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既存不適格の建物を移転しても法令の規定を受けずに済むのはなぜか|建築基準法施行令第137条の16が定める要件を解説

既存不適格の建物が移転する場面を示すアイキャッチ写真

古い建物を同じ敷地の中で場所を変えたい、あるいは敷地の外へそのまま動かしたいと考えたとき、移転先でも今の建築基準法令に合わせ直さなければならないと思っていませんか。
建築基準法は、既存不適格の建築物を移転する場合について、増築や改築とは別に建築基準法令の規定そのものを適用しない緩和の仕組みを定めています。
ただし、この緩和には要件があり、要件を満たさない移転には通常どおり規定が適用されます。
この記事では、移転の緩和の対象・要件・見落としやすい点までを条文に沿って解説します。

古い実家を同じ敷地の中で場所を変えたいと考えています。
今の基準に合わない建物でも、そのまま移転できるんでしょうか。

既存不適格の建築物でも、移転そのものが緩和の対象になる規定があります。
建築基準法第86条の7第4項という規定です。

助かります。
でも、どんな移転でも認められるわけではないですよね。

移転には満たすべき要件があります。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 既存不適格の建築物でも、移転そのものが建築基準法令の適用を受けない緩和の対象になります(建築基準法第86条の7第4項)。
  • 対象となるのは、法第3条第2項により現行の規定の適用を受けない既存不適格の建築物です。
  • 要件は、移転が同一敷地内におけるものであること、または特定行政庁が支障がないと認めるもののいずれかです(施行令第137条の16)。
  • 増築等の緩和が列挙された個別の規定だけを対象にするのに対し、移転の緩和は建築基準法令の規定全部を対象にする点が異なります。
  • どちらの要件も満たさない移転は、通常どおり建築基準法令の規定を満たす必要があります。

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建物の移転が建築基準法令の規定を受けずに済む要件を示す図解

なぜ建物を移転すると法令の規定が問題になるのか

移転前の建物と移転後の建物を結ぶイラスト
古い建物をそのままの姿で敷地の別の場所へ動かしたいとき、移転先でも今の建築基準法令に合わせ直す必要があるのか気になります。
建築基準法は、既存不適格の建築物を移転する場合について、増築等とは別の緩和の仕組みを用意しています。
建築基準法第八十六条の七第四項 第三条第二項の規定により建築基準法令の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において移転をする場合においては、同条第三項の規定にかかわらず、建築基準法令の規定は、適用しない。
移転そのものが、緩和の対象として条文に定められています。
建築基準法第3条第2項は、法令の施行や改正の際に現に存在する建築物がその規定に適合しない場合、その規定を適用しないと定めており、これがいわゆる既存不適格の建物です。
第137条の3から第137条の15までは主に増築・改築・大規模の修繕又は模様替を対象にしていますが、第86条の7第4項は「移転」だけを取り出して定めた別の規定です。
今回はこの移転の緩和について見ていきます。

増築や改築の緩和は聞いたことがありましたが、移転にも別の規定があるとは知りませんでした。
うちの建物は古いので、対象になるか気になります。

既存不適格の建築物であれば、移転そのものが緩和の対象になり得ます。
次に対象と要件を見ていきましょう。

どんな建築物のどんな移転が対象になるのか

敷地の境界線内で位置を変える建物のイラスト
緩和の対象になる建築物を、まず確認しておきましょう。
この対象が、次の章で説明する要件の前提になります。
建築基準法第三条第二項 この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
緩和の対象になるのは、既存不適格の建築物に限られます。
対象となるのは、法第3条第2項により、法令の施行や改正の際に現に存在していた建築物で、今の規定に適合しない、または適合しない部分を持つ既存不適格の建築物です。
今から新しく建てる建築物や、すでに現行の規定に適合している建築物には、そもそもこの緩和を使う場面がありません。
自分の建物がこの既存不適格に当たるかどうかを、まず確認する必要があります。

うちは古い建物なので、たぶん今の基準には合っていないと思います。
それでも対象になりますか。

現行の規定に適合しない既存不適格の建築物であれば対象になります。
次の章で具体的な要件を説明します。

緩和を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか

敷地内での移転と特定行政庁の認定を示すイラスト
前の章で見た対象について、具体的に満たすべき要件を見ていきます。
要件は2つの号に分かれており、どちらか一方を満たせば足ります。
建築基準法施行令第百三十七条の十六 法第八十六条の七第四項の政令で定める範囲は、次の各号のいずれかに該当することとする。 一 移転が同一敷地内におけるものであること。 二 移転が交通上、安全上、防火上、避難上、衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認めるものであること。
要件はどちらか一方を満たせばよく、両方そろえる必要はありません。
1号は、移転が同一敷地内におさまることです。敷地の外へ出ない移転であれば、これだけで要件を満たします。
2号は、敷地の外へ移転する場合の受け皿で、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が個別に認めることです。
2号は数値による基準ではないため、特定行政庁への事前の相談が実務上欠かせません。

