険物施設でも起きるわけではありません。
過去の事故を見ると、施設と作業の組み合わせに共通点があります。
(消防危第135号)硫化鉄の発生する可能性のある製油所や油槽所等の危険物施設の関係者に周知徹底するなど、適切に指導されるようお願いいたします。(別添1 事故事例より)製造所(水添脱硫装置・接触分解装置・改質装置)、一般取扱所(精製装置)、屋外タンク貯蔵所(固定屋根式・浮き屋根式)において、スラッジのクリーニング、マンホールの開放、熱交換器のチューブバンドル清掃、精留塔の清掃・開放点検の際に発生。
(危険物の規制に関する政令第24条第5号/通則・現行)危険物のくず、かす等は、一日に一回以上当該危険物の性質に応じて安全な場所で廃棄その他適当な処置をすること。
対象は、硫黄分を含む危険物を長期間扱う施設の維持管理作業です。
過去の事故は製造所・一般取扱所・屋外タンク貯蔵所で起きており、いずれも原油・ナフサ・ガソリン・潤滑油・硫黄といった硫黄分を含む危険物を扱っていました。
作業の場面も共通していて、スラッジのクリーニング、マンホールの開放、熱交換器のチューブバンドル清掃、精留塔の清掃や開放点検など、いずれも定期修理・定期点検の一環でした。
危険物の規制に関する政令第24条第5号は、くずやかす等を安全な場所で適切に処置することを求めており、硫化鉄を含むスラッジの取り扱いもこの通則の対象になります。
次は、通達が具体的に何を求めているのかを見ていきます。

特別な設備の話ではなく、いつもの定期点検や清掃が対象になるんですね。

そのとおりです。
次は通達が求める具体的な対策を見ましょう。

通達は何を求めているのか

タンクの開口部へ散水して湿らせる様子とチェックリストを示すイラスト
消防危第135号は、4つの留意事項を関係者に周知するよう求めています。
一つずつ確認しましょう。
(消防危第135号)1 硫化鉄は乾燥により発火しやすい状態となる可能性があり、この状態で大気と接触すると、酸化発熱が進み自然発火に至る危険性があること。2 スラッジ清掃時やマンホールの開放時など、硫化鉄が存在する部分が大気に触れる可能性がある場合には、作業前に当該部分を散水等により十分に湿潤させること。3 危険物の取扱工程又は設備等において硫化鉄が発生するおそれのある箇所を把握し、点検・維持管理の徹底を図ること。4 上記の留意事項について、協力会社員にも十分認識させること。
核心は、作業前の散水による湿潤化です。
第一に、硫化鉄は乾燥した状態で大気に触れると酸化発熱が進み自然発火に至ることを、まず関係者が理解している必要があります。
第二に、スラッジ清掃やマンホール開放など硫化鉄が大気に触れる可能性がある作業の前には、十分な散水によってあらかじめ湿らせておくことが求められます。
第三に、硫化鉄が発生しやすい箇所を日頃から把握し、点検・維持管理の中に組み込むこと、第四に、これらの留意事項を元請けだけでなく協力会社員にも周知することが求められています。
次は、この対策が徹底されなかった実際の事故から、見落としやすい点を確認します。

散水しておけばよいなら、そこまで難しい対策ではなさそうですね。

ただし、散水の質まで確認しないと防げなかった事故があります。
次は落とし穴を確認しましょう。

実務で見落としやすいのはどこか

劣化した散水ノズルと正常な散水ノズルを対比したイラスト
「散水さえすればよい」という思い込みが、実際の事故を招いたケースがあります。
見落としやすい点は大きく2つです。
(消防危第135号 別添1 事故事例/平成26年8月・神奈川県・一般取扱所)定期修理のため停止中の精留塔のマンホール開放後、散水を行ったが散水ノズルの劣化により散水量、範囲が不足し、塔内に残存していた硫化鉄が空気と接触し発熱、周囲に堆積していた有機化合物に着火したもの。
1つ目は、散水したという事実だけでは足りない点です。
平成26年8月の神奈川県の事故では、実際に散水は行われていましたが、ノズルの劣化で散水量と範囲が不足し、硫化鉄が発熱する部分まで水が届いていませんでした。
2つ目は、協力会社員まで周知が届いていないと同じ事故が起こりうる点です。
消防危第135号があえて協力会社員への周知を項目に挙げているのは、実際の作業を行うのが元請けの社員とは限らないためで、作業手順書や安全教育の資料に落とし込まれていなければ、通達を読んだだけでは現場に伝わりません。
この通達は消防組織法第37条に基づく助言であり罰則を伴う義務ではありませんが、消防法第10条第4項が定める技術上の基準の維持義務を果たすための実務指針として位置づけて対応する必要があります。
次は、明日から確認すべき具体的な手順をまとめます。

