防火管理者のみなさんは、火災で入居者の住まいが燃えてしまったとき、罹災証明書は誰が発行してくれるのか知っていますか。
罹災証明書といえば地震や水害の被災者向けという印象が強いかもしれません。
実は消防法による火災損害調査の結果をもとに、消防長や消防署長がこの証明書を発行している場合が少なくありません。
平成25年の法改正で、罹災証明書の交付は市町村長の法律上の義務になり、火災の場合の取り扱いも通知で明確にされています。
うちの管内で火事があったら、罹災証明書はどこに申請すればいいんでしょうか。
実は市町村長が発行義務を負いますが、火災の場合は消防長等に委任できるんです。
この記事の結論
- 平成25年の災害対策基本法改正で、罹災証明書の交付は市町村長の法律上の義務になりました(第90条の2)。
- 対象となる災害は自然災害に限らず、消防法による火災で住家が被害を受けた場合も含まれます。
- 火災に起因する罹災証明書は、市町村長が消防長又は消防署長に発行を行わせることができます。
- 複数市町村が共同処理する一部事務組合や広域連合が発行する場合もあります。
- 「遅滞なく」とは、人命救助等の応急措置を優先した結果のやむを得ない遅れまで禁じる趣旨ではありません。
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罹災証明書はなぜ法律の条文になったのか
罹災証明書は、長く法律に明文の規定がないまま、市町村の自治事務として交付されてきました。
まずは法律の条文になった経緯を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 平成25年6月21日 府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)罹災証明書は、災害により被災した住家等について、その被害の程度を証明したものであり、法令上明示的な位置付けはないものの、災害対策に関する市町村の自治事務の一つとして、かねてより災害発生時に被災者に交付されてきたものである。(略)市町村によっては、罹災証明書の発行の前提となる住家被害調査の実施体制が十分でなかったことから、東日本大震災に際しては、罹災証明書の交付に長期間を要し、結果として被災者支援の実施そのものに遅れが生じた事例も少なくなかったところである。今般の法改正は、こうした経緯を踏まえ、罹災証明書を遅滞なく交付することを市町村長の義務として本法に位置付けるとともに(略)罹災証明書の交付に必要な業務の実施体制の確保に平常時から努めることを、市町村長の義務としたものである。
(災害対策基本法第90条の2第1項)市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において、当該災害の被災者から申請があつたときは、遅滞なく、住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書面(第4項において「罹災証明書」という。)を交付しなければならない。
罹災証明書は、東日本大震災で交付が長期化し被災者支援に遅れが出た反省から、条文になりました。
平成25年の災害対策基本法改正(第90条の2)で、遅滞なく交付することが
市町村長の法律上の義務として明記されました。
それまでは法令上の明文規定がなく、市町村の自治事務として運用されてきた書面でした。
次は、この罹災証明書がどんな災害を対象にしているのかを見ていきます。
そもそも罹災証明書は、法律に定めが無かったんですね。
火災で住家が焼けたとき証明書はどこがもらえるのか
罹災証明書は、市町村長に交付義務がありますが、火災の場合は少し事情が変わります。
条文の「災害」の範囲から確認します。
(災害対策基本法第2条第1号)暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)罹災証明書のうち火災に起因するものについては、消防法による火災損害調査の結果に基づき、消防長又は消防署長がこれを発行している場合が少なくないが、市町村長は、当該市町村における消防を管理する立場にあり、本法に基づく罹災証明書のうち火災に起因するものの交付に関する事務についても、必要に応じて、引き続き市町村長はこれを消防長等に行わせることとして差し支えない。また、消防事務の共同処理に関して複数の市町村が一部事務組合や広域連合を設立している場合であって、その規約上、火災に起因する罹災証明書の交付についても共同処理の対象とされている場合には、当該一部事務組合等が火災に係る罹災証明書の交付を行うこととなる。
罹災証明書の対象となる「災害」に、規模の限定はありません。
条文上「大規模な火事」も災害の一つに数えられており、
住宅火災でも対象になります。
交付義務者は市町村長ですが、
消防を管理する立場から消防長又は消防署長に発行を行わせることができます。
複数市町村で消防事務を共同処理している一部事務組合等では、その組合等が発行することもあります。
次は、証明書に何が書かれ、誰が調べるのかを見ていきます。
うちの本部でも罹災証明書を発行しているのは、これが根拠だったんですね。
罹災証明書には何を調べて何を書くのか
証明書の中身と、調査に必要な体制を確認します。
(災害対策基本法第90条の2第2項)市町村長は、前項の規定による調査に必要な限度で、その保有する被災者の住家に関する情報を、その保有に当たつて特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)住家以外の不動産被害や家財等の動産被害、被災住民の人的被害等については、法律上必ずしも証明事項とすることが求められないところであるが、被災住民の利便の観点から、かねてより住家以外の被害についても罹災証明書の証明事項としてきた市町村において、引き続きそれらの事項を任意に罹災証明書の証明事項とすることについては何ら妨げられない。(略)罹災証明書には、被災住家に居住していた世帯構成員の本人確認情報である氏名、生年月日及び性別を記載することが基本となる。この際(略)住民基本台帳を参照することで正確な情報を確認することが考えられるが、罹災証明書に係る事務への住民基本台帳の利用は、市町村の個人情報保護条例との関係でも個人情報の利用目的の範囲内として許容されるものである。罹災証明書の交付は、災害により被害を受けた「特定の者」のためにするものであり、地方自治法第227条及び第228条の規定に基づき、条例で定めるところにより手数料を徴収することが可能である。
