焼肉店や居酒屋の厨房で心配なのが、天がい(フード)から排気ダクトの中へ火が入り込んで広がる、いわゆるダクト火災です。
国の基準と大阪市火災予防条例は、油を含む煙が出る厨房設備の排気ダクト等に、火炎の伝走を防ぐ装置を付けるよう定めています。
そのうえで大阪市消防局の運用基準は、焼肉の設備も対象に入ることと、装置を付けなくてよい形を具体的に書いています。
この記事では、国の基準と大阪市の条例、運用基準を分けて整理し、焼肉店の排気ダクトで何が決まっているのかを順にたどります。
大阪市内で焼肉店を出す予定です。
内装業者から、ダクトに消火装置がいるかもしれないと言われました。
焼肉の排気ダクトは、大阪市の運用基準にはっきり名前が出てくる設備です。
まず、どの基準で決まるのかを整理しましょう。
必ず消火装置を付けるのか、ダンパーで足りるのか、そこが分かりません。
付けなくてよい場合もあるのですか。
はい、建物の種類とダクトの形で分かれます。
国の省令、市の条例、運用基準の順に読みましょう。
- 国の対象火気省令第11条第7号は、厨房設備の天蓋に火炎伝送防止装置として自動消火装置を設けるとし、直接排気やダクトの長さなどで支障がないものを除いています
- 大阪市火災予防条例第3条の4は、油脂を含む蒸気が出る厨房設備の排気ダクト等に、防火ダンパー又は自動消火装置の火炎伝走防止装置を求めています
- 高さ31メートルを超える建築物や、延べ面積3,000平方メートル以上の飲食店などに設ける排気ダクト等は、自動消火装置に限られます
- 大阪市の運用基準は、店舗内に設置された焼肉等を行うための厨房設備も対象に含むとし、付けなくてよい形を直接排気、ダクトの長さ、入力と使用頻度の3つで具体化しています
- 東大阪市と堺市は、自動消火装置が必要な厨房を入力の合計350キロワット以上で区切っていて、大阪市とは線の引き方が違うので、管轄の消防署で確かめます
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目次
国の基準では厨房の排気ダクトに何を付けることになっているのか

火を使う設備の位置、構造及び管理は、消防法第9条で、政令で定める基準に従い市町村条例で定めることになっています。
その基準は消防法施行令第5条にあり、厨房設備の細かい中身は、総務省令の「対象火気省令」に書かれています。
八 前号ただし書の規定にかかわらず、次に掲げる厨房設備には、自動消火装置を設けること。
イ 令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ、(十六の二)項及び(十六の三)項に掲げる防火対象物の地階に設ける厨房設備にあっては、同一室内に設ける全ての厨房設備の入力の合計が三百五十キロワット以上のもの
ロ イに掲げるもののほか、高さ三十一メートルを超える建築物に設ける厨房設備にあっては、同一室内に設ける全ての厨房設備の入力の合計が三百五十キロワット以上のもの
- 排気ダクトを用いず、天蓋から屋外へ直接排気を行う構造のもの
- 排気ダクトの長さから判断して、火災予防上支障がないと認められるもの
- 厨房設備の入力及び使用状況から判断して、火災予防上支障がないと認められるもの
- 防火ダンパー等が適切に設けられているもの
「入力」は、省令第2条第9号で、対象火気設備等の最大の消費熱量と定義されています。
ただし、省令はあくまで条例を作るときの基準です。
実際に建物に効くのは、それぞれの市の火災予防条例です。
国の省令だけを読んでも、うちの店に何が必要かは決まらないのですね。
はい、決め手は大阪市火災予防条例です。
次は、その条文と運用基準を読みましょう。
大阪市では焼肉店の排気ダクトも火炎伝走防止装置の対象になるのか

まず第1項第1号のかっこ書きで、排気ダクト等から「個人の住居に設けるもの」を除き、それが「以下この項において同じ」とされています。
つまり第1項の基準は、個人の住居の台所ではなく、店舗や事業所などの厨房に向けたものです。
火炎伝走防止装置は、第1項第2号アに定められています。
(ア) 高さ31メートルを超える建築物に設ける排気ダクト等
