避難訓練で緩降機を使ったところ、参加者がけがをする事故が起きています。
平成29年11月には、名古屋市の診療所で従業員が4名負傷しました。
消防庁は平成30年4月27日の事務連絡で、事故の原因の分析結果と訓練時の留意事項を全国へ周知しました。
この記事では、緩降機を使う訓練で確認しておきたい点を、消防庁の事務連絡をもとに解説します。
避難訓練で緩降機を使ってみたいのですが、けがをしないか心配です。
何に気をつければよいのでしょうか。
気をつける点は、消防庁が事務連絡で具体的に示しています。
いちばん大きいのは、ロープの長さです。
ロープの長さで、そんなに違いが出るのですか。
事故の再現検証では、胸への負荷が最大で7倍程度になりました。
その中身を、順に見ていきましょう。
- 平成29年11月に名古屋市の診療所で、点検業者の立会いの下で行った緩降機の降下訓練により、従業員4名が負傷しました。
- 事故は、調速機と着用具の間のロープをたるませた状態で降りたことによる誤った使用方法が原因と推測されています。
- 再現検証では、適切な使用方法に比べて最大7倍程度の負荷が胸部に加わることが確認されました。
- 訓練では、点検に不備事項がないこと、ロープが10センチメートル程度であること、露出の少ない服装、熟知した人の立会いを確かめます。
- 消防庁は、訓練指導の機会などに留意事項を活用して、防火対象物の関係者へ周知するよう求めています。
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目次
診療所の緩降機の訓練でなぜ4名が負傷したのか

消防庁の事務連絡は、その概要を別紙にまとめています。
| 項目 | 別紙に示された事故の概要 |
|---|---|
| 発生日・場所 | 平成29年11月24日、愛知県名古屋市内の診療所 |
| 避難器具 | 緩降機(可搬式) |
| 点検の状況 | 同日に機器点検と総合点検を実施し、不備事項なし |
| 訓練の状況 | 点検業者2名の立会いの下、2階から5名が降下訓練を実施 |
| 負傷者 | 診療所の従業員4名(腕の擦過傷等が3名、肋骨骨折が1名) |
事務連絡によると、防火対象物の関係者からの聞き取り等をもとに、緩降機の誤った使用方法により発生したものと推測されています。
全国避難設備工業会は、降下側のロープを1メートル程度たるませた状態で降下する訓練を行い、負傷者が発生したと推測しています。
消防庁は、この事故の前にも、平成20年4月と平成26年12月に、緩降機の訓練時の事故について事務連絡で周知していました。
それでも同種の事故が起きたため、消防庁は原因分析と再発防止策の検討を全国避難設備工業会へ依頼しました。
点検で不備がなかったのに、けがをしたのですね。
はい。
点検が済んでいても、使い方を誤ると事故につながります。
ロープが長いと降下したときの負荷はどれほど変わるのか

検証には、消防庁予防課が立ち会っています。
緩降機の着用具ベルト部分は、製造業者ごとにクッションを設ける等の加工が施されていることから、製造業者ごとに一定の差が生じる結果となったが、適切な使用方法に比べ、最大7倍程度の負荷がベルト部分を通じて、胸部に加わることが検証により確認された。なお、適切な使用方法では、ダミー自重以外の負荷が生じないことも併せて確認された。
検証は、平成30年3月15日に日本消防検定協会の避難器具試験場で行われました。
事故時の使い方は、緩降機を装着して降下側のロープを1メートル程度たるませた状態で再現しています。
着用具のベルト部分に圧力計測器を取り付け、適切な使い方の場合と圧力を比べました。
適切な使い方では、ダミーの自重以外の負荷は生じないことも確認されています。
| 検証の条件 | 内容 |
|---|---|
| 実施日・場所 | 平成30年3月15日、日本消防検定協会の避難器具試験場 |
| 試験用ダミー | 65kg(成人相当)と25kg(小人相当)の2種類 |
| 緩降機 | 製造各社3社の各1型式 |
| 結果 | 誤った使用方法では、適切な使用方法に比べ最大7倍程度の負荷が胸部に加わった |
ロープを1メートルたるませただけで、負荷が変わるのですね。
はい。
検証では、最大7倍程度の負荷が胸部に加わりました。
消防庁が示した緩降機を訓練で使うときの留意事項は何か

