事務所や店舗の受付に、火災のときボタン一つで119番へ通報できる装置が置かれていることがあります。
これが消防法の「消防機関へ通報する火災報知設備」で、多くは火災通報装置と呼ばれる機器です。
国の基準では、一部の用途を除き、消防機関へ常時通報することができる電話があれば、この装置を設けないことができます。
この記事では、堺市の審査基準がその電話に携帯電話を数えるのか、携帯電話で装置を省ける建物はどれかを、国の条文と消防庁の通知からたどり、大阪市の運用基準とも比べます。
堺市で事務所ビルを新築します。
固定電話は引かずに、社員の携帯電話だけで済ませる予定です。
火災通報装置がいるかどうかは、建物の用途で分かれます。
まず、国の基準から整理しましょう。
携帯電話があれば、119番には電話できますよね。
はい、ただし堺市の審査基準では、携帯電話は免除の電話に数えません。
別の特例を使うことになります。
- 消防法施行令第23条第3項は、消防機関へ常時通報することができる電話があれば火災通報装置を設けないことができるとし、旅館・ホテル等や病院・社会福祉施設等の一部を除いています
- 堺市の審査基準は、この電話を携帯電話・PHS等以外で、119番通報ができ、位置情報を特定できる電話としています(★)
- 堺市は、(5)項イと(6)項イ・ロ・ハ以外の建物で、携帯電話事業者(MNO)のサービスエリア内か、検査で携帯電話から通報できると確認できれば、令第32条で装置を設けないことができるとしています(◆)
- これは令和7年3月26日の消防庁の通知(消防予第129号)と同じ内容です
- 小さな宿や診療所、通所施設には固定電話などで装置を省ける特例があり、大阪市の公開している運用基準には携帯電話の特例が見当たりません
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目次
堺市で火災通報装置が必要になるのはどんな建物か

火災通報装置を設ける建物は、消防法施行令第23条第1項が用途と延べ面積で決めています。
一 別表第一(六)項イ(1)から(3)まで及びロ、(十六の二)項並びに(十六の三)項に掲げる防火対象物
二 別表第一(一)項、(二)項、(四)項、(五)項イ、(六)項イ(4)、ハ及びニ、(十二)項並びに(十七)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が五百平方メートル以上のもの
三 別表第一(三)項、(五)項ロ、(七)項から(十一)項まで及び(十三)項から(十五)項までに掲げる防火対象物で、延べ面積が千平方メートル以上のもの
| 号 | 主な用途 | 延べ面積 |
|---|---|---|
| 第1号 | 入院できる病院・診療所、入所施設のある助産所、入所型の社会福祉施設、地下街など | 面積にかかわらず |
| 第2号 | 劇場、遊技場、物品販売店舗、旅館・ホテル、入院施設のない診療所、通所型の社会福祉施設、幼稚園、工場、文化財など | 500平方メートル以上 |
| 第3号 | 飲食店、共同住宅、学校、図書館、浴場、駅、神社・寺院、車庫、倉庫、事務所など | 1,000平方メートル以上 |
この距離の考え方は消防機関へ通報する火災報知設備の記事で解説しています。
うちの事務所ビルは延べ1,200平方メートルなので、第3号に当たりそうです。
はい、1,000平方メートル以上の事務所は対象です。
次は、電話で装置を省ける仕組みを見ましょう。
固定電話があれば火災通報装置はいらないのか

第23条第3項です。
- (6)項イ(1)〜(3):入院できる病院・診療所、入所施設のある助産所
- (6)項ロ:特別養護老人ホームなど、入所型の社会福祉施設
- (5)項イ:旅館・ホテル・宿泊所など
- (6)項イ(4):入院施設のない診療所・助産所
- (6)項ハ:老人デイサービスセンターや保育所など、(6)項ロ以外の社会福祉施設
問題は、その電話に携帯電話が入るかどうかです。
堺市の審査基準は、「9 その他★」で次のように定めています。
(ア)119番通報が行える電話であること。
(イ)119番通報時、消防機関にて位置情報の特定が可能であること。
堺市で第3項の電話になるのは、携帯電話・PHS等ではなく、119番通報ができて、消防機関が位置情報を特定できる電話です。
国の質疑応答でも、携帯電話は第3項の電話に含まれないとされています。その内容は再鳴動機能付きの受信機の記事で解説しています。
固定電話を引かないと、第3項は使えないのですね。
はい、携帯電話だけでは第3項になりません。
次は、携帯電話の特例を見ましょう。
携帯電話で火災通報装置を省けるのはどんな建物か

