城下町や宿場町のように、古い木造の建物が連なる町並みでは、建築基準法の規定をそのまま当てはめにくい場合があります。
文化財保護法に基づいて伝統的建造物群保存地区が定められた地区には、建築基準法の制限を条例で緩和できる仕組みが用意されています。
制限が緩和されるとき、防火の備えはどう考えればよいのでしょうか。
今回は建築基準法第85条の3が定める伝統的建造物群保存地区内の制限の緩和について、対象と手続と範囲を、防火管理者が押さえておきたい点とあわせて解説します。
古い町並みを守る地区にある木造の建物は、建築基準法の制限をそのまま受けなくてもよいと聞きました。
本当でしょうか。
建築基準法第85条の3に、伝統的建造物群保存地区内で条例により制限を緩和できる仕組みがあります。
ただし対象や範囲が決まっているので、順番に見ていきましょう。
どんな地区が対象で、誰がどう決めるのでしょうか。
消防の決まりがどうなるのかも知りたいです。
条文を順に確認します。
防火管理の面で確かめたい点もお伝えします。
- 伝統的建造物群保存地区内では、市町村が条例で建築基準法の制限を緩和できる場合があります。
- 緩和の対象は、文化財保護法第143条の伝統的建造物群保存地区内に限られます。
- 市町村は、国土交通大臣の承認を得て、条例で定めます。
- 条例で適用しないか緩和できるのは、第85条の3に列挙された建築基準法の条文だけです。
- 列挙に含まれない規定は緩和の対象外で、消防法は建築基準法の条文ではありません。
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目次
伝統的建造物群保存地区内の制限の緩和は建築基準法にどう書かれているのか

緩和するのは市町村で、条例という形で定めます。
条文には、緩和が認められる地区、緩和する主体、必要な手続、緩和できる規定が順に書かれています。
主体は市町村で、手続は国土交通大臣の承認を得た条例です。
緩和できる規定は、条文の後半に列挙されていて、この記事の後半で確認します。
まず、どんな地区が対象になるのかを次の節で確認します。
建築基準法の制限を、条例で緩められる場合があるんですね。
どこでも対象になるんでしょうか。
いいえ、対象は文化財保護法で定められた伝統的建造物群保存地区の中に限られます。
次に、その地区の決め方を見ましょう。
どんな地区が緩和の対象になるのか

地区を定めるのは市町村で、その方法は地区の場所によって二通りに分かれています。
(同条第二項 抜粋)市町村は、前項の都市計画区域又は準都市計画区域以外の区域においては、条例の定めるところにより、伝統的建造物群保存地区を定めることができる。
第85条の3が対象とするのは、このどちらの方法で定められた地区の中でも、伝統的建造物群保存地区内です。
地区の中にあっても、緩和の内容は市町村の条例の定めによります。
地区の外にある建物には、第85条の3の仕組みは及びません。
自分の建物が地区の中にあるかどうかは、市町村に確かめる必要があります。
地区の中にあっても、緩和されるとは限らないんですね。
どうやって確かめればよいでしょうか。
地区の範囲と緩和の内容は、市町村の条例で確かめます。
次に、緩和を決める手続を見ましょう。
誰がどんな手続で制限を緩和するのか

その保存条例は、文化財保護法第143条第1項の後段に根拠があります。
(建築基準法第八十五条の三 抜粋)(略)同条第一項後段(同条第二項後段において準用する場合を含む。)の条例において定められた現状変更の規制及び保存のための措置を確保するため必要と認める場合においては、国土交通大臣の承認を得て、条例で、(略)
その規制や措置を確保するため必要と認める場合に、市町村は建築基準法の制限を緩和できます。
緩和するときは、国土交通大臣の承認を得たうえで、条例で定めます。
地区の保存条例と、建築基準法の緩和を定める条例は、それぞれ別の条例として読む必要があります。
緩和の内容は市町村ごとに異なるので、建物のある市町村の条例を確認します。
保存の条例と、建築基準法の緩和は、つながっているんですね。
手続は市町村だけで済むのでしょうか。
いいえ、条文は国土交通大臣の承認を得て条例で定めると書いています。
次に、緩和できる規定の範囲を見ましょう。
条例で緩和できる規定はどこまでで、消防法はどうなるのか

列挙されていない規定は、この仕組みでは緩和されません。
防火に関わるものでは、大規模の建築物の主要構造部等を定める第21条から、屋根の第22条、外壁の第23条、大規模の木造建築物等の外壁等の第25条までが入っています。
防火地域及び準防火地域内の建築物を定める第61条と、屋根を定める第62条も列挙されています。
一方で、防火壁等を定める第26条や、避難及び消火に関する技術的基準を定める第35条、技術的基準を補足する第36条は、列挙の中に見当たりません。
また、列挙されているのは建築基準法の条文だけで、消防法や消防法施行令の規定は含まれていません。
屋根や外壁の基準が緩和されるなら、火災への備えが心配です。
消防の設備の決まりも一緒に緩むのでしょうか。
条文が列挙しているのは、建築基準法の規定だけです。
消防用設備等の扱いは、所轄消防署に確認しましょう。
防火管理者は保存地区内の建物を管理するときになにを確かめておくとよいのか

なお、緩和とは別に、建築基準法の規定そのものが適用されない建築物の類型も第3条にあります。
三 文化財保護法第百八十二条第二項の条例その他の条例の定めるところにより現状変更の規制及び保存のための措置が講じられている建築物(次号において「保存建築物」という。)であつて、特定行政庁が建築審査会の同意を得て指定したもの
どちらの仕組みが自分の建物に関わるのかは、市町村と特定行政庁に確かめます。
いずれの場合も、条文が列挙しているのは建築基準法の規定であって、消防法の規定ではありません。
木造の建物が連なる地区では、火気の使用や避難の経路を、建築基準法とは別に確かめておく必要があります。
明日から次の点を確認してください。
- 建物が伝統的建造物群保存地区の中にあるかを、市町村に確認する。
- 市町村が第85条の3による条例を定めているか、緩和の内容と範囲を確認する。
- 地区の保存条例で定められた現状変更の規制を確認し、改修や設備工事の前に相談する。
- 建築基準法の制限が緩和されている部分は、火気の管理や点検など消防法側の備えを見直す。
- 消防計画への反映は、所轄消防署へ相談する。
工事や使い方が変わるときは、それぞれの窓口へ同じ内容を伝えられるようにしておきましょう。
地区に入っているかや条例の内容は、誰が把握して記録すればよいでしょうか。
管理者としてどう備えればよいですか。
地区の範囲と条例の内容を確認して、緩和されている部分を防火管理の記録に残しましょう。
工事の前には、市町村と消防の両方の窓口に相談しておくと安心です。
よくある質問
まとめ
伝統的建造物群保存地区の制限の緩和は、範囲と手続が決まっているんですね。
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緩和の内容が分かれば、防火管理の備えも立てやすくなります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第三条・第八十五条の三(e-Gov法令検索)
- 文化財保護法第百四十三条(e-Gov法令検索)
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





