福祉施設や保育施設には、自力で避難することが難しい方が利用していることがあります。
消防庁は令和3年4月、そうした施設の避難器具の設置状況を、消防本部を通じて調べる通知を出しました。
調べる項目には、避難器具の種類、設置を免除した階の有無、避難訓練や消防隊の使い方まで含まれています。
この記事では、通知が何を調べようとしたのかと、施設側が備えておきたい点を解説します。
うちの施設にある避難器具について、国が調べたと聞きました。
何を調べたのですか。
設置状況のほか、避難訓練や消防隊の使い方まで聞いています。
調べた相手は、施設ではなく消防本部です。
施設に調査票が届いたわけではないのですね。
調べた目的は何でしょうか。
自力避難が難しい方を守る、ハードとソフトの両面の対策を検討するためです。
- 令和3年4月7日の消防予第157号は、令別表第一(6)項ロ又はハの防火対象物のうち、令第25条第1項第1号に該当する階があるものを対象に、避難器具の設置状況等を調べる通知です。
- 通知の宛先は都道府県の消防防災主管部長や消防長で、調査の相手は消防本部です。施設に新たな義務を課す記述はありません。
- 調査票は、用途・収容人員・延べ面積などのほか、避難器具の種類と設置免除の有無を防火対象物ごとに尋ねています。
- 消防本部には、避難訓練の立会い、避難器具の技術指導、消防同意のときの指導方針、消防隊による使用の想定も問われました。
- 目的は、設備の設置に加え、避難方法の計画や訓練といったソフト対策を検討するための基礎資料にすることです。
▼
目次
消防庁はなぜ福祉施設などの避難器具の設置状況を調べる通知を出したのか

ただし、通知の本文には、きっかけになった火災や事故の名前は書かれていません。
通知は、設備の設置に加えて、避難方法を含む初動対応の計画の策定と訓練の実施が重要だと述べています。
想定されているのは、限られた人員と時間の中で、避難誘導の初動対応を行う場面です。
消防庁は、こうした施設の避難や訓練のあり方を検討するため、状況を把握する調査を行いました。
事故名や火災名が通知に無い以上、特定の事案を理由にしたと書くことはできません。
設備を置くだけでは足りない、ということでしょうか。
通知は、設備に加えて計画と訓練も重要だと述べています。
調査は、その実態をつかむためのものです。
調査の対象になるのはどんな防火対象物のどの階なのか

そのうち、避難器具の設置基準に当たる階がある建物に絞られています。
避難器具は、次に掲げる防火対象物の階(避難階及び十一階以上の階を除く。)に設置するものとする。
一 別表第一(六)項に掲げる防火対象物の二階以上の階又は地階で、収容人員が二十人(下階に同表(一)項から(四)項まで、(九)項、(十二)項イ、(十三)項イ、(十四)項又は(十五)項に掲げる防火対象物が存するものにあつては、十人)以上のもの
| 令別表第一 | 掲げられている主な施設 |
|---|---|
| (6)項ロ | 老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、救護施設、乳児院、障害児入所施設、障害者支援施設など |
| (6)項ハ | 老人デイサービスセンター、老人福祉センター、更生施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童発達支援センター、地域活動支援センターなど |
令第25条第1項第1号は、(6)項の建物の二階以上の階又は地階で、収容人員が20人以上のものを挙げています。
下の階に(1)項から(4)項まで、(9)項、(12)項イ、(13)項イ、(14)項、(15)項の用途があるときは、10人以上です。
避難階と11階以上の階は、この条の対象から除かれています。
設置している階だけでなく、規則の免除で設置していない階も調査の対象に入っています。
設置していない階も対象になるのですね。
はい。
ただし、令第32条の特例で設置していない建物は含まれません。
調査ではどんなことが聞かれたのか

