「1階が飲食店で、2階から上は事務所」「事務所の一角に会議室やホールを併設した」「建物を増改築した」──こうした複合施設で、消防法上その建物が何項の防火対象物になるかは、見た目だけでは決まりません。
面積の割合や、実際に誰がその部屋を使うかという実態ひとつで、判定が変わってきます。
本記事では、消防実務六法に収められた実際の質疑応答をもとに、複合施設の用途区分がどう判定されるかを5つの場面で見ていきます。
読み終えるころには、自分の建物がどの項に当たるか、判断の道筋が見えてくるはずです。
うちのビル、1階に飲食店が入ってて、2階から上は事務所なんです。
これって消防法上どう扱われるんですか。
面積の割合や、誰がその部屋を使うかによって、同じ建物でも扱いが変わってくるんですよ。
へえ。
「1階が飲食店だから」で単純に決まるわけじゃないんですね。
そうなんです。
今日は実際にあった5つの判定例を見ながら、考え方を整理していきましょう。
- 非特定用途部分が延べ面積の90パーセント以上・特定用途部分が300平方メートル未満なら、まとめて一つの用途とみなせる場合がある(ただし宿泊施設や病院など一部の用途は対象外)
- 事務所ビルに併設したホールは、風俗営業等取締法などの適用の有無ではなく、実際に誰が使うかで用途区分が決まる
- 増改築で用途が増えた建物は、複合用途防火対象物として扱われる
- 特定用途が複数ある既存の建物でも、耐火区画を施せばそれぞれ別々に既存の特例基準を適用できる場合がある
- 農業用の収納小屋は、そもそも消防法上の防火対象物には当たらない
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目次
複合ビルはどこまで一つの用途とみなせるか

その面積が十分に小さければ、建物全体を主たる用途の防火対象物としてまとめて扱える場合があります。
この甲乙の考え方はみなし従属と呼ばれ、小規模なテナント部分を主たる用途に含めて考える仕組みです。
ただし現在は、平成27年の見直しにより宿泊施設や病院、老人ホームなど火災危険性の高い一部の用途にはこの基準を使えなくなっています。
自分のビルに当てはめる前に、対象のテナントがこの除外リストに入っていないかをまず確認してください。
迷ったら、面積の内訳表を持って所轄消防署に相談するのが確実です。
うちのビルにも小さな喫茶店が1軒だけ入ってるんですけど、これもまとめて考えていいんですか。
面積が延べ面積の10パーセント未満で300㎡未満なら、まとめて考えられる場合があります。
ただし喫茶店ではなく宿泊施設や病院が入っている場合は対象外なので、まずは用途の確認からです。
事務所ビルのホールは何を基準に用途が決まるか

実はここで基準になるのは、興行場法や風俗営業等取締法といった他の法律の適用の有無ではありません。
興行場法や風俗営業等取締法の適用を受けないからといって、それだけで(15)項のまま扱えるわけではありません。
同じホールでも、従業員だけが使うなら主用途に含まれ、一般の人々が使うなら別の用途として複合判定になります。
自社のホールや会議室を第三者に貸し出すようになった時点で、この判定が変わる可能性があると覚えておいてください。
利用規約を変える前に、実際の利用者層を整理しておくと相談がスムーズです。
うちの会議室、風営法の許可とか取ってないから大丈夫だと思ってました。
そこは見られていないんです。
誰が使っているか、一度棚卸ししてみましょう。
増改築で用途が増えた建物はどう判定するか

このとき忘れてはいけないのが、増築部分だけでなく建物全体の判定をやり直す必要があるという点です。
開設時が単一用途だったという過去の経緯は関係なく、増改築後の現状で判定し直されます。
既存部分の用途変更も含めて、建物全体を一つの複合施設として見直す必要がある点がポイントです。
増築の計画段階で、消防用設備等の設置基準がどこまで変わるかを先に確認しておくと手戻りが少なくなります。
用途変更届の提出も忘れずに行ってください。
今度うちの建物にレストランを増築する予定なんですが、届出だけしておけばいいんでしょうか。
それだけでは足りません。
建物全体の項判定をやり直して、必要な設備を確認するところから始めましょう。
特定用途が複数ある既存の建物はどう扱われるか

