劇場や映画館、ホールの客席には、通路の足元を照らす客席誘導灯を付けます。国の消防法令には、客席誘導灯を省略できる一般的な規定が置かれていません。
ところが東大阪市消防局の運用基準は、消防法施行令第32条を適用して客席誘導灯を設置しないことができる2つの部分を示しています。そのうちの1つは、誘導灯の点滅機能の起動方法を借りる書き方です。
この記事では、国の基準と東大阪市の運用を分けて読み、設置場所と個数の数え方、2つの特例、借りている項目を順にたどります。大阪市と堺市の書き方とも比べます。
東大阪市で小さなホールを持っています。
客席の足元の灯りは、どこまで付ける必要があるのですか?
東大阪市の運用基準は、付ける場所と個数の数え方まで決めています。
まず国の基準から確かめましょう。
イベントによって椅子の並べ方を変えています。
そういうホールでも同じですか?
客席の形が変わるホールには非常用の照明装置で代える特例があります。
条件を順に見ていきます。
- 国の基準は、客席誘導灯を客席内の通路の床面で0.2ルクス以上となるように設けるとしています。省略の規定は消防法施行規則第28条の2に置かれていません
- 東大阪市は、客席誘導灯を通路の床面か壁面(固定椅子の脚部を含む)に付け、傾斜路や水平路では直線部分の長さ÷4-1以上の個数にするとしています
- 令第32条を適用して設置しないことができるのは、ほかの誘導灯で床面が0.2ルクス以上になる部分や屋外観覧場等の客席と、客席の形が随時変わる劇場等で非常用の照明装置を設ける部分です
- 非常用の照明装置の点灯は、避難口誘導灯の点滅機能・音声誘導機能の起動方法(第2 4 ⑴)を読み替えて借りる形です
- 大阪市は同じ内容で、堺市は特例の書き方や設置の高さが違います。最新の内容は管轄の消防署で確認します
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目次
国の基準では客席誘導灯を省略できる場合があるのか

(略)
三 客席誘導灯 別表第一(一)項に掲げる防火対象物並びに同表(十六)項イ及び(十六の二)項に掲げる防火対象物の部分で、同表(一)項に掲げる防火対象物の用途に供されるもの
どれだけ明るくするかは、第2項第3号と消防法施行規則第28条が決めています。
令第二十六条第二項第三号の客席誘導灯の客席における照度は、客席内の通路の床面における水平面について計るものとする。
また、第1項ただし書を受けた消防法施行規則第28条の2は、避難口誘導灯・通路誘導灯・誘導標識を設置しなくてよい部分を定めていますが、客席誘導灯の項はありません。国の基準だけを見ると、(1)項の客席なら客席誘導灯を付けることになります。
国の基準の読み方は客席誘導灯の0.2ルクスの記事で詳しく解説しています。この記事では、その先の東大阪市の運用を読みます。
国の基準には、客席誘導灯を省略できる定めが無いのですね。
はい、規則第28条の2に客席誘導灯の項が無いからです。
東大阪市は令第32条を使って特例を示しています。
東大阪市では客席誘導灯をどこにいくつ付けるのか

1 設置場所
(1) 客席の通路の床面又は壁面(固定椅子の脚部を含む。)に設けること。
(2) 客席内通路が階段状になっている部分に設置する場合は、客席内通路の中心線上において、当該通路部分の全長にわたり照明できるものとし、かつ、その照度は当該通路の中心線上で測定し、水平面照度で0.2ルクス以上とすること。
(3) 客席内通路が傾斜路又は水平路になっている部分に設置する場合は、次式により設置個数を算出し、その設置間隔がおおむね等しくなるよう設置し、かつ、その照度は誘導灯に最も近い通路の中心線上で測定し、水平面照度で0.2ルクス以上とすること。なお、設置個数を算出する場合の直線部分の長さは、当該客席内通路の直線部分ごとに最長の距離をもってその長さとすること。
(1)で通路の床面か壁面に付けると決め、固定椅子の脚部に付けるものも含めています。(2)は階段状の通路で、中心線上を全長にわたって照らし、中心線上で0.2ルクス以上とします。
(3)は傾斜路や水平路の通路で、個数を次の式で出します。
(小数点以下は切り上げる)
長さは直線部分ごとに最長の距離で数えます。運用基準の図12では、縦の通路3本と横の通路3本を、それぞれ端から端までの長さで数える例が示されています。曲がって続く通路でも、直線部分ごとに分けて式に当てはめる形です。
国は明るさだけですが、東大阪市は個数の目安まで決めているのですね。
はい、直線部分の長さ÷4-1が目安です。
照度は別に0.2ルクス以上を確かめます。
東大阪市で客席誘導灯を付けなくてよい部分はどこか