散水はしていても、ノズルの状態までは確認していませんでした。

量と範囲まで含めて確認することが肝心です。
次は明日からの確認手順です。

明日から何を確認すればよいのか

チェックリストと点検記録を確認する様子を示すイラスト
最後に、施設の管理者が明日から確認しておきたい手順を整理します。
順番に進めれば、事故のリスクを大きく減らせます。
(危険物の規制に関する政令第24条第9号/通則・現行)危険物を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、危険物の変質、異物の混入等により、当該危険物の危険性が増大しないように必要な措置を講ずること。
確認は、発生箇所の把握から始めます。
①自施設のタンク底部・熱交換器・精留塔など、硫化鉄が発生しやすい箇所を洗い出し、②スラッジ清掃やマンホール開放の前に行う散水の手順を、散水量・範囲・ノズルの点検を含めて文書化します。
そのうえで③協力会社員への周知を作業手順書や安全教育の記録に残し、④点検・維持管理の記録に硫化鉄への対応を反映させ、⑤発熱や異臭など異常を確認したときの対応フローをあらかじめ決めておきます。
危険物の規制に関する政令第24条第9号が求める「危険性が増大しないための措置」は、硫化鉄を含むスラッジの管理にもそのまま当てはまります。
特別な設備投資をせずに始められる対策なので、次の定期点検の前に確認しておきましょう。

次の定期点検の前に、発生しやすい箇所と散水の手順を確認しておきます。

それが一番の近道です。
よくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q硫化鉄はどんな危険物施設でも発生するのか?
Aいいえ。原油やナフサなど硫黄分を含む危険物を長期間扱う施設で発生しやすく、硫黄分を含まない危険物だけを扱う施設では基本的に想定されません。
Q散水さえしておけば事故は防げるのか?
Aいいえ。過去の事故では散水ノズルの劣化で量や範囲が不足し発熱を防げなかった例があり、散水の質まで確認する必要があります。
Qこの通知は法律で定められた義務なのか?
A消防危第135号は消防組織法第37条に基づく助言で罰則を伴う義務ではありませんが、危険物を維持管理する義務(消防法第10条第4項)を果たすための実務指針として扱うべきものです。
Q協力会社の作業員にはどう周知すればよいのか?
A硫化鉄が発生しやすい箇所と散水の手順を作業手順書や安全教育の資料に明記し、元請けだけでなく実際に作業する協力会社員まで確実に伝えることが求められます。

まとめ

✔硫化鉄は乾燥した状態で大気に触れると酸化発熱し、自然発火することがあります。
✔きっかけは平成29年1月の和歌山県の製油所火災でした。
✔平成25年から29年までの5年間で7件の火災事故が確認されています。
✔対象は製造所・一般取扱所・屋外タンク貯蔵所などの硫黄分を含む危険物を扱う施設です。
✔スラッジ清掃やマンホール開放の前には十分な散水による湿潤化が欠かせません。
✔散水はノズルの状態や範囲まで確認しないと効果が不十分になります。
✔硫化鉄が発生しやすい箇所の把握と協力会社員への周知を徹底しましょう。

硫化鉄と散水のしくみ、これで整理できました!

散水の量と範囲まで忘れずに確認してくださいね。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 「硫化鉄に係る火災事故防止対策の徹底について」(平成29年6月16日 消防危第135号 消防庁危険物保安室長)
  • 消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条
  • 消防法(昭和23年法律第186号)第10条第4項
  • 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第24条第5号・第9号

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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