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自動車のエンジンバルブに封入したナトリウムはなぜ合算しなくてよいのか|1本0.4グラムでも指定数量を超えない理由を解説

自動車のエンジンバルブ内のナトリウムはなぜ合算しなくてよいのかを解説する記事のアイキャッチ

自動車のエンジンに使われるバルブの中に、金属ナトリウムが封入されていることをご存知でしょうか。
高温になる排気バルブの放熱を助けるための構造で、1本あたりわずか0.4グラム程度しか入っていません。
ところが大量に貯蔵したり取り扱ったりすれば、ナトリウムの総量が危険物の指定数量を超えてしまう場面もあり得ます。
消防庁は平成31年の執務資料で、この合算の考え方に答えを示しました。

うちの工場でもエンジンバルブを扱っていますが、ナトリウムが入っているとは知りませんでした。
危険物として扱う必要があるんでしょうか。

バルブ1本の量はごくわずかですが、たくさん集まると指定数量が気になります。
消防庁の執務資料にその考え方が示されています。

集めると危険物として規制されてしまうということですか。

実はそうではありません。
なぜ合算しなくてよいのか、順に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 消防庁は平成31年4月19日付け消防危第81号の執務資料で、自動車用エンジンバルブ内のナトリウムは合算しなくてよいとの考え方を示しました
  • 対象は、排気バルブの放熱のために内部へナトリウムを封入した構造で、1本あたり0.4グラム程度です
  • バルブは過酷な高温・高圧環境でも変形や摩耗が生じない耐久性を持つため、ナトリウムが流出するおそれは考えにくいとされました
  • 見落としやすいのは、貯蔵・取扱いは合算不要でも運搬に関する基準は適用されることです
  • バルブにナトリウムを封入する製造工程そのものは危険物の取扱いに該当し、量に応じて規制の対象になります

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エンジンバルブのナトリウムはバルブ内に封入、一本0.4グラム程度、構造上流出しにくい、合算せず判断してよいの4ステップで示した図解

自動車のエンジンバルブのナトリウムはなぜ合算が問われたのか

自動車のエンジンバルブの小さな部品が倉庫の棚に大量の箱で保管されている様子
消防庁は平成31年4月19日、危険物規制事務に関する執務資料を消防危第81号として全国の消防機関へ送付しました。
その中の一問に、ある管内事業者からの相談が取り上げられています。
「危険物規制事務に関する執務資料の送付について」(平成31年4月19日付け消防危第81号、消防庁危険物保安室長発出)問14 管内事業者から、内部にナトリウムを封入した自動車用エンジンバルブを貯蔵することについて相談を受けた。当該バルブは、バルブ1本当たりのナトリウムは0.4グラム程度であるが、大量に貯蔵し、又は取り扱う場合には、ナトリウムの総量が指定数量以上となる可能性がある。
相談の内容は、エンジンバルブという自動車部品に封入されたナトリウムを、危険物としてどう扱うかという疑問です。
ナトリウムは第三類の自然発火性物質及び禁水性物質にあたり、指定数量はわずか10キログラムです。
バルブ1本のナトリウムは0.4グラム程度でも、数千本単位で貯蔵すれば計算上は指定数量を超えてしまいます。
このまま単純に合算すれば、通常の部品倉庫が危険物施設として扱われることになりかねません。
だからこそ、合算の考え方そのものが問われたのです。

うちの倉庫にも、似たような小さな部品が大量にあります。
1つずつはわずかでも、集めると危険物になるんでしょうか。

数量だけ見れば指定数量を超える場合もあります。
でもこの執務資料は、それだけで判断しないと答えています。

自動車のエンジンバルブはどんな構造でナトリウムを使っているのか

自動車のエンジン排気バルブの中空のステム内にナトリウムが封入されている構造を示す断面図
対象になるのは、自動車エンジンの排気バルブという特殊な部品です。
高温にさらされる排気バルブは、熱をうまく逃がす工夫が欠かせません。
同執務資料 答 お見込みのとおり。なお、当該バルブは自動車エンジンのシリンダーヘッドに搭載され、シリンダー内の爆発や高温の燃焼ガスにさらされても変形や摩耗が生じない耐久性を有しているものであるため、バルブからナトリウムが流出する可能性は考えにくい。
排気バルブのステム(軸の部分)は中空になっており、その内部にナトリウムが封入されています。
エンジンが動くとナトリウムは熱で溶け、バルブ内を行き来しながら熱をステム側へ運ぶ働きをします。
高性能エンジンやディーゼルエンジンの排気バルブで広く使われている、よく知られた放熱技術です。
封入されるナトリウムの量は1本あたり0.4グラム程度と極めて少量で、バルブ自体はシリンダーヘッドの中に組み込まれた完成部品です。
問題になるのは、この完成部品を部品メーカーや整備事業者が大量に貯蔵・取り扱う場面です。