(1) 避難口誘導灯若しくは通路誘導灯により床面の水平面照度が0.2ルクス以上となる部分又は屋外観覧場等の客席部分
(2) 劇場等で、公演の内容により客席の形態が随時異なり、客席内通路の位置が一定でないもののうち、客席誘導灯の必要とされる範囲内に非常用の照明装置が次により設置される部分(防災要員、警備員又は劇場従業員等により、迅速、かつ、確実に非常用の照明装置を点灯することができる防火管理体制が整備されているものに限る。)
ア 客席の床面における水平面照度が1ルクス以上確保されていること。
(2)は、公演ごとに客席の形が変わり、客席内通路の位置が一定でない劇場等です。椅子を並べ替えるホールでは、固定した足元灯で通路を照らし続けることができません。そこで、天井などの非常用の照明装置で客席の床面を1ルクス以上にすることを条件に、客席誘導灯に代えられるとしています。
ただし(2)には、防災要員・警備員・劇場従業員等が迅速かつ確実に点灯できる防火管理体制があることという限定が付いています。設備だけでなく、運用する人の体制も条件です。
なお、東大阪市の第3 通路誘導灯の特例には「客席誘導灯が第4により設けられた客席部分」が挙がっていて、客席誘導灯を設けた客席では通路誘導灯を設置しないことができるという逆向きの関係も書かれています。
椅子を並べ替えるホールは、天井の照明で代えられる場合があるのですね。
はい、床面1ルクス以上と防火管理体制が条件です。
点灯のしかたは別の項目を借りています。
非常用の照明装置で代えるときの点灯のしかたはどの項目を借りているのか

ウ 非常警報設備(放送設備)が設置されている防火対象物又はその部分においては、イの例によるほか、公演時間中以外は感知器発報放送に合わせて一斉点灯されること。
エ 非常の際は点滅器等により手動で一斉点灯できるものとし、点灯に使用する点滅器等にはその旨表示すること。
オ 点灯に使用する点滅器等は、防災センター等に設けること。ただし、当該劇場等を見とおすことができる場所又はその付近に設ける場合にあってはこの限りでない。
カ 操作回路の配線は、規則第12条第1項第5号の規定の例によること。
イ 音声により警報を発する自動火災報知設備又は非常警報設備(放送設備)が設置されている防火対象物又はその部分においては、点滅機能及び音声誘導機能は、火災の発生が確認された場合に行う火災警報又は火災放送に合わせて起動すること。
ウ 規則第24条第5号ハ及び第5号の2ロ(イ)に規定する自動火災報知設備の地区音響装置の区分鳴動を行うことができる防火対象物又はその部分並びに規則第25条の2第2項第3号チに規定する非常警報設備(放送設備)のスピーカーの区分鳴動を行うことができる防火対象物又はその部分においては、地区音響装置又はスピーカーの区分鳴動を行う階について、点滅機能及び音声誘導機能が起動するものとすること。(略)
- 国の基準(令第26条・規則第28条)は、客席誘導灯の省略の規定を置いていない
- 東大阪市は、第4 2で令第32条を適用し、客席の形が随時変わる劇場等では非常用の照明装置(床面1ルクス以上)で代えられるとする
- 第4 2 ⑵イが、非常用の照明装置の起動方法を第2 4 ⑴(点滅機能・音声誘導機能の起動方法)の例によるとする
- 読み替えにより、音響式の自動火災報知設備なら感知器の火災信号と受信機の火災表示の要件に連動して点灯、音声式の自動火災報知設備や放送設備なら火災警報・火災放送に合わせて点灯、区分鳴動なら鳴動する階で点灯、となる
- さらにウで放送設備のある建物は公演時間中以外は感知器発報放送に合わせて一斉点灯、エ・オで手動の点滅器と置き場所、カで配線を規則第12条第1項第5号の例による
カが借りる規則第12条第1項第5号は、屋内消火栓設備の操作回路の配線の規定です。
イ 六百ボルト二種ビニル絶縁電線又はこれと同等以上の耐熱性を有する電線を使用すること。
ロ 金属管工事、可とう電線管工事、金属ダクト工事又はケーブル工事(不燃性のダクトに布設するものに限る。)により設けること。ただし、消防庁長官が定める基準に適合する電線を使用する場合は、この限りでない。
照明の点け方は、誘導灯の点滅機能の起動の決まりを借りているのですね。
はい、第2 4 ⑴を読み替えて借りる形です。
配線は屋内消火栓の規定の例によります。
大阪市や堺市では客席誘導灯の決まりは同じなのか

