マンションのバルコニーの床にある四角いふたは、避難器具用ハッチ(避難ハッチ)です。
ふたを開けると避難はしごが下りて、下の階のバルコニーへ降りられます。
国の基準は、ハッチの口を真下の階の口と同じ垂直線上に置かないことまでは決めていますが、どれだけずらすかは書いていません。
この記事では、東大阪市の運用基準が国の告示に何を足しているのかを、堺市と大阪市の基準と比べながら順にたどります。
東大阪市でマンションの大規模改修を計画しています。
避難ハッチの位置も見直すことになりました。
ハッチの位置は、上の階との関係で決まる部分があります。
まず、国の基準から整理しましょう。
真下に並べなければよい、と聞いたことがあります。
国の基準はそのとおりです。
東大阪市では、さらに離す距離の目安があります。
- 国の消防法施行規則第27条と告示第2号は、ハッチの降下口を直下階の降下口と同一垂直線上にない位置に設けるとしています
- 東大阪市の運用基準は、ハッチの降下口を直上階の降下口(降下空間)から概ね0.6メートル以上離すとしています
- ハッチの降下口と直上階の降下口は、隔板等からも概ね0.6メートル以上離します(いずれも●の行政指導基準)
- 救助袋のハッチも、避難はしごのハッチの決まりを借りたうえで、同じ0.6メートルを求めています
- 堺市は同じ60センチメートルを★の独自の指導基準で定め、大阪市の避難器具の節には同じ定めが見当たりません
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目次
国の基準では避難ハッチの位置をどこまで決めているのか

避難器具の設置と維持の技術上の基準は消防法施行令第25条第2項にあり、その細目が消防法施行規則第27条に置かれています。
開口部の位置について、第1項第2号が次のように定めています。
ただし書があるので、避難上支障のないものは例外になりえます。このただし書を使った昭和の質疑応答は共同住宅の避難器具とバルコニーの記事で解説しています。
4階以上の階に設けるつり下げはしごにも、第1項第5号ニ(ハ)に同じ趣旨の定めがあります。
第2項は、必要な事項を消防庁長官に任せています。
ハッチに格納した金属製避難はしごについて、第三 一(二)が次のように定めています。
ホ 降下空間は、避難器具用ハッチの開口部から降着面等まで当該避難器具用ハッチの開口部の面積以上を有する角柱形の範囲とすること。
ホの降下空間は、ハッチの開口部から降りる先の床まで続く角柱形の範囲です。
降下空間や避難空地の考え方は避難器具のまわりに空ける場所の記事で解説しています。
国の基準では、ずらす距離までは決まっていないのですね。
はい、ずらすことまでです。
次は、東大阪市の運用基準を見ましょう。
東大阪市では上の階の降下口からどれだけ離すのか

凡例は、無印が法令基準、●が行政指導基準、▲が法令基準に行政指導を加えた基準です。
「3 設置方法」の柱書は、国の規則と告示に加えて、次の基準を置くとしています。
オは告示のニと同じ文で、ケとコが東大阪市の足した部分です。
ケ 避難器具用ハッチの降下口は、直上階の降下口(降下空間)との離隔距離を概ね0.6メートル以上確保すること。●
コ 避難器具用ハッチの降下口及び直上階の降下口(降下空間)は、隔板等からの離隔距離を概ね0.6メートル以上確保すること。●
この階のハッチの口は、上の階から降りてくる範囲から概ね0.6メートル以上、隔板等からも概ね0.6メートル以上離す、という配置です。
ケとコはどちらも●なので、法令基準ではなく行政指導基準として書かれています。
あわせて、共通事項の(5)●も見ておきます。
上の階が後退した建物の避難器具の考え方は、大阪市で上の階が後退した建物の避難器具の記事で解説しています。
近すぎても遠すぎてもいけない、ということですね。
はい、近くに置いて少し離すのが東大阪市の書き方です。
次は、隔板との並べ方を見ましょう。
東大阪市では隔板やエアコンの室外機とハッチをどう並べるのか

ク 降下空間及び避難空地には、エアコンの室外機や物干金物(容易に取り外せる状態の物干し竿は、含まない。以下同じ。)等の障害物がないこと。
サ 避難はしごの吊り元側を建物側に向けて設置すること。●
上の階から降りた人が、隔板を破らずに次のハッチへ移れる並べ方と読めます。
クは●の付かない無印で、法令基準として書かれています。エアコンの室外機は、降下空間と避難空地に置かないのが前提で、容易に取り外せる物干し竿は障害物に含まないとされています。
サ●は、はしごをつり下げる側(吊り元側)を建物の側に向けて設けるという、向きの指定です。
ハッチのふたの構造と表示は避難器具用ハッチのふたの記事、隔板の大きさと表示は東大阪市で避難器具の降りる場所の記事で解説しています。
室外機をハッチの横に移す計画がありました。
降下空間と避難空地に入らないか、図面で位置を確かめてください。
次は、救助袋のハッチを見ましょう。
救助袋のハッチにも同じ決まりが借りられているのか