(イ) 令別表第1(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物に設ける排気ダクト等
(ウ) 令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ及び(16)項イに掲げる防火対象物で延べ面積が3,000平方メートル以上のものに設ける排気ダクト等
では、焼肉店の設備はこの「油脂を含む蒸気を発生させるおそれのある厨房設備」に入るのでしょうか。
大阪市消防局の運用基準は、第11章で条例の解釈を示しています。
さらに後半で、店舗内に設置された焼肉等を行うための厨房設備も含むとしています。
奥の厨房だけでなく、客席のテーブルで肉を焼く設備のように、店舗内に置かれた焼肉の設備も対象に含めていると読めます。
この解釈には行政指導を示す◆印が付いていないので、運用基準の凡例でいう、法令解釈を含む「法令基準」の扱いです。
運用基準は、火炎伝走防止装置を「防火ダンパー又は自動消火装置」と定義しています(第1 用語の意義 1)。
テーブルで焼くタイプの焼肉店も、対象に入るのですね。
うちは客席ごとに排気が付く予定です。
はい、運用基準が焼肉と名指ししています。
次は、どの装置を付けるかを見ましょう。
大阪市では自動消火装置でなければならないのはどんな建物か

(ア)から(ウ)に当たる建物の排気ダクト等は自動消火装置、それ以外は防火ダンパー又は自動消火装置のどちらかです。
| 条例の区分 | 当たる建物 | 付ける装置 |
|---|---|---|
| (ア) | 高さ31メートルを超える建築物 | 自動消火装置 |
| (イ) | 別表第一(16の2)項の地下街、(16の3)項の準地下街 | 自動消火装置 |
| (ウ) | (1)項から(4)項、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イで延べ面積3,000平方メートル以上 | 自動消火装置 |
| 上のどれにも当たらない | 路面店や小さなビルのテナントなど | 防火ダンパー又は自動消火装置 |
大きな商業ビルや複合ビルに入る焼肉店は、(ウ)に当たるかを先に確かめます。
国の省令第8号と違って、大阪市の条例の(ア)から(ウ)には、入力の合計350キロワット以上という条件が書かれていません。
自動消火装置の中身は、条例とは別の大阪市(消)告示第44号が定めています。
シ フード・ダクト用消火装置の作動と連動して火を使用する設備への燃料の供給を停止でき、かつ、守衛室等常時人の居る場所に作動した旨を有効に報知できるように設けること
運用基準 第3 1(1)アは、安全センターの性能評定品であるフード・ダクト用簡易自動消火装置を、告示に適合するものとして扱ってよいとしています。
また第3 6(1)は、フード・ダクト用消火装置を付けるときに、レンジやフライヤーの部分を守るフード等用簡易自動消火装置を、連動させて併設するよう求めています(3種類を守る一体型の評定品を使う場合を除く)。
第4 1は、燃料の連動停止の対象に、気体燃料だけでなく熱源としての電気(IHコンロ等)も含まれるとしています。
一方、防火ダンパーを選ぶ場合は、運用基準 第7が、グリス除去装置の近くに点検口とともに設けること、温度が上がると自動的に閉まること、厚さ1.5ミリメートル以上の鉄板等で造ることなどを定めています。
大きなビルに入るかどうかで、付ける装置が変わるのですね。
はい、まず建物の高さと延べ面積を確かめます。
次は、装置を付けなくてよい形です。
大阪市で火炎伝走防止装置を付けなくてよい三つの形とは何か

ただ、条文だけでは、どこまでが「支障がない」のか分かりません。
これを具体的にしているのが、運用基準 第2 2の(2)から(4)です。
ア 厨房のある部分から他の階又は他の室を貫通しないで直接屋外へ専用排気ダクトで排気されているもので、かつ、開放された場所に設置されているもの
イ 専用排気ダクトの長さがおおむね10メートル以下のもの
