二酸化炭素消火設備は、ボタンを押してから二酸化炭素が出るまでに、わざと待ち時間を置く設備です。
この待ち時間を遅延時間といい、国の規則は20秒以上としか書いていません。
四日市市の審査基準は、部屋の奥から出口まで歩く距離を使って遅延時間を計算させ、上限の最大遅延時間まで決めています。
国の規則から四日市市の計算式までを順にたどり、大阪市・堺市・津市・鈴鹿市・埼玉県央広域と比べます。
四日市市の立体駐車場に二酸化炭素消火設備を付ける計画があります。
遅延時間は20秒にしておけば足りるのでしょうか。
国の規則は20秒以上ですが、四日市市は駐車場の奥から出口までの歩行距離で計算するよう求めています。
距離が長いほど遅延時間も長くなります。
長くすればするほど安全なら、長めに設定すればよいのでしょうか。
そこにも上限があって、手動起動なら150秒から差し引いた時間までです。
上限を超える区画には二酸化炭素を使わない考え方なので、順に見ましょう。
- 消防法施行規則第19条第5項第19号イ(イ)は、二酸化炭素を放射する全域放出方式に20秒以上の遅延装置を求めるが、上限や計算方法は書いていない
- 四日市市は遅延時間を「(歩行距離÷歩行速度1m/秒+避難開始時間15秒)×1.5」で計算させ、駐車の用に供される部分は避難開始時間を30秒にする
- 最大遅延時間は手動起動なら150-歩行距離×1.5秒、自動起動なら90秒で、計算した遅延時間とのいずれか小さい方の時間で設定する
- 計算した遅延時間が最大遅延時間を超える区画は、二酸化炭素以外の消火設備にするか、区画を小さくする
- 大阪市・堺市も同じ計算式を置き、津市は20秒以上とダイヤルの固定、鈴鹿市・埼玉県央広域の基準には遅延時間の項目が見当たらない
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目次
二酸化炭素消火設備の遅延時間は法令で何秒と決まっているのか

人が残っていると命にかかわるので、規則は放出の前に必ず待ち時間を置くよう定めています。
全域放出方式の不活性ガス消火設備には、次のイ又はロに定めるところにより保安のための措置を講じること。
イ 二酸化炭素を放射するものにあっては、次の(イ)から(ホ)までに定めるところによること。
(イ)起動装置の放出用スイッチ、引き栓等の作動から貯蔵容器の容器弁又は放出弁の開放までの時間が二十秒以上となる遅延装置を設けること。
(ロ)手動起動装置には(イ)で定める時間内に消火剤が放出しないような措置を講じること。
(略)
ロ 窒素、IG―五五又はIG―五四一を放射するものにあっては、イ(ニ)の規定の例によること。
規則第19条第5項第19号イ(イ)は、放出用スイッチや引き栓を操作してから容器弁が開くまでを20秒以上とすることだけを求めています。
何秒まで延ばしてよいか、部屋の広さで変えるのかといった上限や計算方法は、規則のどこにも書かれていません。
同号ロを見ると、窒素・IG-55・IG-541は放出表示灯の(ニ)だけを「例による」としていて、遅延装置の決まりは借りていません。
つまり20秒より長くするかどうかは、各消防本部の審査基準と設計の判断に委ねられています。
明日やることは、設計図書の制御盤の仕様で遅延時間が何秒に設定されているかを確かめることです。
20秒あれば、たいていの部屋からは逃げられそうな気がします。
小さな部屋ならそうですが、広い駐車場の奥からだと20秒では出口に届かないこともあります。
そこで四日市市は計算で決めさせています。
四日市市は遅延時間をどう計算させているのか

