防火地域や準防火地域には、建物の外壁や開口部に高い防火性能を求める建築基準法第61条の規定があります。
古くからある建物の中には、建てた当時は適法でも、その後の基準の見直しでこの規定に適合しなくなったものが少なくありません。
こうした「既存不適格建築物」が増築や改築をしようとすると、原則としては建物全体を現行基準に合わせる必要が生じます。
けれども一定の要件を満たせば、建築基準法施行令第137条の10により、この負担が大きく緩和されます。
うちのビルは防火地域にあって、今の基準には合っていない古い建物なんです。
増築するなら、建物全部を最新基準に直さないといけませんか。
いいえ、要件を満たせば建物全体まで直さなくても増築できます。
建築基準法施行令第137条の10という緩和の規定があるんです。
緩和があるんですね、少し安心しました。
どんな建物のどんな増築が対象になるんでしょうか。
対象になるのは、防火地域の基準に適合していない建物の増築や改築です。
この記事で、対象と要件を順番に確認していきましょう。
- 防火地域内の既存不適格建築物も、要件を満たせば増築や改築ができます(建築基準法第86条の7第1項)。
- 対象となるのは、法第3条第2項により現行の第61条の規定の適用を受けない既存不適格の建築物です。
- 要件には、火熱遮断壁等で区画する経路と、床面積・階数などの数値要件を満たす経路の二つがあります(施行令第137条の10)。
- 数値要件の経路では、対象床面積の合計が50平方メートル以下であることなど複数の条件を同時に満たす必要があります。
- 準防火地域(施行令第137条の11)は防火地域より数値要件がやや緩やかですが、建物や区域によって条件が変わるため計画段階での確認が欠かせません。
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目次
なぜ防火地域の建物は増築のたびに現行基準を問われるのか

建築基準法第61条は、この区域内の建物に外壁の開口部の防火設備や主要な部分の防火性能を義務づけています。
区域の指定や第61条の技術的基準そのものが見直されると、建てたときは適合していた建物が、その後の基準に適合しなくなることがあります。
これが建築基準法第3条第2項が定める「既存不適格建築物」で、違反建築物ではなく、そのまま使い続けること自体は認められています。
問題になるのは増築や改築をするときで、原則としては工事にあわせて建物全体を現行の第61条の基準に適合させなければなりません。
この負担を一定の範囲で軽くするのが、建築基準法第86条の7と施行令第137条の10の緩和規定です。
なるほど、基準が変わったせいで古い建物が合わなくなることがあるんですね。
自分の建物がそうなのか、どうやって分かりますか。
建築確認を取った当時の図面と、今の第61条の基準を照らし合わせれば分かります。
迷ったら特定行政庁や設計士に確認するのが確実です。
どんな建物のどんな増築が緩和の対象になるのか

どんな増改築でも使える制度ではなく、対象になる部分が政令で決められています。
建築基準法第86条の7第1項は、第3条第2項により第61条など複数の規定の適用を受けない建築物について、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合に、その規定を適用しないと定めています。
このうち増築・改築の範囲を具体的に定めているのが、次の章で見る施行令第137条の10です。
大規模の修繕や大規模の模様替は増築・改築とは別の考え方で範囲が決まるため、この記事では増築・改築に絞って説明します。
増築だけじゃなくて改築でも対象になるんですね。
具体的にはどんな要件を満たせばいいんでしょうか。
要件は大きく二つの経路に分かれます。
次の章で順番に見ていきましょう。
緩和を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか

要件は二つの経路に分かれており、どちらか一方を満たせば足ります。
一つ目は、増築・改築に係る部分を火熱遮断壁等で区画し、かつ国土交通大臣が定める基準に適合する構造方法を用いる経路です。
二つ目は、対象床面積の合計が50平方メートル以下であることに加え、増改築後の階数が2以下かつ延べ面積が500平方メートル以下であること、外壁・軒裏が防火構造であること、延焼のおそれのある開口部に防火設備を設けることなど、複数の条件を同時に満たす経路です。
木造建築物のうち外壁・軒裏が防火構造でないものは、この二つ目の経路が使えず、一つ目の経路に限られます。
うちは木造で、外壁も昔ながらの仕様なんですが、それでも緩和は受けられますか。
要件が複雑で、自分の建物がどちらに当てはまるか分かりません。
木造で外壁が防火構造でない場合は、壁で区画する経路に限られます。
数値要件の経路が使えるかどうかは、次の章の注意点もあわせて確認しましょう。
実務で見落としやすいのはどこか

似ているからこそ、条件の違いを取り違えやすいので注意が必要です。
準防火地域(施行令第137条の11)の数値要件の経路には、防火地域にある「基準時の延べ面積を超えないこと」や「延べ面積が500平方メートルを超えないこと」という上限が定められておらず、防火地域のほうが要件が厳しく設定されています。
また、同一敷地内に増築・改築に係る部分が複数ある場合は、対象床面積の合計を合算して判定する点も見落としやすいところです。
自分の建物がどちらの区域にあるかを取り違えると、満たしているつもりの要件が実は足りていない、ということが起こります。
同じような規定でも、防火地域のほうが要件が厳しいんですね。
自分の建物がどちらの区域にあるか、あらためて確認しないといけませんね。
はい、都市計画図で区域を確認しておくと安心です。
最後に実務での確認手順をまとめます。
増築や改築を計画するときは何を確認すればよいか

判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
- 自分の建物が防火地域と準防火地域のどちらにあるかを都市計画図で確認する
- 自分の建物が法第3条第2項の適用を受ける既存不適格に当たるかを確認する
- 増改築後の対象床面積・延べ面積・階数を試算し、数値要件の経路に収まるかを確認する
- 数値要件に収まらない場合は、火熱遮断壁等で区画する経路が使えるか設計士に相談する
- 木造建築物で外壁・軒裏が防火構造でない場合は、使える経路が限られることを踏まえて計画する
設計が固まってから要件を満たさないと分かると、計画の手戻りが発生します。
要件を確認しながら計画すれば、無理に建て替えなくても増築できそうです。
次はよくある質問も見てみます。
はい、あわせてご確認ください。
次によくある質問をまとめました。
よくある質問
まとめ
増築の計画を立てるときは、今日の内容を確認しながら進めます!
建築物の増築や改築をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第61条・第86条の7
- 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条の10・第137条の11
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。





