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長屋や共同住宅を増築しても界壁をやり直さなくてよいのはなぜか|建築基準法施行令第137条の5が定める緩和の範囲を解説

長屋や共同住宅の界壁はなぜ増築してもやり直さなくてよいのか

長屋や共同住宅を増築するとき、既存部分の界壁まで今の遮音基準に合わせ直さなければならないと思っていませんか。
建築基準法施行令第137条の5は、増築や改築が一定の規模におさまれば、既存部分の界壁までやり直さなくてよいという緩和を定めています。
ただし、この緩和は増築と改築で判定の物差しが異なり、どちらも一定の規模を超えると使えなくなります。
この記事では、緩和の対象・要件・見落としやすい点までを条文に沿って解説します。

古い共同住宅の一部を増築する予定です。
各戸を仕切る界壁も今の遮音基準に合わせないといけないんでしょうか。

増築や改築が一定の規模におさまれば、既存部分の界壁までやり直す必要はありません。
建築基準法施行令第137条の5という緩和の規定があります。

助かります。
でも、どのくらいの規模までなら緩和が使えるんでしょうか。

増築か改築かで判定の基準が変わります。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 増築や改築が一定の規模におさまれば、既存部分の界壁までやり直す必要はありません(建築基準法施行令第137条の5)。
  • 対象となるのは、法第3条第2項の規定により法第30条(界壁)の適用を受けない既存不適格の長屋または共同住宅です。
  • 増築は増築後の延べ面積が基準時の延べ面積の1.5倍を超えないことが条件です。
  • 改築は改築に係る部分の床面積が基準時の延べ面積の2分の1を超えないことが条件です。
  • 大規模の修繕・模様替は、界壁の危険性を増やさない範囲であれば面積の上限なく緩和の対象になります(施行令第137条の12第7項)。

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増築と界壁の緩和の仕組みを示す図解

なぜ増築すると界壁の基準に関わってくるのか

長屋の各戸を仕切る界壁と増築部分のイラスト
既存不適格の長屋や共同住宅が増築や改築をするとき、建物全体の界壁を現行基準に合わせ直すのは負担が大きすぎます。
そこで建築基準法は、増築や改築の規模が一定の範囲におさまる場合を対象にした緩和の仕組みを用意しています。
建築基準法第八十六条の七第一項(抜粋) 第三条第二項の規定により(略)第三十条(略)の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替をする場合においては、第三条第三項の規定にかかわらず、これらの規定は、適用しない。
界壁の遮音基準も緩和の対象に含まれています。
建築基準法第30条は、長屋または共同住宅の各戸を仕切る界壁について、隣接する住戸からの日常生活音を衛生上支障がないように低減する技術的基準に適合する構造とし、小屋裏または天井裏に達するものとするよう定めています。
既存不適格の長屋・共同住宅であっても、増築や改築をきっかけに界壁の基準まで現行基準へ合わせ直す必要は必ずしもなく、第86条の7が定める一定の範囲を満たせば従来のままで足ります。
今回はそのうち、界壁に関する部分を見ていきます。

界壁にも国が定めた遮音の基準があるとは知りませんでした。
うちの建物は古いので、今の基準とは違うかもしれません。

古い建物でも、増築や改築の規模によっては界壁をやり直さなくてよい場合があります。
次に対象と要件を見ていきましょう。

どんな増築や改築がこの緩和の対象になるのか

増築部分と既存部分に分かれた長屋のイラスト
緩和の対象になる建物を、まず確認しておきましょう。
この対象が、次の章で説明する要件の前提になります。
建築基準法施行令第百三十七条の五 法第三条第二項の規定により法第三十条の規定の適用を受けない長屋又は共同住宅について法第八十六条の七第一項の規定により政令で定める範囲は、増築については増築後の延べ面積が基準時における延べ面積の一・五倍を超えないこととし、改築については改築に係る部分の床面積が基準時における延べ面積の二分の一を超えないこととする。
緩和の対象になるのは、法第30条の適用を受けない長屋または共同住宅です。
対象となる建物は、法第3条第2項の規定により法第30条の適用を受けない、既存不適格の長屋または共同住宅に限られます。
用途が長屋・共同住宅以外の建物には、この第137条の5は適用されません。
自分の建物がこの既存不適格に当たるかどうかを、まず確認する必要があります。

うちは昭和のころに建てた共同住宅です。
それでも対象になりますか。

法第30条の規定の適用を受けない既存不適格の共同住宅であれば対象になります。
次の章で具体的な要件を説明します。

緩和を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか

増築後の延べ面積と改築部分の床面積を示す比較ゲージのイラスト
前の章で見た対象について、具体的に満たすべき要件を見ていきます。
要件は増築と改築で、それぞれ判定の物差しが異なります。
建築基準法施行令第百三十七条の五(再掲) 増築については増築後の延べ面積が基準時における延べ面積の一・五倍を超えないこととし、改築については改築に係る部分の床面積が基準時における延べ面積の二分の一を超えないこととする。
増築と改築で判定に使う数字が違います。
増築の場合は、増築後の延べ面積そのものが基準時の延べ面積の1.5倍を超えないことが条件です。
改築の場合は、建物全体ではなく改築に係る部分の床面積が基準時の延べ面積の2分の1を超えないことが条件です。
どちらの基準も、建物が既存不適格になった時点である基準時の延べ面積を物差しにしています。

