農薬や薬品を扱う工場や倉庫には、加熱すると有毒な蒸気を出す薬剤が、消防への届出が必要な物質になっていることがあります。
消防庁は令和6年8月30日、フルペンチオフェノックス及びこれを含有する製剤を消防活動阻害物質に加える省令の公布を通知しました(消防危第242号)。
省令は令和7年3月1日に施行され、200キログラム以上の貯蔵や取扱いの前に届出が必要です。
この記事では、加えられた理由と届出の基準、加熱で生じる有害ガスの危険性を整理します。
うちの薬品倉庫にも、消防へ届けるべき薬品があるかもしれません。
フルペンチオフェノックスは、消防活動阻害物質に加えられています。
なぜその薬品が、消防の制度に加えられたのですか。
加熱すると猛毒のホスゲンが出ることが確認されたからです。
順番に見ていきましょう。
- 消防危第242号は、令和6年8月30日にフルペンチオフェノックス及びこれを含有する製剤を消防活動阻害物質に加える省令(令和6年総務省令第83号)の公布を通知したものです。
- 省令の施行は令和7年3月1日で、省令の附則に経過措置の規定は見当たりません。
- 届出が必要になるのは、省令第2条の表が定める200キログラム以上を貯蔵し、又は取り扱う場合です。
- 消防庁の事務連絡は、加熱により人体に有害な蒸気(主にホスゲン)を発生することと、LC50となる空間体積が基準値を大きく上回ることを伝えています。
- 届出を怠ると、消防法第44条第8号により30万円以下の罰金又は拘留の対象になります。
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目次
フルペンチオフェノックスを消防活動阻害物質に加える省令でなにが変わったのか

まず、消防庁が令和6年8月30日に出した通知の中身を確認します。
通知は、消防庁次長の名で、各都道府県知事と各指定都市市長にあてて出されています。
フルペンチオフェノックスとこれを含有する製剤が、新たに消防活動阻害物質へ加わりました。
公布された省令は、令和6年総務省令第83号です。
対象は、物質そのものだけでなく、これを含有する製剤まで含まれています。
省令第2条の表のフルペンチオフェノックスの行には、含有率による除外の書き込みはありません。
フルペンチオフェノックスは、毒物及び劇物取締法上の劇物に指定される薬剤です。
含有する製剤は、どのくらい含まれていても対象になるのですか。
省令の表には、除外の書き込みは見当たりません。
個別の製剤は、所轄消防署にご確認ください。
届出が必要になるのはどの制度のどの数量からなのか

この制度は、消防法第9条の3が定めています。
数量の基準は、法律と政令と省令に分かれています。
| 政令第1条の10第1項 | 物質 | 数量 |
|---|---|---|
| 第1号 | 圧縮アセチレンガス | 40キログラム |
| 第2号 | 無水硫酸 | 200キログラム |
| 第3号 | 液化石油ガス | 300キログラム |
| 第4号 | 生石灰(酸化カルシウム80パーセント以上を含有するもの) | 500キログラム |
| 第5号 | 毒物のうち別表第一に掲げる物質 | 別表第一の下欄に定める数量 |
| 第6号 | 劇物のうち別表第二に掲げる物質(総務省令で定めるものを含む) | 別表第二の下欄に定める数量(フルペンチオフェノックスは省令第2条の表で200キログラム) |
フルペンチオフェノックスは、200キログラム以上を貯蔵し、又は取り扱う前に届出が必要です。
届出先は、所轄消防長又は消防署長です。
政令別表第二の最後の欄が定める「総務省令で定める物質」として、この物質は省令第2条の表に加わりました。
貯蔵や取扱いを廃止するときも、法第9条の3第2項が準用されるため届出が必要です。
船舶、自動車、航空機、鉄道又は軌道による貯蔵や取扱いは、法のただし書きで除かれています。
数量は、いくら以上から届け出るのですか。
省令第2条の表が定める200キログラム以上です。
数え方は、所轄消防署にご確認ください。
加熱で生じるホスゲンはなぜ消防活動の支障になるのか