欄外には令和4年11月24日の消防予第573号が付記されていて、国のガイドラインを取り込んだ項目です。
(1)遅延時間は、規則第19条第5項第19号イ(イ)の規定によるほか、退避時の歩行速度等、各部分の条件を考慮し、十分な遅延時間を設定すること。
(2)次の(1)又は(2)のいずれか小さい方の時間により算出すること。
ア 次の計算式により算出する遅延時間
t=(lroom÷v+tstart)×1.5
t:遅延時間(単位 秒)
lroom:当該居室等の最遠部分から当該居室の出口の一に至る歩行距離(単位 m)
v:歩行速度=1m/秒
tstart:避難開始時間=15秒(駐車の用に供される部分にあっては30秒)
式の中身は「部屋のいちばん遠い所から出口までの歩行距離(m)÷1m/秒」で歩く秒数を出し、そこに避難開始時間を足して1.5倍するものです。
避難開始時間は15秒ですが、駐車場のように車を置く部分は30秒にしていて、車から降りて逃げ始めるまでの時間を長めに見ています。
例えば奥から出口まで20mの駐車場なら、(20+30)×1.5で75秒になり、規則の20秒を大きく上回ります。
奥から出口まで10mの電気室なら、(10+15)×1.5で37.5秒です。
(2)の「(1)又は(2)」は、直後のアとイの計算式を指すと読めます(大阪市・堺市の同じ項は(ア)(イ)と書いています)。
この項目に四日市市の行政指導を示す下線は引かれていませんでした(ページ画像で確認)。
明日やることは、防護区画の平面図で最も遠い位置から出口までの歩行距離を測ることです。
同じ距離でも、駐車場かどうかで15秒も違ってくるのですね。
はい、さらに1.5倍されるので、駐車場では22.5秒の差になります。
次は上限の話です。
最大遅延時間を超える区画はどうすればよいのか

四日市市の基準は、遅延時間に上限を置き、それを超える区画への設置そのものを見直させています。
イ 次の計算式により算出する最大遅延時間
(手動起動の場合) tmax=150-((lroom÷v)×1.5)
(自動起動の場合) tmax=90
(3)(2)アにより算出した時間が、(2)イの最大遅延時間を超える区画にあっては、当該区画に二酸化炭素消火設備を設置することが望ましくないことから、次のいずれかの対応をとること。
ア 二酸化炭素消火設備以外の消火設備の設置
イ (2)アにより算出する時間が最大遅延時間を超えないような区画の大きさへの変更
手動起動なら150秒から「歩行距離÷1m/秒×1.5」を差し引いた時間、自動起動なら一律90秒が最大遅延時間です。
奥から出口まで40mの駐車場を手動起動にすると、遅延時間は(40+30)×1.5で105秒、最大遅延時間は150-60で90秒となり、計算上は上限を超えます。
この場合は(3)により、二酸化炭素以外の消火設備にするか、区画を小さくして歩行距離を縮めることになります。
計算上の分かれ目は、手動起動の駐車場で歩行距離35m、駐車場以外で42.5m、自動起動の駐車場なら30m、駐車場以外なら45mです。
「望ましくない」という書き方なので禁止とまでは言えませんが、超える区画は計画段階で予防課に相談するのが前提になります。
明日やることは、測った歩行距離で遅延時間と最大遅延時間の両方を計算し、どちらが小さいかを表にすることです。
| 防護区画の例(歩行距離) | 遅延時間(ア) | 最大遅延時間(イ) | 設定の目安 |
|---|---|---|---|
| 電気室(10m・手動) | (10+15)×1.5=37.5秒 | 150-15=135秒 | 37.5秒 |
| 駐車場(20m・手動) | (20+30)×1.5=75秒 | 150-30=120秒 | 75秒 |
| 駐車場(30m・自動) | (30+30)×1.5=90秒 | 90秒 | 90秒(上限ちょうど) |
| 駐車場(40m・手動) | (40+30)×1.5=105秒 | 150-60=90秒 | 上限超え=設備か区画を見直す |
駐車場が広いと、二酸化炭素そのものが使えなくなることもあるのですね。
はい、だから区画の大きさを決める前に、この計算を一度通しておくと安心です。
次は他の本部と比べます。
ほかの消防本部も同じ計算式を使っているのか

