屋外に設置した換気扇が、あるとき急に「風が強い日だけ換気が効かない」というトラブルを起こすことがあります。
実はこれ、建築基準法施行令が換気扇の構造そのものに求めている基準と、風がつくる圧力の物理計算まで遡ると仕組みが見えてきます。
定期検査ではこの検査事項を「壊れているか壊れていないか」だけで見てしまいがちですが、背景にある考え方を知ると立会いの説明が変わります。
風圧力の計算式と換気扇の換気力を比べる視点を、この記事でまとめて解説します。
うちのビルの換気扇、風の強い日だけ全然効いてない気がするんです。
故障ですかね。
故障とは限りません。
換気扇は、風がつくる圧力に負けて空気を送れなくなることがあるんです。
風の圧力って、そんなに簡単に計算できるものなんですか。
建築基準法施行令に計算の考え方が定められています。
数字を追うと、換気扇と風のどちらが強いか見積もれますよ。
- 換気扇の判定基準は施行令第129条の2の5第2項第四号が根拠で、外気の流れで著しく換気能力が低下しない構造を求めている
- 風がつくる風圧力は、施行令第87条の考え方にならい速度圧に風力係数を掛けて見積もることができる
- 給気口と排気口(換気扇)の位置関係によって、風の影響の大きさは大きく変わる
- 一般的な住宅用の圧力扇の換気力は、風速わずか数メートル毎秒の風圧力で相殺されてしまうことがある
- 稀な逆流には逆流防止ダンパー、高頻度の逆流には換気扇そのものの見直しで対応する
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目次
換気扇の判定基準になぜ外気の流れが出てくるのか

機械換気設備の検査結果表には「換気扇による換気の状況」という項目があり、判定基準が独特な言い回しになっています。
まずはこの検査事項がどんな条文にもとづくのかを確認します。
換気扇は風に負けてはいけない、という趣旨の条文です。
検査結果表の判定基準も「外気の流れにより著しく換気能力が低下する構造となっていること」を要是正の条件とし、この条文をそのまま検査項目に落とし込んだ形になっています。
数値そのものは条文に書かれていませんが、屋外に露出した給気口・排気口に換気扇を付けるときは風の影響を織り込んで選定するという設計上の考え方が背景にあります。
定期検査では、この換気扇が実際に風の影響を受けやすい場所にあるかどうかをまず見極めることが出発点になります。
次の章では、その「風の影響」を数字で見積もる方法を見ていきます。
数値の基準がないなら、検査員の感覚で判定してるってことですか。
感覚ではなく、風圧力を計算式で見積もる考え方があります。
次でその式を紹介しますね。
風が建物に与える圧力はどうやって計算するのか

建物が風から受ける圧力には、構造計算の世界で使われる計算の考え方があります。
換気扇と風の力比べをする前に、この考え方を押さえておきます。
風圧力は「風の速さがつくる圧力」と「建物の形が受けやすさを増減させる係数」の掛け算です。
このうち速度圧は、空気の密度と風速の2乗に比例する物理量で、常温(20℃)の空気の密度を用いると速度圧はおおむね0.6×風速の2乗という式に近似できるとされています。
施行令第87条が定める正式な速度圧の計算では、地域ごとに国土交通大臣が定める30メートル毎秒から46メートル毎秒までの設計用の風速を使いますが、これは建物の構造強度を決めるための数値です。
換気扇が実際に負ける風かどうかを見積もるときは、この0.6×風速の2乗という考え方に、その場で吹いている風速を当てはめて目安を立てます。
風力係数は建物の断面や平面の形によって国土交通大臣が数値を定めるか、風洞試験で決めることになっています。
速度圧に風力係数を掛けるということは、同じ風速でも建物の形で圧力が変わるんですね。
そのとおりです。
換気扇がどの面に付いているかで、影響の大きさがまったく違ってきます。
換気扇の設置場所によってなぜ影響の大きさが変わるのか