ウ 厨房設備から5メートル以内にファン停止用スイッチを設け、かつ、その旨の表示がなされており、耐火構造の共用排気ダクトに接続されている水平部分の長さが2メートル以下の排気ダクトで、厨房室内に露出して設置されているもの。なお、この場合のスイッチの表示については、明確に判明できるものとすること
- 国の対象火気省令第11条第7号が、天蓋に火炎伝送防止装置として自動消火装置を設けることを原則とし、直接排気、ダクトの長さ、入力及び使用状況、防火ダンパー等の4つを除きます
- 大阪市火災予防条例第3条の4第1項第2号アが、(ア)から(ウ)の建物は自動消火装置、それ以外は防火ダンパー又は自動消火装置とし、ただし書で直接排気、ダクトの長さ、入力及び使用状況の3つを除きます
- 運用基準 第11章 第2 2(1)が、店舗内に設置された焼肉等を行うための厨房設備も、油脂を含む蒸気を発生させるおそれのある厨房設備に含めます
- 同じく(2)が、直接排気を「外壁に接して設けた天がいの接続部の排気口から、屋外へ直接排気するもの」と具体化します
- 同じく(3)が、ダクトの長さで支障がないものを、ア(貫通なしで直接屋外へ出る専用ダクトで開放された場所)、イ(専用ダクトがおおむね10メートル以下)、ウ(5メートル以内のファン停止スイッチと表示があり、耐火構造の共用ダクトへの水平部分が2メートル以下で室内に露出)のいずれかとします
- 同じく(4)が、入力21キロワット以下で使用頻度が低いものを挙げ、関係者が自ら湯茶等に使う程度なら使用頻度が低いと扱ってよいとします
- どれに当たるかは図面と現場で判断されるので、ダクトの経路と長さ、スイッチの位置を図面に書き込み、管轄の消防署に確かめます
また、(4)の例に挙がっているのは、関係者が自ら湯茶等に使う程度の使い方です。
お客さんに料理を出す営業用の焼肉の設備は、この例とは使い方が違うので、(4)に頼る前に消防署に相談するのが安全です。
なお運用基準 第8は、油脂の蒸気が出る厨房設備の排気ダクトに、ほかの厨房設備の排気ダクトをつなぐ場合で火炎が伝走するおそれがあるときは、防火ダンパー又は自動消火装置を設けることが望ましいとしています。
こちらには◆印が付いているので、大阪市消防局の行政指導です。
外壁に直接出すか、ダクトが短い専用ダクトなら、付けなくてよい場合があるのですね。
はい、ただし「おおむね」や使用頻度は判断が入ります。
工事の前に図面で確かめましょう。
大阪市の基準は東大阪市や堺市とどこが違うのか

東大阪市火災予防条例は、第3条の3が厨房設備の条文です。
(ア) 令別表第1(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イ、(16の2)項及び(16の3)項に掲げる防火対象物の地階に設ける厨房設備で当該厨房設備の入力と同一厨房室内に設ける他の厨房設備の入力の合計が350キロワット以上のもの
(イ) (ア)に掲げるもののほか、高さ31メートルを超える建築物に設ける厨房設備で当該厨房設備の入力と同一厨房室内に設ける他の厨房設備の入力の合計が350キロワット以上のもの
堺市火災予防条例第5条は、この2つに加えて、特定用途で延べ面積6,000平方メートル以上のものと、(16)項イで特定用途部分の床面積の合計が3,000平方メートル以上のものの階を挙げ、いずれも入力の合計350キロワット以上としています。
堺市の審査基準は、ダクトの長さの読み方を次のように書いています。
ア 厨房室から直接屋外に出る水平部分の長さが4m 以下の排気ダクトで、厨房室内に露出して設置されているもの
イ 耐火構造の共用排気ダクトに接続されている水平部分の長さが2m 以下の排気ダクトで、厨房室内に露出して設置されているもの
| 項目 | 大阪市 | 東大阪市 | 堺市 |
|---|---|---|---|
| 条例の条文と呼び方 | 第3条の4。火炎伝走防止装置 | 第3条の3。火炎伝送防止装置 | 第5条。火炎伝送防止装置 |
| 自動消火装置が必要な厨房 | 高さ31メートル超の建築物、(16の2)項と(16の3)項、特定用途で延べ面積3,000平方メートル以上(入力の条件なし) | 地階(特定用途等)と高さ31メートル超の建築物で、入力の合計350キロワット以上 | 東大阪市と同じ2つに、特定用途で延べ面積6,000平方メートル以上と、(16)項イの特定用途部分3,000平方メートル以上の階を加え、いずれも入力の合計350キロワット以上 |