東大阪市の運用基準は、ハッチに格納した救助袋を(11)で定めています。
(11)は、このように(3)を借りたうえで、キからコを同じ文で自分の項目として置いています。
東大阪市でハッチの位置を確かめる順番を、番号つきでまとめます。
- 消防法施行令第25条第2項が、避難器具の設置と維持の技術上の基準を定める
- 消防法施行規則第27条第1項第2号が、避難器具の開口部を相互に同一垂直線上にない位置に置くとする(ただし書あり)
- 同条第2項を受けた告示第2号 第三 一(二)ニが、ハッチの降下口を直下階の降下口と同一垂直線上にない位置とする
- 東大阪市の運用基準「3 設置方法」の柱書が、規則第27条と告示第2号第3によるほか、次によるとする
- (3)オが告示と同じことを書き、ケ・コ●が直上階の降下口と隔板等から概ね0.6メートル以上を足す
- 救助袋のハッチは、(11)が(3)ウからカを借り、キからコを同じ文で置く
なお、(11)にはサの吊り元の定めは挙がっていません。
はしごでも救助袋でも、離す距離は同じなのですね。
はい、同じ0.6メートルです。
次は、堺市と大阪市の基準と比べましょう。
堺市や大阪市の基準でも同じ決まりがあるのか

堺市の凡例は、無印が法令基準及びその解釈、◆が消防庁の通知等を参考に定めた指導基準、★が堺市消防局として防火安全性の向上を図ることを目的として定めた指導基準です。
ア 同一直線上の避難器具については、仕切板を介さないよう設置すること。★
ウ 避難器具用ハッチの降下口は、直上階の降下口(降下空間)との離隔距離を概ね60cm 以上確保すること。(第17-1図参照)★
エ 避難器具用ハッチの降下口及び直上階の降下口(降下空間)は、仕切板からの離隔距離を概ね60cm 以上確保すること。(第17-1図参照)★
堺市の(3)は「ハッチに格納した避難器具」全体が対象なので、救助袋のハッチも含まれる書き方です。
ハッチに格納した金属製避難はしごの第17-1表の備考は、①で告示と同じ直下階の決まりを、④で吊り元の向きを挙げています。
④避難はしごの吊り元側を建物側に向けて設置すること★
ウ アの乗り換えは、原則として、同一バルコニー(隔板等を破壊する必要があるものは、同一バルコニーに該当しない。)で行えること
大阪市の避難器具の節には、直上階の降下口や隔板等からの距離、室外機、吊り元の定めは見当たりませんでした(「直上階」「離隔」「室外機」「吊り」の語は0件)。
3市を並べると、次のとおりです。
| 項目 | 東大阪市 | 堺市 | 大阪市 |
|---|---|---|---|
| 直下階の降下口と同一垂直線上にしない | (3)オ(無印・告示と同じ文) | 第17-1表 備考①(告示と同じ文) | 第3の柱書で告示第2号第3によるとする |
| 直上階の降下口(降下空間)からの離隔 | 概ね0.6メートル以上(●) | 概ね60cm以上(★) | 見当たらない |
| 隔板(仕切板)からの離隔 | 概ね0.6メートル以上(●) | 概ね60cm以上(★) | 見当たらない |
| 同じ並びの避難器具と隔板 | 隔板等を介さない(●) | 仕切板を介さない(★) | 4階以上のつり下げはしごの乗り換えは同一バルコニー(隔板等を破壊するものは該当しない) |
| 室外機・物干し | 降下空間と避難空地に置かない(無印) | 降下空間と避難空地に置かない(無印) | 見当たらない |
| 吊り元の向き | 建物側(●) | 建物側(備考④★) | 見当たらない |
| 救助袋のハッチ | (11)が(3)を借り、0.6メートルも同じ | (3)の対象に含まれる書き方 | 見当たらない |
東大阪市は●の行政指導基準、堺市は★の独自の指導基準で、どちらも法令基準の印ではありません。
同じ60センチメートルでも、東大阪市と堺市で印が違うのですね。
はい、どちらも指導の印です。
大阪市の物件は、国の基準と消防署の指導で確かめましょう。
よくある質問
まとめ
ハッチの位置は、上の階の降りる場所と隔板からの距離で確かめればよいのですね。
まずは各階のバルコニーの図面を並べてみます!
図面がそろっていれば、消防署との協議もスムーズに進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 東大阪市消防局「避難器具の設置に係る運用基準」凡例・2 共通事項(5)・3 設置方法 柱書・(3)オ〜サ・(11) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」(第二十二版)第1章 総則 4 凡例/第17 避難器具 Ⅱ 細目 1 設置位置等 第17-1表 備考・(3)・第17-1図 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第3章 第1節 避難器具 第3 設置位置等の基準 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 消防法施行令第25条第2項
- 消防法施行規則第27条第1項第2号・第5号ニ・第2項
- 平成8年消防庁告示第2号「避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目」第三 一(二)
※本記事は公表されている法令および各市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。堺市と大阪市の比較は、各市が公開している避難器具の基準で確かめた範囲のものです。個々の建物でのハッチの位置や特例の判断は、所轄消防署にご確認ください。