ウが携帯電話の特例です。
ウ 政令別表第1(5)項イ並びに(6)項イ、ロ及びハに掲げる防火対象物以外の防火対象物で、次のいずれかの要件に該当するもの。◆④
(ア) 防火対象物の所在地が自社で通信設備を整備するいずれかの携帯電話事業者(MNO)のサービスエリア範囲内であること。
(イ) 消防法(昭和23 年法律第186 号)第17 条の3 の2 に規定する検査の際、携帯電話での通報が可能であることが確認できること。
消防庁のサイトで、この通知の本文を確かめました。
1 防火対象物の所在地が自社で通信設備を整備するいずれかの携帯電話事業者(MNO)のサービスエリア範囲内である。
2 消防法(昭和23 年法律第186 号)第17 条の3の2に規定する検査の際、携帯電話での通報が可能であることが確認できる。
堺市のウは、この通知とほぼ同じ文です。
「いずれかの要件」なので、サービスエリア内であるか、検査で携帯電話から通報できると確かめられるか、どちらか一方に当たればよい書き方です。
ここで押さえたいのは、携帯電話を第3項の電話として数えるのではなく、令第32条の特例として装置を省いている点です。
- 消防法施行令第23条第1項が、用途と延べ面積で火災通報装置を設ける建物を決める
- 同条第3項が、常時通報することができる電話があれば装置を設けないことができるとし、旅館・ホテル等や病院・社会福祉施設等の一部を除く
- 堺市の審査基準 9★が、第3項の電話から携帯電話・PHS等を外し、119番通報と位置情報の特定を求める
- 令和7年の消防庁の通知(消防予第129号)が、(5)項イと(6)項イ・ロ・ハ以外の建物は、携帯電話の圏内か検査での確認で、令第32条により装置を要しないとしてよいとする
- 堺市の審査基準 8(1)ウ◆④が、この通知と同じ内容を特例適用基準として置く
ただし、ウの対象から、(5)項イの旅館・ホテル等と、(6)項イ・ロ・ハの病院・診療所・社会福祉施設等は外れています。
事務所ビルなら、携帯電話の圏内であれば装置を省けるかもしれないのですね。
はい、令第32条の特例なので、消防署の判断になります。
次は、宿泊施設や診療所の扱いを見ましょう。
小さな宿や診療所や通所施設は電話で代えられるのか

堺市の特例適用基準のアとイは、このうち一部の建物について、常時人のいる場所の電話などで装置を省く道を示しています。
(ア) 政令別表第1 (5)項イのうち、宿泊室数が10以下であるもの
(イ) 政令別表第1 (6)項イ(3)、(4)のうち、病床が19以下であるもの
(ウ) 政令別表第1 (6)項ハのうち、通所施設であるもの
イ 前ア.(ア)~(ウ)以外の防火対象物(政令別表第1(5)項イ、(6)項イ(3)、(4)又は(6)項ハに限る。)で、次に掲げる全ての要件に該当するもの。
(ア) 消防機関へ常時通報することができる電話が、防災センター等常時人がいる場所に設置されていること。
(イ) 電話の付近に通報内容が明示されていること。
(ウ) 定期的に通報訓練が行われており、かつその結果が記録されていること。
(エ) 夜間においても防火管理体制が確立されていること。
アは、宿泊室10以下の宿、病床19以下の診療所等、通所施設を、常時人のいる場所の電話と通報内容の掲示で装置を省ける対象にしています。
イは、それ以外の宿泊施設・診療所等・通所施設等について、電話と掲示に加えて、通報訓練の記録と夜間の防火管理体制まで求めています。
アとイの電話も第3項と同じ「常時通報することができる電話」なので、9★の定義により、携帯電話はここでも外れると読めます。
アにもイにも、(6)項イ(1)・(2)の病院・診療所と、(6)項ロの入所型の社会福祉施設は入っていません。
これらの用途では、装置を自動火災報知設備と連動して起動させることも規則第25条第3項第5号で求められています。詳しくは病院や診療所の火災通報装置の連動の記事で解説しています。
小さな宿なら、固定電話と掲示で装置を省けることがあるのですね。
はい、ただし携帯電話では足りません。
次は、大阪市や東大阪市の基準と比べましょう。
大阪市や東大阪市の基準と比べると何が違うのか