| 焼肉の設備 | 運用基準に明記(店舗内の焼肉等の設備も含む) | 見当たらない | 見当たらない |
| 直接排気の意味 | 外壁に接した天がいの接続部の排気口から屋外へ直接 | 見当たらない | 大阪市と同じ |
| ダクトの長さ | ア、イ、ウのいずれか(専用ダクトおおむね10メートル以下を含む) | 見当たらない | 5メートル以内のファン停止スイッチと表示が前提で、直接屋外へ出る水平部分4メートル以下か、耐火構造の共用ダクトへの水平部分2メートル以下(いずれも室内に露出) |
| 入力と使用状況 | 21キロワット以下で使用頻度が低いもの(関係者が自ら湯茶等に使う程度) | 見当たらない | 21キロワット以下で使用頻度が低いもの(一般の家庭で通常行われている程度) |
違うのは、自動消火装置が必要な厨房の線の引き方と、ダクトの長さの読み方です。
大阪市は建物の高さや延べ面積で区切り、東大阪市と堺市は入力の合計350キロワット以上を条件にしています。
ダクトの長さは、大阪市には専用ダクトおおむね10メートル以下という項目があり、堺市は水平部分4メートル以下か2メートル以下で、どちらもファン停止スイッチが前提です。
東大阪市の「見当たらない」は、今回確認した東大阪市の公開資料(消防用設備等の運用基準6分野)に厨房設備の解釈が載っていなかったという意味で、扱いがないという意味ではありません。
厨房設備の熱量で消火設備の対象を決める大阪市の基準は、大阪市で厨房やボイラー室の火気は何キロワットから消火設備の対象になるのかの記事で解説しています。
同じ大阪府内でも、ダクトの長さの読み方まで違うのですね。
はい、隣の市の基準をそのまま当てはめないことです。
店のある市の消防署に確かめましょう。
よくある質問
まとめ
焼肉の設備が対象に入る理由と、付けなくてよい形が分かりました。
まずはダクトの経路と長さを図面で確かめます!
建物の延べ面積とダクトの図面があれば、消防署への相談もスムーズに進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第11章 火炎伝走防止装置 第1 用語の意義 1、第2 設置対象範囲等 2 条例の解釈(1)〜(4)・図11-1、第3 消火装置 1(1)ア・6(1)、第4 燃料供給の連動停止等 1、第7 防火ダンパー、第8 排気ダクト等 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 大阪市火災予防条例第3条の4(大阪市例規データベース)
- 火炎伝走防止用消火装置の構造、材質、性能及び設置の基準(昭和59年大阪市(消)告示第44号)第17条(大阪市例規データベース)
- 東大阪市火災予防条例(昭和48年東大阪市条例第38号)第3条の3(東大阪市例規集)、東大阪市消防局 消防用設備等の運用基準 https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第2章 第5条(厨房設備)の条文と解説及び運用 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 消防法第9条
- 消防法施行令第5条
- 対象火気設備等の位置、構造及び管理並びに対象火気器具等の取扱いに関する条例の制定に関する基準を定める省令 第2条第9号、第11条第7号・第8号
※本記事は公表されている法令および各市消防局の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準、条例は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。「見当たらない」とした項目は、各市が公開している資料を読んだ範囲でのものです。火炎伝走防止装置(火炎伝送防止装置)が必要かどうか、どの装置を付けるかについての個別の判断は、所轄消防署にご確認ください。





