前回の記事では、準耐火構造の建物に層間変形角という150分の1の制限があり、区画によって計算単位が分かれる仕組みを紹介しました。
では、150分の1という数値そのものは、どうやって導き出されているのでしょうか。
実は層間変形角には、すべての建築物が守る一般の基準と、防火目的で別に課される基準の二段構えがあります。
この記事では、層間変形角の計算式と、一般基準・防火基準それぞれの数値を具体例で確認します。
層間変形角の150分の1という数字は、どうやって計算しているんですか。
地震などで生じる階の水平方向のずれを、階の高さで割って求めます。
建築基準法施行令が定める計算式です。
一般の建物にも、同じような基準があるんですか。
はい、実は一般の基準と防火目的の基準は数値が違います。
今日はその違いを数値で確認していきましょう。
- 建築基準法施行令第82条の2は、地震力によって各階に生じる水平方向の層間変位を、その階の高さで割った割合を層間変形角と定義し、原則200分の1以内に収めることを求めています。
- 著しい損傷が生ずるおそれがないと確かめられた場合は、120分の1以内まで基準が緩和されます。
- 主要構造部を準耐火構造とした建築物等については、施行令第109条の2の2第1項が、一般の基準とは別に150分の1以内という防火目的の上限を追加で課しています。
- 層間変形角は層間変位を階の高さで割ることで計算でき、実際の数値を基準値と比べることで適合・不適合を判定できます。
- 一般の基準で120分の1までの緩和を使っていても、防火目的の150分の1は別に確認しなければ見落とすおそれがあります。
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目次
層間変形角とはそもそも何を計算した数値なのか

その制限の物差しになるのが、層間変形角という数値です。
地震力が加わると、上の階が下の階に対して水平方向にわずかにずれます。このずれの量を層間変位と呼びます。
層間変位そのままでは階の高さが違う建物どうしを比べられないため、階の高さで割って角度に近い割合に直したものが層間変形角です。
一般の建築物では、この割合を200分の1以内に収めることが原則で、条件を満たせば120分の1まで緩和されます。
次の章で、この計算がどんな建築物に義務づけられているのかを確認します。
層間変位を階の高さで割るだけなんですね。
意外とシンプルです。
式はシンプルですが、比べる基準値は建物によって変わります。
次はどの建物が対象になるかを見ていきましょう。
計算した数値はどの基準値と比べればよいのか

けれども、比べる基準値は建物の構造によって変わります。
主要構造部を準耐火構造にした建物や、防火地域・準防火地域で延焼防止時間を計算して基準を満たした建物(第136条の2第一号ロ・第二号ロ)が、この150分の1の対象です。
150分の1は、一般の基準の原則である200分の1よりゆるく、緩和後の120分の1よりは厳しいという、中間の値に設定されています。
準耐火構造の壁や防火設備の継ぎ目は、変形が大きすぎるとすき間ができて防火性能が崩れるため、一般の緩和をそのまま使わせない仕組みになっているのです。
次の章で、実際の数値を当てはめて計算してみます。
基準値が建物によって3段階もあるんですね。
数字だけだと分かりにくいので、具体的な数値で計算してみましょう。
実際の数値を当てはめるとどう計算できるのか

まずは基準を満たす例から見てみましょう。
15を3,500で割ると約0.0043となり、これは200分の1(0.005)より小さい値なので、一般の原則基準を満たします。
防火目的の150分の1(約0.0067)よりも小さいため、準耐火構造の建物の基準も同時に満たしていることになります。
このように、層間変位と階の高さの実測値さえ分かれば、割り算だけで基準への適合を確認できるのです。
次の章では、逆に見落としやすい数値の組み合わせを確認します。
割り算だけなら、構造計算書を見ればすぐ分かりそうですね。
ただし、一般の基準を満たしていても安心はできません。
次の章で、その落とし穴を見ていきましょう。
実務で見落としやすいのはどこか

一般の基準と防火目的の基準の間には、見落としやすい隙間があります。
たとえば階の高さ3,500ミリメートルに対し層間変位25ミリメートルなら、層間変形角は約140分の1(約0.0071)です。
これは一般の緩和後の基準120分の1(約0.0083)より小さいので一般の基準は満たしますが、防火目的の150分の1(約0.0067)よりは大きいため防火の基準は満たしません。
一般の基準しか見ていないと、この食い違いにまったく気づけません。
なお、主要構造部が防火上有害な変形等を生じないことを計算又は実験で確かめれば、150分の1の基準自体が適用されなくなる例外もあります。
次の章で、明日から確認すべきことを整理します。
一般の基準は通っているから大丈夫、と思い込んでいました。
準耐火構造等の建物では、二つの基準を別々に確認する必要があります。
最後に確認手順をまとめます。
明日から何を確認すればよいのか

確認する順番を整理しておきましょう。
- 構造計算書で各階の層間変形角の実際の数値を確認する
- 建物の主要構造部が準耐火構造か、第136条の2第一号ロ・第二号ロの基準に適合するかを確認する
- 該当する場合は、一般の基準とは別に150分の1以内かを確認する
- 150分の1を超える場合は、計算又は実験による確認の記録が残っているかを確認する
- 火熱遮断壁等や特定部分の区画があれば、計算単位の分け方も合わせて確認する
どちらか一方だけを見て安心せず、建物の構造に応じて両方の数値を照合しましょう。
増改築で階の高さや構造が変わったときは、この計算をやり直す必要がある点にも注意してください。
不明な点があれば、構造計算を行った建築士に確認するのが確実です。
うちの構造計算書も、一度見返してみます。
数値の見方が分かれば、構造計算書はぐっと読みやすくなります。
次はよくある質問を見ていきましょう。
よくある質問
まとめ
数値の比べ方が分かってすっきりしました!
構造計算書の見方や維持保全でお困りの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法施行令第82条の2(層間変形角)
- 建築基準法施行令第109条の2の2(主要構造部を準耐火構造とした建築物等の層間変形角)
- 建築基準法施行令第136条の2(防火地域又は準防火地域内の建築物の壁、柱、床その他の部分及び防火設備の性能に関する技術的基準)
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への当てはめや実際の計算数値の確認は専門家による確認が必要です。個別の判断は所轄の特定行政庁または建築士にご確認ください。





