大規模な地震のあとに急いで建てられる避難所や応急仮設住宅は、消防法の設置基準を満たさなくても開設できるのでしょうか。
実は平成25年の法改正で、著しく異常かつ激甚な非常災害の際は、消防法第17条の適用そのものを除外できる仕組みが設けられました。
ただし「適用除外」は「基準なし」を意味せず、地方公共団体には代わりの安全基準を自ら定める義務が課されています。
避難所等の消防法第17条がどんな仕組みで除外され、何が求められるのか、条文から確認します
大きな地震のあと、避難所に急いでプレハブを建てたという話を聞きました。
消防法の基準は満たしているんでしょうか。
それはおそらく平成25年に新設された法第86条の2の適用除外の仕組みが関係しています。
基準を満たさなくても建てられるということは、安全対策そのものが無くなるんですか。
いいえ、代わりの安全基準を定める義務が残ります。
順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 平成25年法律第54号による災害対策基本法改正で、避難所等に関する特例(法第86条の2)が新設されました。
- 著しく異常かつ激甚な非常災害を政令で指定したとき、指定区域・期間内で地方公共団体の長が設置する避難所又は応急仮設住宅は消防法第17条の規定が適用されません。
- 同じ仕組みは臨時の医療施設(法第86条の3)にも設けられ、消防法第17条及び医療法第4章が適用除外になります。
- 適用除外でも野放しにはならず、地方公共団体の長は消防法に準拠する基準を自ら定め、必要な安全措置を講じなければなりません。
- 基準を定める際は消防機関等の意見を聴くことが求められています。
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避難所等の消防法第17条はなぜ適用除外になったのか
大規模災害が起きると、避難所や仮設住宅は一刻も早く用意しなければなりません。
しかし通常の手続きでは、消防法の設置基準を満たすまで時間がかかります。
災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号) ①避難所等に関する特例(法第86条の2関係) ア)規定を設けた趣旨 大規模広域災害が発生し、避難所又は応急仮設住宅が著しく不足した場合には、被災者に対して住居を迅速に提供するために、既存の宿泊施設以外の施設の用途を一時的に変更して使用し、又は新たに仮設の施設を設置して、これを避難所又は応急仮設住宅として利用する必要が生ずることが想定される。これらの避難所又は応急仮設住宅は、消防法(昭和23年法律第186号)上、宿泊施設や共同住宅等の用途とされ得るが、その設備等について、同法に基づく設置基準を満たさなければならないこととした場合、その迅速な設置に支障を来たすおそれがある。
著しく異常かつ激甚な非常災害であつて、当該災害に係る避難所又は応急仮設住宅(以下この条において「避難所等」という。)が著しく不足し、被災者に対して住居を迅速に提供することが特に必要と認められるものが発生した場合には、当該災害を政令で指定するものとする(災害対策基本法第86条の2第1項)。
きっかけは避難所や仮設住宅そのものの不足です。
避難所や応急仮設住宅は消防法上、
宿泊施設や共同住宅等の用途とされ得ます。
本来ならその用途に応じた消防用設備等の
設置基準を満たす必要があります。
しかし基準を満たすまで設置を待っていては、被災者に住居を迅速に提供できません。
そこで平成25年の改正では、著しく異常かつ激甚な非常災害を国が政令で指定する仕組みを設けました。
普段は消防用設備の基準を満たしてから使うものなんですね。
はい、それが原則です。
次は具体的にどの避難所が対象になるのか見ていきましょう。
どの避難所がいつまで対象になるのか
適用除外はどんな避難所にも無条件に及ぶわけではありません。
条文が区切っている範囲を確認します。
災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号) ①避難所等に関する特例(法第86条の2関係) このため、著しく異常かつ激甚な非常災害が発生し、避難所又は応急仮設住宅が著しく不足し、被災者に対して住居を迅速に提供することが特に必要と認められるものとして当該災害を政令で指定したときは、地方公共団体の長が設置するこれらの避難所又は応急仮設住宅については、その迅速な設置を可能とするよう、消防用設備等の設置義務について規定する消防法第17条の規定を適用除外としたものである。
