タンクローリーが給油取扱所の地下タンクへ燃料を運び込むとき、接続するホースは注入用の一本だけだと思っていないでしょうか。
消防庁は平成30年中に起きた危険物事故を執務資料としてまとめ、令和元年5月27日付け消防危第32号で全国の消防機関へ送付しました。
その中の一件は、荷卸しのときに繋ぐべきもう一本のホースを片側しか接続しなかったために蒸気が漏れ、火災に至った事故です。
ベーパー回収ホースは両側を接続して初めて機能する設備だという点を、事故の経緯から確認します。
うちのスタンドでもタンクローリーが荷卸ししていますが、ホースは注入用の一本だけだと思っていました。
もう一本あるんですか。
もう一本はベーパー回収ホースです。
タンク内の蒸気を戻すための配管です。
それを繋ぎ忘れると、何が起きるんでしょうか。
蒸気が床に漏れて引火する事故が実際に起きています。
事故の経緯を順に見ていきましょう。
- 消防庁は平成30年中の危険物事故をまとめた執務資料(令和元年5月27日付け消防危第32号)でベーパー回収ホースの片側未接続による火災事例を示しました
- 事故は移動タンク貯蔵所から給油取扱所の地下タンクへ荷卸しする際、タンクローリー側のホースを接続しなかったことが原因でした
- 地下貯蔵タンクの通気管に蒸気回収用の弁を設ける場合、弁は常時開放し注入中だけ閉鎖する構造にすることが規則で定められています
- 見落としやすいのは、作業を急ぐあまりホースの片側接続を省略してしまうことです
- 荷卸し前に二箇所の接続を指差呼称で確認することが有効な対策になります
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目次
ベーパー回収ホースの片側未接続はなぜ火災につながったのか

その代表的な事例の一つが、荷卸し中のベーパー回収ホースをめぐる火災です。
正しくは排気管側とタンクローリー側の両方にホースを接続し、注入で押し出された蒸気をタンク内へ戻す仕組みです。
今回はタンクローリー側だけが未接続のまま荷卸しが始まり、行き場を失った蒸気が床面にたまりました。
そこへ何らかの着火源が加わり、防火壁の一部が焼損し作業員1名が負傷する火災になっています。
設備そのものに欠陥があったわけではなく、接続という作業の手順が抜けたことが直接の原因でした。
ホースを繋ぎ忘れただけで、火災にまで発展するものなんですか。
はい、片側だけ繋いで荷卸しを始めてしまったことが原因でした。
どんな場面で使う設備なのか、次に見てみましょう。
ベーパー回収ホースはどんな場面でどの設備が対象になるのか

荷卸しのたびに、タンクローリーと地下タンクの間でベーパーのやり取りが起こります。
この通気管に可燃性蒸気を回収するための弁を設けている給油取扱所が、今回の事故の対象になった設備です。
弁の有無は施設ごとに異なり、すべての給油取扱所に一律で義務づけられているわけではありません。
タンクローリーからガソリンや軽油を荷卸しするたびに、この弁付きの通気管とタンクローリー側の双方をホースでつなぐ作業が発生します。
自分の施設にこの弁があるかどうかは、地下タンクの通気管の立ち上がり部分を確認すれば分かります。
うちの地下タンクに、この弁が付いているかどうか見分け方が分かりません。
通気管の立ち上がり部分に弁の箱があるかで見分けられます。
荷卸しの業者さんに確認してもらうのが確実です。
通気管の弁はどんな仕組みでベーパーを回収しているのか

荷卸しのときだけ閉じることで、蒸気を外へ逃がさずホースへ押し出します。
タンクローリーからガソリンを注入する間だけ弁が閉じ、行き場を失った蒸気がベーパー回収ホースを通ってタンクローリー側へ押し戻される構造になっています。
この押し戻しが成立するのは、排気管側とタンクローリー側の両方にホースがつながっているときだけです。
万一ホースの外で圧力が異常に高まっても、十キロパスカル以下の圧力で弁が開く安全弁としての働きも兼ねています。
片方でも外れていれば、この閉じた輪が崩れ、蒸気は弁の閉鎖中も逃げ場を探すことになります。
注入中だけ弁が閉じるというのは、初めて知りました。
両側がつながって初めて成立する仕組みです。
だからこそ、接続の省略が危険につながります。
実務で見落としやすいのはどこか

急いでいるときほど、省略してよい手順とそうでない手順の線引きが曖昧になりがちです。
接続を省いても普段は何も起きないという経験が、判断を甘くしていたと執務資料は分析しています。
慣れた作業ほど、リスクへの感度が下がっていくという指摘は、荷卸しに限らず日常の危険物取扱い全般に当てはまります。
生産性を優先した省略行為は、事故が起きて初めて代償が表に出るという点も見落とされがちです。
設備の整備だけでなく、こうした判断の甘さにどう歯止めをかけるかが、再発防止の本当の課題になります。
慣れている作業員ほど危ないというのは、意外でした。
慣れによるリスク感度の低下が今回の背景にあります。
だからこそ、確認を仕組みにしておく必要があります。
明日から何を確認すればよいのか

設備を変えなくても、確認の手順を決めておくだけで防げる事故です。
まず、荷卸しを始める前に排気管側とタンクローリー側の両方にホースが接続されているかを、手を止めて目で確認します。
次に、指差呼称で接続箇所をひとつずつ確認する手順を、荷卸しチェックリストに組み込みます。
最後に、運行の遅れなど急ぐ理由があるときほど確認を飛ばしやすいことを踏まえ、立会う側も声をかけて確認を促す体制にしておきます。
対策は特別な設備投資ではなく、確認を仕組みにすることです。所轄消防署や荷卸し業者とも、立会いの手順を一度すり合わせておくと安心です。
次の荷卸しから、接続の指差呼称を立会いの手順に入れてみます。
それだけで省略を防ぐ仕組みになります。
業者さんとも一度確認しておきましょう。
よくある質問
まとめ
両側を繋いで初めて機能する設備だと知って、見方が変わりました。
指差呼称を習慣にすれば防げる事故です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 平成30年中の危険物に係る事故に関する執務資料の送付について(令和元年5月27日付け消防危第32号、消防庁危険物保安室長発出)
- 危険物の規制に関する規則第20条第3項(地下貯蔵タンクに設ける通気管の位置及び構造)
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





