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延焼のおそれがない建物を壊されても補償されるのか|消防法第29条第3項の適用範囲を示した最高裁判決を解説

燃える危険が無い建物でも周囲とのつながりから延焼防止のために壊されれば補償されるという趣旨を表したイメージ

火事の現場では、燃えてもいない隣の建物まで壊されることがあります。
壊された建物に延焼の危険が無かった場合、持ち主は補償を受けられないのでしょうか。
昭和47年、最高裁判所はこの問いに答えを出しました。
壊した理由がどうであれ、壊された建物の性質によって補償の有無が決まるという判断でした

うちのビルは全然燃えていなかったのに、消防に壊されたら弁償してもらえないのか気になります。

壊された建物そのものが燃える危険は無くても、補償されることがあります
最高裁判所が示した基準を見てみましょう。

壊した本人が補償はいらないと思っていたら、それで決まってしまうんでしょうか。

それは関係ありません。
裁判所が事実にもとづいて客観的に判断します。

この判例の要点
  • 消防法第29条第3項は、延焼の危険が無い建物でも緊急の必要があれば使用・処分でき、そのときは時価により損失を補償すると定めています
  • 最高裁判所第三小法廷は、燃え移る危険が無い建物でも、周囲の状況から破壊が避けられなかった場合は第3項にあたると判断しました
  • 現場の消防団員が補償の要否をどう考えていたかは、結論を左右しません
  • 裁判所は、壊した側の主観ではなく事実関係から客観的にどの項にあたるかを判断するとされました
  • 壊された側は、燃える危険が無かったことを理由に補償をあきらめる必要はありません

延焼のおそれがない建物でも壊した理由ではなく壊された建物の性質で補償が決まるという要点を示した図解

どのような火災で建物甲は取り壊されたのか

隙間なく連なるバラック建ての家並みの先に離れて建つしっかりした建物のイメージ
今回の判決のもとになったのは、ある村で起きた火災です。
燃えていた建物からかなり離れた場所にあった建物も、取り壊しの対象になりました。
  • 火災現場から見て、建物甲そのものには燃え移る危険は無かった
  • 建物甲と、現に燃えていた建物との距離はおよそ30メートルあった
  • その間には、燃えやすいバラック建ての建物が隙間なく連なって建っていた
  • 地形や風向きから、延焼を止めるには建物甲を早急に壊す必要があると判断された
  • 建物甲の持ち主は、取り壊しによる損害の補償を求めて村を訴えた
争われたのは、燃える危険が無い建物を壊した場合にも補償が必要かという一点です
消防法第29条は、延焼のおそれがある建物を壊す場合と、それ以外の建物を壊す場合とで、補償の扱いを分けています
建物甲は延焼のおそれがある建物そのものではなく、周囲の建物を守るための手段として壊された点が特徴です。
この違いが、結論を大きく左右することになります。

燃える危険が無い建物まで壊されることがあるんですね。

はい、そのときに補償されるかどうかが、この判決で問われました。
まずは事案から見ていきましょう。

建物の持ち主はなぜ村を訴えたのか

住民が村の窓口に書類を差し出しているイメージ
建物甲の持ち主は、取り壊しによる損害の補償を求めて村を訴えました。
村側は、この請求に応じる必要は無いと反論しました。
争点 建物甲それ自体には延焼のおそれが無かったにもかかわらず、周囲の延焼を防ぐために取り壊された場合、消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があるときにあたり、損失の補償を受けられるかが争われた。(最高裁判所第三小法廷 昭和47年5月30日判決)
争いの土台にあったのは、燃える危険の有無で補償の扱いが変わるという条文の建て付けです
消防法第29条第2項が対象とするのは、延焼のおそれがある建物そのものです。
一方で第3項は、それ以外の建物を消火や延焼防止の手段として使う場合を定め、時価による補償を明記しています。
建物甲がどちらの項にあたるかが、そのまま補償の有無を決めることになります。

同じ消防法第29条でも、項によって補償されたりされなかったりするんですね。

そうなんです。
建物甲がどちらにあたるかが、この裁判の中心的な争点でした。

燃える危険が無い建物でも壊せば補償されるのか

燃える危険のない建物のそばに硬貨の束と印章の押された書類が置かれているイメージ
最高裁判所は、建物甲の取り壊しが消防法第29条第3項にあたると判断しました。
その理由づけは、周囲の建物とのつながり方に着目したものでした。
認められた判断 火災の際の消防活動により破壊された建物は、それ自体としては延焼のおそれが無いものであっても、現に延焼中の建物との距離が約30メートルであり、その間に延焼のおそれのあるバラック建の建物が間隙なく接続しており、右建物を早急に破壊するためには地形や風向等の関係から当該建物を破壊する必要がある等の事情があるときは、その破壊は消防法第29条第3項にいう延焼の防止のために緊急の必要があったものというべきである。(最高裁判所第三小法廷 昭和47年5月30日判決)
ここでの結論は、燃える危険の有無だけで補償の可否を決めていない点にあります
建物甲そのものは燃えない建物であっても、隣接する建物と燃えやすい建物でつながっていれば、延焼という一つの流れの中にあると評価されました。
その流れを断つために建物甲を壊す必要があったという事情が、第3項の緊急性を基礎づけています
つまり、壊された建物単体の危険性ではなく、周囲とのつながりまで見て判断されるということです。

