防火管理者は、自分の建物がハザードマップで浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っていたら、指定緊急避難場所には絶対なれないと思っていませんか。
市町村が指定緊急避難場所を決める基準は、区域の外にあるかどうかだけでは決まりません。
区域の中にあっても、構造の条件を満たせば指定される道が残されています。
実はこの基準、指定を受ける側の管理体制や、地震とそれ以外の災害とで条件がまったく違うことまでは、意外と知られていません。
うちは浸水想定区域だから、避難場所には絶対なれないですよね。
管理・立地・構造の3つの条件を、順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 指定緊急避難場所は、災害の種類ごとに管理条件・立地条件・構造条件のすべてを満たした施設だけが指定されます。
- 浸水想定区域や土砂災害警戒区域の中は原則として安全区域の外とされ、指定から外れます。
- 区域の中でも、想定水位以上に受入部分がある等の構造条件を満たせば例外的に指定できます。
- 地震を対象にする場合は、安全区域という考え方を使わず、耐震構造か周辺に危険物が無いかだけで判断します。
- 指定を受けた施設は、改築や廃止のとき市町村長への届出が義務付けられています。
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指定緊急避難場所はなぜ市町村長の一存で決められないのか
指定緊急避難場所は、市町村長が場所を決めれば終わりではありません。
まず1つ目の条件、管理条件から確認します。
(災害対策基本法施行令第20条の3第1号)災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において居住者、滞在者その他の者に開放されることその他その管理の方法が内閣府令で定める基準に適合するものであること。
(災害対策基本法等(地区防災計画、指定緊急避難場所及び指定避難所関連事項)の運用について 平成26年3月26日 府政防第369号・消防災第126号)指定緊急避難場所がその役割を果たすためには、災害が差し迫った状況や発災時において居住者等が緊急的に避難し、身の安全を確保することができるよう指定緊急避難場所が確実に開放されることなどが必要である。(略)施行規則第1条の3において、居住者等の受け入れの用に供する場所について、物品の設置又は地震による落下、転倒若しくは移動等により避難経路上に障害が生じることがないようにするなど、避難上の支障を生じさせないこと等を定めている。
指定緊急避難場所には、発災時に確実に開放される体制が求められます。
物品を置いたままにして
避難経路をふさいでしまうことも、この基準に反します。
地震で物が落下・転倒しても避難上の支障が出ないようにしておく必要があります。
開放を担当する人があらかじめ決まっているかどうかも、判断材料になります。
次は、区域そのものが問われる立地条件を見ていきます。
物置代わりに倉庫に使っている部屋があるんですが、大丈夫でしょうか。
避難経路上でなければ問題になりません。
次は区域の話です。
浸水想定区域や土砂災害警戒区域にあるとなぜ指定から外れるのか
2つ目の条件は、施設が建っている場所そのものです。
条文の定義を確認します。
(災害対策基本法施行令第20条の3第2号本文)次条に規定する種類の異常な現象(地震を除く。)が発生した場合において人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがないと認められる土地の区域(安全区域)内にあるものであること。
(災害対策基本法等(地区防災計画、指定緊急避難場所及び指定避難所関連事項)の運用について)現在、避難所として使用が想定されている施設又は場所の中には、例えば、津波や洪水等の浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内に存在するものもあり、避難指示等に従い、避難所に避難した結果かえって被災したとの災害事例も存在する。(略)洪水については水防法の浸水想定区域(第14条第1項)、土砂災害については土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の土砂災害警戒区域(同法第6条第1項)や土砂災害特別警戒区域(同法第8条第1項)、津波については津波防災地域づくりに関する法律の津波災害警戒区域(第53条第1項)などが定められている。
「避難したはずの場所で被災した」という過去の災害事例が、この条件の理由です。
洪水なら
浸水想定区域、土砂災害なら
土砂災害警戒区域・特別警戒区域、津波なら津波災害警戒区域が目安になります。
これらの区域の中は、原則として「安全区域」の外とみなされます。
区域の特定・把握が済んでいない市町村では、過去の被災区域を基に暫定的に判断することも認められています。
次は、区域の中でも指定できる例外を見ていきます。
うちの建物、ハザードマップで浸水想定区域の中に入っているみたいです。
それでも諦めるのはまだ早いです。
次に例外を見ていきましょう。
安全区域の外でも指定される2つの例外とは
安全区域の外にあっても、指定をあきらめる必要はありません。
条文が定める2つの例外を確認します。
(災害対策基本法施行令第20条の3第2号ただし書)イ 当該異常な現象に対して安全な構造のものとして内閣府令で定める技術的基準に適合するものであること。ロ 洪水、高潮、津波その他これらに類する異常な現象が発生し、又は発生するおそれがある場合に使用する施設にあっては、想定される水位以上の高さに居住者等の受入れの用に供すべき屋上その他の部分が配置され、かつ、当該部分までの避難上有効な階段その他の経路があること。
(災害対策基本法等(地区防災計画、指定緊急避難場所及び指定避難所関連事項)の運用について)津波については、既に安全な構造に関する基準として、津波防災地域づくりに関する法律第56条第1項第1号及び同法施行規則第31条第1号に基づき定められている基準や津波避難ビル等に係るガイドライン(内閣府、平成17年)の安全な構造基準などを基に判断する。また、崖崩れや土石流、地滑りといった土砂災害についても、土砂災害特別警戒区域内に立地する施設に関しては建築基準法施行令第80条の3に基づき定められている基準などを基に判断し、土砂災害警戒区域内に立地する施設に関しても鉄筋コンクリート造等の極力強固な構造などを備えていることが望ましい。
