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窒素やIG-55の不活性ガス消火剤はなぜ充てん比ではなく圧力で管理されるのか|貯蔵容器と噴射ヘッドの基準が二酸化炭素と違う理由を解説

窒素系不活性ガス消火設備の貯蔵容器バンクと圧力計を示すアイキャッチ

不活性ガス消火設備の点検票を見ていると、二酸化炭素の欄には充てん比、窒素やIG-55の欄には充てん圧力と、まったく違う言葉が並んでいることに気づきます。
同じ不活性ガス消火剤なのに、なぜ管理する数値の種類そのものが違うのでしょうか。
実はこの違いは、消火剤が液体として貯蔵されているか、気体のまま貯蔵されているかという性質の差をそのまま表しています。
この記事では貯蔵容器の充てん圧力・噴射ヘッドの放射圧力・消火剤の放射時間という3つの基準を、消防法施行規則に沿って整理します。

二酸化炭素の消火設備は詳しいんですが、窒素やIG-55を使う設備は何を見ればいいのか分かっていません。

実は見るべき数値の種類そのものが違うんです。
気体の性質から順番に確認していきましょう。

充てん比と充てん圧力、どちらも似たような言葉に見えます。

意味はまったく別物です。
それぞれの根拠条文を見ていきます。

この記事の結論
  • 二酸化炭素は液体として貯蔵されるため、容器の内容積と消火剤の重量の比=充てん比で管理されます
  • 窒素・IG-55IG-541は気体のまま貯蔵されるため、充てん圧力で管理されます
  • 貯蔵容器の充てん圧力は温度35度において30.0メガパスカル以下と定められています
  • 噴射ヘッドの放射圧力は二酸化炭素の1.4MPa以上/0.9MPa以上に対し、窒素系は1.9MPa以上です
  • 消火剤の放射時間も、二酸化炭素は防火対象物ごとの時間、窒素系は量の9割を1分以内という別基準です

窒素やIG-55の貯蔵容器の充てん圧力・噴射ヘッドの放射圧力・消火剤の放射時間の三つの基準を示す図解

窒素やIG-55とIG-541とはどんな消火剤なのか

窒素とアルゴンの混合ガスを貯蔵する容器のイメージ
不活性ガス消火設備は二酸化炭素だけでなく、窒素やその混合ガスも消火剤として使えます。
まずはそれぞれがどんな気体の組み合わせなのかを確認します。
消防法施行規則第十九条第二項第二号ロ 窒素、窒素とアルゴンとの容量比が五十対五十の混合物(以下「IG―五五」という。)又は窒素とアルゴンと二酸化炭素との容量比が五十二対四十対八の混合物(以下「IG―五四一」という。)を放射する不活性ガス消火設備にあつては一・九メガパスカル以上であること。
窒素・IG-55・IG-541は、いずれも空気に近い成分でできた不活性ガス消火剤です。
窒素はそのままの単体気体で、IG-55は窒素とアルゴンを50対50で混ぜた混合ガス、IG-541は窒素・アルゴン・二酸化炭素を52対40対8の割合で混ぜた混合ガスです。
二酸化炭素のように消火剤そのものが酸素を奪うのではなく、窒素やアルゴンで防護区画の酸素濃度を薄めて燃焼を止める仕組みです。
成分は違っても、条文の上では同じ「不活性ガス消火設備」としてまとめて基準が定められています。
次の項目では、この3種類の消火剤が貯蔵容器の中でどう管理されているかを見ていきます。

