昭和48年に熊本市で起きた大洋デパート火災は、104人の命を奪う大惨事になりました。
工事中で避難施設が使えないまま、営業が続けられていたことが被害を広げた一因でした。
この火災をきっかけに、消防法は既存の建物にも新しい基準を及ぼす仕組みを整えました。
防火管理者と管理権原者が知っておくべき、遡及適用の考え方をわかりやすく解説します
うちのビルは古い建物なんですが、今の基準に合わせなあかんのでしょうか。
実は消防法には、古い建物にも新しい基準を及ぼす例外の仕組みがあるんです。
なるほど、うちも店舗が入っているので対象になるかもしれませんね。
そうなんです。
特定防火対象物に当たるかどうかがポイントになります。
- 大洋デパート火災をきっかけに、消防法は既存建物にも新しい基準を及ぼす仕組みを整えました。
- 原則は既存不遡及で、建てたときの基準がそのまま維持されます。
- ただし特定防火対象物は例外で、新しい基準に合わせる義務があります。
- 遡及とあわせて、設置時の検査や定期点検の報告制度も同時に強化されました。
- 建築基準法は遡及ではなく仮使用承認制度という別の切り口で対応しました。
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目次
大洋デパート火災はなぜ消防法令の転機になったのか

工事中で避難施設が使えないまま、営業が続けられていたことが被害を広げました。
新しい基準ができても、既存の建物にまで工事をやり直せとは求めません。
これを既存不遡及の原則と呼びます。
ところが大洋デパート火災では、古い建物の弱点がそのまま被害の大きさに直結しました。
死者104人という規模が、この原則だけでは足りない場面があることを浮き彫りにしました。
そんな昔の火災が、今のルールにまだ関係しているんですね。
はい、当時の教訓が今の消防法の土台になっています。
どんな建物に新しい基準が及ぶのか

それが「特定防火対象物」と呼ばれる建物です。
百貨店や旅館、病院、地下街などが特定防火対象物にあたります。
一般の事務所ビルなど、政令で個別に指定されていない建物は原則どおり既存不遡及のままです。
大洋デパートのような百貨店は、まさにこの特定防火対象物の代表例です。
自分の建物がどちらに当たるかは、所轄消防署に確認するのが確実です。
うちは店舗が入っているビルなので、対象になりそうです。
特定防火対象物に当たるなら、最新の基準で設備を見直す必要があります。
遡及とあわせて何が義務付けられたのか

そこで検査や点検の仕組みも同時に強化されました。
設備を新しく設置したときは、消防長・消防署長への届出と検査が必要になりました。
そのあとも定期的な点検と報告が義務づけられています。
消防長・消防署長には、基準どおりに設置・維持されていない場合の措置命令権も与えられました。
遡及だけでなく、そのあとの実効性を確かめる仕組みまでがセットで整えられたのです。
点検って、具体的にはどれくらいの頻度でやればいいんですか。
設備の種類で変わるので、点検資格者に確認するのが確実です。
実務で見落としやすいのはどこか

ところが大洋デパート火災への対応の仕方は、消防法と大きく異なりました。
建築基準法は既存不遡及を貫き、代わりに工事中の使用制限という別の切り口で対応しました。
「消防法も建築基準法も同じルールのはず」と思い込むと、この違いを見落とします。
特定防火対象物にあたる建物では、消防用設備だけが新基準に合わせる対象になる場面が出てきます。
建物の構造そのものと、消防用設備の基準は、別々に確認する必要があります。
建物の構造は古いままでも、消防設備だけ新しくするということですか。
そのとおりです。
設備と構造を分けて考えるのがポイントです。
明日からなにをすればよいのか

この教訓から、工事中の建物にも独自のルールができました。
避難階段や消火設備の工事が終わっていない状態での営業は、原則として認められません。
やむを得ず使用する場合も、仮使用の認定を受ける必要があります。
管理権原者や防火管理者は、工事中の動線と避難施設の状態を日々確認することが欠かせません。
古い建物を使い続けるときも、まずは特定防火対象物にあたるかどうかを所轄消防署に確認しましょう。
工事のときこそ、避難経路をちゃんと確認しないといけないんですね。
はい。
工事中こそ要注意だと覚えておいてください。
よくある質問
まとめ
今回のことで、なぜ昔の火災の話が今のルールに関係するのか分かりました。
そう言っていただけて嬉しいです。
設備の見直しなど、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第十七条の二の五
- 消防法第十七条の三の二・第十七条の三の三
- 消防法第八条第四項
- 建築基準法第三条第二項・第七条の六
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