堺市消防局の審査基準は書き方が違います。設置要領と、特例適用基準を分けて書いています。
(イ) 客席内通路が階段状になっている部分にあっては、客席内通路の中心線上において、当該通路部分の全長にわたり照明できるものとし、かつ、その照度は当該通路の中心線上で測定し、必要な照度が得られること。★
(ウ) 客席を壁、床等に機械的に収納できる構造のものにあっては、当該客席の使用状態において避難上有効な照度を得られるよう設置すること。★
(エ) 原則として、床面から0.5m以下の高さに設置すること。★
(略)
(3) 客席誘導灯
ア 外光により避難上有効な照度が得られる屋外観覧場等の客席部分
イ 避難口誘導灯により避難上有効な照度が得られる客席部分
ウ 移動式の客席部分で、非常電源が確保された照明により避難上有効な照度が得られる部分
| 項目 | 東大阪市 | 大阪市 | 堺市 |
|---|---|---|---|
| 取付け位置 | 通路の床面か壁面(固定椅子の脚部を含む) | 同じ | 原則として床面から0.5m以下★ |
| 階段状の通路 | 中心線上を全長照明・中心線上で0.2ルクス以上 | 同じ | 中心線上を全長照明・必要な照度★ |
| 傾斜路・水平路の個数 | 直線部分の長さ÷4-1以上 | 同じ | 個数の式は見当たらない |
| 収納式の客席 | 記載なし | 記載なし | 使用状態で有効な照度★ |
| ほかの誘導灯で足りる部分 | 避難口誘導灯か通路誘導灯で床面0.2ルクス以上 | 同じ | 避難口誘導灯で避難上有効な照度 |
| 屋外の客席 | 屋外観覧場等の客席部分 | 同じ | 外光で有効な照度が得られる屋外観覧場等 |
| 客席が変わる場合 | 非常用の照明装置で床面1ルクス以上+連動・手動・配線+防火管理体制 | 同じ(起動方法の借り先は第2 4 (3)ア) | 移動式の客席で非常電源のある照明により有効な照度 |
| 特例の根拠 | 令第32条 | 令第32条 | 令第32条又は堺市火災予防条例第72条 |
ただし、書いていないことは「求められない」という意味ではありません。どの市でも、特例は令第32条の適用なので、個々の建物ごとに所轄の消防署が判断します。東大阪市の建物で設計や改修をするときの確認の順番は次のとおりです。
- その建物や部分が令別表第一(1)項の用途か(複合用途の建物の一部も含む)を確かめる
- 客席内通路が階段状か、傾斜路・水平路かを分け、傾斜路・水平路は直線部分ごとの長さから個数を出す
- ほかの誘導灯の光で床面0.2ルクス以上になる部分があるかを照度計算や実測で確かめる
- 客席の形を変える運用なら、非常用の照明装置で床面1ルクス以上、自動の連動点灯と手動の一斉点灯ができるかを図面で確かめる
- 点灯できる防火管理体制(防災要員・警備員・従業員)を消防計画にどう書くかも含めて、所轄の消防署と事前に協議する
大阪市は東大阪市と同じで、堺市は書き方が違うのですね。
はい、数値で決めるか、有効な照度で書くかの違いです。
どの市でも所轄との協議が前提です。
よくある質問
まとめ
まず通路の形と長さから客席誘導灯の個数を出してみます。
椅子を並べ替える日の照明も確かめます!
東大阪市では、特例も令第32条の適用なので事前の協議が要点です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 東大阪市消防局「消防用設備等の運用基準(誘導灯及び誘導標識)」凡例、第2 避難口誘導灯 4 点滅機能及び音声誘導機能 ⑴ 起動方法、第3 通路誘導灯 4 特例 ⑴ク、第4 客席誘導灯 1 設置場所・2 特例(図12) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」凡例、第3章 第2節 誘導灯及び誘導標識 第2 4 (3)ア、第4 客席誘導灯 1・2(図3-2-11) https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第1章 総則 4 凡例、第18 誘導灯及び誘導標識 Ⅱ 細目 3(6) 客席誘導灯・6 特例適用基準 (3) https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 消防法施行令 第26条・第32条/消防法施行規則 第12条第1項第5号・第28条・第28条の2・第28条の3第4項(e-Gov法令検索)
※本記事は公表されている法令および東大阪市・大阪市・堺市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。各資料は2026年10月時点の公開版で確認しています。特例は消防法施行令第32条の適用なので、個々の建物で客席誘導灯を設置しないことができるかは、設計の段階で所轄の消防署にご確認ください。