排気バルブにそんな仕組みがあるとは知りませんでした。

熱を逃がすための昔からある技術です。
バルブごとの量はごく少量でも、数が多いと気になりますよね。

通達はなぜ合算の必要がないと判断したのか

自動車エンジンバルブに高温の熱を近づけて耐久性を確認している作業員の様子
消防庁の回答は「お見込みのとおり」という一言でしたが、その根拠はバルブの構造にあります。
鍵になるのは、ナトリウムが外へ出てくる可能性そのものの低さです。
同執務資料 答(なお書き) 当該バルブは、自動車エンジン内部という極めて過酷な環境下においても、容易に損傷しない構造であり、バルブごとに取り扱うことで危険物保安上支障ないと考えられるが、運搬に関する基準は適用される。
危険物の規制に関する政令別表第三 第三類 ナトリウム 指定数量 10キログラム
ナトリウムは水や空気に触れると激しく反応する危険物ですが、今回のバルブはシリンダー内部という密閉された過酷な環境でも壊れない構造を前提にしています。
つまり、バルブが壊れてナトリウムが漏れ出すという前提そのものが現実的でないため、多数のバルブを集積しても火災の危険性が高まるとは考えにくいと判断されました。
指定数量は本来、危険物が漏れたときの危険性を基準に決められた数字です。
漏れる可能性が低い構造であれば、量だけを機械的に合算して判断する必要はないという考え方です。

壊れにくい構造だから、合算しなくていいという理屈なんですね。

そのとおりです。
ただし、これで何もかも規制の対象外というわけではありません。

実務で見落としやすいのはどこか

作業員がナトリウムをバルブのステムへ封入する製造工程の様子
ここで見落としやすいのが、「バルブは合算不要」という結論を製造工程にまで広げてしまうことです。
執務資料は、完成したバルブの貯蔵・取扱いと、封入の工程とを分けて考えています。
同執務資料 答(続き) また、当該バルブにナトリウムを封入する工程は危険物の取扱いに該当し、量に応じて危険物関連の規定が適用されるものであることを念のため申し添える。
合算不要と判断されたのは、ナトリウムが密閉済みの完成バルブを貯蔵・取扱いする場面に限られます。
一方、バルブのステムにナトリウムを封入する製造工程そのものは、危険物の取扱いに該当します。
この工程では、まだナトリウムが密閉される前の状態を扱うため、取り扱う量に応じて通常の危険物関連の規定がそのまま適用されます。
「バルブなら合算不要」という結論だけを覚えて、製造ラインの管理まで油断してしまうと判断を誤ります。

完成したバルブと製造の工程を、同じ基準で考えてはいけないんですね。

混同すると危険です。
完成品と製造工程は、別々に考える必要があります。

明日から何を確認すればよいのか

ナトリウム封入バルブの入った箱を作業員がトラックへ積み込んでいる様子
最後に確認したいのは、運搬の場面です。
貯蔵・取扱いでは合算しなくてよいとされましたが、運搬には別の基準がかかります。
危険物の規制に関する政令第29条第2項 品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を運搬する場合において、当該運搬に係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が一以上となるときは、指定数量以上の危険物を運搬しているものとみなす。
やることは3つです。
まず、完成したバルブの貯蔵・取扱いについては、執務資料のとおり合算せずに判断してよいことを確認します。
次に、ナトリウムを封入する製造工程は別扱いであることを、現場の管理者と共有します。
最後に、バルブを他の危険物と一緒に車両で運搬する場合は、政令第29条第2項の商の和による計算で指定数量以上にならないかを確認します。
自社の取扱いが「貯蔵」「取扱い(製造)」「運搬」のどの場面に当たるかを整理しておくと、判断に迷いません。

運搬のときだけ急に基準が変わるので、気をつけないといけませんね。

場面ごとに基準が違うと覚えておきましょう。
整理しておけば判断に迷いません。

よくある質問

Qナトリウムは危険物の第何類に当たりますか?
A第三類の自然発火性物質及び禁水性物質に当たり、指定数量は10キログラムです。
Qエンジンバルブ1本あたりのナトリウムはどのくらいの量ですか?
A消防危第81号の執務資料によれば1本あたり0.4グラム程度とされています。
Qバルブを大量に貯蔵すると指定数量を超えることはありますか?
Aバルブは過酷な環境でも壊れない構造のため、合算して指定数量を判断する必要はないとされています。
Qバルブの製造や運搬も規制の対象外ですか?
Aいいえ。ナトリウムを封入する製造工程と運搬には、それぞれ別の基準が適用されます。

まとめ

✔消防庁は平成31年4月19日付け消防危第81号の執務資料で、自動車用エンジンバルブ内のナトリウムは合算しなくてよいとの考え方を示しました
✔対象は、排気バルブの放熱のために内部へナトリウムを封入した構造のバルブです
✔ナトリウムの量は1本あたり0.4グラム程度で、ナトリウムは第三類・指定数量10キログラムの危険物です
✔バルブは過酷な環境でも変形や摩耗が生じない耐久性を持つため、流出のおそれは考えにくいとされました
✔見落としやすいのは、ナトリウムを封入する製造工程は危険物の取扱いに該当することです
✔車両で運搬する場合は、政令第29条第2項の商の和による計算で指定数量以上にならないか確認が必要です
✔「貯蔵」「取扱い(製造)」「運搬」の場面ごとに基準が異なることを整理しておくことが大切です

構造で安全性が決まるという考え方が参考になりました。

危険物の判断に迷ったときはご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 危険物規制事務に関する執務資料の送付について(平成31年4月19日付け消防危第81号、消防庁危険物保安室長発出)問14
  • 危険物の規制に関する政令別表第三(ナトリウムの指定数量)
  • 危険物の規制に関する政令第29条第2項(運搬の基準における指定数量の合算判定)

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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