窒素だけじゃなくて、混ぜたガスも使われているんですね。

はい、型式名としてIG-55やIG-541と呼ばれます。
次は貯蔵容器の管理方法を見てみましょう。

貯蔵容器はなぜ二酸化炭素と違う数値で管理されるのか

重さで測る容器と圧力で測る容器を対比するイメージ
貯蔵容器に消火剤をどれだけ入れてよいかは、消防法施行規則で数値化されています。
二酸化炭素と窒素系とでは、その数値の測り方そのものが違います。
消防法施行規則第十九条第五項第五号イ 二酸化炭素を消火剤とする場合にあつては、貯蔵容器の充てん比(容器の内容積の数値と消火剤の重量の数値との比をいう。)が、高圧式のものにあつては一・五以上一・九以下、低圧式のものにあつては一・一以上一・四以下であること。
消防法施行規則第十九条第五項第五号ロ 窒素、IG―五五又はIG―五四一を消火剤とする場合にあつては、貯蔵容器の充てん圧力が温度三十五度において三十・〇メガパスカル以下であること。
二酸化炭素は常温でも液体になれる気体なので、容器の中身は「重さ」で管理されています。
容器の内容積と消火剤の重量の比=充てん比が、高圧式で1.5以上1.9以下、低圧式で1.1以上1.4以下と定められているのはこのためです。
一方、窒素・IG-55・IG-541はどれだけ圧縮しても常温では液体にならない気体なので、重さではなく圧力で管理します。
貯蔵容器の充てん圧力は、温度35度で30.0メガパスカル以下と定められています。
液体になれる気体か、ならない気体かという性質の違いが、そのまま管理指標の違いになっています。

二酸化炭素は重さ、窒素系は圧力で見るということなんですね。

そのとおりです。
気体の性質が変われば、管理する数値も変わります。

噴射ヘッドの放射圧力はどれだけ違うのか

噴射ヘッドと配管の圧力計のイメージ
貯蔵容器の管理方法だけでなく、実際に消火剤を噴き出す瞬間の圧力も設備によって違います。
噴射ヘッドの放射圧力の基準を確認します。
消防法施行規則第十九条第二項第二号イ 二酸化炭素を放射する不活性ガス消火設備のうち、高圧式のものにあつては一・四メガパスカル以上、低圧式のものにあつては〇・九メガパスカル以上であること。
消防法施行規則第十九条第二項第二号ロ 窒素、IG―五五又はIG―五四一を放射する不活性ガス消火設備にあつては一・九メガパスカル以上であること。
窒素系の放射圧力は、二酸化炭素よりも高い数値が求められています。
二酸化炭素は高圧式で1.4MPa以上、低圧式で0.9MPa以上なのに対し、窒素・IG-55・IG-541は方式を問わず1.9MPa以上です。
窒素系は貯蔵容器の充てん圧力そのものが30.0メガパスカルと高いため、噴射の瞬間にも高い圧力を保ちやすく、基準値もあわせて高く設定されていると考えられます。
点検で放射圧力の数値を見るときは、まず消火剤の種類を確認してから基準値と照らし合わせる必要があります。
数値だけを覚えるより、消火剤の種類とセットで理解しておくと現場で迷いません。

二酸化炭素と同じ基準だと思っていました。

消火剤ごとに別の数値が定められています。
点検票では消火剤の種類を必ず確認してください。

消火剤の放射時間の基準はどう違うのか

貯蔵容器のバンクと大きな圧力計のイメージ
放射圧力だけでなく、消火剤を放射し終えるまでの時間も設備の種類で基準が分かれています。
どれくらいの速さで放射されるものなのかを確認します。
消防法施行規則第十九条第二項第三号イ 二酸化炭素を放射するものにあつては、防火対象物又はその部分の区分に応じ、通信機器室は三・五分、指定可燃物を貯蔵し、又は取り扱う防火対象物又はその部分は七分、その他の防火対象物又はその部分は一分以内に放射できるものであること。
消防法施行規則第十九条第二項第三号ロ 窒素、IG―五五又はIG―五四一を放射するものにあつては、消火剤の量の十分の九の量以上の量を、一分以内に放射できるものであること。
二酸化炭素は防火対象物の種類ごとに放射時間が分かれているのに対し、窒素系は一律に1分以内です。
二酸化炭素は通信機器室で3.5分指定可燃物を扱う部分で7分・その他の部分で1分以内と、火災の性質に応じて時間の幅があります。
窒素・IG-55・IG-541は建物の用途を問わず、消火剤の量の9割以上を1分以内に放射できることが求められています。
用途ごとの時間ではなく一律の速さで管理されているのは、窒素系の消火剤が比較的早く防護区画の酸素濃度を安定させる運用を前提にしているためと考えられます。
点検報告書に放射時間の実測値が出てきたら、消火剤の種類に応じた基準と照らし合わせて確認しましょう。

