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植物油の変圧器はなぜ大型消火器で足りるのか|燃焼点300度と容量ごとの区画要件を解説

変圧器室で変圧器の銘板を点検する技術者の写真

変圧器の消火設備というと、不活性ガスやハロゲン化物といった特殊消火設備を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実は、冷却や絶縁に使う油に植物油を使う変圧器には、条件を満たせば大型消火器の設置だけで済む特例があります。
令和5年3月30日、消防庁は「消防予第205号」という通知でこの特例の要件を具体的に示しました。
この記事では、特例の対象になる条件と、実務で見落としやすい容量ごとの区画要件を解説します。

変圧器の消火設備って、不活性ガスとか粉末とか大掛かりで正直避けたい設備なんです。
植物油を使ったタイプなら楽になると聞いたんですが。

はい、条件を満たせば大型消火器だけで済む特例があります。
まずは対象になる変圧器の条件から確認しましょう。

うちも古い変圧器を植物油タイプに更新する話が出ていて、詳しく知りたいです。

令和5年に消防庁が出した通知で明確になった特例です。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 発電機・変圧器等が設置され床面積200平方メートル以上の部分には、不活性ガス消火設備等の特殊消火設備の設置が原則必要です
  • 冷却・絶縁の油に植物油を使う変圧器は、施行令第32条の特例で大型消火器に代えられる場合があります
  • 特例を使うには、遮断器・耐火構造の区画・油の流出防止対策など6つの要件をすべて満たす必要があります
  • 単器容量が10,000kVA以上か2,000kVA以上10,000kVA未満かで、求められる区画の造りが変わります
  • 判断に迷ったら自己判断せず、所轄消防署に相談することが実務の基本です

植物油の変圧器の消火設備の特例の要件をまとめた図解

植物油の変圧器はなぜ消防法上の扱いが問題になったのか

植物油を使う変圧器と従来の変圧器を並べ環境に配慮した油の変圧器が増えていることを示したイメージ
環境に配慮した植物油入りの変圧器が電力業界で広がる中、鉱油用にできた規制をそのまま当てはめてよいのかが問われました。
そこで消防庁は、質疑応答という形で判断を示しました。
問 消防法施行令(昭和36年政令第37号。以下「令」という。)第13条第1項の規定により、「別表第1に掲げる防火対象物の発電機、変圧器その他これらに類する電気設備が設置されている部分で、床面積が200平方メートル以上の防火対象物又はその部分」には、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備又は粉末消火設備(以下「特殊消火設備」という。)を設置しなければならないこととされているが、冷却又は絶縁のための油類(以下「絶縁油」という。)に植物油を使用する変圧器で、次に掲げる要件を満たすものについては、令第32条の規定を適用し、特殊消火設備に代えて大型消火器を設置して差し支えないか。(消防用設備等に係る執務資料の送付について 令和5年3月30日 消防予第205号)
答 差し支えない。(消防用設備等に係る執務資料の送付について 令和5年3月30日 消防予第205号)
油の性質と設備の造りが条件を満たせば、特例が使えます
背景にあるのは植物油の広がりです。植物油は生分解性が高く、鉱油に比べて製造から廃棄までの二酸化炭素の排出量も少ないとされ、環境配慮型の変圧器として採用が増えています。
一方で消防法施行令第13条第1項は、変圧器等が設置された床面積200平方メートル以上の部分に不活性ガス消火設備等の設置を求めており、油の種類による違いを条文自体は書き分けていません。
そこで消防庁は令和5年3月30日の通知で、植物油を使う変圧器に限って一定の要件を満たせば施行令第32条の特例を適用してよいと整理しました。
自分の建物やこれから導入する設備が対象になるかどうかは、次の見出しから確認していきます。

