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被災者の安否情報はなぜ市町村が答えられるようになったのか|第86条の15が定める照会への回答と配慮義務を解説

被災者の安否情報はどう扱われるのかを示す電話と台帳が置かれた市役所デスクのアイキャッチ画像

防災担当のみなさんは、大規模な災害が起きたとき、離れて暮らす家族から「あの人は無事か」という安否の問い合わせが市町村に殺到することを知っていますか。
実はこの「安否情報」への回答、以前は個人情報保護条例が壁になり、市町村が回答をためらう場面がありました。
平成25年の法改正で、この照会に答える仕組みが、初めて法律の条文になりました。
市町村が「回答することができる」という規定であって、必ず答えなければならない義務ではありません。

災害が起きたら、家族からの安否確認の電話に市町村は必ず答えないといけないんでしょうか。

実は「回答することができる」という市町村の裁量規定なんです。

個人情報保護条例との関係はどう整理されたんですか。

条文と通知を順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 平成25年の災害対策基本法改正で、市町村が安否情報の照会に答える制度が初めて条文になりました(第86条の15)。
  • 対象は氏名・性別・生年月日に加え、死傷の状況や入院・避難先等を含む「被災者の安否に関する情報」です。
  • 回答は市町村の義務ではなく、「回答することができる」という裁量規定です。
  • 回答するときは、被災者又は第三者の権利利益を不当に侵害しないよう配慮しなければなりません(第2項)。
  • 市町村は関係地方公共団体・消防機関・都道府県警察等に情報の提供を求めることができます(第4項)。

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安否情報の提供の仕組みを示す図解(家族等から照会、市町村が回答するか判断、回答時は権利利益に配慮、消防や警察等に情報提供を要請できるの4ステップ)

安否情報の照会はなぜ市町村を悩ませてきたのか

被災地の地図と鳴り止まない電話のイラスト

安否情報の制度も、平成25年の災害対策基本法改正で条文になりました。
まずは作られた理由を確認します。

(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 平成25年6月21日 府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)被災者の生死や所在等に関する情報は、災害発生時に被災地に居た者の安否を案ずる親類縁者等にとって極めて関心の高い情報であり、あらゆる災害の発生時において最もニーズの高い情報の一つである。(略)氏名や性別、生年月日といった情報に加えて災害による死傷の状況や入院・避難先等の情報を含む安否情報は、個人情報保護条例による保護の対象となり、被災自治体においては、被災者の安否について被災者の家族等に回答することを逡巡する場合もあったところである。

安否情報は、家族等にとって災害発生時にもっとも関心が高い情報でありながら、個人情報保護条例が壁になっていました。
東日本大震災では、地震・津波による被害の大きさと通信網の打撃、広域避難が重なり、被災自治体に数多くの安否照会が寄せられました。
氏名・性別・生年月日に加え、死傷の状況や入院・避難先等の情報は個人情報保護条例の保護対象となるため、回答をためらう自治体もありました。
警察機関や医療機関等からの情報入手についても、個人情報保護条例等の制限で円滑に進まない場合がありました。
次は、市町村がどんな情報についての照会に答えられるようになったのかを見ていきます。

個人情報だからと、答えてもらえないこともあったんですね。

法律に明確な根拠がなかったのが理由の一つです。

市町村はどんな安否情報の照会に答えられるのか

市役所の窓口と回答するかどうかの分かれ道のイラスト

個人情報保護条例との関係を整理するため、新しい条文が設けられました。

(災害対策基本法第86条の15第1項)都道府県知事又は市町村長は、当該都道府県又は市町村の地域に係る災害が発生した場合において、内閣府令で定めるところにより、当該災害の被災者の安否に関する情報(次項において「安否情報」という。)について照会があつたときは、回答することができる。

都道府県知事又は市町村長は、被災者の安否に関する情報について照会があったときに、回答することができます。
対象となるのは「当該災害の被災者の安否に関する情報」で、氏名・性別・生年月日に加え、死傷の状況や入院・避難先等の情報も含まれます。
照会や回答の具体的な手続は内閣府令で定めることとされています。
罹災証明書の交付(第90条の2)が市町村長の義務だったのとは対照的に、こちらは「回答することができる」という裁量規定です。
次は、回答するときに市町村が守らなければならないことを見ていきます。

義務ではなく、市町村の判断で答えるものなんですね。

条例との関係を整理したうえでの規定です。

回答するときに何を守らなければならないのか

盾と書類を重ねたイラスト

個人情報保護条例との関係が整理されたとはいえ、無制限に答えてよいわけではありません。

(災害対策基本法第86条の15第2項)都道府県知事又は市町村長は、前項の規定により安否情報を回答するときは、当該安否情報に係る被災者又は第三者の権利利益を不当に侵害することのないよう配慮するものとする。
(災害対策基本法第86条の15第4項)都道府県知事又は市町村長は、第一項の規定による回答を適切に行い、又は当該回答の適切な実施に備えるため必要があると認めるときは、関係地方公共団体の長、消防機関、都道府県警察その他の者に対して、被災者に関する情報の提供を求めることができる。