このとき、区画さえきちんとしていれば、それぞれの用途ごとに別の基準を当てはめられる場合があります。
ポイントは規則第13条第1項が定める区画に適合しているかどうかで、区画がなければこの扱いは使えません。
一つの建物に性質の違う特定用途(老人ホームと旅館など)が混在していても、耐火構造の区画があれば個別に既存の特例基準で見てもらえる余地があります。
区画の仕様は規則の号ごとに細かく決まっているので、増改築や用途追加の前に図面で確認しておくと安心です。
既存の特例基準がそのまま使えるかどうかは、区画の状態次第で変わることを覚えておいてください。
うちのビル、1階に老人デイサービス、2階に旅館業をやってる別会社が入ってるんですけど、まとめて新しい基準を満たさないとダメですか。
区画がきちんとしていれば、それぞれ別々の基準で見てもらえる可能性があります。
まず区画の図面を確認してみましょう。
農作業小屋は防火対象物に当たるか

建物によっては、そもそも消防法上の防火対象物にすら当たらないケースがあります。
穀物やトラクターを収納するだけの農業用収納舎は、住宅に付設していても独立していても扱いは変わりません。
ただしこれは純粋な収納用途に限った話で、直売所や加工場、休憩スペースなどを兼ねる場合は別の項に該当する可能性があります。
自分の建物が本当に収納だけの用途かどうか、使い方が広がっていないかを一度棚卸ししてみてください。
判断に迷う建物があれば、用途を書き出した上で所轄消防署に確認するのが確実です。
実家の農機具小屋、届出とか要るのかとずっと気になってたんです。
純粋な収納用途だけなら、防火対象物には当たりません。
ただ使い方が広がっていないか、一度確認してみてくださいね。
よくある質問
Q. みなし従属の基準は自分で計算してよいですか
A. 面積の内訳を整理したうえで、判定結果は所轄消防署に確認することをおすすめします。特に宿泊施設や病院などが含まれる場合は、みなし従属そのものが使えない可能性があります。
Q. ホールを一度でも一般開放したら判定は変わりますか
A. 恒常的に一般の人々が利用する状態になれば、用途区分が変わる可能性があります。単発のイベント利用か、継続的な貸出しかで実態を整理してください。
Q. 増築の届出さえ出せば消防用設備等は今のままでよいですか
A. いいえ。増築後の用途区分によっては、既存部分も含めて設置基準が変わることがあります。増築計画の段階で確認しておくのが安全です。
Q. 農機具小屋に太陽光パネルの倉庫を兼ねさせても大丈夫ですか
A. 収納する物や使い方によって判断が変わるため、用途の広がりがあれば改めて所轄消防署に確認してください。
まとめ
面積の割合と、実際の利用者で決まるってことがよく分かりました。
うちのビルも一度整理してみます。
ぜひそうしてください。
面積表と利用実態が整理できたら、㈱防災屋でもご相談を承っています。
参考・出典
- 消防法施行令別表第1(16)項に関する疑義について(昭和52年1月6日 消防予第3号)
- 消防法施行令別表第1に掲げる防火対象物の取扱いについて(昭和50年4月15日 消防予第41号・消防安第41号)
- 事務所ビルにホールが併設されている場合の取り扱いについて(昭和52年1月27日 消防予第12号)
- 消防法施行令別表第1の取扱いについて(昭和52年5月18日 消防予第98号)
- 特定用途に供する部分が2以上ある既存防火対象物の基準について(昭和52年1月27日 消防予第12号)
- 既存防火対象物に対する消防用設備等の技術上の特例基準の適用について(昭和50年 消防安第77号)
- 農業用収納舎に対する防火対象物としての取り扱いについて(昭和52年5月23日 消防予第108号)
- 令別表第1に掲げる防火対象物の取り扱いに関するみなし従属の一部見直しについて(平成27年2月27日 消防予第81号)
- 「消防実務六法 質疑応答編」(消防実務研究会編・東京法令出版)所収の質疑応答を参考に、独自に解説を作成
※本記事で紹介した質疑応答は昭和50年代の回答を含みます。みなし従属の基準(延べ面積の90パーセント以上・300平方メートル未満)は現在も基本的な考え方として使われていますが、平成27年の見直し以降、宿泊施設や病院、老人ホームなど一部の用途には適用できません。条文番号・通達番号は当時のものです。個別の判定は所轄消防署にご確認ください。





