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大洋デパート火災はなぜ消防法の遡及適用を生んだのか|既存建物への基準適用と工事中の使用制限を解説

大洋デパート火災が消防法令をどう変えたのかを遡及適用の仕組みから解説する記事のアイキャッチ画像

昭和48年に熊本市で起きた大洋デパート火災は、104人の命を奪う大惨事になりました。
工事中で避難施設が使えないまま、営業が続けられていたことが被害を広げた一因でした。
この火災をきっかけに、消防法は既存の建物にも新しい基準を及ぼす仕組みを整えました。
防火管理者と管理権原者が知っておくべき、遡及適用の考え方をわかりやすく解説します

うちのビルは古い建物なんですが、今の基準に合わせなあかんのでしょうか。

実は消防法には、古い建物にも新しい基準を及ぼす例外の仕組みがあるんです。

なるほど、うちも店舗が入っているので対象になるかもしれませんね。

そうなんです。
特定防火対象物に当たるかどうかがポイントになります。

この記事の結論
  • 大洋デパート火災をきっかけに、消防法は既存建物にも新しい基準を及ぼす仕組みを整えました
  • 原則は既存不遡及で、建てたときの基準がそのまま維持されます。
  • ただし特定防火対象物は例外で、新しい基準に合わせる義務があります。
  • 遡及とあわせて、設置時の検査や定期点検の報告制度も同時に強化されました
  • 建築基準法は遡及ではなく仮使用承認制度という別の切り口で対応しました。

消防法令はなぜ既存の建物にも及ぶのかを既存不遡及の原則と特定防火対象物の例外検査点検の義務化工事中の仮使用制度の四つのステップで示した図解

大洋デパート火災はなぜ消防法令の転機になったのか

工事中の建物と閉鎖された避難階段
昭和48年11月、熊本市の百貨店で起きた火災は104人の命を奪いました。
工事中で避難施設が使えないまま、営業が続けられていたことが被害を広げました。
消防法第十七条の二の五第一項 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令(略)の規定の施行又は適用の際、現に存する(略)防火対象物における消防用設備等(略)がこれらの規定に適合しないときは、当該消防用設備等については、当該規定は、適用しない。この場合においては、当該消防用設備等の技術上の基準に関する従前の規定を適用する。
結論は、消防法の基準は建てたときのものが原則という考え方です
新しい基準ができても、既存の建物にまで工事をやり直せとは求めません。
これを既存不遡及の原則と呼びます。
ところが大洋デパート火災では、古い建物の弱点がそのまま被害の大きさに直結しました。
死者104人という規模が、この原則だけでは足りない場面があることを浮き彫りにしました。

そんな昔の火災が、今のルールにまだ関係しているんですね。

はい、当時の教訓が今の消防法の土台になっています。

どんな建物に新しい基準が及ぶのか

百貨店やホテルの建物と特定防火対象物のしるし
既存不遡及には、実は例外があります。
それが「特定防火対象物」と呼ばれる建物です。
消防法第十七条の二の五第二項第四号 前項の規定は、(略)現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(略)その他(略)多数の者が出入するものとして政令で定めるもの(以下「特定防火対象物」という。)における消防用設備等(略)については、適用しない。
結論は、多数の人が出入りする建物ほど新しい基準に合わせる義務があるということです
百貨店や旅館、病院、地下街などが特定防火対象物にあたります。
一般の事務所ビルなど、政令で個別に指定されていない建物は原則どおり既存不遡及のままです。
大洋デパートのような百貨店は、まさにこの特定防火対象物の代表例です。
自分の建物がどちらに当たるかは、所轄消防署に確認するのが確実です。

うちは店舗が入っているビルなので、対象になりそうです。

特定防火対象物に当たるなら、最新の基準で設備を見直す必要があります。

遡及とあわせて何が義務付けられたのか

点検を行う担当者と書類の束
基準を遡って適用するだけでは、実効性は保てません。
そこで検査や点検の仕組みも同時に強化されました。
消防法第十七条の三の三 第十七条第一項の防火対象物(略)の関係者は、当該防火対象物における消防用設備等(略)について、総務省令で定めるところにより、定期に、(略)点検させ、その他のものにあつては自ら点検し、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない
結論は、遡及とセットで検査と点検の仕組みが強化されたということです
設備を新しく設置したときは、消防長・消防署長への届出と検査が必要になりました。
そのあとも定期的な点検と報告が義務づけられています。
消防長・消防署長には、基準どおりに設置・維持されていない場合の措置命令権も与えられました。
遡及だけでなく、そのあとの実効性を確かめる仕組みまでがセットで整えられたのです。

