劇場や病院、百貨店といった建物は、完成して検査済証を受け取れば手続きが終わるわけではありません。
建築基準法は、一定規模以上の特殊建築物について、所有者や管理者に「維持保全計画」の作成を求めています。
消防計画や定期報告とは別に建築基準法第8条第2項が定める独自の義務で、床面積と階数の基準を満たすと対象になります。
対象になる用途と基準を正しく理解し、必要な準則・計画を整えておくことが防火管理の土台になります。
うちは病院だから、消防計画も届け出て、点検も欠かさずやっているつもりなんですが。
それは何よりです。
ただ建築基準法にも消防計画とは別に「維持保全計画」を求める規定があり、見落としている事業者様が少なくありません。
消防法の話じゃなくて、建築基準法のほうにも計画がいるってことですか。
そうなんです。
法第8条第2項という条文で、対象になる用途と床面積・階数の基準が決まっているので、今日はその線引きを整理しましょう。
- 劇場・病院・学校・百貨店などの特殊建築物は、その用途に使う部分の床面積が100平方メートルを超えると維持保全計画の対象になり得ます。
- 床面積が100平方メートルを超えても200平方メートル以下の場合は、階数が3以上でなければ対象になりません。
- 義務を負うのは建築物の所有者又は管理者で、占有者だけの立場では作成義務がありません。
- 国・都道府県・建築主事を置く市町村が所有し管理する建築物は、この作成義務の対象から除かれます。
- 消防法上の防火管理者選任・消防計画とは別の基準で判定されるため、両方を確認しておく必要があります。
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目次
維持保全計画とはそもそも何を求める制度なのか

その中でも一定規模の特殊建築物には、より踏み込んだ「維持保全計画」の作成が義務付けられています。
第1項はすべての建築物の所有者・管理者・占有者に向けた努力義務で、罰則を伴う具体的な行為までは定めていません。
第2項は一定の建物に限って、維持保全に関する準則又は計画そのものの作成まで求める、一段重い義務です。
この記事で扱うのは第2項の「準則又は計画の作成義務」の方で、対象になるかどうかは用途と規模で決まります。
次の章で、どんな建物のどんな規模から対象になるのかを具体的に見ていきます。
建物を建てたらそれで終わりじゃなくて、その後もずっと計画がいるってことなんですね。
そのとおりです。
次はどんな用途と規模の建物が対象になるかを一緒に確認しましょう。
どの用途のどんな規模から対象になるのか

劇場や病院、学校、百貨店といった代表的な用途がここに含まれます。
別表第一(い)欄(一)項の劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場、(二)項の病院・診療所・ホテル・旅館・共同住宅・寄宿舎、(三)項の学校・体育館、(四)項の百貨店・展示場・遊技場等が対象用途です。
床面積が100平方メートルを超えれば原則として対象ですが、200平方メートル以下の場合は階数が3以上の建物に限られます。
200平方メートルを超えれば、階数にかかわらず対象になる点に注意が必要です。
まずは自分の建物の用途がこの4分類に当てはまるかどうかを確認するところから始めます。
うちの診療所は平屋で床面積150平方メートルくらいなんですが、これは対象になりますか。
200平方メートル以下なので、階数が3以上かどうかがポイントです。
平屋であれば、その基準では対象外になります。
維持保全計画には何を書けばよいのか

国が示す指針を踏まえて、建物ごとの実情に合わせた準則・計画を作成します。
敷地・構造・建築設備のそれぞれについて、誰がいつ何を点検し、不具合が見つかったときにどう対応するかを定めるのが基本の骨格です。
作成義務を負うのは所有者又は管理者であり、第1項の努力義務とは異なり占有者はこの作成義務の名宛人に含まれません。
消防法上の消防計画とは別の書類であり、両者は記載事項も提出先も重なりません。
既存の点検記録や修繕履歴があれば、それを計画の下敷きとして活用できます。
消防計画とは別物なんですね。
うちは所有者じゃなくて管理を任されている立場なんですが、それでも作らないといけないんですか。
はい、条文では所有者「又は」管理者となっているので、管理者の立場でも作成義務があります。
所有者様とも情報を共有しておくと安心です。
消防計画や定期報告があれば足りると思っていないか

どれか一つを整えれば足りると思い込むと、他の義務が抜け落ちてしまいます。
消防法の防火管理者選任や消防計画の届出は、延べ面積や収容人員など消防法独自の基準で決まります。
建築基準法の定期報告制度も、対象になる建築物を特定行政庁が個別に指定する仕組みで、判定の物差しがまた別です。
維持保全計画は建築基準法第8条第2項という独立した根拠に基づくため、3つの制度をそれぞれ別に確認する必要があります。
条文のただし書により、国・都道府県・建築主事を置く市町村が所有又は管理する建築物はこの作成義務の対象から外れます。
消防計画はちゃんと出しているから、それで全部クリアしていると思ってました。
消防計画と維持保全計画は根拠になる法律も基準も別なので、両方を別々に確認しておくと安心です。
明日からなにを確認すればよいのか

今日から始められる4つのステップに沿って整理します。
- 用途を確認する:劇場・映画館・演芸場・観覧場・公会堂・集会場、病院・診療所・ホテル・旅館・共同住宅・寄宿舎、学校・体育館、百貨店・展示場・遊技場のいずれかに当たるか
- 床面積を確認する:その用途に使っている部分の床面積の合計が100平方メートルを超えるか
- 階数を確認する:床面積が200平方メートル以下なら、階数が3以上あるか
- 所有者・管理者間で共有する:対象になる場合は、指針を参考に維持保全に関する準則又は計画を作成し保管する
迷ったときは、建築確認や検査済証に記載された用途と床面積から出発すると調べやすくなります。
対象になった場合は、指針を参考にしながら自分の建物に合わせた準則・計画を文書として残します。
所有者と管理者が別の立場であっても、義務は共同で果たすものとして情報を共有しておくことが実務的です。
作成した計画は保管しておき、特定行政庁から照会があった際にすぐ提示できるようにしておきます。
用途と床面積、階数の3つを確認すればいいんですね。
うちの建物も一度整理してみます。
はい、判断に迷うところがあれば特定行政庁や私どもにもご相談ください。
よくある質問
まとめ
維持保全計画がどんなものか、よく分かりました。
さっそく自分の建物を確認してみます!
維持保全計画の作成でお困りの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第8条(維持保全)
- 建築基準法施行令第13条の3(維持保全計画の対象となる特殊建築物等の指定)
- 建築基準法別表第一(耐火建築物等としなければならない特殊建築物)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





