ビルの持ち主が消防用の設備を一応そろえていれば、あとで火災が起きても責任を問われないのでしょうか。
昭和43年に近畿地方の雑居ビルで起きた火災では、階段の照明も自動火災報知設備も十分に機能しておらず、利用客が重い熱傷を負いました。
裁判所は建物の設置・保存に瑕疵があったと複数認めた一方で、被告側が持ち出した言い分の中には退けられたものもありました。
この判例が突きつけているのは設備を置いただけでは瑕疵の責任から逃れられないという事実です。
設備を一応そろえておけば、あとから責任を問われないんじゃないんですか。
設置しただけでは足りないと判断された判例があります。
具体的にどこが足りなかったんですか。
自動火災報知設備の設置範囲と階段の照明です。
退けられた言い分まで、この記事で見ていきます。
- 昭和43年の火災で、建物の設置・保存に瑕疵があったと認められました
- 決め手は階段の照明と自動火災報知設備の設置範囲です
- 裁判所は瑕疵が複数あるときは所有者と占有者がそれぞれの瑕疵について責任を負うと判示しました
- 一方で出火原因は第三者の過失だから因果関係がないという反論は退けられました
- 失火責任法の適用を求める反論も、工作物責任には及ばないとして退けられました
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目次
どんな火災だったのか

判決が認定した事実だけを並べます。
- 昭和43年1月30日午後9時30分ごろ、近畿地方の繁華街にあった雑居ビルの3階で発生した
- 建物は所有者3名が共有し、地下から3階までを賃借人の会社が喫茶店とボーリング場として占有していた
- 利用客は3階でボーリング遊戯中、天井の換気装置から出る煙に気づいた従業員から避難の指示を受けた
- 階段の照明は全て消えており、利用客は足さぐり状態で降りたところ突如眼前に爆発的な火焔が生じた
- 利用客は顔・両手・両下肢に重い熱傷を負い、約2年2か月の入院と手指の一部を失うなどの後遺症が残った
- 建物には自動火災報知設備・非常警報設備・屋内消火栓・スプリンクラー・避難器具・通路誘導灯・連結送水管・非常用外部階段の設置が求められていた
利用客は避難の途中、真っ暗な階段で足がすくみ、そのまま炎に包まれています。
建物は所有者3名の共有で、地下から3階までを賃借人の会社が一括して借り、喫茶店とボーリング場を営んでいました。
4階以上は工事中で使用されておらず、争いの対象は主に3階までの部分です。
自分の建物でも、複層階を別の会社が借りている場合、設備の設置状況を所有者自身が把握しているかを確認してください。
階段の照明が消えていたなんて、避難できる状況じゃないですね。
その階段の照明も、裁判所が瑕疵と認めた設備の一つです。
建物の所有者と賃借人のどこが問われたのか

争われた土台になる考え方を見ていきます。
利用客は、階段の照明・自動火災報知設備・非常用外部階段などが備わっていなかった点を建物の設置または保存の瑕疵だと主張しました。
被告側は、出火原因は建物の外にいた第三者の過失によるものだから瑕疵と傷害の間に因果関係はないと反論しました。
さらに、同じ建物なら賃借人である占有者が先に責任を負い、所有者は占有者に責任がない場合だけ二次的に責任を負うはずだとも主張しました。
自分の建物でも、所有者と賃借人のどちらが何を管理しているかを、契約書のうえだけでなく実態で確認してください。
建物を貸しているだけの会社と、建物を持っているだけの所有者、どっちが責任を負うんですか。
その優先順位の主張も、この判決では退けられています。
裁判所が瑕疵と認めたのはどこか

判決が認めた瑕疵を見ていきます。
まず、火災当時階段の照明が消えていたこと自体が設置または保存の瑕疵だと認めました。
次に、3階で作動するはずの自動火災報知設備が当該階の検知にとどまり、他の階へ火災を知らせる仕組みを欠いていたことも瑕疵とされました。
さらに、建設用の足場が組まれていただけで実際には使えなかった非常用外部階段についても、設置していなかった瑕疵があると判断されました。
自分の建物でも、避難照明・感知器の連動範囲・避難階段が図面どおりに機能する状態かを、実際に歩いて確認してください。
3階の設備なのに、他の階まで知らせる仕組みが要るんですか。
多数の来場者が見込まれる建物では、それが当然の注意義務だとされました。
被告側のどの言い分が退けられたのか

退けられた言い分を見ていきます。
被告側は、賃借人である占有者が先に責任を負い、所有者は占有者が免責される場合にだけ責任を負うと主張しましたが、瑕疵ごとに責任を判断すべきだとして退けられました。
出火原因になった第三者(当時建物の外にいた人物)の過失を理由に因果関係を否定する主張も、瑕疵がなければ安全に避難できたはずだとして退けられました。
軽過失なら免責されるとする失火責任法の適用を求める主張も、工作物責任は危険責任であって同法の対象ではないとして退けられました。
自分の建物でも、「貸しているだけだから関係ない」という整理が通らない場面があることを知っておいてください。
設備を貸している側だから関係ないと思っていましたが、それでは通らないんですね。
瑕疵ごとに、それぞれの管理者が責任を負うと判断されました。
明日からなにをすればよいのか

判決が実質的に求めた基準を見ていきます。
判決は、通路誘導灯の設置の有無にかかわらず、通路・階段・出口の照明が点灯していること自体が多数の顧客の安全に必要だと述べています。
やることは3つです。階段や通路の照明が実際に点灯しているかを定期的に見て回ること。感知器が設置階だけでなく建物全体に連絡が届く仕組みになっているかを確認すること。そして避難用の階段や出口が図面どおりに使える状態かを、工事中の放置がないか含めて点検することです。
今日のうちに自分の建物の階段の照明スイッチを見に行ってください。
設置してあるだけでは足りなくて、点いていることまで見るんですね。
設置の記録だけでなく、点灯の記録まで残してください。
よくある質問
まとめ
まず階段の照明を見に行きます。
感知器の連絡範囲も確認します。
設備は置くだけでなく
機能している状態まで保つ必要があります。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 昭和50年3月20日 大阪地方裁判所判決
- 民法第717条
- 消防法第17条(当時)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)所収の判例を参考に、独自に解説を作成
※判決文の引用中の人名は、いずれも役割を示す表記(建物所有者・賃借人の会社・出火元となった第三者など)に置き換えています。本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。





