救急車で運ばれた人は、あとで「事故種別」という形で記録に残ります。
火災の現場でけがをした人は、全員が「火災事故」になるわけではありません。
水難や労働災害、故意の加害とそうでないものの線引きも、消防庁の基準で細かく決められています。
質疑応答が示したのは現場の状況だけでなく発生の経緯まで見て種別を分けるという考え方です。
うちのテナントで火災があったとき、避難中にけがをした人が出ました。
これは「火災事故」として記録されるんでしょうか。
それは状況によります。
避難中のけがは火災事故に含まれますが、出場途中の交通事故は別の種別になります。
水難や労働災害との境目も、正直あいまいなままです。
そこも整理しましょう。
火災・水難・労働災害・加害の4つの線引きを、5つの回答で順に見ていきます。
- 避難や消火活動の協力中に受傷した事故は「直接火災に起因して生じた事故」に含まれます
- 出場途中の交通事故や火災のショックによる心臓病は火災事故には該当しません
- 水防活動中の消防職員の受傷は水難事故ではなく「自然災害事故」として扱われます
- 労働災害事故は就業時間に関係なく就業中であれば含み、労災保険の適用の有無とは関係ありません
- 「加害」でいう「他人」は夫婦や親子も含む自己以外の者を指します
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目次
避難中のけがは火災事故に含まれるのか

消防庁の質疑応答は、具体的な場面を7つ並べて線を引いています。
火災の熱・煙・有毒ガスが直接作用した事故だけでなく、消火活動・救助活動・避難行動の最中に受傷した事故も火災事故に含まれます。
だから隣接建物で荷物を運んでいて転んだだけなら一般負傷、出場途中の交通事故は交通事故、火災のショックで起きた心臓病は急病と、別の種別に振り分けられます。
一方で避難中にガス中毒になった居住者も、消火に協力して転んだ一般人も火災事故に含まれるという点は、現場の感覚とずれやすいところです。
自分の建物で火災が起きたとき、誰がどんな状況で負傷したのかを記録に残しておくと、あとで消防への説明がしやすくなります。
避難を手伝ってくれた近所の人がけがをしたら、それも火災事故になるんですね。
そのとおりです。
協力中のけがも対象に入ると知っておいてください。
水防活動中の消防職員の受傷は水難事故か

台風による水防活動中の受傷が問われた回答と、水難事故そのものの線引きをあわせて見ます。
水に落ちたという結果だけでなく、氾濫という原因までさかのぼって種別が決まります。
同じ質疑応答では、水難事故そのものの範囲も示されました。船舶から水中に転落した事故とボート等から転落した事故は水難事故に該当しますが、水泳中に心臓マヒを起こした場合は「急病」として扱われます。
きっかけが水の事故に見えても、体調が原因なら急病です。
自分の建物の近くに河川や貯水槽があるなら、どんな状況で誰が関わったかを119番通報のときに正確に伝えられるよう、関係者で共有しておくと安心です。
水の事故でも、原因まで見られているんですね。
結果だけでなく、きっかけまで見ています。
通報のときは、何がきっかけだったかも伝えてください。
労働災害事故の「就業中」はどこまで含むか

職業病の扱いとあわせて、労働者災害補償保険法との関係も問われました。
始業前の準備や終業後の片付けの最中でも、就業中と認められればフォークリフトや荷物運搬車での受傷は労働災害事故に入ります。
一方で、じわじわ進行する職業病は「急病」として扱われる点は見落としやすいところです。
そして労災保険の対象かどうかは、この種別の判断に関係しません。パートやアルバイト、労災未加入の立場でも、就業中の事故なら労働災害事故として記録されます。
工場や工事現場を抱える建物では、就業中の範囲をどこまでと考えているか、安全衛生の担当者と一度すり合わせておくとよいでしょう。
労災保険に入っていないパートさんのけがは、対象外になるんでしょうか。
対象外にはなりません。
保険の加入状況とは別に判断されます。
過失による事故も「加害」になるのか

では、わざとではなく過失でぶつかった場合はどう扱われるのか。
過失でぶつかられた交通事故は交通事故、過失による運動競技事故は運動競技事故というように、それぞれの事故種別へ分かれます。
加害というと「他人にやられた」という印象だけで判断したくなりますが、実際に見られているのは相手に故意があったかどうかです。
施設内でトラブルが起きたときは、わざとだったのか不注意だったのかを、分かる範囲でよいので現場にいた人から聞き取っておくと、あとの説明に役立ちます。
わざとかどうかで、種別そのものが変わるんですね。
そのとおりです。
状況が分かる人の話を、早めに聞いておいてください。
「加害」でいう「他人」はどこまでを指すか

実際に家族間の事故が対象に含まれるのかが問われました。
「他人」の範囲は自己以外の者という、できるだけ広い言い方で示されました。
夫婦や親子、兄弟であっても、故意に障害等を加えられたのであれば「加害」として記録される対象になります。
施設や寮のように複数の家族や関係者が同じ建物で生活する場では、身内同士のトラブルでも救急を呼ぶべき場面があると知っておくことが、適切な対応につながります。
身内だから「加害」にはならないと思い込んでいました。
自己以外であれば家族でも対象に含まれます。
迷わず119番に相談してください。
よくある質問
まとめ
結果ではなく経緯を見ているんですね。
すっきりしました。
火災・水難・労働災害・加害のどれに見えても、きっかけまでさかのぼって決まります。
119番のときは状況をできるだけ詳しく伝えてください。
㈱防災屋でもご相談を承っています。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 救急事故等報告要領に関する質疑応答について(昭和51年6月18日 予防救急課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第2条第9項
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)
- 消防実務六法 質疑応答編
※本記事は公表されている法令および通達に基づく一般的な解説です。掲載した回答は昭和51年当時のもので、法令名や機関の名称等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