1つ目は、建物自体が安全な構造だと認められる場合です。
津波避難ビルのガイドラインや、土砂災害特別警戒区域内の
建築基準法施行令第80条の3の基準が目安になります。
2つ目は、
想定水位より高い階に避難者を受け入れる部分と、そこまでの避難経路があると認められる場合です。
土砂災害警戒区域内では、鉄筋コンクリート造等の強固な構造であることが望ましいとされています。
次は、地震のときだけ条件がどう変わるのかを見ていきます。
じゃあ地震のときも同じ考え方で審査されるんですか。
いいえ、地震だけ安全区域という考え方を使いません。
地震を想定した基準はなにが違うのか
指定は「異常な現象の種類ごと」に行われるため、地震には専用の基準があります。
条文を確認します。
(災害対策基本法施行令第20条の3第3号)地震が発生し、又は発生するおそれがある場合に使用する施設又は場所にあっては、次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。イ 当該施設が地震に対して安全な構造のものとして内閣府令で定める技術的基準に適合するものであること。ロ 当該場所又はその周辺に地震が発生した場合において人の生命又は身体に危険を及ぼすおそれのある建築物、工作物その他の物がないこと。
地震を対象にする指定では、浸水想定区域や土砂災害警戒区域のような「安全区域」の考え方は使いません。
その代わり、
建物自体が耐震構造であること、または
周辺に倒壊・落下のおそれがある建築物等がないことのどちらかを満たせばよいことになっています。
つまり同じ施設でも、洪水を対象にすると指定されず、地震を対象にすると指定される、ということが起こり得ます。
第49条の4第1項が「異常な現象の種類ごとに」指定すると定めているのは、このためです。
次は、指定を受けたあとに実務で確認すべきことを見ていきます。
同じ建物なのに、災害によって指定されたりされなかったりするんですね。
はい、災害ごとの指定が原則です。
最後に実務のポイントです。
明日から何を確認すればよいのか
最後に、指定を受けた施設・受けようとする施設が確認すべき手順を整理します。
指定緊急避難場所と指定避難所の違いも確認します。
(災害対策基本法第49条の5)指定緊急避難場所の管理者は、当該指定緊急避難場所を廃止し、又は改築その他の事由により当該指定緊急避難場所の現状に政令で定める重要な変更を加えようとするときは、内閣府令で定めるところにより市町村長に届け出なければならない。(第49条の6)市町村長は、当該指定緊急避難場所が廃止され、又は基準に適合しなくなつたと認めるときは、指定を取り消すものとする。(第49条の8)指定緊急避難場所と指定避難所とは、相互に兼ねることができる。
指定を受けた施設は、改築や用途変更をしたら黙って済ませることはできません。
現状に
重要な変更を加えるときは、市町村長への届出が義務付けられています。
届出をしなければ、基準に適合しなくなったとして
指定そのものを取り消されるおそれもあります。
また、指定緊急避難場所(一時的な避難先)と指定避難所(一定期間の滞在先)は別の制度ですが、兼ねることも認められています。
自分の施設がどちらに該当し、区域や構造の条件をいつ確認したものかを、消防計画とあわせて記録しておくことが実務の出発点になります。
改築するときは市町村への届出、忘れないようにします。
届出を忘れないことが鍵になります。
よくある質問もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q浸水想定区域にある建物は、指定緊急避難場所には一切なれないのですか。
Aいいえ。原則は指定から外れますが、想定水位以上の高さに受入部分と避難経路がある等の構造条件を満たせば、区域の中でも例外的に指定できます。
Q地震のときも浸水想定区域や土砂災害警戒区域は関係しますか。
Aいいえ。地震を対象にする指定では安全区域という考え方を使いません。建物が耐震構造であるか、周辺に危険な建築物等が無いかで判断します。
Q指定緊急避難場所と指定避難所は同じ施設ではだめなのですか。
A同じ施設でも構いません。災害対策基本法第49条の8は指定緊急避難場所と指定避難所は相互に兼ねることができると定めています。ただし一時的な避難先と一定期間の滞在先という役割は別です。
Q指定を受けたあと、建物を改築するときは何をすればよいですか。
A現状に政令で定める重要な変更を加えるときは、災害対策基本法第49条の5により市町村長への届出が必要です。届出を怠ると、基準不適合を理由に指定を取り消されるおそれがあります。
まとめ
✔指定緊急避難場所は、管理条件・立地条件・構造条件(災害対策基本法施行令第20条の3)をすべて満たした施設だけが指定されます。
✔管理条件は、発災時に確実に開放される体制と避難経路の安全確保を求めています。
✔浸水想定区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域の中は、原則として安全区域の外とされます。
✔想定水位以上の受入部分と避難経路がある等の構造条件を満たせば、区域の中でも例外的に指定できます。
✔地震を対象にする指定は、安全区域という考え方を使わず耐震構造か周辺の危険物の有無で判断します。
✔指定は異常な現象の種類ごとに行われるため、同じ施設でも災害によって指定の可否が変わります。
✔改築や用途変更のときは市町村長への届出(法第49条の5)が必要で、怠ると指定を取り消されるおそれがあります。
うちの施設がどの条件に当てはまるか、確認してみます。
それが一番の備えになります。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等(地区防災計画、指定緊急避難場所及び指定避難所関連事項)の運用について(平成26年3月26日 府政防第369号・消防災第126号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第49条の4・第49条の5・第49条の6・第49条の8
- 災害対策基本法施行令(昭和37年政令第288号)第20条の3
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。