一方で、規則の20秒以上だけを書いている本部や、項目自体を置いていない本部もあります。
⑺ 全域放出方式の起動装置の放出用スイッチ又は引き栓等の作動から貯蔵容器の容器弁又は放出弁の開放までの時間(以下「遅延時間」という。)は、次によるものとし、遅延時間の調整用ダイヤルが容易に変更できるものにあっては、ダイヤル等を固定するなどの措置を講じること。
ア 二酸化炭素を放射するものは、遅延時間を20秒以上とすること。
大阪市の運用基準(第1章第8節 第2 12(3))と堺市の審査基準(第7 Ⅱ1(18))は、四日市市と同じ計算式・同じ避難開始時間・同じ150秒と90秒を置いています(いずれもページ画像で式を確認)。
大阪市の項目には◆が付いていて、大阪市の凡例で行政指導を示す印です。
堺市は◆①で、堺市の凡例では消防庁の通知等を参考に定めた指導基準を表します。
津市は計算式を置かず、規則と同じ20秒以上に加えて、遅延時間を変えられるダイヤルを固定するよう求めています。
鈴鹿市と埼玉県央広域の審査基準は、不活性ガス消火設備の節に遅延時間の項目が見当たらず、制御盤の説明や起動の流れの図に「遅延」の語が出てくるだけでした。
明日やることは、管轄の基準に計算式があるかを確かめ、無い本部でも計算した値を設計の根拠として図書に添えることです。
| 消防本部 | 二酸化炭素の遅延時間 | 印 |
|---|---|---|
| 四日市市 | 計算式+最大遅延時間(第5 6)・欄外に消防予第573号 | 下線なし |
| 大阪市 | 同じ計算式+最大遅延時間(第1章第8節 第2 12(3)) | ◆(市の行政指導) |
| 堺市 | 同じ計算式+最大遅延時間(第7 Ⅱ1(18)) | ◆①(国の通知等を参考にした指導) |
| 津市 | 20秒以上・ダイヤルを固定(5-6 8⑺ア)・緊急停止ボタン(⑻) | 記号なし |
| 鈴鹿市 | 項目なし(第4章 第5) | - |
| 埼玉県央広域(鴻巣市・桶川市・北本市) | 項目なし(第5 不活性ガス消火設備) | - |
計算式が無い本部でも、考え方は同じように使えそうです。
そうですね、国のガイドラインと同じ式なので設計の根拠として説明しやすくなります。
最後に窒素などの場合を見ます。
窒素など二酸化炭素以外の不活性ガスでは遅延装置はどうなるのか

規則も遅延装置を求めていないので、本部ごとの基準の書き方がそのまま違いになります。
ア 遅延装置は、原則として、ダンパー等の閉鎖や換気ファン等の停止および手動起動時の誤操作への対応としての非常停止ができる時間で、概ね5秒程度に設定すること。
ただし、防護区画の使用形態に応じて20秒以下に設定することができる。また、常時無人となる防火対象物にあっては、遅延装置を設けないことができる。
四日市市は、ダンパーの閉鎖や換気ファンの停止、誤操作の非常停止に必要な時間として概ね5秒を原則にし、使い方に応じて20秒以下まで、常時無人なら遅延装置なしも認めています。
堺市(第7 Ⅱ2(13)ウ★)は概ね5秒を基本に、シャッター等で防護区画の形成に5秒を超えるときは起動と連動して閉め、60秒以内とすることができるとしています。
堺市の★は堺市消防局が独自に定めた指導基準の印で、遅延時間を設けるときは非常停止用スイッチも求めています。
津市(5-6 8⑺イ)は直ちに(5秒以内)放出し、防護区画の形成のため直ちに放射できないときは形成に要する時間(20秒以内)とすることができるとしています。
明日やることは、設備が二酸化炭素か窒素系かを銘板で確かめ、窒素系なら遅延が長すぎないかを確認することです。
つまり、二酸化炭素は逃げる時間で長さを決め、窒素などは区画が閉まる時間で短さを決めるのですね。
そのとおりです。
設備を更新するときは、消火剤の種類が変わると遅延時間の考え方も変わる点に気をつけてください。
よくある質問
まとめ
まずは駐車場の奥から出口までを測って、遅延時間を計算してみます!
手動か自動かと最大遅延時間も並べておくと、予防課との相談が早く進みます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行規則 第19条 第5項 第14号・第19号(e-Gov法令検索)
- 四日市市消防同意事務審査基準 第5 不活性ガス消火設備 6 遅延装置・9(14)保安措置等(四日市市消防本部)
- 消防用設備等の設置に係る運用基準 第1章 第8節 不活性ガス消火設備(二酸化炭素を放射するもの)(大阪市消防局)
- 堺市消防同意・消防用設備等審査基準 第7 不活性ガス消火設備(堺市消防局)
- 津市予防事務審査検査基準 5-6 不活性ガス消火設備(津市消防本部)
- 鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準 第4章 第5 不活性ガス消火設備(鈴鹿市消防本部)・埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準 第5 不活性ガス消火設備(埼玉県央広域消防本部)
- 二酸化炭素消火設備の設置に係るガイドラインの策定について(令和4年11月24日 消防予第573号)※四日市市の基準の欄外表示による
※本記事は各消防本部が公表している審査基準・運用基準と、消防法施行規則に基づく一般的な解説です。計算例は各基準の式に数値を当てはめた結果で、「見当たらない」としたものは各本部の不活性ガス消火設備の節を読んだ範囲の結果です。運用基準・条例は改正されることがあるため、最新は管轄の消防署・消防本部で確認してください。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