建物そのものが燃えなくても、隣とつながっていれば話は変わるんですね。

はい。
周囲の建物との位置関係まで見て判断されました。

現場の判断は補償の有無を左右するのか

消防団員の頭上の吹き出しに小さな建物のマークと禁止記号が示され隣に天秤のマークがあるイメージ
村側は、現場の消防団の判断を理由に補償の必要は無いと主張しました。
しかしこの言い分は、最高裁判所によって退けられました。
退けられた言い分 消防団長が現場で当該建物の破壊を消防法第29条第2項にあたる措置と考え、補償を要しないものと認識していたとしても、その主観的な認識によって適用される項が決まるわけではない。破壊された建物が現実にどのような状況に置かれていたかという客観的な事実関係から、裁判所が改めて第2項と第3項のいずれにあたるかを判断すべきである。(最高裁判所第三小法廷 昭和47年5月30日判決)
ここがこの判決のいちばん実務に効く部分です
現場の消防団員が「これは補償のいらない措置だ」と思っていたとしても、それだけで結論が決まるわけではありません
どの項にあたるかは、破壊された建物の位置関係や延焼の経路といった客観的な事実から、後から裁判所が判断します。
現場の主観的な判断を過信せず、事実関係を記録しておくことが重要になります。

現場の人がそう思っていても、それだけでは決まらないんですね。

そうです。
あとから裁判所が事実にもとづいて判断し直します。

壊された側は明日なにをすればよいか

机の上の書類とペンの横にしっかりした建物が置かれているイメージ
この判決を踏まえると、壊された側にできる備えはシンプルです。
燃える危険が無かったことを理由に、補償をあきらめる必要はありません。
答 建物それ自体に延焼のおそれが無くても、周囲の建物とのつながりから延焼防止のために取り壊す緊急の必要があったと認められれば、消防法第29条第3項にあたり時価による損失の補償を受けられる。どの項にあたるかは現場の主観的な判断ではなく客観的な事実関係から決まるため、破壊時の状況を記録し、市町村に補償を請求することができる。
まず押さえておきたいのは、燃える危険の有無だけで補償の可否を決めつけないことです
建物の位置関係や、周囲の建物とのつながり方といった客観的な事実を記録しておくと、補償の請求で役立ちます。
現場で消防団員がどう説明したかにかかわらず、市町村への補償の請求はできる立場にあります。
不明な点があれば、所轄の消防署や市町村の窓口に確認することが確実です。

燃える危険が無かったからといって、あきらめなくていいんですね。

はい。
状況を記録して、まずは市町村に相談してみてください。

よくある質問

Q建物そのものに燃える危険が無くても、消防に壊されることがあるのですか?
A消防法第29条第3項により、消防長・消防署長又は消防団長は、消火や延焼防止のために緊急の必要があるときは、延焼のおそれがある建物以外の建物も使用・処分・使用制限することができるとされています。燃える危険が無い建物でも、この対象になり得ます。
Q燃える危険が無い建物を壊された場合、補償は必ず受けられるのですか?
A消防法第29条第3項にあたると判断されれば、時価による補償を受けられます。ただし緊急の必要があったことなど要件を満たすかは、個別の事実関係によって判断されます。
Q現場の消防団員が補償は不要と考えていた場合、その判断は覆らないのですか?
A覆る可能性があります。最高裁判所は、現場の主観的な認識ではなく、破壊された建物の客観的な状況から裁判所が改めて判断すべきだとしています。
Q補償を求めるとき、何を示せばよいのですか?
A破壊された建物の位置関係や、周囲の建物とのつながり方、延焼防止のためにどのような緊急性があったかを示す事実が重要です。当時の状況を裏づける記録があると、請求の際の材料になります。

まとめ

消防法第29条第3項は、延焼のおそれが無い建物でも緊急の必要があれば使用・処分でき、時価により補償すると定めています
建物甲そのものには延焼のおそれが無くても、周囲の建物とつながっていれば延焼の流れの中にあると評価されました
争われたのは、建物甲の取り壊しが消防法第29条第2項と第3項のどちらにあたるかという一点でした
最高裁判所は、周囲の状況から建物甲の破壊は第3項にいう緊急の必要があったと判断しました
現場の消防団員の主観的な認識によって、適用される項が決まるわけではないとされました
どの項にあたるかは、客観的な事実関係から裁判所が判断するとされています
壊された側は、燃える危険が無かったことを理由に補償をあきらめる必要はありません

補償を受けられる場合があることがよく分かりました、記録を見直します。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 最高裁判所第三小法廷 昭和47年5月30日判決(昭和47年(オ)第957号・民集26巻4号851頁)
  • 消防法第29条

※本記事は確定した判決の内容を要約したものです。判決当時の法令に基づく判断であり、条文番号も当時のものです。その後の改正により現在の規定とは異なる場合があります。個別の事案についての法的な判断は弁護士に、消防法令の適用は所轄消防署にご確認ください。

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