渡り廊下やアトリウムでつながった建物の記事では、火熱遮断壁等という特別な壁で建物を法的に分ける仕組みを紹介しました。
実はそれとは別に、準耐火構造の建物そのものにも地震などの変形に関する制限があり、そこにも「別の建物とみなす」仕組みが登場します。
その名は層間変形角。上下の階がどれだけ水平にずれてよいかを定めた基準です。
この記事では、層間変形角の中身と、特定部分を区画することで計算単位が分かれる仕組み、そこに潜む見落としを整理します。
準耐火構造の建物にも、変形に関する制限があるんですか。
はい、層間変形角という数値で制限されています。
建築基準法施行令が定める基準です。
なぜ変形の制限が防火の基準とつながるんでしょうか。
建物が大きく変形すると、壁のすき間から火が回るおそれがあるからです。
今日はその中身と、区画による特例を見ていきましょう。
- 建築基準法施行令第109条の2の2第1項は、主要構造部を準耐火構造とした建築物等の地上部分の層間変形角を150分の1以内としなければならないと定めています。
- 層間変形角の制限は、地震などの変形で防火性能そのものが損なわれることを防ぐための基準です。
- 建築物が第百九条の8の火熱遮断壁等で区画されている場合、その部分は層間変形角の計算単位でも別の建築物とみなされます(第2項)。
- 法第26条第2項が定める特定部分を有する建築物も、一定の条件で層間変形角の計算単位が分かれます(第3項)。
- ただし特定部分が「同等の性能を有するものとして国土交通大臣が定める基準」に適合するにとどまる場合は、層間変形角の特例からは除外されるという見落としやすい限定があります。
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目次
準耐火構造の建物になぜ層間変形角の制限があるのか

けれども地震や強風で建物が大きく変形すると、その前提そのものが崩れかねません。
上下の階がずれると、壁と柱・梁の取り合い部分にすき間が生まれ、そこから熱や炎が回り込むおそれがあります。
だからこそ準耐火構造の建物には、構造そのものの変形量にまで踏み込んだ制限がかけられているのです。
ただし主要構造部が損傷しないことを計算や実験で確かめれば、この数値基準自体が適用されません。
次の章で、この基準が具体的にどんな建物を対象にしているのかを確認します。
防火性能の話だと思っていたら、構造の変形量まで関係するんですね。
構造と防火は、実はつながっているんです。
次はどの建物が対象になるかを見ていきましょう。
どんな建築物がこの層間変形角の対象になるのか

別の方法で防火性能を確かめた建物も、同じ制限を受けます。
一つ目は主要構造部を準耐火構造とした建築物(特定主要構造部を耐火構造とした建築物を含む)です。
二つ目は、防火地域・準防火地域内の建物のうち、あらかじめ決まった仕様ではなく、構造・防火設備・消火設備から延焼防止時間を計算して基準を満たしたと確認した建物です。
どちらも「壁や設備の仕様だけで安全性を確認した建物」であり、変形すればその前提が崩れるという点で共通しています。
次の章で、この対象の中でも建物を区画すれば扱いが変わる仕組みを確認します。
仕様どおりの建物だけでなく、計算で確かめた建物も対象になるんですね。
はい、確認の方法が違うだけで考え方は同じです。
次は建物を区画したときの扱いを見ましょう。
特定部分を区画すれば層間変形角の計算単位も分かれるのか

その仕組みは二段構えになっています。
一つ目は既出の火熱遮断壁等で区画された部分(第2項)です。
二つ目は法第26条第2項が定める特定部分、つまり防火壁又は防火床で有効に区画され、耐火構造または準耐火構造に相当する性能を持つ部分(第3項)です。
どちらのルートを使う場合も、区画の両側は層間変形角の基準を別々の建物として満たせばよいことになります。
次の章で、この特定部分のルートに潜む見落としやすい限定を確認します。
区画するだけで、計算がそんなに変わるんですね。
ただし特定部分のほうには重要な除外があります。
次の章で、その見落としやすい点を説明します。
実務で見落としやすいのはどこか

法第26条第2項第一号には、実際に耐火構造であるものと、耐火構造と同等の性能を有すると認められたものの二つのルートがあります。
防火壁の規定(法第26条)ではどちらのルートでも特定部分として扱われますが、施行令第109条の2の2第3項は「同号に規定する基準に係る部分を除く」として、同等性能ルートを層間変形角の特例から明確に除外しています。
つまり法第26条第2項の特定部分に該当すると分かっただけでは足りず、どちらのルートで認定を受けているかまで確認しないと、層間変形角の計算単位を分けられるかどうかは判断できません。
次の章で、実務で確認すべき手順を整理します。
特定部分と言われても、どちらのルートかまでは意識していませんでした。
構造計算書にどちらの基準で書かれているかが鍵になります。
次の章で確認の手順をまとめます。
明日から何を確認すればよいのか

- 自分の建物が準耐火構造か、延焼防止時間の計算ルートかを構造計算書で確認する
- 層間変形角が150分の1以内であることを示す計算書、または損傷しないことを確かめた計算・実験結果の有無を確認する
- 建物内に火熱遮断壁等または法第26条第2項の特定部分による区画があるかを確認する
- 特定部分がある場合は、耐火構造そのものか同等性能ルートかを設計者・構造計算書で確認する
- 増改築や用途変更のたびに、区画や構造計算の前提が崩れていないかを建築士に確認する
特定部分のルートを見分けることが、いちばん見落としやすい確認ポイントです。
書類が見当たらない場合は、建築確認を受けた特定行政庁の建築指導窓口に相談すると確実です。
古い建物だと、どちらのルートか分からないこともありそうです。
その場合はまず確認済証や検査済証から探してみてください。
特定行政庁に記録が残っていることもあります。
よくある質問
まとめ
うちの建物の構造計算書も、一度見直してみます!
維持保全や消防計画の見直しでお困りの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第26条(防火壁等)
- 建築基準法施行令第109条の2の2(主要構造部を準耐火構造とした建築物等の層間変形角)・第109条の8(別の建築物とみなすことができる部分)・第136条の2(防火地域又は準防火地域内の建築物の壁、柱、床その他の部分及び防火設備の性能に関する技術的基準)
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への当てはめや構造方法・大臣認定の該当性は専門家による確認が必要です。個別の判断は所轄の特定行政庁または建築士にご確認ください。





