自分の住むまちの防災計画づくりに、住民や会社は口を出せないと思っていませんか。
実は平成25年の法改正で、住民や事業者のほうから市町村へ計画を提案できる制度が設けられました。
「地区防災計画」と呼ばれるこの仕組みは、行政主導ではなくボトムアップ型を狙ったものです。
地区防災計画がどんな制度で誰が動けるのか、条文から確認します
うちの町内会でも、防災の取り組みを市の計画に反映してほしいと思っていました。
それはおそらく平成25年に新設された地区防災計画の仕組みが使えます。
町内会や、うちの店みたいな事業者でも提案できるんですか。
地区居住者等という枠組みに入れば提案できます。
順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 平成25年法律第54号による災害対策基本法改正で、地区防災計画の提案制度(法第42条・第42条の2)が新設されました。
- 目的は自助・共助によるボトムアップ型の防災力強化で、行政主導ではなく地区居住者等が起点です。
- 提案できるのは地区居住者等=一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者に限られます。
- 提案には地区防災計画の素案を添え、共同で市町村防災会議に提案する必要があります。
- 提案が採用されなくても理由の通知を受けられ、採用されたら地区居住者等は計画に従う努力義務を負います。
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地区防災計画はなぜ新しく設けられたのか
東日本大震災では、行政だけでは目が届かない場面が数多くありました。
そこで、地域のことは地域で決められる仕組みが求められるようになりました。
災害対策基本法等の一部を改正する法律について(平成25年6月21日付け府政防第558号・消防災第245号・社援発0621第1号) (3)地区防災計画(法第42条及び第42条の2関係) 「自助・共助」による自発的な防災活動を促進し、ボトムアップ型で地域における防災力を高めるため、市町村の一定の地区内の居住者及び事業者は、当該地区における防災活動に関する計画(以下「地区防災計画」という。)を市町村地域防災計画に定めることを市町村防災会議に提案することができることとし、提案を受けた市町村防災会議は、必要に応じ、市町村地域防災計画に当該地区防災計画の内容について定めなければならないこととしたものである。
市町村地域防災計画は、前項各号に掲げるもののほか、市町村内の一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者(以下この項及び次条において「地区居住者等」という。)が共同して行う防災訓練、地区居住者等による防災活動に必要な物資及び資材の備蓄、災害が発生した場合における地区居住者等の相互の支援その他の当該地区における防災活動に関する計画(同条において「地区防災計画」という。)について定めることができる(災害対策基本法第42条第3項)。
この制度の狙いはボトムアップ型の防災です。
これまでの市町村地域防災計画は、
市町村主導でつくられるのが基本でした。
しかし地域の実情は、実際にそこで暮らし、働く
住民や事業者のほうがよく知っています。
そこで平成25年の改正では、地区の側から計画を
提案できる仕組みを新設しました。
市町村はこの提案を受けて、必要に応じて地区防災計画を地域防災計画に組み込みます。
誰が地区防災計画を提案できるのか
条文が指しているのは「地区居住者等」という特定の枠組みです。
まずはこの言葉が誰を指すのか確認します。
災害対策基本法等の一部を改正する法律について(平成25年6月21日付け府政防第558号・消防災第245号・社援発0621第1号) (3)地区防災計画(法第42条及び第42条の2関係) 「自助・共助」による自発的な防災活動を促進し、ボトムアップ型で地域における防災力を高めるため、市町村の一定の地区内の居住者及び事業者は、当該地区における防災活動に関する計画(以下「地区防災計画」という。)を市町村地域防災計画に定めることを市町村防災会議に提案することができることとし、提案を受けた市町村防災会議は、必要に応じ、市町村地域防災計画に当該地区防災計画の内容について定めなければならないこととしたものである。
地区居住者等は、共同して、市町村防災会議に対し、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めることを提案することができる。この場合においては、当該提案に係る地区防災計画の素案を添えなければならない(災害対策基本法第42条の2第1項)。
対象になるのは、すべての住民や会社ではありません。
条文が指すのは
一定の地区内の居住者及び
当該地区に事業所を有する事業者、あわせて「地区居住者等」と呼ばれる範囲です。
自宅がその地区にある人はもちろん、支店や店舗をその地区に構える会社も含まれます。
逆に、その地区に住まいも事業所も持たない人や会社は、この制度の提案者にはなれません。
自社や自治会がどちらに当たるかは、地区の範囲を市町村に確認して判断します。
はい、事業所がその地区にあれば提案側に回れます。
次は手続きの流れを確認します。
地区防災計画はどんな手続きで定められるのか
提案すれば即座に計画が決まるわけではありません。
条文に沿って、手続きの流れを順番に見ます。
災害対策基本法等の一部を改正する法律について(平成25年6月21日付け府政防第558号・消防災第245号・社援発0621第1号) (3)地区防災計画(法第42条及び第42条の2関係) (略)市町村の一定の地区内の居住者及び事業者は、当該地区における防災活動に関する計画(以下「地区防災計画」という。)を市町村地域防災計画に定めることを市町村防災会議に提案することができることとし、提案を受けた市町村防災会議は、必要に応じ、市町村地域防災計画に当該地区防災計画の内容について定めなければならないこととしたものである。