消防庁は、訓練指導の機会などにこれを活用して、防火対象物の関係者へ周知するよう求めています。
平成29年11月に、避難器具(緩降機)の降下訓練を実施したところ、「調速機」と「着用具」との間の「ロープ」が長い状態で降下したことにより、負傷者が発生しました。
(1) 消防法第17条の3の3に規定する消防用設備等の点検が確実に行われており、当該避難器具(緩降機)に不備事項がないことを確認してください。
(2) 「調速機」と「着用具」との間の「ロープ」は10cm程度であることを確認してください。
(3) 訓練参加者は、長袖長ズボン等、体表の露出が極力少ない服装をできる限り着用してください。
(4) 避難器具(緩降機)の使用方法を熟知している人につとめて立会いをしてもらった上で、その指導の下に実施してください。
(5) 使用方法を熟知している人から使用方法等についての事前説明を受け、その人が降下テストを行った後に実施することが望ましいです。
第十七条第一項の防火対象物(政令で定めるものを除く。)の関係者は、当該防火対象物における消防用設備等又は特殊消防用設備等(略)について、総務省令で定めるところにより、定期に、当該防火対象物のうち政令で定めるものにあつては消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検させ、その他のものにあつては自ら点検し、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。
第1に、消防法第17条の3の3の点検が確実に行われ、緩降機に不備事項がないことを確かめます。
第2に、調速機と着用具の間のロープが10センチメートル程度であることを確かめます。
第3に、訓練参加者は、長袖長ズボン等の体表の露出が少ない服装をできる限り着用します。
第4に、使い方を熟知した人の立会いと指導の下で実施します。
第5に、その人から事前説明を受け、降下テストを見せてもらってから行うことが望ましいとされています。
服装まで示されているのですね。
参加者の服装も、体の露出を少なくするよう示されています。
訓練の案内に、服装の指定を入れておきましょう。
降下前のロープの長さや握り方で確認すべき手順はどうなっているのか

平成30年11月の事務連絡では、工業会が作ったリーフレットも情報提供されました。
step1 着用具の締付けを確認する
step2 短い方のロープが10cm程度であることを確認する
step3 ロープを二本とも握り降下姿勢を取る(飛び降りは厳禁、必ず2本とも握る)
リーフレットは、まずベルトを引いて着用具の緩みをなくすことを示しています。
次に、着用具側のロープが10センチメートル程度であることを確かめ、長さを確認してからロープを二本とも握ります。
降下のときは、ロープを二本とも握ったまま外に出て、姿勢を整えてから降り始めます。
事故のあった緩降機は、当日の点検で不備事項なしとされていました。
点検の結果とは別に、降りるときの使い方も訓練の前に確かめる必要があります。
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| step1 | ベルトを引いて着用具の緩みをなくす |
| step2 | 調速機と着用具の間の短い方のロープが10センチメートル程度か確かめる |
| step3 | ロープを二本とも握ったまま外に出て、姿勢を整えて降りる(飛び降りは厳禁) |
工業会は「装着側のロープは10cm程度に 長すぎ危険」という注意喚起ステッカーを作成しました。
平成31年1月1日以降の受検品には、全ての製品にこのステッカーが貼付されます。
消防設備士や消防設備点検資格者には、点検の際に緩降機本体へ貼付するよう協力が呼びかけられています。
貼付したあとは、動作試験を行って動作に支障がないことを確認するとされています。
ロープは、片方だけでなく二本とも握るのですね。
はい。
図には、必ず2本とも握ると示されています。
緩降機を使う訓練の前に明日からなにを確認すればよいのか

緩降機を使う訓練では、事務連絡の留意事項を、訓練前の確認に組み込むことができます。
令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ又は(十六の二)項に掲げる防火対象物の防火管理者は、令第三条の二第二項の消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない。
訓練の実施主体は防火管理者ですので、緩降機を使う場合の確認を消防計画や訓練の実施要領に組み込むことができます。
次の5点を、自分の施設の訓練に当てはめて確認してみてください。
- 緩降機の点検が済んでいて、不備事項がないことを点検記録で確かめる
- 降下する人ごとに、調速機と着用具の間のロープが10センチメートル程度であることを確かめる
- 参加者に、長袖長ズボンなど体の露出が少ない服装を案内する
- 使い方を熟知した人の立会いと指導を手配し、事前説明と降下テストを段取りに入れる
- 着用具の緩みをなくし、ロープを二本とも握る手順を全員で確認する
訓練の案内に、服装とロープの確認を入れておきます。
お願いします。
迷う点は、点検業者や所轄消防本部にも確認してください。
よくある質問
まとめ
訓練の前に、ロープの長さを確かめてみます!
避難器具の点検や訓練も、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 「避難器具(緩降機)の使用時における安全管理の徹底について」(平成30年4月27日 消防庁予防課事務連絡) 別添:一般社団法人全国避難設備工業会「避難器具(緩降機)の事故を踏まえた対応について(報告)」(平成30年4月25日)
- 「避難器具(緩降機)の使用時における安全管理の徹底に係るリーフレットについて」(平成30年11月27日 消防庁予防課事務連絡)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第17条の3の3、消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条第10項 e-Gov法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁の事務連絡に基づく一般的な解説です。緩降機の使い方や訓練の方法は、機器の取扱説明や所轄消防本部にご確認ください。





