防火管理者を選任していれば、経営者自身の消防法上の義務も果たしたことになるのでしょうか。
昭和47年に近畿地方のホテルで起きた火災では、宿泊客ら3名が死亡し、防火管理者とは別に経営者である代表取締役社長が業務上過失致死傷罪に問われました。
判決は経営者に固有の注意義務があると認めた一方で、検察官が主張した義務のうち認められなかったものもはっきり示しています。
この判例が突きつけているのは防火管理者を置くことは経営者自身の設備投資と維持管理の責任を消さないという事実です。
防火管理者を選任していれば、社長は責任を問われないんじゃないんですか。
経営者に固有の注意義務があると認められた判例があります。
具体的に何をしていなかったんですか。
自動火災報知設備の管理です。
認められなかった主張まで、この記事で見ていきます。
- 昭和47年の火災で経営者に業務上過失致死傷罪の成立が認められました
- 決め手は自動火災報知設備の設置・点検整備義務を怠ったことです
- 判決は防火管理者の選任後も経営者固有の義務は併存すると判示しました
- 一方で宿泊客への避難口の口頭告知義務までは認められませんでした
- 誘導灯・誘導標識は設置され機能していれば維持管理義務違反にあたらないとされました
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目次
どんな火災だったのか

判決が認定した事実だけを並べます。
- 昭和47年2月25日午前6時30分ごろ、近畿地方のホテルで発生した
- 建物は本館・新館・中央館・別館などからなり、宿泊定員は約420名だった
- 出火当時の在館者は宿泊客だけで400名を超え、多くは就寝中ないし起床直後だった
- 出火原因は確定しなかったが、客室係の従業員の不始末火の疑いが濃厚とされた
- 死者3名・負傷者6名の被害を出した
- 政令改正で新たに義務付けられた煙感知器付自動火災報知設備は未設置のままだった
- 既設の熱感知器付自動火災報知設備も、度重なる誤報のため受信機の電源が切られたまま放置されていた
経営者は、旅館の代表取締役社長として消防用設備の整備と維持に責任を負う立場にありました。
このホテルには防火管理者も選任され、届出も済んでいましたが、それでも経営者自身の義務は別に問われています。
法改正で新しく求められた煙感知器付自動火災報知設備を設置せず、既設の熱感知器付自動火災報知設備も誤報続きで電源を切ったまま放置していた点が、後に大きな意味を持ちます。
自分の建物でも、法改正で新しく求められた設備を先送りにしていないか、この機会に確認してください。
こんな大きなホテルでも、設備が止まったままだったんですね。
法改正への対応と既設設備の管理、その両方が問われました。
経営者の義務はどこまで問われたのか

まず、争われた土台になる考え方を見ていきます。
消防法が防火管理者の選任を義務づけているのは、建物の管理権原者に防火管理を徹底させるためだと判決は説明しています。
被告側は、設備の拡充などは自分に委任されていない職務であり、防火管理者を選任済みである以上、経営者自身の注意義務は問われないという趣旨の反論をしました。
判決はこの土台のうえで、経営者本人にどんな個別の義務があったかを次に具体的に検討していきます。
自分の建物でも、防火管理者への委任と経営者自身の義務がどこで分かれているかを一度整理してみてください。
防火管理者がいるのに、社長まで責任を問われるんですか。
経営者には防火管理者とは別の固有の義務があると判断されました。
自動火災報知設備の管理でどこに義務違反が認められたのか

判決が示した結論を見ていきます。
1つ目は、法改正で義務付けられた煙感知器付自動火災報知設備を、猶予期間が過ぎても設置していなかったことです。
2つ目は、既設の熱感知器付自動火災報知設備が誤報続きで受信機の電源を切られたままになっていることを把握しながら、補修の依頼を怠っていたことです。
判決は、防火管理者を選任していたことは、この経営者固有の義務を免責しないと明言しました。量刑は禁錮10月・罰金10万円、執行猶予2年です。
自分の建物でも、法改正への対応状況と、既設設備の誤報対応の記録をあわせて確認してください。
スイッチを切ったままにしていたことが決め手だったんですね。
法改正への未対応とあわせて有罪の理由になりました。
宿泊客への避難口の告知まで義務に含まれるのか

どこで線が引かれたのかを見ていきます。
検察官は、宿泊客にあらかじめ避難口や避難要領を告知しておく義務も怠ったと主張しました。
しかし判決は、非常口誘導灯と通路誘導灯が各所に設けられ、格別の故障もなく機能していたことを認定したうえで、それ以上に宿泊客へ個別に告知する義務までは課されないとしました。
同様に、従業員への通報・避難誘導訓練の不備についても、結果との因果関係が疑わしいとして過失は認められませんでした。誘導灯という基本設備が機能していれば、それ以上を求めない、という線引きです。
自分の建物でも、誘導灯や誘導標識が点灯しているか、点検で不良が出ていないかを記録として残しておいてください。
誘導灯さえ点いていれば、口で説明しなくてもいいんですね。
設置と維持ができていれば、それ以上の義務は課されません。
防火管理者を置いていても経営者は何をすべきか

判決が示した具体的な義務の中身を見ていきます。
判決は、経営者自身に設置・点検・補修という一連の管理義務があるとしました。防火管理者に日常の運用を任せることと、設備投資の判断そのものを丸ごと委ねることは別だという考え方です。
やることは3つです。法改正で新たに求められた設備を、猶予期間のうちに計画的に設置すること。既設設備が誤報などで止まっていないか経営者自身も定期的に確認すること。そして誘導灯など基本設備の点検記録を残し、維持管理ができている証拠を残すことです。
今日のうちに自分の建物の受信機の前に立って、スイッチの状態を確認してください。
防火管理者を置いていても、経営者がやることは残るんですね。
法改正への対応と点検記録は経営者自身の仕事です。
よくある質問
まとめ
まず受信機のスイッチを見に行きます。
法改正への対応状況も確認します。
防火管理者の選任は
経営者自身の義務を消しません。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 昭和51年3月30日 和歌山地方裁判所判決
- 消防法第8条(当時)
- 消防法施行令第4条・第21条・第25条(当時)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)所収の判例を参考に、独自に解説を作成
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(経営者・客室係の従業員など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