増築と改築で基準が別々なんですね。
両方を同時にやる場合はどう考えればいいんでしょうか。

条文は増築と改築を別の号で定めているので、両方を混同しないことが大切です。
次は見落としやすい落とし穴を紹介します。

実務で見落としやすいのはどこか

増築後の延べ面積が上限を超える建物と禁止マークのイラスト
前の章で見た要件には、読み飛ばすと見落としやすい落とし穴が2つあります。
どちらも「増築か改築か」を取り違えると気づきにくい点です。
建築基準法施行令第百三十七条の十二第七項(抜粋) 法第三条第二項の規定により(略)法第三十条(略)の規定の適用を受けない建築物についての法第八十六条の七第一項の政令で定める範囲は、大規模の修繕又は大規模の模様替については、当該建築物における全ての大規模の修繕又は大規模の模様替とする。
2つの見落としに注意してください。
1つ目は、増築の1.5倍という上限は増築後の延べ面積全体で判定するのに対し、改築の2分の1という上限は改築に係る部分の床面積だけで判定するという、計算の対象が違うことです。
どちらも建物が増築後・改築後の面積でいずれか一方でも上限を超えれば、既存部分を含めた界壁全体が法第30条の適用を受けることになります。
2つ目は、面積の増加を伴わない大規模の修繕・模様替は第137条の12第7項が別に定めており、界壁の危険性を増大させない範囲であれば面積の上限なく緩和の対象になることです。
「増築や改築」と「大規模の修繕・模様替」を同じ基準で考えてしまうと、必要以上に工事を制限してしまいます。

今回は面積を増やさない内装のリフォームだけを考えています。
それなら上限は気にしなくてよいんですね。

大規模の修繕・模様替であれば、界壁の危険性を増やさない限り面積の上限はありません。
最後に実務での確認手順をまとめます。

増改築を計画するときは何を確認すればよいのか

チェックリストとメジャーのイラスト
増築や改築を計画する際は、次の点を順番に確認してください。
判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
  • 自分の建物が法第30条の適用を受けない既存不適格の長屋・共同住宅に当たるかを確認する
  • 基準時における建物全体の延べ面積を記録や図面から確認する
  • 増築なら増築後の延べ面積が基準時の1.5倍を超えないか、改築なら改築部分の床面積が基準時の2分の1を超えないかを計算する
  • 面積の増加を伴わない大規模の修繕・模様替であれば、界壁の危険性を増やさないかを確認する
  • 判断に迷う場合は、特定行政庁または建築士に事前に相談する
計画の早い段階で確認しておくことが大切です。
増築の設計が固まってから上限を超えると分かると、設計変更の手戻りが発生します。

手順が分かれば、うちの共同住宅でも界壁の扱いを事前に判断できそうです。
ありがとうございます。

計画の早い段階で確認しておけば、設計変更の手戻りも防げます。
次によくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q基準時とはいつのことですか?
A基準時とは、その長屋・共同住宅が法第30条の規定の適用を受けない状態が始まった時点のことです。建築時や過去の法改正の時期によって建物ごとに異なるため、記録の確認が必要です。
Q増築と改築を同時に行う場合はどう判定しますか?
A施行令第137条の5は増築と改築を別の号で個別に定めているため、増築分は延べ面積の1.5倍、改築分は延べ面積の2分の1という、それぞれの基準で確認する必要があります。
Q上限を超えると具体的にどうなりますか?
A緩和の対象から外れ、既存部分を含めた建物全体の界壁が法第30条の現行の遮音基準に適合する構造へ合わせ直す必要が生じます。
Q面積を増やさないリフォームなら上限は関係ありませんか?
A面積を増やさない大規模の修繕・模様替は施行令第137条の12第7項が別に定めており、界壁の危険性を増やさない範囲であれば面積の上限なく緩和の対象になります。

まとめ

✔増築や改築が一定の規模におさまれば、既存部分の界壁までやり直す必要はありません。
✔対象となるのは、法第30条の適用を受けない既存不適格の長屋または共同住宅です。
✔増築は増築後の延べ面積が基準時の延べ面積の1.5倍を超えないことが条件です。
✔改築は改築に係る部分の床面積が基準時の延べ面積の2分の1を超えないことが条件です。
✔上限を超えると、既存部分を含めた建物全体の界壁が現行基準の適用を受けます。
✔面積を増やさない大規模の修繕・模様替は、施行令第137条の12第7項により面積の上限なく緩和の対象になります。
✔判断に迷う場合は、早めに特定行政庁や建築士に相談することが大切です。

増築の計画を立てるときは、今日の内容を確認しながら進めます!

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第30条・第86条の7
  • 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条・第137条の5・第137条の12

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。

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