証明事項として必須なのは住家被害だけで、それ以外は市町村長が任意に追加できます。
世帯構成員の氏名・生年月日・性別は、
住民基本台帳を照会して確認することも認められています。
住家被害の調査に必要な範囲であれば、
目的外の内部利用も可能と整理されました。
交付そのものは無料の印象がありますが、地方自治法に基づき条例で手数料を定めることもできます。
次は、交付が遅れたときに市町村長の義務違反になるのかを見ていきます。
住民基本台帳を見て本人確認していいのは、知りませんでした。
個人情報保護条例の目的外利用として整理されているんです。
遅滞なくを守れなかったら市町村長の義務違反になるのか
「遅滞なく」の意味と、見落としやすい周知義務を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)本条第2項では、住家被害等の調査について専門的な知識・経験を有する職員の育成や他の地方公共団体等との応援協定の締結など罹災証明書の交付に必要な業務の実施体制の整備に平常時から取り組むよう努めることを市町村長の義務として規定したところであり、本条に規定する「遅滞なく」とは、こうした準備を前提として、住家被害等の調査の実施や罹災証明書の交付に通常要する期間を、特段の理由なく超過することがないことを求める趣旨である。災害発生時に市町村が行うべき業務としては人命救助などの応急措置もあり、市町村がこうした応急措置の実施を最優先にした結果として、やむを得ず罹災証明書の交付に長期間を要することになったとしても、第2項の責務を十分果たしていた限りにおいて、罹災証明書を「遅滞なく」交付する義務に違反したことにはならないものと解される。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)罹災証明書に記載される住家被害等の調査結果は、その後の被災者支援の内容に大きな影響を与えうるものであることに鑑み、被災者から市町村に住家被害等の再調査を依頼することが可能であることを、被災住民に十分周知するよう配慮されたい。
「遅滞なく」とは、平常時からの体制整備を前提に、通常要する期間を理由なく超えないことを求める趣旨です。
人命救助等の応急措置を最優先にした結果としてやむを得ず遅れた場合は、義務違反にはならないと解されています。
ただし平常時の
職員育成や応援協定の締結を怠っていれば、この理屈は通用しません。
また、被災者から住家被害等の再調査を依頼できることを住民に周知する配慮も忘れてはいけません。
次は、明日から確認しておきたい実務のポイントを見ていきます。
応急対応で手一杯でも、それだけでは言い訳にならないんですね。
明日から何を確認すればよいのか
最後に、消防本部や管内の建物で確認しておきたい手順を整理します。
(災害対策基本法第90条の2第4項)市町村長は、災害の発生に備え、罹災証明書の交付に必要な業務の実施体制の確保を図るため、第一項の規定による調査について専門的な知識及び経験を有する職員の育成、当該市町村と他の地方公共団体又は民間の団体との連携の確保その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)罹災証明書は、災害応急対策期から災害復旧期にわたる被災者支援の実施の前提となるものであり、その交付は本法上の災害応急対策及び災害復旧の双方に該当する措置であると解される。このため、住家の被害調査等の実施及びこれに基づく罹災証明書の交付については、必要な人員の確保に関し本法に基づく職員派遣(法第2章第4節)又は応援(法第67条等)の規定を活用することが可能であるので、留意されたい。
まず、火災に起因する罹災証明書の交付事務が、消防長や消防署長に委任されているかを規約や規程で確認します。
一部事務組合や広域連合で消防事務を共同処理している場合は、
規約に罹災証明書の交付が含まれているかも見ておきます。
平常時から
職員の育成や他団体との応援協定を進めておくことが、「遅滞なく」を守る土台になります。
住民に対しては、証明事項の追加や再調査依頼ができることをあわせて周知しておくと安心です。
制度を知っているかどうかで、被災した入居者への案内のスピードが変わります。
規約の確認が第一歩です。
よくある質問もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q罹災証明書は、自然災害でなければ発行されないのですか?
Aいいえ。条文が対象とする「災害」には大規模な火事も含まれており、住宅火災で住家が被害を受けた場合も罹災証明書の対象になります。
Q火災の罹災証明書はどこに申請すればよいのですか?
A交付義務者は市町村長ですが、消防長又は消防署長に発行を行わせることができるとされており、実際には消防本部が窓口になっている場合が少なくありません。
Q証明書の交付が遅れたら、市町村長の義務違反になりますか?
A人命救助等の応急措置を最優先にした結果としてやむを得ず遅れた場合は、平常時の体制整備の責務を果たしていた限り、義務違反にはならないと解されています。
Q罹災証明書の交付には、手数料がかかりますか?
A地方自治法第227条・第228条の規定に基づき、条例で定めるところにより手数料を徴収することが可能です。
まとめ
✔平成25年の災害対策基本法改正で、罹災証明書の交付は市町村長の法律上の義務になりました(第90条の2関係)。
✔対象となる災害は自然災害に限らず、消防法による火災で住家が被害を受けた場合も含みます。
✔火災に起因する罹災証明書は、市町村長が消防長又は消防署長に発行を行わせることができます。
✔消防事務を共同処理する一部事務組合や広域連合が発行する場合もあります。
✔「遅滞なく」とは、人命救助等の応急措置を優先した結果のやむを得ない遅れまで禁じる趣旨ではありません。
✔被災者から住家被害等の再調査を依頼できることを住民に周知する配慮義務があります(第90条の2第4項関係)。
✔罹災証明書の交付には、地方自治法第227条・第228条に基づき条例で手数料を徴収することもできます。
それが被災した入居者への一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第2条第1号・第90条の2
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。