同じ強さの風でも、換気扇の付き方次第で受ける圧力は大きく変わります。
基準書が示す独立家屋の例で確認します。
窓と換気扇が同じ壁にあれば風は素通りするだけですが、反対の壁にあると風の圧力差がそのまま換気扇にのしかかります。
独立家屋の例では、風上側の壁でおよそ0.8、風下側の壁でおよそマイナス0.4という風力係数が示されており、換気扇が風下側にあるとこの2つの係数を合計した値が効いてきます。
係数を合計すると1.2になるため、先ほどの0.6×風速の2乗という式に当てはめると、風圧力はおよそ0.72×風速の2乗という値になります。
風向きに影響されにくくしたいときは、換気扇の排気を屋上まで風道で抜いてしまうという設計上の工夫も紹介されています。
次の章では、この式に実際の風速を入れて、換気扇の換気力と比べてみます。
うちの換気扇、たしかに窓と反対側の壁に付いてます。
それでいつも風の影響を受けてたんですね。
そうかもしれません。
実際の数字で圧力の大きさを比べてみましょう。
換気扇の換気力は風の力にどこまで対抗できるのか

式で見積もった風圧力を、実際の換気扇の性能と比べてみます。
数字にすると換気扇の非力さが見えてきます。
住宅用クラスの換気扇は、たった秒速数メートルの風で負けてしまうほど非力です。
締切静圧とは、換気扇が風量をゼロまで絞られても出せる最大の圧力のことで、圧力の高い圧力扇でもおよそ16パスカル程度にとどまります。
一方、長い風道につながる大きな送風機であれば換気力は数百パスカルから数千パスカルにもなり、多少の風では影響を受けません。
つまり同じ「換気扇による換気」でも、住宅用の小さな換気扇と業務用の大きな送風機とでは、風に対する強さがまったく違います。
検査では、設置されている機器がどちらのタイプかを踏まえたうえで、風の影響を受けやすい立地かどうかを見ることが大切です。
数千パスカルも出せる送風機があるなら、最初からそれを付ければいいのでは。
設置スペースやコストの都合で難しいことも多いんです。
だからこそ、逆流を防ぐ工夫が必要になります。
風による逆流を防ぐにはどうすればよいのか

風に負ける可能性がある換気扇を、実務ではどう扱えばよいのでしょうか。
基準書が示す対応の考え方を見ていきます。
逆流の頻度によって、対策の重さを変えるという考え方が大切です。
逆流防止ダンパーやシャッターは、めったに起きない一時的な逆流を抑える部品としては有効ですが、風の強い立地で日常的に逆流が起きているなら根本原因は換気力の不足にあります。
基準書には、市街地か広い平地か、建物が低いか高いかによって、設計に使う地域の基準風速がおよそ4メートル毎秒から10メートル毎秒程度まで差があるという目安の表も示されています。
風の強い土地や高い建物ほど風圧力は大きくなりやすいため、そうした立地の換気扇は特に注意して検査する必要があります。
定期検査で逆流やにおい戻りの訴えを聞いたときは、部品交換の前に、まず風の影響が疑われる立地かどうかを確認するとよいでしょう。
うちは高い建物なので、風の影響も受けやすいということですね。
そのとおりです。
次回の検査で換気扇の設置状況もあわせて確認しましょう。
よくある質問
まとめ
風の影響なら、換気扇の設置場所を見直すだけでも改善しそうです。
次の検査で相談してみます!
設置場所と換気力のバランスを一緒に確認しましょう。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法施行令第87条(風圧力)
- 建築基準法施行令第129条の2の5第2項第四号(機械換気設備の構造)
- 建築設備定期検査基準書(2023年度版)第2章 換気設備 定期検査の実務/第1章 定期検査報告制度
※本記事は、建築基準法・同施行令の現行条文と建築設備定期検査基準書の記載を参考に、㈱防災屋が独自に解説したものです。個別の建築物における換気扇の選定・改修の可否については、必ず設計者又は所轄の特定行政庁にご確認ください。