通知と同じ日に、消防庁危険物保安室が事務連絡も出しています。
そこに、消防活動上の留意事項が書かれています。
| 加熱温度帯 | ホスゲン検出量(μg/g) | LC50となる空間体積 |
|---|---|---|
| 室温〜300℃ | 115〜130 | 6,350〜7,179リットル |
| 300〜500℃ | 32,836〜58,342 | 1,813,208〜3,221,652リットル |
| 500〜800℃ | 28,558〜43,261 | 1,576,976〜2,388,878リットル |
※報告書の分析結果から、温度帯ごとに検出されたホスゲンの量とLC50換算値の幅を示したものです。基準値は9,780リットルです。
加熱で生じる蒸気は、主にホスゲンであると事務連絡は伝えています。
事務連絡は、人体に有害な蒸気が発生することを消防活動上の留意事項として挙げています。
報告書は、物質1molが9,780リットル以上の空間をLC50にできるかどうかを基準に判定しています。
300℃以上に加熱された場合、ホスゲンのLC50空間体積は基準値を大きく上回りました。
フッ化水素や塩化水素など、ほかの有害ガスも検出されています。
ホスゲンは、具体的にどのくらい有害なガスなのですか。
LC50となる空間体積が基準値を大きく上回るほど有害だと、報告書は判定しています。
取扱いには注意が必要です。
いつから届出が必要になり怠るとどうなるのか

施行日は通知に、罰則は法律に書かれています。
まず、施行日を確認します。
令和7年3月1日から、基準以上の数量を貯蔵し、又は取り扱う前に届出が必要になりました。
届出を怠ると、消防法第44条第8号により30万円以下の罰金又は拘留の対象になります。
届出は、貯蔵や取扱いを始める前に、所轄消防長又は消防署長へ行います。
省令の附則には令和7年3月1日の施行を定める規定があり、経過措置に当たる規定は見当たりません。
すでに保有している場合の届出の時期は、所轄の消防機関に確認しておきましょう。
施行前から置いていた薬品は、いつまでに届ければよいのですか。
経過措置の規定は見当たりません。
所轄の消防機関に確認してください。
倉庫や工場では明日から何を確認すればよいのか

通知には、現場での確認の手順までは書かれていません。
そのため、確認したい点を先に整理しておきます。
確認したいのは、物質・製剤・数量・届出の4点です。
1点目は、保管している薬品や製剤に、フルペンチオフェノックスが含まれていないかです。
成分は、製品のラベルや安全データシートで確かめます。
2点目は、含有する製剤かどうかです。含有率による除外は省令の表に見当たらないので、迷うときは所轄消防署に確認します。
3点目は、貯蔵や取扱いの数量が200キログラム以上になるかどうかです。
4点目は、該当するときに、貯蔵や取扱いの前に所轄消防長又は消防署長へ届け出ることです。
数量の数え方や、すでに保管している分の扱いは、所轄の消防機関で確認しておきましょう。
まず、ラベルと保管量を確かめればよいのですね。
はい。
該当しそうなら、届出の前に消防機関へ相談してください。
よくある質問
まとめ
薬品の保管量を確かめて、必要なら届出を進めます!
消防活動阻害物質の届出も、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 危険物の規制に関する政令別表第一及び同令別表第二の総務省令で定める物質及び数量を指定する省令の一部を改正する省令の公布について(令和6年8月30日 消防危第242号 消防庁次長)
- フルペンチオフェノックス等に係る消防活動上等の留意事項について(令和6年8月30日 事務連絡 消防庁危険物保安室)
- 火災危険性を有するおそれのある物質等に関する調査検討報告書(消防庁)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第9条の3・第44条
- 危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第1条の10・別表第二
- 危険物の規制に関する政令別表第一及び同令別表第二の総務省令で定める物質及び数量を指定する省令(平成元年自治省令第2号)第2条
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