植物油の変圧器なんて最近よく聞くようになりましたが、消防法だと特別扱いになるんですね。

環境に優しい変圧器が増えたことで、国が扱いを整理したんです。
次に対象になる条件を見てみましょう。

どんな変圧器がこの特例の対象になるのか

変圧器のそばに温度計と油の容器を置き燃焼点と危険物への該当性を確認することを示したイメージ
植物油を使っていれば何でも対象になるわけではありません。
まず油そのものの性質が問われます。
別表第1に掲げる防火対象物の発電機、変圧器その他これらに類する電気設備が設置されている部分で、床面積が二百平方メートル以上のもの 消火設備:不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備又は粉末消火設備(消防法施行令第13条第1項)
1 絶縁油として使用する植物油は、消防法(昭和23年法律第186号)第2条第7項に規定する危険物に該当せず、かつ、燃焼点が300度を超えるものであること。(消防用設備等に係る執務資料の送付について 令和5年3月30日 消防予第205号)
まず入口となるのは油そのものの性質です
植物油であっても、消防法上の危険物に該当してしまえば、この特例の対象にはなりません。
そのうえで燃焼点が300度を超えることが求められます。燃焼点が高いほど、火が燃え広がりにくいためです。
一般に使われる大豆油や菜種油系の植物油はこの条件を満たすことが多いとされていますが、採用を検討する製品ごとに成分表やメーカーの資料で確認する必要があります。
この油の条件をクリアしたうえで、次の見出しで説明する設備側の要件も同時に満たさなければなりません。

なるほど、植物油を使った変圧器なら何でもいいわけじゃないんですね。

そうです、油の性質にも条件があります。
次に設備側の具体的な要件を確認しましょう。

通知は具体的に何を求めているのか

遮断器を備えた変圧器室を耐火構造の壁と防火戸で区画したことを示したイメージ
油の性質だけでは足りません。変圧器そのものと、それを設ける部屋の造りにも条件があります。
通知はここを具体的な数値と構造で示しました。
2 変圧器には、電気設備に関する技術基準を定める省令(平成9年通商産業省令第52号)第14条に規定する過電流遮断器及び第44条に規定する自動的に当該変圧器を電路から遮断する装置が施設されていること。 3 変圧器は、耐火構造で区画された室に設けられていること。 6 変圧器を設ける室には、油の流出を防止する対策及び放圧管からの噴油対策が講じられていること。(消防用設備等に係る執務資料の送付について 令和5年3月30日 消防予第205号)
電気側の保護と部屋側の防火構造の両方が要件になっています
電気側では、過電流を遮断する装置と、異常時に変圧器を自動で電路から切り離す遮断装置の両方を備える必要があります。
部屋側では、変圧器を耐火構造の室に設けることが前提になり、さらに油が漏れたときの流出防止策と、内部圧力が高まったときに配管から噴き出す油への対策も求められます。
これらは容量にかかわらずすべての対象変圧器に共通する要件で、次の見出しで説明する容量別の要件はこの土台の上に追加されます。
設計段階で遮断装置・耐火構造の室・油の流出対策の3つを満たせているかを電気設備の図面と照らし合わせておくと、あとの確認がスムーズになります。

要件がいくつもあって、うちの設備がどこまで当てはまるか正直不安です。

遮断器や区画の造りなど、図面で確認できる項目が中心です。
1つずつ照らし合わせれば大丈夫です。

実務で見落としやすいのはどこか

専用の個室に設けた大容量の変圧器と間仕切り壁と防火戸で区画した変圧器を対比したイメージ
見落としやすいのは、変圧器の容量によって求められる区画の厳しさが変わることです。
すべての対象変圧器に同じ区画で足りるわけではありません。
4 単器容量が10,000kVA以上の変圧器にあっては、当該変圧器専用の個室に設けられ、当該変圧器のほか、変圧器と直結される電圧調整器、補償リアクトル、整流器及びユニット受電方式の開閉装置、ケーブルヘッド等の電気設備に関連する機器以外が設置されていないこと。 5 単器容量が2,000kVA以上10,000kVA未満の変圧器にあっては、当該変圧器(略)と他設備との間に、耐火構造の壁(衝立)及び防火戸で遮へいされた区画に設けられていること。(消防用設備等に係る執務資料の送付について 令和5年3月30日 消防予第205号)
容量の段階で必要な区画の造りが変わります
単器容量が10,000kVA以上の大きな変圧器は、その変圧器と直結する周辺機器以外を置かない専用の個室に設けなければなりません。
一方、2,000kVA以上10,000kVA未満の変圧器は、専用の個室までは求められず、耐火構造の壁や衝立と防火戸で他設備と区画されていれば足ります。
通知の文面は10,000kVA以上と2,000kVA以上10,000kVA未満の2段階しか示しておらず、2,000kVA未満の小さな変圧器については、この追加の区画要件そのものが明記されていません。前の見出しの共通要件(耐火構造の室に設けること等)を満たせば足りると読めますが、容量の境目をまたぐ増設や更新の際は、区画がどちらの段階に対応しているかを取り違えやすいところです。
容量が変わる更新工事のときほど、区画の造りを図面と現地の両方で確かめておくことが実務のポイントになります。