前項の規定による指定があつたときは、政令で定める区域及び期間において地方公共団体の長が設置する避難所等については、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第十七条の規定は、適用しない(災害対策基本法第86条の2第2項)。
対象は3つの条件で区切られています。
まず災害そのものが
政令で指定されていること。
次に避難所等が
政令で定める区域及び期間の中にあること。
そして避難所等を設置するのが
地方公共団体の長であること。
指定区域の外や指定期間を過ぎたもの、民間だけで設置したものは、この適用除外の対象にはなりません。
どこでもいつまでも基準なしで建てられるわけではないんですね。
そのとおりです。
次は適用除外の中身をもう少し詳しく確認します。
適用除外でも安全基準がゼロにならないのはなぜか
「適用除外」と聞くと、消防に関する基準が一切なくなると思うかもしれません。
しかし条文は、その先まで手当てをしています。
災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号) ①避難所等に関する特例(法第86条の2関係) イ)留意事項 当該規定が本来、火災から居住者等の生命・財産を保護するためのものであることに鑑みれば、消防法の規定をそのまま適用することはしないとしても、同法に準拠する基準を定めておくことが望ましい。このため、地方公共団体の長は、これらの避難所又は応急仮設住宅を設置する場合には、被災者の安全を確保するため、消防法第17条の適用を除外することに代わる安全措置を講ずべきこととしたものであり、消防機関等の意見を聴くなどして、その的確な実施を図られたい。
地方公共団体の長は、前項の規定にかかわらず、消防法に準拠して、同項に規定する避難所等についての消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設の設置及び維持に関する基準を定め、その他当該避難所等における災害を防止し、及び公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない(災害対策基本法第86条の2第3項)。
適用除外は義務の免除であって、安全の放棄ではありません。
地方公共団体の長には、
消防法に準拠する基準を自ら定める義務が課されます。
定める基準は消防用設備・消防用水・消火活動上必要な施設の3つに及びます。
基準づくりに当たっては
消防機関等の意見を聴くことも求められています。
つまり手続きが簡略化されるだけで、安全確保の責任そのものは残り続けます。
基準を作る側にも、結局は消防の知識が要るということですね。
はい、そのとおりです。
次はよく似た仕組みを持つ、避難所以外の施設も見てみましょう。
実務で見落としやすいのはどこか
避難所等だけがこの仕組みの対象だと思っていると、実務で見落としが生まれます。
条文はもうひとつ、よく似た施設にも同じ考え方を用意しています。
災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号) ②臨時の医療施設に関する特例(法第86条の3関係) ア)規定を設けた趣旨 大規模広域災害が発生し、既存の病院の被災や多数の負傷者の発生により、医療施設が著しく不足している場合には、臨時の医療施設が必要となる場合が想定される。医療施設は本来、消防法第17条の規定による消防用設備等の設置義務、医療法(昭和23年法律第205号)第4章の規定による病院や診療所等の開設等に係る許可や届出、病院や診療所等の構造設備基準を満たす必要があるが、臨時の医療施設にこれらを満たすことを求めた場合、迅速な医療施設の開設の妨げとなるおそれがある。
地方公共団体の長は、前項の規定により指定された災害が発生した場合には、臨時の医療施設を開設することができる。この場合において、当該臨時の医療施設については、消防法第十七条及び医療法第四章の規定は、適用しない(災害対策基本法第86条の3関係、地方公共団体の長が開設する臨時の医療施設についての適用除外)。
見落としやすいのは、この仕組みが避難所専用ではないという点です。
著しく異常かつ激甚な非常災害を政令で指定したときは、地方公共団体の長が開設する
臨時の医療施設についても、消防法第17条だけでなく
医療法第4章の規定まで適用除外になります。