前項の規定による提案(以下この条において「計画提案」という。)は、当該計画提案に係る地区防災計画の素案の内容が、市町村地域防災計画に抵触するものでない場合に、内閣府令で定めるところにより行うものとする。市町村防災会議は、計画提案が行われたときは、遅滞なく、当該計画提案を踏まえて市町村地域防災計画に地区防災計画を定める必要があるかどうかを判断し、その必要があると認めるときは、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めなければならない(災害対策基本法第42条の2第2項・第3項)。
手続きは大きく2段階に分かれます。
まず地区居住者等が
素案を添えて市町村防災会議に計画提案を行います。
素案の内容が市町村地域防災計画に
抵触しないことも要件のひとつです。
次に市町村防災会議が
遅滞なく必要性を判断し、必要があると認めたときに地区防災計画を定めます。
つまり提案は「検討を求める権利」であって、そのまま自動的に採用される仕組みではありません。
提案すれば必ず計画に入れてもらえるわけではないんですね。
そこは見落としやすいところです。
次に詳しく確認しましょう。
実務で見落としやすいのはどこか
「提案すれば計画に反映される」と思い込むと、実務ではつまずきます。
条文には、提案が通らなかったときの扱いも明記されています。
市町村防災会議は、前項の規定により同項の判断をした結果、計画提案を踏まえて市町村地域防災計画に地区防災計画を定める必要がないと決定したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を、当該計画提案をした地区居住者等に通知しなければならない(災害対策基本法第42条の2第4項)。
市町村地域防災計画に地区防災計画が定められた場合においては、当該地区防災計画に係る地区居住者等は、当該地区防災計画に従い、防災活動を実施するように努めなければならない(災害対策基本法第42条の2第5項)。
提案には「不採用」の結果もあり得ます。
市町村防災会議が必要がないと判断した場合、
理由の通知は受けられますが、提案どおりに計画が定まるとは限りません。
逆に、地区防災計画が
定められたあとは、地区居住者等の側にも計画に従って防災活動を行う
努力義務が生じます。
「提案して終わり」ではなく、採用後は自分たちの行動が問われる制度だと理解しておく必要があります。
防火管理者や自主防災組織の実務では、地区防災計画と消防計画・BCPの整合まで確認しておくと安心です。
採用されたあとも、こちらの努力義務が続くとは知りませんでした。
はい、提案した側にも役割が続きます。
最後に確認事項を整理しましょう。
明日からなにを確認すればよいか
制度を知っただけでは、自分たちが動けるかどうかは分かりません。
確認の入り口は、身近な窓口にあります。
災害対策基本法等の一部を改正する法律について(平成25年6月21日付け府政防第558号・消防災第245号・社援発0621第1号) 貴職におかれましては、下記の改正内容を御理解の上、今後の防災対策の推進に万全を期するとともに、貴都道府県内の市町村に対しても周知いただきますようお願いします。
まずは自分たちが地区居住者等に当たるか確認しましょう。
自宅や事業所が、地区防災計画の対象となる
一定の地区に含まれるかを市町村の防災担当窓口に確かめます。
すでに地区防災計画が
定められている地区かどうかも、あわせて確認しておきましょう。
提案する場合は、地区居住者等が共同して
素案をまとめる準備が必要です。
自社の防火管理者がいる場合は、消防計画や自主防災組織との連携も一緒に見直しておくと確実です。
まずは市の窓口に、うちの地区の状況を聞いてみます。
消防計画との整合もあわせて確認すると確実です。
次はよくある質問をまとめます。
よくある質問
Q地区防災計画を提案できるのはどんな人ですか?
A地区居住者等、つまり一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者です(災害対策基本法第42条第3項)。個人の住民でも会社でも、地区の中に住んでいるか事業所を構えていれば対象になり得ます。
Q提案するときに何を用意する必要がありますか?
A地区防災計画の素案を添えて、地区居住者等が共同で市町村防災会議に提案する必要があります(法第42条の2第1項)。素案の内容が市町村地域防災計画に抵触しないことも要件です。
Q提案すれば必ず地区防災計画が定められますか?
Aいいえ。市町村防災会議は必要があると認めるときに地区防災計画を定める仕組みで、必要がないと判断した場合は理由とともに通知されます(法第42条の2第3項・第4項)。
Q地区防災計画が定められたら何をする必要がありますか?
A当該地区防災計画に係る地区居住者等は、その計画に従って防災活動を実施するよう努める義務を負います(法第42条の2第5項)。罰則はありませんが、地区で取り決めた防災活動として扱われます。
まとめ
✔平成25年法律第54号による災害対策基本法改正で、地区防災計画の提案制度(法第42条・第42条の2)が新設されました。
✔目的は自助・共助によるボトムアップ型の防災力強化で、行政主導ではなく地区居住者等が起点です。
✔提案できるのは地区居住者等=一定の地区内の居住者及び当該地区に事業所を有する事業者に限られます。
✔提案には地区防災計画の素案を添え、共同で市町村防災会議に提案します。
✔市町村防災会議は必要があると認めるときに地域防災計画へ地区防災計画を定めます。
✔不採用のときも理由の通知を受けられ、採用後は地区居住者等に従う努力義務が生じます。
✔自社や自治会が地区居住者等に当たるか、まずは地元市町村の防災担当窓口へ確認することが最初の一歩です。
地区防災計画づくりもいっしょに整理していきましょう。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律について(平成25年6月21日付け府政防第558号・消防災第245号・社援発0621第1号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第42条第3項
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第42条の2
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。