容量によって求められる区画が違うのは、正直見落としそうです。

はい、そこが実務で一番間違えやすい点です。
容量帯ごとの違いを整理しておきましょう

導入前に何を確認すればよいのか

クリップボードを持つ作業員が変圧器と大型消火器を確認している様子を示したイメージ
ここまでの条件を整理すると、確認すべき項目は油の性質・電気設備の保護・部屋の区画の3方向に分かれます。
最後に、実際に進める手順を確認しましょう。
この節の規定は、消防用設備等について、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して、この節の規定による消防用設備等の基準によらなくとも、火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、かつ、火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めるときにおいては、適用しない(消防法施行令第32条)
最終的な適用の判断は所轄消防署が行います
施行令第32条の特例は、消防長または消防署長が個別に「差し支えない」と判断する仕組みです。通知は判断の目安を示したものであり、要件を満たしていれば自動的に適用されるという制度ではありません。
導入や更新を検討する段階で、油の成分表、遮断器・区画の図面、容量ごとの必要書類を揃え、着工前に所轄消防署への事前相談を行うことが確実な進め方です。
既存の変圧器を植物油タイプへ更新する場合も同じ要件が問われるため、改修計画の早い段階で消防設備業者と一緒に要件を洗い出しておくと、あとの手戻りを防げます。

確認する項目は分かりました、あとは実際にどう進めればいいですね。

所轄消防署への事前相談が一番確実です
書類を揃えてから相談に行きましょう。

よくある質問

Q植物油ならどんな変圧器でも大型消火器で足りますか?
Aいいえ。燃焼点が300度を超え危険物に該当しない植物油であることに加えて、遮断器・耐火構造の区画・油の流出防止対策など6つの要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると特殊消火設備の設置が原則どおり必要です。
Q鉱油の変圧器を植物油に交換すれば自動的に特例が使えますか?
A交換しただけでは足りません。遮断器の設置や区画の耐火構造化など設備側の条件も同時に満たす必要があるため、設計段階から所轄消防署に確認しながら進めることをお勧めします。
Q容量が2,000kVA未満の変圧器にも区画の要件はありますか?
A通知が定める容量別の追加要件は10,000kVA以上と2,000kVA以上10,000kVA未満の変圧器を対象としており、2,000kVA未満についてはこの追加要件が明記されていません。ただし耐火構造の室に設ける要件など他の要件は変わらず必要です。
Qこの特例は新設の変圧器だけが対象ですか?
A通知の文面は新設と既設を区別していません。既設の変圧器を植物油タイプに更新する場合も要件を満たせば対象になり得ますが、個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

まとめ

発電機・変圧器等が設置され床面積200平方メートル以上の部分には不活性ガス消火設備等の設置が原則必要です
冷却・絶縁に使う油が植物油で燃焼点300度超・危険物非該当であることが特例の入り口です
変圧器に過電流遮断器と自動遮断装置を備えることも要件の1つです
変圧器を耐火構造で区画された室に設けることが必須です
単器容量10,000kVA以上は専用個室、2,000kVA以上10,000kVA未満は耐火構造の壁と防火戸で区画することが必要です
油の流出防止対策と噴油対策も要件に含まれます
6つの要件をすべて満たせば、施行令第32条の適用で特殊消火設備に代えて大型消火器の設置で足ります

植物油の変圧器を導入するときの流れがよく分かりました!

その容量ごとの区画要件も含めて、㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防用設備等に係る執務資料の送付について(通知)(令和5年3月30日 消防予第205号 消防庁予防課長)
  • 消防法施行令第13条第1項・第32条
  • 消防法第2条第7項
  • 電気設備に関する技術基準を定める省令(平成9年通商産業省令第52号)第14条・第44条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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