時間の基準まで消火剤で違うんですね。

用途ごとの時間一律1分かという違いです。
次は点検で確認すべきポイントをまとめます。

点検で防火管理者が確認すべきことは何か

点検のチェックリストとタグ付き容器バルブのイメージ
ここまでの3つの基準は、どれも点検報告書のどこかに数値として現れます。
最後に、防火管理者として何を見ればよいのかを整理します。
  • 貯蔵容器の欄が充てん比充てん圧力か、消火剤の種類で見方が変わることを理解しているか
  • 窒素・IG-55・IG-541を使う設備では、充てん圧力が30.0MPa以下(温度35度)という基準で管理されているか
  • 噴射ヘッドの放射圧力の欄が、消火剤の種類に応じた基準値(二酸化炭素1.4MPa/0.9MPa以上、窒素系1.9MPa以上)と一致しているか
  • 放射時間の欄が、防火対象物の区分(二酸化炭素)または量の9割・1分以内(窒素系)という基準に沿っているか
消火剤の種類が変われば、見るべき数値も基準もすべて変わります。
点検報告書に並ぶ数値の意味が分からないときは、まず消火剤の種類を確認する習慣をつけましょう。
そこから充てん比か充てん圧力か、放射圧力と放射時間の基準がどちらに当てはまるかを追っていけば、根拠を見失うことはありません。
次回の点検では、設備の銘板やタグに書かれた消火剤の種類を、まず確認してみてください。

消火剤の種類から確認する、という順番がよく分かりました。

その順番さえ押さえれば点検票も怖くありません。
次は本文でよくある質問をまとめます。

よくある質問

Q窒素とIG-55はどちらの方が多く使われますか?
A建物の用途や防護区画の条件によって選定が分かれ、一律にどちらが多いとは言えません。設計段階で防護区画の体積や酸素濃度への影響を踏まえて選ばれます。
Q貯蔵容器の充てん圧力は現場で測定できますか?
A貯蔵容器に取り付けられた圧力計で確認できますが、正確な判定は専門業者による点検で行うのが一般的です。
QIG-541に含まれる二酸化炭素は消火効果に関係しますか?
AIG-541は窒素・アルゴン・二酸化炭素を52対40対8で混合したもので、主な消火効果は窒素とアルゴンによる酸素濃度の低下によるものとされています。
Q窒素系の不活性ガス消火設備は移動式でも使えますか?
Aいいえ。消防法施行規則上、移動式の不活性ガス消火設備に使用する消火剤は二酸化炭素に限られており、窒素・IG-55・IG-541は全域放出方式や局所放出方式で使われます。

まとめ

二酸化炭素は液体として貯蔵されるため、充てん比(容器の内容積と消火剤重量の比)で管理される
窒素・IG-55IG-541は気体のまま貯蔵されるため充てん圧力で管理される
窒素系の貯蔵容器の充てん圧力は温度35度で30.0メガパスカル以下と定められている
噴射ヘッドの放射圧力は二酸化炭素が1.4MPa/0.9MPa以上、窒素系は1.9MPa以上と基準が異なる
消火剤の放射時間は、二酸化炭素が防火対象物の区分ごとの時間、窒素系は量の9割以上を1分以内という基準になる
移動式の不活性ガス消火設備に使用できる消火剤は二酸化炭素に限られる
点検では消火剤の種類をまず確認し、その種類に応じた基準と数値を照らし合わせることが大切である

同じ不活性ガス消火設備でも、消火剤で見るべき基準がこんなに違うんですね!

はい、消火剤の種類を起点にすれば迷いません。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

まずはWebで無料お見積りを!

お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法施行規則第十九条第二項(不活性ガス消火設備の噴射ヘッドに関する基準)
  • 消防法施行規則第十九条第五項(不活性ガス消火剤の貯蔵容器に関する基準)
  • 消防法施行規則第十九条第六項(移動式の不活性ガス消火設備に関する基準)

※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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