回答するときは、被災者又は第三者の権利利益を不当に侵害しないよう配慮する義務が明記されています。
見落としやすいのは、回答を適切に行う、又は備えるために必要な限度で、保有する情報を目的外に内部利用できるという第3項の規定です。
さらに市町村は、関係地方公共団体・消防機関・都道府県警察等に対して被災者に関する情報の提供を求めることができます(第4項)。
安否情報の収集と回答の両面について、条文上の根拠が整理された形です。
次は、実務で見落としやすいポイントを見ていきます。

消防や警察からも情報を集められるんですね。

収集と回答の両方に根拠ができました。

実務で見落としやすいのはどこか

消防車と警察車両から市役所へ矢印が伸びるイラスト

通知は、この規定の運用について当時から先送りにした部分があることも明記しています。

(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 平成25年6月21日 府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)本規定は、改正法の公布の日から起算して6か月を超えない範囲内において政令で定める日より施行されることとしており、安否情報の照会や回答に際しての具体的な手続については、施行までの間に内閣府令で定めることとしている。このため、本規定の運用に関する留意点等については、規定の施行に合わせ、改めて技術的助言として通知を発出することを予定している。

安否情報の照会や回答の具体的な手続は、この通知が出た当時、施行までの間に内閣府令で定めることとされていました。
実務にあたっては、自分の市町村で定められている安否情報の取扱要領や照会窓口の運用を、最新の内閣府令・条例とあわせて確認する必要があります。
混同しやすいのが、会社がBCPに基づいて行う従業員の安否確認との違いで、こちらは市町村が家族等からの照会に答える制度とは別のものです。
第86条の15はあくまで市町村の権限を整理した規定であり、家族側に照会する権利を新設したものではありません。
次は、明日から何を確認すればよいのかを整理します。

会社の安否確認とは、まったく別の制度なんですね。

市町村側の権限を整理した規定です。

明日から何を確認すればよいのか

チェックリストと地域防災計画の書類のイラスト

最後に、防火管理や地域防災の実務に関わる立場から確認しておきたいポイントを整理します。

(災害対策基本法第86条の15第3項)都道府県知事又は市町村長は、第一項の規定による回答を適切に行い、又は当該回答の適切な実施に備えるために必要な限度で、その保有する被災者の氏名その他の被災者に関する情報を、その保有に当たつて特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。

まず、自分の市町村が安否情報の照会にどう対応する方針か、地域防災計画や個人情報保護条例の規定を確認します。
消防機関としては、都道府県知事・市町村長からの情報提供の求めに応じる体制が整っているかもあわせて確認しておきたい点です。
避難行動要支援者名簿や被災者台帳など、関連する個人情報の制度と取扱いのルールが揃っているかを見直す機会にもなります。
会社としてBCPに基づく従業員の安否確認の体制を持っているかも、あわせて点検しておきます。
制度の建てつけを知っているかどうかで、災害発生直後の問い合わせ対応のスピードが変わります。

地域防災計画の記載、確認してみます。

取扱要領の確認が第一歩です。
よくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q市町村は家族から安否情報の照会を受けたら、必ず回答しなければなりませんか?
Aいいえ。第86条の15第1項は「回答することができる」という市町村の裁量規定で、必ず回答しなければならない義務ではありません。
Q安否情報の照会に回答するとき、市町村は何に配慮しなければなりませんか?
A第2項により、被災者又は第三者の権利利益を不当に侵害しないよう配慮する義務があります。
Q安否情報の収集で、市町村は消防や警察に情報提供を求められますか?
Aはい。第4項により関係地方公共団体の長・消防機関・都道府県警察等に対して情報の提供を求めることができます。
Q会社が行う従業員の安否確認と、この規定はどう違いますか?
A第86条の15は市町村が家族等からの照会に答える制度で、会社がBCPに基づいて行う従業員の安否確認とは別の制度です。

まとめ

✔平成25年の災害対策基本法改正で、市町村が安否情報の照会に答える制度が初めて条文になりました(第86条の15関係)。
✔東日本大震災で、個人情報保護条例が壁になり安否情報の回答をためらう事例があったことが制度創設のきっかけです。
✔対象は氏名・性別・生年月日に加え、死傷の状況や入院・避難先等を含む「被災者の安否に関する情報」です。
✔回答は市町村の義務ではなく、「回答することができる」という裁量規定です。
✔回答するときは、被災者又は第三者の権利利益を不当に侵害しないよう配慮しなければなりません(第2項)。
✔市町村は関係地方公共団体・消防機関・都道府県警察等に安否情報の提供を求めることができます(第4項)。
✔会社がBCPに基づいて行う従業員の安否確認とは別の制度であることに注意が必要です。

地域防災計画の確認、さっそくやってみます!

それが安否情報への備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)
  • 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第86条の15

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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