今回は同じ敷地の中で位置を変えるだけなので、1号だけで足りそうです。
敷地の外へ移す場合はどうすればいいんでしょうか。

敷地の外への移転は、特定行政庁への個別の確認が必要になります。
次は見落としやすい落とし穴を紹介します。

実務で見落としやすいのはどこか

敷地の境界線を越えて移動する建物と禁止マークのイラスト
前の章で見た要件には、増築等の緩和と比べて見落としやすい違いが2つあります。
どちらも「移転」という言葉の範囲を取り違えると気づきにくい点です。
建築基準法第八十六条の七第一項(抜粋) 第三条第二項の規定により第二十条、第二十一条(略)の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替をする場合においては(略)、これらの規定は、適用しない。
2つの見落としに注意してください。
1つ目は、増築等の緩和(第86条の7第1項)は列挙された個別の規定だけが対象なのに対し、移転の緩和(同条第4項)は建築基準法令の規定全部が対象という、範囲の広さが違うことです。
2つ目は、同一敷地内でも移転にあわせて増築や用途変更を行う部分には、この移転の緩和は及ばず、それぞれ第86条の7第1項など別の規定を確認する必要があることです。
「移転」と「移転にあわせた増築等」を同じ緩和で考えてしまうと、必要な確認を1つ見落とすことになります。

今回は移転だけでなく、あわせて少し床面積を増やすことも考えています。
それも移転の緩和でまとめて済むんでしょうか。

床面積を増やす部分は増築にあたるので、別の緩和の規定を確認する必要があります。
最後に実務での確認手順をまとめます。

移転を計画するときは何を確認すればよいのか

チェックリストとメジャーのイラスト
移転を計画する際は、次の点を順番に確認してください。
判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
  • 自分の建築物が法第3条第2項の適用を受ける既存不適格に当たるかを確認する
  • 移転先が同一敷地内におさまるかを確認する
  • 敷地の外へ移転する場合は、特定行政庁へ事前に相談し交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないかを確認する
  • 移転にあわせて増築や用途変更を行う部分がないかを確認する
  • 判断に迷う場合は、特定行政庁または建築士に事前に相談する
計画の早い段階で確認しておくことが大切です。
移転先の設計が固まってから要件を満たさないと分かると、計画の手戻りが発生します。

手順が分かれば、うちの実家の移転についても事前に判断できそうです。
ありがとうございます。

計画の早い段階で確認しておけば、手戻りも防げます。
次によくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q同一敷地内かどうかはどう判断しますか?
A移転の前後で建築物が同一の敷地の範囲内にとどまっていれば要件を満たします。分筆や用途上不可分の関係にある土地をまたぐ場合は、敷地の範囲そのものの確認が必要です。
Q特定行政庁の認定はどうやって受けますか?
A交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないことについて、管轄の特定行政庁へ個別に相談・確認する必要があります。数値化された基準ではないため、事前相談が実務上欠かせません。
Q移転にあわせて増築や用途変更も行う場合はどうなりますか?
A移転の緩和は移転そのものだけが対象です。増築や用途変更を行う部分には、第86条の7第1項など別の規定がそれぞれ適用されるため、個別に要件を確認する必要があります。
Q要件を満たさずに移転してしまうとどうなりますか?
A緩和の対象から外れ、移転後の建築物は通常どおり現行の建築基準法令の規定に適合させる必要が生じます。

まとめ

✔既存不適格の建築物でも、移転そのものは建築基準法令の適用を受けない緩和の対象になります(第86条の7第4項)。
✔対象となるのは、法第3条第2項により現行の規定の適用を受けない既存不適格の建築物です。
✔要件の1つ目は、移転が同一敷地内におけるものであることです(施行令第137条の16第一号)。
✔要件の2つ目は、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認めることです(同条第二号)。
✔増築等の緩和が列挙された個別の規定だけを対象にするのに対し、移転の緩和は建築基準法令の規定全部を対象にする点が異なります。
✔どちらの要件も満たさない移転や、移転にあわせた増築・用途変更の部分には、通常どおり規定が適用されます。
✔判断に迷う場合は、早めに特定行政庁や建築士に相談することが大切です。

移転の計画を立てるときは、今日の内容を確認しながら進めます!

建築物の移転をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第86条の7
  • 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条の16

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。

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