留意事項も避難所等と同じで、消防法に準拠する基準を定め、
消防機関等の意見を聴くことが求められる点は変わりません。
つまり「適用除外の相談」は避難所だけでなく、仮設の医療施設が立ち上がる局面でも生じ得るということです。
避難所だけでなく、仮設の診療所にも同じ話があるんですね。
はい、仕組みそのものは共通しています。
最後に確認事項を整理しましょう。
明日からなにを確認すればよいか
仕組みを知っただけでは、自分の地域の備えがどうなっているかは分かりません。
確認の入り口は、身近な窓口にあります。
災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号) 下記に、改正法の趣旨及びその適正な運用に当たっての留意点を示しますので、執務上の参考とされるとともに、貴都道府県内の市町村に対しても周知いただきますようお願いします。併せて、地域防災計画の修正など必要な見直しを速やかに進められるようお願いします。
まずは自分の市町村の地域防災計画を確認しましょう。
避難所等や臨時の医療施設について、
第86条の2・第86条の3を踏まえた代替基準の定めがあるかを防災担当窓口に確かめます。
基準づくりには
消防機関等の意見聴取が前提になるため、平常時から所轄の消防署との関係を作っておくと安心です。
防火管理者の立場からは、勤務先や自治会が避難所の運営に関わる可能性があるかもあわせて確認しておきましょう。
専門的な設備の相談先を平常時から決めておくことが、いざというときの迅速な対応につながります。
うちの市の地域防災計画がどうなっているか、確認してみます。
消防署との事前調整もあわせて進めると確実です。
次はよくある質問をまとめます。
よくある質問
Q避難所や応急仮設住宅はどんなときに消防法第17条の適用が除外されますか?
A著しく異常かつ激甚な非常災害が発生し、避難所又は応急仮設住宅が著しく不足し、住居を迅速に提供することが特に必要と認められるものとして政令で指定されたときです(災害対策基本法第86条の2第1項・第2項)。政令で定める区域及び期間に限られます。
Q適用除外になったら消防に関する基準は一切不要になりますか?
Aいいえ。地方公共団体の長は、消防法に準拠する消防用設備・消防用水・消火活動上必要な施設の基準を自ら定め、必要な安全措置を講じなければなりません(法第86条の2第3項)。
Q同じ仕組みは病院などの医療施設にもありますか?
Aあります。臨時の医療施設についても、著しく異常かつ激甚な非常災害を政令で指定したときは、消防法第17条及び医療法第4章の規定が適用除外になります(法第86条の3)。
Qこの特例に基づく基準を定めるとき、地方公共団体はどうすればよいですか?
A消防機関等の意見を聴くなどして、的確な実施を図ることが求められています。あわせて、地域防災計画の修正など必要な見直しも進めることとされています。
まとめ
✔平成25年法律第54号による災害対策基本法改正で、避難所等に関する特例(法第86条の2)が新設されました。
✔著しく異常かつ激甚な非常災害を政令で指定すると、指定区域・期間内で地方公共団体の長が設置する避難所等は消防法第17条の適用除外になります。
✔同じ枠組みは臨時の医療施設(法第86条の3)にもあり、消防法第17条と医療法第4章が適用除外になります。
✔適用除外は基準ゼロを意味せず、地方公共団体の長は消防法に準拠する基準を自ら定める義務を負います。
✔基準を定める際は消防機関等の意見を聴くことが求められています。
✔対象になるのは地方公共団体の長が設置する避難所等に限られ、民間だけで設置したものは対象外です。
✔自分の地域防災計画にこの特例の定めがあるか、まずは市町村の防災担当窓口へ確認することが最初の一歩です。
うちの市の地域防災計画がどうなっているか、確認してみます!
避難所の防火安全対策もいっしょに整理していきましょう。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(平成25年6月21日付け府政防第559号・消防災第246号・社援総発0621第1号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第86条の2
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第86条の3
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。