救急搬送の記録に付けられる「事故種別」は、一見同じような負傷でも分類が分かれることがあります。
仕事中のけががすべて労働災害事故になるとは限らず、搬送のしかたによっても扱いが変わる場面があります。
消防庁の質疑応答は、農作業中の受傷や家庭内の事故、飲酒トラブル、搬送の形態まで、具体的な場面ごとに判定基準を示しています。
質疑応答が教えてくれるのは「仕事中」「自宅」という場所だけでなく、事故の性質や搬送のしかたで種別が決まるという考え方です。
うちの畑で、手伝いの人が作業中に転んでけがをしました。
これは「労働災害事故」として記録されるんでしょうか。
そのケースは労働災害事故にはなりません。
場の性質によって一般負傷として扱われることがあります。
搬送のしかたで種別が変わることもあるんですか。
あります。
一般負傷・加害・その他との境界を、5つの回答で順に見ていきます。
- 農作業中に受傷した事故は労働災害事故ではなく「一般負傷」として扱われます
- 自宅の浴そうでの溺水や転落も、水難事故ではなく「一般負傷」です
- 飲酒上のケンカで殴打された事故は一般負傷ではなく「加害」として扱われます
- 交通事故で収容されていた人の転院搬送は、傷病原因にかかわらず「その他」の転院搬送として扱われます
- 通常分娩のための搬送は「急病」ではなく「その他」として記録されます
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目次
農作業中の受傷は「労働災害事故」になるのか

農作業中の受傷がどう扱われるかが問われました。
「労働災害事故」という区分は、工場・事業所・作業所・工事現場など組織的な就業の場で生じた事故を指すために使われており、農作業はこの対象に含まれません。
同じ「仕事中のけが」でも、場の性質によって種別が分かれるという点が実務では見落とされがちです。
家族経営の農地や家庭菜園で作業中に手伝いの人がけがをした場合も、同じ考え方で一般負傷として扱われます。
自治会や施設の行事で農作業体験を企画する立場であれば、万一のけがをどう記録するかをあらかじめ把握しておくと安心です。
農家さんの手伝いで近所の人がけがをしても、労働災害事故にはならないんですね。
そうです。
就業の場かどうかが判断の基準です。
自宅の浴そうでの溺水は「水難事故」になるのか

家庭内の浴そうでの溺水がどう扱われるかが問われました。
「水難事故」は河川・海・プールなど屋外の水辺で生じた事故を指す区分で、自宅の浴室内の出来事はこの対象に含まれません。
高齢の家族が入浴中に意識を失った、浴そうで転倒したというような場面も、同じ一般負傷として記録されることになります。
入浴中の事故は高齢者施設や福祉施設でも起こりやすく、119番通報の際は転落か溺水かなど状況を具体的に伝えることが対応の助けになります。
日ごろから浴室の見守り体制を確認しておくと、万一のときに落ち着いて対応できます。
自宅のお風呂で転んだだけでも、水難事故だと思っていました。
水難事故ではありません。
場所が河川や海でなければ一般負傷として扱われます。
飲酒のケンカで殴打された事故は「一般負傷」なのか

飲酒の席でのトラブルがどう扱われるかが問われました。
「加害」とは故意に他人によつて障害等を加えられた事故を指す区分で、酔った勢いのけんかであっても相手の意図的な行為である以上はこの区分に入ります。
一般負傷は日常生活上の不慮のけがを指すための区分であり、人の意図が関わる事故には使われません。
会合や宴会を開く施設であれば、来場者同士のトラブルが起きた際にどの種別で救急搬送されるのかを知っておくと、事後の説明がしやすくなります。
過失による場合は加害には当たらず、それぞれの事故種別に分類される点もあわせて押さえておきましょう。
酔った上でのけんかなら、一般負傷として処理されると思っていました。
そうとは限りません。
相手の故意による行為は加害として扱われます。
交通事故で入院中の人を転院搬送した場合も「交通事故」なのか

転院搬送の扱いが問われた回答を見ます。
もとの受傷が交通事故であっても、病院から別の病院へ移す搬送という行為そのものが種別の決め手になり、交通事故としては扱われません。
同じ患者であっても、最初の救急搬送と転院搬送とでは記録上の種別が切り替わるという点は見落とされがちです。
高齢者施設や病院併設の建物で転院搬送に立ち会う機会がある場合は、搬送の区分が最初の受傷原因とは別に記録されることを知っておくとよいでしょう。
もとの原因が交通事故でも、転院搬送になると記録が変わるんですね。
はい。
搬送のしかた自体が判断材料になります。
通常分娩のための搬送は「急病」として扱われるのか

通常分娩のための搬送の扱いが問われました。
「急病」は疾病によるものを指す区分で、異常のない通常分娩は病気やけがではないため、この区分には当てはまりません。
陣痛が始まって病院へ向かうような一般的な場面でも、記録上は急病ではなくその他として扱われるという点は意外と知られていません。
保育施設や多くの人が出入りする建物で妊婦の搬送に居合わせた際は、落ち着いて状況を伝えることが何より大切です。
お産のための搬送は、てっきり急病に入ると思っていました。
いいえ、違います。
疾病ではないので急病には含まれません。
よくある質問
まとめ
場所だけでなく、搬送のしかたまで見られているんですね。
場所や見た目だけで判断せず、経緯まで確かめることが大切です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 救急事故等報告要領に関する質疑応答について(昭和51年6月18日 予防救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第2条第9項
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答は昭和51年当時のもので、法令名や機関の名称等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