「第5 特例基準」の柱書と1は次のとおりです。
1 消防機関へ常時通報することのできる電話(直接消防機関へ通報できるもので、携帯電話又はPHS等を除く。以下同じ。)が、管理権原ごとに、常時従業員等のいる場所(火災発生時において、火災初期対応を行うことができる要員が確保されているものに限る。)に設置されており、当該電話の直近に操作方法及び通報内容(火災である旨並びに防火対象物の所在地、名称及び電話番号をいう。以下同じ。)が明示されているもので、次のいずれかに該当するもの
(2)は、管理権原の異なる(5)項イか(6)項ハの部分が2以上あり、その占有面積が500平方メートル未満のものです。
2は無人の駐車場等、3は宿泊者のほかに関係者がいなくなる宿泊施設の特例です。関係者が不在になる宿泊施設の考え方は宿泊施設の火災通報装置の記事で解説しています。
大阪市の公開している運用基準には、携帯電話のサービスエリアで装置を省く特例は見当たりませんでした(この節で「携帯」の語は、第5.1の電話から除く括弧の1か所だけです)。
この資料が令和7年の通知より前の版か後の版かは確かめられていないので、通知を受けた現在の扱いは大阪市消防局で確認してください。
堺市の特例適用基準には、駐車場の特例として(2)もあります。
堺市と大阪市を並べると、次のとおりです。
| 項目 | 堺市 | 大阪市 |
|---|---|---|
| 第3項などの電話に携帯電話を数えるか | 数えない(9★) | 数えない(第5.1の括弧) |
| 携帯電話の圏内などで装置を省く特例 | あり(8(1)ウ◆④) | 見当たらない |
| 宿泊室10以下・病床19以下・通所施設 | 常時人のいる場所の電話と通報内容の明示(8(1)ア) | 管理権原ごとの電話と操作方法・通報内容の明示(第5.1(1)) |
| それ以外の宿泊施設・診療所等・通所施設等 | 通報訓練の記録と夜間の防火管理体制など4つの要件(8(1)イ) | 管理権原の異なる部分が2以上で占有面積500平方メートル未満(第5.1(2)) |
| 駐車場 | 外気に開放された高架下の駐車場(8(2)) | 無人の駐車場等で出入口に電話(第5.2) |
| 関係者が不在になる宿泊施設 | 見当たらない | 自動火災報知設備との連動などの条件(第5.3) |
小規模な宿・診療所・通所施設の特例は2市ともあり、それ以外の建物の条件や駐車場の扱いは市ごとに違います。
同じ大阪府内でも、携帯電話の扱いの書き方が市によって違うのですね。
はい、公開資料の書き方が違います。
どちらの市でも、着工前に消防署へ確かめましょう。
よくある質問
まとめ
事務所ビルなら、携帯電話の圏内かどうかで装置を省ける道があるのですね。
まずは建物の用途と延べ面積を確かめます!
用途と面積がはっきりすれば、消防署との協議もスムーズに進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」(第二十二版)第1章 総則 4 凡例/第15 消防機関へ通報する火災報知設備 Ⅱ 細目 8 特例適用基準・9 その他・通知一覧 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第2章 第4節 消防機関へ通報する火災報知設備(火災通報装置)第5 特例基準 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市消防局 消防用設備等の運用基準(公開資料) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 消防庁予防課長「消防機関へ通報する火災報知設備の取扱いについて」(令和7年3月26日 消防予第129号)
- 消防法施行令第23条第1項・第3項、第32条
- 消防法施行規則第25条第1項・第3項第5号
※本記事は公表されている法令、消防庁の通知および各市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。堺市と大阪市の比較は、各市が公開している火災通報装置の基準で確かめた範囲のものです。個々の建物で火災通報装置を省けるかどうかは、所轄消防署にご確認ください。