点検って、具体的にはどれくらいの頻度でやればいいんですか。

設備の種類で変わるので、点検資格者に確認するのが確実です。

実務で見落としやすいのはどこか

同じ形の建物で扱いが分かれる様子
建築基準法にも既存不遡及の原則があります。
ところが大洋デパート火災への対応の仕方は、消防法と大きく異なりました。
建築基準法第三条第二項 この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物(略)がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない
結論は、建築基準法には消防法のような遡及の例外規定が無いということです
建築基準法は既存不遡及を貫き、代わりに工事中の使用制限という別の切り口で対応しました。
「消防法も建築基準法も同じルールのはず」と思い込むと、この違いを見落とします。
特定防火対象物にあたる建物では、消防用設備だけが新基準に合わせる対象になる場面が出てきます。
建物の構造そのものと、消防用設備の基準は、別々に確認する必要があります。

建物の構造は古いままでも、消防設備だけ新しくするということですか。

そのとおりです。
設備と構造を分けて考えるのがポイントです。

明日からなにをすればよいのか

工事中の仮設通路を確認する担当者
大洋デパート火災では、工事中の階段が使えないまま営業が続いていました。
この教訓から、工事中の建物にも独自のルールができました。
建築基準法第七条の六第一項 (略)避難施設等に関する工事を含むものをする場合においては、当該建築物の建築主は、(略)検査済証の交付を受けた後でなければ、(略)建築物又は建築物の部分を使用し、又は使用させてはならない。ただし、(略)特定行政庁が、安全上、防火上及び避難上支障がないと認めたとき(略)には、検査済証の交付を受ける前においても、仮に、当該建築物又は建築物の部分を使用し、又は使用させることができる。
結論は、避難施設が使える状態を確認してから使用するということです
避難階段や消火設備の工事が終わっていない状態での営業は、原則として認められません。
やむを得ず使用する場合も、仮使用の認定を受ける必要があります。
管理権原者や防火管理者は、工事中の動線と避難施設の状態を日々確認することが欠かせません。
古い建物を使い続けるときも、まずは特定防火対象物にあたるかどうかを所轄消防署に確認しましょう。

工事のときこそ、避難経路をちゃんと確認しないといけないんですね。

はい。
工事中こそ要注意だと覚えておいてください。

よくある質問

Q遡及適用の対象になるかはどこで確認できますか?
A自分の建物が特定防火対象物に該当するかどうかは、所轄の消防署に確認するのが確実です。用途や規模によって判断が分かれる場合があります。
Q既存不遡及が適用される建物では何もしなくてよいのですか?
Aいいえ。既存不遡及はあくまで技術基準の話で、維持管理の義務そのものが免除されるわけではありません。日常点検や訓練は引き続き必要です。
Q建築基準法上の基準も遡って適用されることはありますか?
A建築基準法は原則として既存不遡及を維持しており、消防法のような包括的な遡及の例外規定は設けられていません。
Q工事中の建物はどのように使用すればよいですか?
A避難施設に関する工事が終わるまでは使用が制限されます。やむを得ず使用する場合は仮使用の認定を受ける必要があります。

まとめ

大洋デパート火災をきっかけに、消防法は既存建物にも新しい基準を及ぼす仕組みを整えました
原則は既存不遡及で、建てたときの基準が維持されます
特定防火対象物にあたる建物は例外として新基準に合わせる義務があります
百貨店・旅館・病院・地下街などが特定防火対象物の代表例です
遡及とあわせて設置時の検査と定期点検の報告制度も強化されました
建築基準法は遡及ではなく仮使用承認制度で工事中の安全を確保しています
自分の建物が対象になるかどうかは所轄消防署に確認しましょう

今回のことで、なぜ昔の火災の話が今のルールに関係するのか分かりました。

そう言っていただけて嬉しいです。
設備の見直しなど、㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
主な活動

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

参考・出典

  • 消防法第十七条の二の五
  • 消防法第十七条の三の二・第十七条の三の三
  • 消防法第八条第四項
  • 建築基準法第三条第二項・第七条の六

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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