設備の状況と、消防本部の指導、実際の使用事例が聞かれました。
| 別紙 | 調査の内容 | 主な項目 |
|---|---|---|
| 別紙1 | 防火対象物における避難器具の設置状況等 | 用途、収容人員、延べ面積、構造、地階を除く階数、従業員数、避難器具の種類、設置免除の有無、消防設備等の設置状況、昨年度の避難訓練の実施の有無、消防活動時の計画(警防計画)の有無 |
| 別紙2 | 消防本部における訓練指導の実施状況等 | 避難訓練の立会い、避難器具の説明や技術指導、消防同意のときの指導方針、消防隊による使用の想定 |
| 別紙3 | 避難器具の使用事例・奏功事例等 | 使用事例、奏功事例 |
別紙1は防火対象物ごとの一覧で、避難器具の種類として、避難はしご・避難用タラップ・滑り台・救助袋・緩降機・避難橋の6つが並びます。
設置免除の有無、スプリンクラー設備や自動火災報知設備などの設置状況、昨年度の避難訓練の実施の有無まで記入する形です。
別紙2は消防本部の指導の実態で、訓練の立会いや技術指導の有無、消防同意のときの指導方針、消防隊が避難器具を使う可能性を選択肢で尋ねています。
通知は、システム等で集計できる場合に限って防火対象物ごとの入力を求め、回答できない項目は「不明」と入力するよう求めています。
つまり、器具があるかだけでなく、使い方や訓練まで見たのですね。
はい。
設備と運用の両方が見られています。
施設側が見落としやすいのはどこか

それでも、調査の項目は、施設が備えておく点の手がかりになります。
居室の外気に面する部分にバルコニー等(令別表第一(五)項及び(六)項に掲げる防火対象物にあつては、バルコニーに限る。)が避難上有効に設けられており、かつ、当該バルコニー等から地上に通ずる階段その他の避難のための設備(令別表第一(五)項及び(六)項に掲げる防火対象物にあつては階段に限る。)若しくは器具が設けられ、又は他の建築物に通ずる設備若しくは器具が設けられていること。
通知の宛先は、都道府県の消防防災主管部長と、東京消防庁・指定都市の消防長で、事業者に向けたものではありません。
回答も統計的に分析するための基礎資料とされ、都道府県名や消防本部名は使わないと書かれています。
見落としやすいのは、免除の根拠です。(6)項では、規則第26条第5項第2号ロが、バルコニー等をバルコニーに、地上に通ずる設備を階段に限っています。
免除で避難器具を置いていない階でも、通知の調査対象に入りますので、根拠の項が説明できるようにしておくと安心です。
免除を受けている階も調べられるとは思いませんでした。
対象には設置していない階も入ります。
根拠の項を、手元で確認しておきましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

まず、次の確認を進めてみてください。
- 自施設が令別表第一(6)項ロ又はハに当たるか、二階以上か地階に令第25条の対象になる階があるかを確認する
- 階ごとに、避難器具の種類(避難はしご・避難用タラップ・滑り台・救助袋・緩降機・避難橋)と設置数を一覧にする
- 設置していない階があれば、規則第26条のどの項の免除に当たるかを記録に残す
- 避難訓練で避難器具を使う場面があるか、訓練の立会いや技術指導を所轄消防署に相談できるか聞いてみる
- 増改築や用途変更の前には、消防同意の事前相談で避難器具の考え方を確認する
通知は、設備の有無に加えて、昨年度の避難訓練の実施の有無まで尋ねています。
消防隊が避難器具を使うかどうかは、別紙2で消防本部に尋ねられており、施設側だけでは決められません。
指導の考え方は消防本部ごとに異なる場合があるので、所轄消防署に確認してください。
施設の構造や利用者の特性に応じた避難方法の計画づくりは、通知が重要だと述べた点です。
自施設の避難器具の一覧と免除の根拠なら、すぐ整理できそうです。
はい。
まずは階ごとの一覧を作りましょう。
よくある質問
まとめ
階ごとの器具の一覧と免除の根拠を、まず整理します!
避難器具の設置状況の確認も、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 「令別表第一(6)項に掲げる防火対象物における避難器具の設置状況等に係る調査について」(令和3年4月7日 消防予第157号 消防庁予防課長)
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第25条第1項第1号・第32条・別表第一(6)項
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第26条第2項から第5項まで
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





